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青鈴の騎士  作者: 畔木鴎
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三節『静かな夜には鋼の歌を』5

 その商人には不思議な気配があった。例えるのなら、何か上位的な存在の寵愛であろうか。

 戦士特有の闘気や殺気にも似た、状況を変えてしまいそうな特別な気配だった。


「彼と同じものを貰えるかな」と、そんな人間が普通に過ごしている事にギャレットは違和感を覚えずにはいられなかったものの、自らが名乗っていなかったことを思い出した。


「既にご存知かもしれませんが、僕の名前はギャレット。この町の……そうですね、厄介者をしています」

「辺境の守護者とは言わないのですね」

「ハハッ……まさか。その名前はエグシオさんのものですよ」

「一時期は本国にまで噂が広がっていたんですよ?本物の騎士さえも上回る力量を持った騎士だってね。多くの弟子と共に諸国を旅して……そうしてこの地に辿り着いた」

「……随分と調べましたね」

「いえ、まあ……、私が調べた訳ではないのです」


 レープハフトは頭をかきながら一枚の羊皮紙を取り出した。それは彼がこの地にやってきた目的を記すもので、居ないと分かっていながらも辺りを見渡すギャレットにレープハフトの護衛が笑って話に集中するように進めた。

「人の目は任せておいてください。まぁ、まだ早いですし今の時間は大丈夫だと思いますが」と。

 ギャレットに人を見ただけでその人の力量を見抜くような技術はないが、レープハフトの護衛としてやってきている事から腕の立つ戦士であることは疑っていなかった。

「それはどうも」と短く返した彼はレープハフトに向き直る。


「読んでいただければ早いのですが、ここは初めて会った仲。わたくしの方から読ませていただきます。……細かいところはまた見てもらうとして、では……この書面は我らがプレイテリア王国、並びにポエスト王国が発行するものである。ポエストの地に新たな王が立ったことで凍結されていた遺跡群の調査の再開を通知し、歴史的資料を得ることで更なる発展と神代の叡智への探求の輔翼ほよくを探すものである。これらは情報の希少性から少人数で行われることが理想的であるため、協力者には十分な褒賞を両国王の名において保証する」


 長文をすらすらと読んで見せた彼はギャレットへ羊皮紙を見せるようにテーブルに置き、ギャレットは怪しむように恐る恐るそれを手に取った。……確かに、レープハフトの語った内容と差異は殆ど無いと言っても過言ではない。

 しかしだ。この端面からでも見受けられる政治的な駆け引きを見て、ギャレットは冷や汗をかいていた。


(この国に新たな国王、か……聖国が手を回して即位出来たと考えるのが妥当だな。それで見返りに遺跡群の調査を求められたわけだ。人数が少ないのはせめてもの抵抗だったんだろうけど、良い迷惑過ぎる……)


 人数が減ればそれだけ命の危険が高まるのが分かっていれば、いくら金額を釣り上げられたとしても了承する人間は少なくなってしまう。冒険者はもちろんのこと、この町の人間ですら殆どが参加しないだろう。となれば、ギャレットのように町から孤立している人間に話が回ってくるのは当然の事であったし、彼は今朝に戻って騒ぎを起こしたばかりだ。

 他国の商人とはいえ、金を握らせてしまえば情報は簡単に集まる。ギャレットの事はよく知っている筈だった。


「……この少人数っていうのは何人を考えていますか」

「東の森は魔物の住処のようですし、あまりにも削り過ぎるのも良くないと分かっております。そうして考えていくと……、多くて十人。少なくても四,五人は欲しいですが、質の高い戦士が三人居ますしそう心配することもないでしょう」

「三人と言うと……?」

「私の護衛とギャレットさんを合わせた三人です。ここに居たということはオオモヤ殿から話を聞いてきたのでしょう?」

「ええまぁ。流石は聖国の商人と言うところでしょうか」


 レープハフトが静かに笑みを浮かべれば、タイミングを合わせたように料理が運ばれてきた。実際のところタイミングを見計らっていたのだろう彼女は去り際にギャレットに視線を寄越し、彼は小さく会釈をして手持ちの銀貨の数を思い出していた。


「出発は二日後に。あまり時間をかけるものでもありませんからね。よろしいですか?」

「僕からは何も」

「では二日後。遅い時間に連絡を寄越しましょう。そこですり合わせが出来ればと」

「……ええ」


 ギャレットは杯に入っていたエールを流し込み、代金を置いて席を立った。去り際にレープハフトから受け取った薬草が非常に重たく感じたのは、彼が酔っ払っているからだけではないだろう。薬の調合をしていたオオモヤが「仕事が増えた」と顔をしかめていたのを見て、ようやく肩の荷が下りたような気がしたのだった。


 そうして一日一日は呆れるほど早く過ぎていく。

 ベッドの縁に座って精神を研ぎ澄ませていたギャレットの耳がひとつの足音を拾って瞼を上げた先、彼の膝の上には一振りの剣があった。


「……エグシオさん。今の僕ならこの剣を引き抜けるのでしょうか」

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