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プレイヤーは異人として、都市国家フィゲットに降り立ちます。
ここからプレイヤーが何をするかは自由。冒険者として立身出世するもよし、商人となり巨万の富を築くもよし、傭兵から建国するもよし、犯罪者として悪逆非道の限りを尽くすもよし。
すべての選択はプレイヤーに委ねられています。
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■ 改版履歴
□ 2018/06/08
1. ステータスにSTを追加
2. MPの最大値を変更
□ 2018/06/15
1. ステータスからRES及びLUCを削除
『サービス開始まで残り 00:01:00』
はよはよ。
『サービス開始まで残り 00:00:50』
すでにキャラメイクは完了させてる。まあ、現実の外見をスキャンして、髪と瞳の色をイジっただけなのだが。
職業システムは無く、初期スキルすら存在しない。スキルはすべてゲーム内で取得するしかない。
『サービス開始まで残り 00:00:30』
なにを考えたのかしらんがこの「New Age」は、βテストなし、ゲームショウでマスコミ向けに体験デモを一度しただけで発売という暴挙を行った。ちょっとどうかしてるとしか思えない。
トレーラーはバンバンだす癖に、だ。取説は紙切れ一枚。とりあえずメニューの出し方は読んだ。
『サービス開始まで残り 00:00:20』
たまりに溜まった有給つぎ込んで、今日から17連休でございます。
ゲーム内は現実の3.5倍速で時間が流れる。つまり、ゲーム内で7時間過ごしたとしても、ログアウト後の現実世界では2時間しか経過していないという事だ。
『サービス開始まで残り 00:00:10』
家から一歩もでなくて済むように食料は買い込んだ。もちろん洗剤やらの消耗品の補充も済んでいる。
『サービス開始まで残り 00:00:00』
『ようこそ New Age へ!よいゲームライフを!』
いざ!
◆
そよ風が頬を撫でる。すげぇ。
息を吸い込んで見れば、道の脇に並ぶ屋台の匂いが鼻孔を埋める。まじかよ。
やばい、あまりのリアリティに放心してしまった。まわりを見渡せば俺と同じような格好をした無数のキャラが、俺と同じように呆けていた。キャラの頭上に名前やアイコンは表示されていないが、反応を見る限りプレイヤーっぽいな。
視界にHPゲージやミニマップのような物はまったくないし、見る分には現実とかわらんわ。
ティザーの『新時代到来。』という言葉に心惹かれ、酔った勢いでボーナス全投入した訳だが、買ってよかった…。
さて、そろそろゲームに意識を戻そう。何からすればいいんだ? とりあえず、メニューを確認するか。たしかメニューを出すのには思考操作とモーション操作、音声操作があるんだっか。
せっかくだし、思考操作ってのを試してみるか。
いでよ!メニュー!
```
【MENU】 09:01 (6/1 09:00)
・ EQUIPMENT
・ QUEST ( 1 )
・ FRIEND
・ MESSAGE
・ CONFIG
```
すげぇ。ホントに出たぞ。どうなってんだ、コレ。
上のは時間かな? おそらくカッコ内が現実だろうな。秒は切り捨てか。
EQUIPMENTがステータスか。ステータスでよくね。
```
【EQUIPMENT】
LV: 1
HP: 20/20
MP: 20/20
ST: 20/20
状態異常: なし
満腹値: 100%
STR: 10
VIT: 10
INT: 10
MND: 10
AGI: 10
DEX: 10
スキル (SP: 10)
・ なし
装備
・ 粗末なショートソード (ATK: 5)
・ 粗末な布の服 (DEF: 0)
・ 粗末なアイテムポーチ
所持金: 10,000
```
なるほど、この着古したような服が「粗末な布の服」か。DEFは0と。うん、まあそうでしょうね。こんなボロボロの服に防御力なんて期待できませんわ。
そして、腰にぶら下がってるのが「粗末なショートソード」ってわけだな。
んで、「粗末なアイテムポーチ」ってのは、腰にくっついてる15センチ程度のコレか。
アイテムポーチってのには何が入ってるんだ?
ポーチを開いてみるか。お、ウィンドウが視界に広がったぞ。
```
【ITEM】
・ 初心者ポーション x 5
・ 解体ナイフ
```
ふむふむ、ポーチを開く事でインベントリが表示される訳か。取り出すにはどうすれば? えーと、いでよ!初心者ポーション!
おお、目の前に栄養ドリンクサイズの小瓶が!? 開きっぱなしのウィンドウをみると初心者ポーションの残数が4になっていた。
目の前に浮かんだ栄養ドリンクこと初心者ポーションを掴んで見る。出がらしのお茶のような液体が入ってるな。コレは…、のむのか? ダメージを受けた時にでも確認するとしよう。
とりあえず、ポーションをポーチに戻して、って。お、残数が5になった。
あ、ショートソードを入れるとどうなるんだろうか。ショートソードを腰から外して、ポーチの口につめる。
```
【WARNING】
・ 『粗末なショートソード』は『粗末なアイテムポーチ』に収納することはできません。
『粗末なショートソード』は『粗末なアイテムポーチ』に対して大きすぎるか、『粗末なアイテムポーチ』の空き容量がたりません。
```
おうふ。無限に収納できる訳ではないと。鞄に収まるまでしかアイテムは詰められ無いって事かな? え、このポーチのサイズじゃ、簡単な荷物くらいしか入りませんよね? マジかー。マジでかー。
フィールドで、ドロップアイテムなんかを持ち帰る事を考えると、ある程度でかい鞄か何かを用意しないとマズイな。
こういう所もリアルになってるのか…。
よし、気持ちを切り替えて次に進もう。クエストは、っと。
```
【QUEST】
・冒険者ギルドでスキル講義を受けよう!
冒険者ギルドでこの世界についてを学びましょう。
```
1つだけですか。目的地までの道順を出す事ができるのか。
有効にすると、お。光の帯が伸びたぞ。だがオフにします。このリアリティのある世界にこの手のアシストは無粋だな。
しかし、そうすると道がわからんが、ちょっと試してみたい事がある。NPCとの会話だ。
ゲーム雑誌の体験デモに対するレビューによると「New Age」のNPCは他のゲームを圧倒的に凌駕する高度なAIで、あまりに自然な受け答えで、会話だけではNPCとプレイヤーとの判別が不可能なんだそうだ。そして公式のアナウンスによれば、全NPCには生まれや育ちなどのバックボーンが存在し、会話が可能。なんだこのゲームは、化け物か。
てな訳でNPCに道を尋ねようと思うんだが…、そうだな、せっかくだしさっきからうまそうな匂いを漂わせてる屋台に聞いてみるか。サービス開始のこの時期に屋台なんてやってるのはNPCだろうたぶん。
屋台はどこかなー、お、あの屋台だな。うわ、店主の顔が怖い。筋骨隆々で眼帯ってなんでそんなデザインのNPCが屋台やってんだよ…。アイコンとか特に表示されていないが、会話できるのか? 当たって砕けろだな。
強面の店主がせっせと手を動かしていた。これは、焼き鳥か?
「おっちゃん、なんの屋台?」
「ホーンラビットの串焼き、一串80Gだ」
店主殿は、わたくしにちらっとも視線をくれずに焼く事に徹しておられる。愛想わるいな。見た目通りだけど。
```
【ATTENTION】
・ 『ホーンラビットの串焼き』を購入しますか?
```
YESっと。
```
所持金: 9,920
```
「ほれ、ちょうど焼き上がったところだ。熱いぞ」
強面店主から串を受け取り、いただきます。
すげぇ。うめぇ。いやうまいのも凄いんだが、味覚がここまで再現されるってすげぇ。ふわりと広がる炭火の香り、甘辛いタレの味、噛んだ瞬間に溢れる肉汁。すげぇ。
これがゲーム…? ホントに? まて異世界転生の可能性すらあるぞ。
「そんなにうまいか?」
ニヤリと口の端を持ち上げ、ジロリと俺をみる店主殿。怖いですやめてください。
「ああ、ホーンラビットの串焼きってのは初めて食ったが、ずいぶん美味いもんだな」
率直に感想を伝えると、照れた事を隠すかの様に鼻の下を擦る店主殿。
コレガ…ギャップ萌エ…。ないな。
さてそれそろ本題を切り出すか。おっちゃん、おっちゃん冒険者ギルドってのに行きたいんですけ、突き当り? ああ、あの赤いレンガの? なるほど、ありがと、また寄らせてもらうよ。
まあ、俺と同じ格好をしたキャラクターが続々と向かってる場所が、そうなんだろうって予測はしていたわけだけど、案の定ですな。
しかし、NPCのAIすごいな…。プレイヤーもNPCも、アイコンやキャラ名が表示されないとなると、まったく区別がつかんぞ。
◆
俺はベンチに腰掛け、うなだれて地面を見つめていた。アリが歩いてるぞ、作り込み凄すぎません?
ああ、冒険者ギルド? あいつなら死んだよ。ほら、サービス開始初日じゃない? 最初のクエストが「冒険者ギルドでスキル講義を受けよう!」な訳じゃない?
そら混みますわ。激混みですわ。職員と思しきキャラが行列整理しているのを見た瞬間に、諦めました。
クエストこなせないとなればどうするか、レベリングでしょ。と、そう思って俺はフィールドに向かったわけですが、俺と同じ思考のプレイヤーなんて沢山いるわけで。モンスターがポップした瞬間に群がるプレイヤー。引き返す俺。
たしか3000本出荷だっけか。そら混みますわ。
はあ、どうすっかなぁ。ゲームでまで行列は嫌だしな。とはいえ、MOBの取り合いも面倒くさいしなぁ。ログアウトして出直すか? だがそれは、せっかくの有給がもったいない。
はぁ。
「どうされました?」
めっちゃかわいい声が頭上から降り注ぐ。顔を上げて見ると、そこには修道服を着た碧眼の天使が。いやシスターか。
外人顔のキャラメイクか、凝ってるな。何時間かけて作ったんだ、コレ。キャラメイクでここまで出来るなら、俺も少しはやっておけば良かったかな。
というか、サービス開始から1時間も経ってないってのに、なんだこの修道服装備は? βテストは無いし、特典装備なんて無かったハズだが…。
「あー、冒険者ギルドに向かったんでが、あまりに混んでいて。フィールドもMOBの取り合いだし。これから何したらいいかなと」
「異人の方々が沢山いらっしゃいましたからね。ギルドへは依頼を出しに? それとも受けにでしょうか」
苦笑すら美しい。女神か。いやシスターか。現時点で冒険者ギルドへ行く目的なんて1つだけじゃないか、聞かなくてもわかるだろうに。ロールプレイか?気合入ってるな。
「え? いやいや、初期クエストの『スキル講義』ですよ」
「スキル講義…、ああ、あなたも異人でしたのね!異人の方向けのスキル講義でしたら教会でもできますが、もしよろしければいらっしゃいますか?」
```
【ATTENTION】
NPC: ???? からの提案により、クエスト内容の変更が可能になりました。
「冒険者ギルドでスキル講義を受けよう!」を「教会でスキル講義を受けよう!」に変更しますか?
```
わぁお。こんなパターンもあるのか。てかこの女神シスターはNPCなんですか。わぁお…。
お言葉に甘えさせて頂くとするか。
◆
場所は変わって教会。というか、俺がうなだれていたベンチが教会の目の前だった。
長椅子に女神シスターと並んで座っている。ふんわりと甘い香りが。
「んん、ではスキル講義を始めさせて頂きますね。ああ、申し遅れました。アンナと申します」
咳払いをする姿すら愛くるしい。
「リュウです。よろしくおねがいします」
「ふふ、こちらこそよろしくおねがいしますね」
微笑む女神アンナ。ぐうかわ。笑顔が眩しい、まさかコレは…後光…!?
「まずスキルについてご説明させていただきます。スキルを取得するには、レベルアップやクエストの達成などによって取得できるSPを消費し取得する方法と、勉強や鍛錬での経験によって取得する方法があります」
現実っぽいのと、ゲームらしいのが用意されてるわけか。ゲームまできて修行ってのも面倒だが、うーん。
「また、スキルにはスキルレベルというものが存在します。SPを消費して上昇させるか、スキルの使用または鍛錬によって上昇させる事ができます。」
SPってのは覚えるだけじゃなく、レベルアップにも使うのか。
「スキル講習は以上です。…おわかりになりました?」
不安げにサファイアのような瞳が俺を見つめてくる。あざと可愛いっ!
「ええ、もちろん。ありがとうございます」
「それはよかった! 初めてでちょっと不安だったんです」
恥ずかしげに頬を染める、アンナ様。俺の理性を殺しにきてらっしゃるぜ。
Be Cool。このパトスを発散するには運動だ!
「ひとつお聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「私でよければよろこんで」
「剣を振り回しても怒られない場所、教えてくれませんか? スキル覚えてみたいんです」
「それでしたら、ココの裏庭を使ってください」
ひとまず、電子の女神への情念は、運動で発散しよう。そしてスキル習得を目指すぞ!
```
【CONNGRATULATIONS】
クエスト「教会でスキル講義を受けよう!」を達成しました!
◆ 報酬
SP 1
```
お、クエスト達成だ。
1日目 09:30 (6/1 09:08)
```
【EQUIPMENT】
LV: 1
HP: 20
MP: 20
ST: 20
STR: 10
VIT: 10
INT: 10
MND: 10
DEX: 10
AGI: 10
スキル (SP: 11)
・ なし
装備
・ 粗末なショートソード (ATK: 5)
・ 粗末な布の服 (DEF: 0)
・ 粗末なアイテムポーチ
所持金: 9,920
```