第3幕 おかっぱ大☆事☆件
この学校で流行っている、トイレの花子さんの噂はこういった内容だった。
学校の校舎3階のトイレで扉を3回ノックし、『花子さんいらっしゃいますか?』と尋ねる行為を一番手前の個室から奥まで3回ずつやると3番目の個室からかすかな声で「はい」と返事が返ってくる。そしてその扉を開けると、赤いスカートのおかっぱ頭の女の子がいてトイレに引きずりこまれる」という…… そして、引きずり込まれた人は一人残らず恐ろしい目にあったらしい。
「その、恐ろしい目…… というのは?」
私は緊張で喉を鳴らしつつ柚子さんに問いかけると、彼女は両腕で自分の身体を抱きしめながらガタガタ震えだす。
私は尋常じゃない出来事が起こったのだろうと、覚悟しながら柚子さんの言葉を待つ。すると、彼女は震えながらも健気に答えてくれた。
「頭を…… おかっぱにされてしまうんです!!!」
……
…………
………………はい?
頭を…… おかっぱにされる? それだけ?
「それだけ…… って、生徒会長! 今時の未来に生きてる私達、若い女子高生が古臭いおかっぱにされてしまうんですよ!!? とんでもない事件じゃないですかこれは!!!」
つい、思ってる事をぽろりっと口にした瞬間、柚子さんはまるで信じられないといった表情で私に叫んだ。
「いえ…… てっきり、人死にが出たぐらいの大事件かと思って……」
「むしろそれこそありえませんよ、ファンタジーじゃないんですから!」
あの、おかっぱ頭にする何者かが居る時点で既にファンタジーなのですが……
私は思いっきりそうツッコミたくなるが、ここはグッと押さえ、彼女にもう一つ質問した。
「今までおかっぱにされた…… 被害者の数は分かりますか?」
「はい。私のお友達もやられてて…… 数はその子で七人目になります……だから」
「私にどうすれば良いか聞きたいって事なのですね」
柚子さんの言葉の続きを私が口にすると、彼女はこくりっと頷いて同意を示す。
確かに、これだけやられて自分の友達も被害に遭ったなら、誰かに相談をしたくもなるわね……
「親に話しても信じてくれなさそうですし、先生にも言ったのですけど、学生の下らない遊びか何かだろうって、全く取り合ってくれなくて…… もう、信じて貰えるのは貴女しか居なかったのです……!」
「そうなのですね…… でも、どうして私が信じてくれると思ったのですか?」
私は柚子さんとクラスメイトではあるけども、お互い敬語で話してるぐらいそこまで親しい仲とは言えないし、その辺りが私としては気になる。
「その、失礼ですけど生徒会長…… 天音さんって、他の人とは何か違うっていうか。浮世離れしてる感じがして、どこか貴方なら信じて貰えそうだと思ったからです。ご、ごめんなさい! あやふやな答えで!」
「いえいえ、別に良いですよ」
大体その通りで、当たってるわけだし……
私は深刻(?)な悩みを打ち明けてくれた彼女の両肩に手を置き、それから柚子さんへ笑顔で、彼女が聞きたかったであろう言葉を言った。
「事情は分かりました。ここは私に任せて下さい! この事件を解決できる手段を私は知ってるので」
『知ってる』というより、『持ってる』っと言った方が本当は正しいのだけどね。でも、流石にそれを口にすることは出来ないから、私はあえて知ってると口にした。
すると、柚子さんの顔はみるみる明るくなり、それから私の手を掴んで、嬉しそうに感謝するのだった。
「はい! 生徒会長に相談して心底良かったです…… ! 本当にありがとうございます!!!」