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ラスボスの嫁 連載版  作者: @眠り豆


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 わたしが前世むかし遊んだSRPG『レルアバド・ニハーヤ~永遠の終わり~』本編で、ダルブ・アルテッバーナ女王国のアフアァ女王はとても重要な役どころだった。

 バトルに参加しないので3Dモデルはなかったが、専用のチビキャラとセリフ枠横の顔のアップはあったっけ。思い起こしてみると同じ顔かも?

 アフアァ女王と黒豹大公、そしてマズナブ王国の熊王アルド──父さまは、ラスボスの旦那さま率いるファダー帝国軍と戦う主人公たちの支援者だ。

 ゲームシステムで、三勢力すべての協力を得ることはできない。

 どんなに頑張っても、最初の勢力と交渉している間に、ほかのどこかが帝国軍に滅ぼされてしまう。これは攻略本にも書いてあったから確か。

 プレイに癖があったのか、わたしは黒豹大公に支援してもらったことがなかった。

 父さまにはいつも支援してもらい、アフアァ女王には二回目のプレイでだけ。

 最初はいつの間にかダルブ・アルテッバーナ女王国が滅びていて、三回目は二回目で支援してもらえたからと落ち着いていてフラグを立て損ねた。


 滅びた国の支援者は暴走するむくろとなり、ラスボス『死せる白銀の獅子皇帝』と混ぜ合わされる。

 ただでさえ常時合成されているテムサーフ将軍が毒霧を吐くのに、アフアァ女王に魅了された日には……精神力パラメータが低い妹は装備で補っていたけれど、主人公ともうひとりの仲間のことは忘れていて、何度か全滅した。

 ラスボスの体力をひとケタにするまでは、魂の名前で呼ぶことはできない。

 尻尾の先の毒蛇たちは、敵ながらいい仕事をしていた。

 黒豹大公も……たぶん混ぜ合わされていた。と思うのだけど、状態異常攻撃をして来なかったので、あまり記憶がない。

 支援者になってもらえなかったら、きっと父さまも合成されていたのだろう。

 状態異常攻撃はしないと思うが、戦いたい相手ではない。

 現世いまの父だからというだけではなく、ゲーム中のイベントで戦って滅茶苦茶強かったからだ。ちなみに妹が旅に出るのを許してもらうためのイベント。

 イベントでは勝ちを譲ってもらえるものの、その後のお遊びで挑める戦闘には勝ったことがない。最大レベルに上げても倒せるかわからなかった。


 クリティカルがほぼ標準装備って、チートにもほどがある。

 クリティカルじゃない通常攻撃でも一撃で倒されてしまうのに!


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「……あ」


 気がつくと、黒豹大公とテムサーフ将軍の試合は終わっていた。


「ん? 可愛いものに見惚れていたら、いつの間にか終わっておった。のうシャムス、どちらが勝ったのじゃ?」


 皇帝陛下は読んでいた本を慌てて隠し、笑顔で答えを誤魔化した。

 アフアァ女王もさして興味はなさそうだ。

 軽くあくびを漏らし、陛下越しにファラウラとクークちゃんを眺めて微笑む。


「ファラウラはクークのねねさまだから、ファラウラのねねさまもクークのねねさまなのです」

「……メシュメシュねねさま?」

「はぁい」


 上目遣いで呼ばれてしまった。

 確かに可愛いので、女王が微笑みながら見つめている気持ちもわかる。

 ふたりが無理矢理座っているから、かなり膝が重かったりもするのだけれど。

 とはいえ、テムサーフ将軍に対する女王の興味のなさは問題だ。

 勝敗すら確認していないと知ったら、将軍は泣いてしまうのではないだろうか。

 テムサーフ将軍は、ふたつ上の従姉である女王を熱愛しているという噂だ。

 ツンデレの『ツ』の字も感じられないあけっぴろげぶりらしい。

 そういえばさっきも、試合の始めと終わりに女王へ向けてなにか叫んでいたような。

 十年後、『レルアバド・ニハーヤ~永遠の終わり~』本編の中でもそうだった。

 女王の婿取り武術大会で彼に勝つと、将軍は泣きじゃくりながら主人公に女王を託して旅に出る。

 再会はラスボスである旦那さまにむくろとして混ぜ合わされた姿なので、ものすごく気まずかったっけ。

 しかも主人公はモフモフの獣人ではない島王国の王子なので、優勝しても女王は婿にしてくれない。その代償として、支援者になってくれる。


 ──わー!


 闘技場が歓声で揺れる。

 次の出場者が現れたのだ。

 狼獣人のゼェッブさまと、絹糸のような銀の髪に逞しい褐色の肌、青玉色の瞳で見上げてくるわたしの旦那さま──白獅子バドル皇太子殿下。

 ふたりとも両腕に、指なしの革手袋に金属の爪をつけた武器を装備している。

 獣人にとって、一番一般的な武器だ。

 修行のときもこの武器だった。


「おおっ! あれは良いモフモフじゃ」


 女王が舞台に身を乗り出した。

 旦那さまとの試合が楽しみ過ぎるのか、ゼェッブさまはもう獣化している。

 モフモフ狼獣人の彼は女王の好みど真ん中らしい。ゲームでの婿取り武術大会発生条件は、ゼェッブさまが仲間にいないことだった。

 男性獣人枠のもうひとりは蛇獣人だったので、女王は毛ほどの興味も見せなかったっけ。

 試合開始の合図、銅鑼が鳴り響き、旦那さまも獣化する。

 銀のたてがみ、白い毛並み、神獣の姿にも劣らない美々しさだ。


「ほう……」


 ファラウラが、切なげな溜息を漏らす。


「どうしました?」

「ねねさま、ににさまカッコいいのです」

「ふふ、そうでしょう」

「ファラウラ、さっき黒豹大公を見て大きい猫だと思ったのですが、ににさまは全然違います。あれが獅子なのですね」


 鬣の有無かしら。

 ファラウラは、ゼェッブさまと戦う旦那さまをうっとりと見つめている。

 旦那さまは壁を蹴って移動し、ゼェッブさまを翻弄していた。

 ゼェッブさまは雄叫びを上げて、旦那さまを追いかける。

 どちらも楽しそう。

 妹が、ぽつりと呟く。


「……ファラウラ、ににさまのお嫁になりたいです」

「え」

「……でも、ににさまはねねさまの旦那さまなので諦めるのです」


 旦那さまが高く飛び上がり、壁に突進したゼェッブさまの背中に降りた。


「……ファラウラ姫、ほら」

「皇帝陛下?」


 ファラウラが、ぽかんと口を開ける。

 滅多に獣化しない皇帝陛下が、黒い鬣の獅子獣人になったのだ。

 ゆったりした正装が、毛並みで膨らんでいる。

 旦那さまと違い、陛下は優勝者を祝福する役目があるので、武術大会への出場は最初から考えられていない。しかし強いものを好む獣人は、自ら武術大会に出場する皇帝を熱望していた。

 いろいろ逸話が多い獅子姫は、女帝就任後に仮面をかぶって武術大会に出たという。

 ほかの種族はいざ知らず、獅子獣人は皇族だけなのだけれど。

 女性ならわからないかしら。

 不思議なことに、降嫁した姫君や継承権を放棄した皇子の子どもが獅子獣人になることはなかった。だれもが配偶者の種族を受け継いでいる。

 獅子獣人は、探究者たちの支配から逃れた後で戦乱に明け暮れていた獣人たちを憂いた青年の願いが、神に届いて誕生した種族だ。体を包むのは探究者の呪いではなく神の祝福、その咆哮はほかの種族を従えて、悪を祓うといわれている。

 南の大陸の平和を担うものにしか、与えられない姿なのだろう。


 ──わー!


 再び闘技場が揺れる。

 ほかの観客席から見れば、皇帝陛下の獣化は皇太子の勝利を祝ってのものだ。

 旦那さまが舞台で目を見開いている。

 陛下は立ち上がり、手を振ってみんなに応えた。

 後ろのティーンさまは蕩けそうな表情だ。

 笑みを浮かべた旦那さまが、気絶したゼェッブさまを持ち上げて舞台を去る。

 席に腰を降ろした皇帝陛下は、客席の歓声が収まるのを待って溜息を漏らした。


「ふわあ、皇帝陛下もカッコいいのです」

「ありがとう、ファラウラ姫。……でもべつのときにすれば良かったね」

「シャムスそちはなぜ、これまでわらわにその姿を見せてくれなかったのじゃ? なんと素晴らしきモフモフであろうか。獅子の鬣は良いのう。ダルブ・アルテッバーナはテムサーフに譲るゆえ、結婚してたもれ」

「お断りします。僕が女王の前で獣化しなかったのは、こうなるのがわかっていたからだよ」

「なぜじゃ? ファラウラが正妻で、わらわは妾で良いぞえ」

「女王さま」

「なんじゃ、ファラウラ」

「皇帝陛下はカッコいいけど、ファラウラはお嫁にならなくてもいいのです。ににさま以外にもカッコいい人がいるとわかったので、旦那さまはこれから探すのです」

「おお! では蛇獣人の婿はどうじゃ? テムサーフにはそちと釣り合う年ごろの弟がおるぞ!」


 そうそう、それがゲームで仲間だった男性だ。

 こっそりと獣化を解き、皇帝陛下はもう一度溜息をついた。

 ティーンさまは金色こんじきの瞳で女王を睨みつけている。


 ……気を遣っていただいたのに申し訳ありませんでした、陛下。

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