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「心に花を」  作者: 長坂 オウ
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2-5

「ツツジ……さん、ですか?

 いえ、知りませんが。その方が何か?」


 しばらく考えた店長はそう答えた。嘘をつく理由もないし、本当だろう。

 だけど、それじゃあサトルさんと同じ言葉を言っていたのは……?


「本当に会ったこともないですか?」

「ツツジというと、花の躑躅ツツジと同じ名前で印象的ですし、何か少しでも僕と接点があれば覚えていると思います。

 だから、忘れているということもないと思いますが……?」

「そう……ですか」

「ツバサさん? 大丈夫ですか?」


 店長から見れば今の私は相当不審だろうな。私は慌てて「大丈夫です」と答えたけど、やっぱり気になるあの言葉。


「ノゾム君から聞いたんですけど……、店長が『花を見たら誰の心にも花が咲く』って言ってたって」

「ええ、花は見る人を優しくします。勇気を与えて強くしてくれるんです。そんな花が誰の心にも咲くんですよ。たとえ、アンドロイドであっても、そう信じてみたくて……」


 少し恥ずかしそうに笑って店長は頭を掻いていた。


「前に言ったじゃないですか。僕は『花が好きな人が好きだ』って。花が好きな人は心にも花を咲かせてるんですよ。そんな優しくて強い人が、僕は好きなんです。

 ノゾム君はホープのことをとてもしたっているようだったので、つい思い付き(・ ・ ・ ・)でそんなことを言ってしまったんですけど……もしかして、ノゾム君達を困らせてしまいましたか?」

「思い付き……」


 つまり、やっぱりサトルさんと同じ言葉を言ったのは、ただの偶然ってことなんだろう。そんな偶然あるのか分からないけど……

 ともかく、こんな話を続けてても店長に変に思われちゃうだけだ。


「ノゾム君にはちょっと難しすぎて通じてなかったですね……」

「ははは。言いたいことを伝えるのも難しいですね。

 その後に、花が好きなホープの心にも花は咲いているはずですって言ったら、トオル君がアンドロイドに心はないよと言い出してしまって……、ノゾム君には少し悪いことをしてしまいましたね」

「大丈夫ですよ、本当に。ノゾム君が言ってたんです。あのガーベラを眺めてホープが笑ってたって。

 私、その時に感じたんです。店長の言う通りだった。アンドロイドにも心は届く――かもしれないって。

 店長の心も、ちゃんとノゾム君に届いてますよ。だって、今日のノゾム君は本当に楽しそうでしたから」


 私にも店長の心は届いてる。サトルさんと同じ優しい心が。

 だから、私はサトルさんに伝えたかった気持ちを、店長に伝えたいと思った。店長をサトルさんの代わりにする訳じゃない。店長に知ってもらいたかった。

 そして、私は店長に笑顔を向けて言う。


「私も誰かの心に花を咲かせられるようになりたいです。このお店で働いていたら、それも叶えられそうだと思いました。

 私、頑張るのでこれからもよろしくお願いします」

「もちろん。こちらこそよろしくお願いします」


 店長は笑顔で答えてくれた。私を迎え入れてくれる優しい笑顔だ。

 いつも独りで寂しさを我慢していた私の心に、いつも優しく花を咲かせてくれたサトルさんに、ずっと伝えたかった言葉。私も誰かの心に花を咲かせられるようになるから――と。

 店長はサトルさんではないけれど、不思議とサトルさんに似ている。そんな店長がそばにいてくれたら、一歩踏み出せそうな気がする。


 サトルさんを失ってから、独りでは怖くて踏み出せなかった未来への一歩を。




 ***




 ――それからというもの、ノゾム君は時々元気な笑顔をお店に届けてくれるようになった。


「お姉ちゃん、こんにちは!」

「ノゾム君、こんにちは。

 今日もホープのところに遊びに行くの?」

「うん。向こうの公園でトオル君達が待ってるんだ。

 ボク、おこづかい貯めて、今度はちゃんとお花買いに来るから待っててね!」

「はい。いつでも来てね」

「じゃあね! お姉ちゃん!」

「またね。あ、危ないところには行っちゃダメだからね!」


 手を振りながら離れていくノゾム君の笑顔は、ガーベラにも負けないくらい大輪の花のように咲き誇っていた。


「って、あれ?

 そういえば、どうしてホープは動き続けてるんだろう……?」


 すっかり忘れて考えることもしていなかった謎。

 まさか本当にノゾム君の希望が叶って、ホープにいいこと――たとえば、バッテリーがなくても動けるようになったとか、そんな奇跡いいことが起こったとか……


「まさかぁ。漫画やアニメじゃあるまいし……」

「ツバサさん? アニメじゃないって、何がですか?」

「うあっ」


 思いっきり驚いて振り向く私。いつの間にそこにいたのか、店長が首をかしげていた。


「ノゾム君と話してただけで、サボってた訳じゃないですよ」

「ははは。本当ですか?」


 店長はわざとらしく疑いの眼差しを向けて笑って、店頭の花の様子を見てから店内に戻っていく。


「ちょっと、店長! 信じてくださいよ!」


 私は慌ててその背中を追いかけた。

 私にはサトルさんや店長と同じように、植物や花に接することができるか分からない。だけど、できる限りを尽くして、私も優しく強くなろう。そして、顔を上げて歩き出そうと、そう思い始めていた。

 この店長ひとの傍で……。

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