3-3
「コージ。どんな花がいいの?」
「どんな……って言われても、俺は花なんか買ったこともねぇしな。
そもそも、花って枯れるからわざわざ買うのももったいない気がするんだよなぁ……」
「後に何も残らないからいいという人もいますけどね」
店長はニコニコとそう言うけど、どういう意味だろう……それ。
私が質問する前に店長はコージに提案する。
「『プリザーブドフラワー』なら長持ちしますけど、どうですか?」
「プリザーブドフラワー? って何だ?」
「こういった物ですよ」
首をかしげるコージに説明するために店長が指した先にあったのは、お皿のような器に盛られた花のインテリア。
それは私が初めてこの店に来た時から同じ場所にあったので、てっきり造花のアレンジメントかと思ってた。でも、花びらに優しく触れてみると、造花ではなく、生花のような瑞々しさを感じた。
「これって造花じゃなかったんですか?
でも、水もないのに枯れたりしないんですか?」
「生花でもないんですよ。プリザーブドフラワーというのは、特殊な液を使って生花から水分を抜いて、代わりに潤滑油を染み込ませた花なんです。
見た目は生花でも、花粉とかも出ないのでお見舞いに使われたり、長持ちもするので結婚式のブーケなどに使われますね」
「生花と造花の中間みたいな物なんですね。こんな技術があったなんて知らなかったです」
「最近生まれた技術ではないんですよ。古くは二十世紀頃から用いられていたらしいですから」
今はもう二十一世紀も半分過ぎてるから、百年くらい前からあるんだ。すごい知恵だなぁ。
「なんだよ、ツバサ。お前、店員のくせに知らなかったのか?」
「うっ……。いいでしょ、働きだして一ヶ月程度でマスターできるほど簡単な仕事じゃないんだから!」
ニヤニヤと笑うコージがムカつく……
でも、コージは興味津々にプリザーブドフラワーのインテリアを眺める。
「へぇ、これが生花じゃねぇのか……」
「どうしたのよ? さっきまで花には興味なさそうにしてたのに」
「いや、潤滑油とか使って本物に似せるって、まるでアンドロイドみたいだなって思ってさ。面白いな」
「……はぁ?」
コージが言いたいことが分からずに、思わず気の抜けた声で反応する私。店長も目を丸めたのが見えた。
「プリザーブドフラワーのどこがアンドロイドみたいなのよ?」
なんでもかんでもアンドロイドに喩えないでよ……と、しかめっ面の私にコージは至って明るく笑って答える。
「最新のアンドロイドは体中を潤滑油が巡ってるだろ? それを温めて人間の体温を表現してるんだぜ?」
それを聞いた瞬間、私は「ああ……」と唸った。
アンドロイドは人工皮膚で金属製のボディを覆っている。それだけでかなり見た目は本物の人間に近付くんだけど、『体温』は表現できなかった。つまり、肌に触れると機械らしく冷たかった。
でも、最近のアンドロイドは血液のように人工皮膚に潤滑油を流して、それを温めて体温を表現している。
「本当にアンドロイドマニアのままなのね、コージ」
「この程度の知識は今時の常識だろ?」
「はいはい、分かったから今は母の日のプレゼントを決めて下さいね……」
「分かってるよ。さて、どうっすかな……
やっぱり母の日っていったら『カーネーション』なのか?」
コージは店頭のカーネーションをジッと見詰めていた。
「カーネーションって赤以外にもあるんだな。白とかピンクとか。真っ赤なのしか知らなかったぜ」
「さすがにそれは花に興味なさすぎでしょ……」
「うるせー。花が飾っててもまじまじと見ることもねぇしな」
なんか寂しいけど、飾られてても花って脇役扱いされちゃうのかな。綺麗なのになぁ……
「カーネーションでなければいけないという訳でもないんですよ。コージ君」
「そうですよね。畠さんは白い花が好きなの?」
「ああ、家にも結構飾ってるぜ。カーネーションも白いのがあるんだな」
白いカーネーションに興味を示すコージ。その瞬間、私はサトルさんから聞いた話を思い出す。
「あ……、母の日に白いカーネーションを贈るのは向いてないと思うよ。白いカーネーションは亡くなったお母さんに贈る花だから」
「そ、そうなのか」
「そうだよ。元々、母の日にカーネーションを贈るようになったのは、母思いの女性が亡くなったお母さんの死を悼んで、お母さんが好きだったカーネーションを贈ったのが始まりなの」
「へぇ。そうだったんだな」
「ツバサさん、よくご存知ですね」
店長が褒めてくれた。まあ、今のはサトルさんに教えてもらったことだけど。
続けて店長が話しだす。
「そのお母さんの追悼式が開かれたのが五月の第二日曜だったので、その日を毎年母の日に決めたんです。今は世界中に広まってますね」
「店長さんも詳しいんっすね。花屋なら知ってて当然ってこともないんでしょ?」
コージに問い返された店長は苦笑した。
「ただの雑学ですから。
それでどうします? コージ君のお母さんが好きな物なら、カーネーションじゃなくてもいいんですよ?」
「うーん……でも、やっぱりカーネーションかなぁ。カーネーションのプリザーブドフラワーってありますか?」
「はい、こちらをご覧になってください」
何故かカーネーションにこだわっていたコージだけど、店長にカタログを見せられると苦い顔になった。
「一番安くて税込四〇二五円か、結構するな……」
「ゲームソフトより安いでしょ。一本くらいおあずけすればいいじゃない」
「ツバサさん、無理強いするのは……」
コージに詰め寄る私に店長は苦笑している。知り合いだけど今はお客さんだから、確かに無理強いはよくないか。
「つーか、これから野球で忙しくなるから、元々ゲームはおあずけだっての。
でも……よし、決めた。これにしとく」
「ありがとうございます。きっとお母さんも喜びますよ」
「これを買ってやれば、少しは俺に文句も言いにくくなるだろうしな」
「あんたねぇ、動機が不純よ」
「うるせーな。プレゼントには変わりないだろ」
つっこんだものの、反論しているコージは少し照れ臭そうで、頑張って険悪ムードを作ろうとしているのがバレバレ。
そんなところが、かえって本当は仲が良いんじゃないかと感じられて、私と店長は笑顔を隠せなかった。
そして、帰るコージを見送るために、私は店先に立った。店長はコージと入れ替わりで入って来たお客さんを奥で接客中。
私は一人でコージにお礼を言う。
「今日はありがとうね。久しぶりに会えて良かったわ。
でも、コージがお花を買ってくれるとは思わなかったわよ」
「お前なぁ、半分無理矢理だったくせに今さらそれ言うか。
でもまあ、あの事故のこともあったしな。気にはなってたんだけど、転校した後で結局何もできないまま、それっきりになっちまってたから」
コージの奴、なんか申し訳なさそうにしてるけど、もしかして……
「まさか、コージ。それで悪いと思ってお花買ってくれたの?
なんか私の頼みに折れるのが早いなって思ったけど」
「べ、別に俺はそれだけで花を買いたかった訳じゃねぇけど……ま、俺の協力に感謝しろよな」
「コージだってお母さんが倒れて大変だったんだから、気にしてないわよ」
「んでも、お前は思ってた以上に元気そうだし、花屋の仕事も楽しそうで何よりだぜ。じゃあ、また来るぜ」
「コージも野球、頑張りなさいよ!」
私の応援に背中を向けたままパタパタと軽く右手を振って、コージは帰って行った。
コージは、あれはあれで心配性なところもあるからな。気を遣わせちゃったか……
私は少しコージのことが気になりつつ、彼の背中を見送った。
***
――二日後、五月一日。
今月も月命日に店にやって来た畠さんは、予約していた花束を受け取りに来た。
畠さんはコージのことや母の日のことには何も触れないので、コージは内緒にしているみたい。なら、私達も内緒にしておいた方がいいと思って、畠さんには黙っておくことにした。
私が予約の花のレジ打ちをしていると、何とも浮かない顔して溜め息をつく畠さん。
「何かありました? 畠さん、元気なさそうですけど……」
「あ、ごめんなさいね。今朝、息子とケンカしてね。反抗期なんでしょうけど、最近ずっとそんな調子だから、どうしたらいいものか考え込んじゃってね」
「そうだったんですね……」
あのバカ。ちょっとはお母さんの気持ちも考えなさいよ。もう……
まあ、私も反抗期真っ盛りかもしれないけど、ケンカする相手が家にいないだけで、助かってるだけかも。
「あの……余計なお世話かもしれませんけど、どういったケンカしちゃったんですか?」
「あの子は、私がお父さんのことを忘れられないのが気に入らないようでね。月命日でお参りしても、お父さんも迷惑だろうって」
「ええ! それはひどいですよ!」
コージの奴、何言ってんのよ。サイテーだ!
思わず声をあげようとした私だったけど、その前に畠さんは苦笑いを浮かべて首を左右に振った。
「ううん。今日は私が悪かったのよ……
ごめんなさいね、ツバサちゃん。変な話をしちゃって……じゃあ、また寄らせてもらうわね」
「あ、畠さんっ……」
私から花束とお釣りを受け取ると、畠さんはすぐに店を出ていってしまった。
初めて会った時はとても明るいお母さんだったのに、今日の畠さんは見る影もない。
だけど、コージにあんなひどいこと言われたのに、自分が悪いってどういうことだろう?
私が疑問に感じてると、後ろから店長が話しかけてくる。
「今、畠さんが仰っていたことは、どういうことでしょうか?」
「店長も変に思いました? どうせ口が悪いコージが畠さんを怒らせただけだと思いますけど、どうして畠さんの方が責任を感じてるんでしょうね……」
コージは文句言いつつも、なんだかんだでお母さんとは仲良さそうだったのに。
ひどく寂しそうだった畠さんを心配しつつも、別のお客さんが入って来たので、私は再び仕事に戻った。
――その日の夜。私は店の閉店作業を手伝っていた。
鮮度管理はコンピュータである程度までは可能だけど、最終的に花の傷みがないか確認するのは私の仕事。あとは店内の掃除などなど。
八時が閉店時間なので、時間が来れば店先に並べた花を店内に引いてシャッターを降ろす。
レジを締めるのはいつも店長の仕事。店の奥にある事務所に入ってしてくれているので、その間、簡単な作業は手伝いたい。
「ツバサさん、閉店作業は大丈夫ですよ? あまり遅くなっても心配ですし」
私の思いとは裏腹に、事務所から出て来た店長がそう言った。
「大丈夫ですよ、店長。まだ八時前だし。
コンビニでバイトしてたら、女の子でも十時までですよ?」
夜八時といえば、私的には外を出歩くには全く抵抗がない時間帯だ。
今は警察のアンドロイドが街中に多く配備されてるし、変な奴がいれば叫べばどうにかしてくれるから平気平気。
「そうですか……」
なのに、店長はいつも心配そうに、ちょっと困った顔で私を見る。ホントに他人を気遣える人だな。ちょっとお節介やきなところもあるけど、それは私も他人のことは言えないし。
そうこう考えているうちに、作業は終わってしまった。
「――はい。閉店作業、全て終わりました。今日もお疲れ様です」
帰り支度を始めようとした私に、店長は笑顔を声をかける。
「あ、ツバサさん。今日は送って行きますよ」
「え! そんな、わざわざいいですよ!」
「いえ、買い物にも行こうかと思っていましたし」
なんだ、ついでか……と内心で落胆しつつ、店長の狙いに私は気付く。
店長はきっと夕食を求めているのだと。そして、多分それは手間のかからないもの。
「ああ……、私の家の近くのファミレスに行くんですね」
「え、いえ。コンビニに……」
「もっとダメじゃないですか! お節介かもしれないですけど、店長って料理は作れないんですか?」
「え、ええ。恥ずかしながら」
ははは、と苦笑しながら頬をかいている店長。
「彼女さんとかもいないんですか?」
「は、はい」
やっぱり彼女いないんだ。それは良かった――って素直に喜べないなぁ。
店長ってずっと当たり前に、こんな生活続けてたのね。男の人の一人暮らしなら仕方ないのかもしれないけど……
あ、そうだ。いいことを思い付いた。
「店長、ここからならスーパーが一番近いですよね?」
「ええ。あの公園の少し先にありますよ?」
「じゃあ、そこで材料買ってきましょ。
私が作りますから、夕食!」
「……ええっ!?」
店長は目を皿のようにして驚いてたけど、こうなったらもう問答無用でご馳走してしまおう。
――そして、出来上がった料理を私はテーブルに並べていく。
どうせ野菜は食べてないんだろうなと、緑黄色野菜のサラダに野菜多めの肉じゃがを作ってみた。圧力鍋があれば煮物も簡単で助かるわ。
あとはご飯に、お味噌汁。定番の和食だ。
「さ、できましたよ? 店長」
「あ、あの……ご両親が心配なされてるのでは?」
私が調理中、なんだかずっとソワソワしてた店長。理由はそこにあった様子。
とは言っても、今日は二人共遅い。多分、帰ってくるのは私が眠った後だと思う。よくあることだ。
「大丈夫ですよ。今日は両親は家にいないんです」
「しかし、未成年のツバサさんに料理を作ってもらうなんて、やはりご両親に無断でというのは……」
「店長ってば真面目すぎますよ。料理作るくらいなんだって言うんですか。私も一緒に食べさせてもらうんだし、心配しなくても大丈夫ですって。
それに店長が悪いんですよ? 何ですか、あの冷蔵庫。開けてビックリしちゃったじゃないですか」
そう、買い物に行く前に冷蔵庫を見させてもらって、私は驚愕した。
なんと、そこには水やお茶やジュースといった飲み物しか入っていなかった。
「いや……それは……」
やっぱり店長は困った顔で口ごもる。
「もう、店長って真面目そうなのに、なんで自分自身のことには無頓着なんですか……
とにかく、今日は冷めないうちに食べましょう」
「はい。すみません……。では、いただきます」
店長の箸がゆっくりと肉じゃがに向かう。
威勢のいいこと言っておいて、私は今、内心は緊張している。店長の口に合うだろうか、不安……
「……どう、ですか?」
「これは――ツバサさん、お料理上手なんですね」
ニコリと微笑む店長。良かった、褒められたって思っていいんだよね。
「手慣れた様子でしたが、普段から作ってるんですか?」
「はい。時々ですけどね。
うちは両親が仕事で忙しくて家にいないことが多くて、普段は家にいるアンドロイドが作ってくれるので」
「え? アンドロイドが毎日作ってくれないのですか?」
店長は驚いた。それも仕方ない。アンドロイドは設定すれば毎日作ってくれるに決まってる。怠けて作らないことや、時間に間に合わないこともない。
指示や設定通りに、決まった時間に決まったことをする――それができないアンドロイドは不良品だ。
なのに、私がわざわざ自分で作っているのには理由があった。
「いいえ。私が作らないように設定し直して、自分で作ってるんです」
「どうして、わざわざそんなことを?」
「アンドロイドの料理は――おいしくないんです……」
私のボヤきに店長は、ますます訳が分からないような顔になった。アンドロイドが料理を失敗する訳がない。おいしいに決まっているから。
でも当然、私がおいしくないと思うのにも理由はある。
「もちろん、腕前もレパートリーも私なんかがアンドロイドに勝てるわけないです。
でも、アンドロイドは失敗しないから。今日はご飯が柔らかすぎたとか、味付けが薄すぎたとか、そんなことは全くなくて、いつも同じ完璧なんです。
でも、それって『心』が……、こもってないんです。
そんな料理を毎日毎日食べてたら、いくらレパートリーが豊富でも、なんだか同じ物を食べさせられてる感じがして、おいしいとも感じなくなっちゃって……」
「毎日毎日って……、ツバサさんのご両親は、それほど家におられないのですか?」
心配そうな顔してる店長。
いけない、気を遣わせるつもりはなかったのに。
「ただ忙しいだけですから。
前に話した通り、両親は『ヘルツ・クロイツ社』で働いてます。特に人工知能を専門に開発してるんですけど、人工知能はアンドロイドの命で、日本のアンドロイドを世界に売り込む要でもあるんです。
いつの間にか、うちの両親が日本代表みたいになっちゃって、色々大変みたいですよ」
と、まるで他人事のように言ってしまった。
まあ、実際に他人事のように感じていることは事実で、私の中では当然になっていた。
「それは、最近始まったことではありませんよね? ヘルツ・クロイツ社は、もうずっと日本を代表するアンドロイドメーカーですし……」
「私が小学校に上がるかどうかくらいからですね。だから、慣れちゃって寂しくはないですよ。
家にはムダにアンドロイドがたくさんいますからね。不便は全くないし、むしろ贅沢な悩みっていうか――単なるワガママですよね」
私は笑う。心にも無いことを平気で言って、取って付けたように笑う。こうすれば、大抵の人はそれ以上心配しない。学校の友達も先生も、皆が皆、そうだったし。
でも、寂しくなかったのはサトルさんがいてくれたからだ。独りだと慣れることは難しい……
だけど実際、こんな悩みは贅沢な悩みで私のワガママなんだから。自分自身にもそう言い聞かせているし、店長だって……きっとこれで納得する。
「――ツバサさんは『頑張り屋』さんですね」
返ってきた言葉に、私は不意に顔をしかめてしまったことを、後から自覚した。
店長は優しく微笑んでいるが、何処か私を見透かしたように冷静な口調で続ける。
「でも、僕はそれが贅沢な悩みだとか、単なるワガママだとか、そういう風には思いませんよ。
ツバサさんが両親が留守にしていて頑張っているなら、そんな言葉で表すのは何か違う気がします」
「頑張ってる……私が……?」
そんな自覚はどこにも無かった。ただ仕方ないからそうしていただけなのに、頑張ってるとは少し違うものだ。
だけど、店長はうなずき、言葉を続ける。
「そういう立場にあるから頑張る――ということは、恐らく、これから将来も必要になる力なのかもしれません。
だけど、一番大切なのは自分がどうしたいか……だと思うんですよ」
私は呆然としていた。やっぱり私は店長に見透かされている気がする。いやいや、そんなことはないと思うけど、彼の言葉が痛く胸に響いた。
サトルさんも、私のことをそんな風に見てくれていたのだろうか――そう考えかけて私はやめた。店長とサトルさんは違う人なんだから、そんな考えは必要ない。
でも、店長と一緒にいると何故かサトルさんのことを考えてしまう。この不思議な気持ちは何なのだろう……
そんな不思議な『ユージンさん』のことをもっと知りたいと、ずっと前から思っていた気持ちが抑えきれない。
「……店長。やっぱり私、これからも時々料理を作りに来てもいいですか?」
気付けば、私はそう口走っていた。店長はオーバーに目を丸める。
「え……。ええぇ!?」
「なんでそんなに驚くんですか。今、私がどうしたいかが大切だって言ったのは店長でしょう?
私はここで花屋の仕事を頑張りたいです。それから、時々は店長の心配だってしたいです。
……それじゃ、ダメですか?」
私の本当のワガママに、店長は慌てふためく。
「ツバサさん、それとこれとは話が――」
「違わないですから気にしないで下さい。
迷惑なら迷惑だって、はっきり言ってもらえばやめますけど、そうじゃないなら是非お願いします」
「迷惑だなんて思ってないですよ。ただ、やはりご両親に心配かけてしまうと思うんですよ」
「大丈夫大丈夫。次から許可得て来ますから!」
マ、マズい……。実はアルバイトの許可も親から許可得てないんだよね。書類のサインはアンドロイドに書かせちゃったし、バレたら大変なことになりそうだけど……ど、どうにかなるっ!
目を逸らしてビミョーにうろたえる私に気付かずに、店長は少し考えてからうなずいた。
「――分かりました。ご両親が許可されたらお願いしますね」
「はい!」
たぶん、店長は普通の親なら許可しないだろうと思ってそう言ったに違いない。
ごめんなさい、私は嘘をつきます。両親には今度いつ会えるか分からないし、許可してくれるか分かんないので勝手に料理を作りに来ちゃいます。
「ツバサさん? 本当にご両親にお話ししてくれますよね?」
「うっ……当然です! やだなぁ、店長。あんまり疑り深いとモテませんよ!」
冗談交じりで誤魔化してみたけど、店長からしてみれば、未成年の私が家に出入りするのは、そんなにマズいことなんだろうか。まあ、最近は世間の目も冷たいけど、やましいことがあるわけでもないし。そこまで警戒する必要もないと思うんだけど。
ご飯を食べながら考え込んでると、ふと店長の視線を感じた。
「あ、店長。モテないって言われて怒りました?」
「いいえ。今日のツバサさんは、いつにも増して楽しそうだなって思いましてね。敵わないな、と」
と、店長は笑っていた。私のお節介を受け入れてくれた……のかな?
「それ、褒められたのかバカにされたのか分かんないです!」
私も笑いながら反論した。言葉とは反面、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
こうして私は、時々だけど店長に料理を振る舞うことになった。




