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森の奥   【挿絵あり】

「もー、どこだよ湖」

朝、今日は健太たちと少し遠出をするからと言っておばあちゃんにおにぎりを二個つくってもらった。

一個はさっきお昼に食べたけどもう一個はとってある。

以前恨めしく眺めた赤いしるしを越え踏み込んでからどれくらい歩いただろう。

森に入ってすぐは気になった、時々聞こえる何かがカサカサと動く音も今はそれほど気にならない。


木漏れ日によって思っていたよりずいぶんと明るい森は、すがすがしい緑の香りがしていて

ただのピクニックに来ていたのなら心地の良い美しい景色として楽しめただろう。


だが、ただ一人あてもなく何処にあるとも知れない湖をさがすオレには

きれいな緑の木々も恨めしく思えてくる。

まるで、オレから湖を隠すように立ちはだかって邪魔しているみたいだ。


 *****


「やばい、ぜったいまよったよオレ」

少し薄暗くなって来た森でオレは途方に暮れる。

写真をとるために、キッズスマホ(10才の誕生日にと両親が送ってくれた)を持ってきたのだが

どうやらここでは電波が届かないみたいだ。


一日歩いていいかげん疲れてきたオレは近くに腰ほどの高さの大きな岩を見つけよじのぼった。

座って休憩するにはよさそうだし、少し高いところへ登れば何か見えるかもしれない。


「チッ、やっぱなんも見えねえか」

水筒の麦茶を飲んで残りのおにぎりをほおばる。

一息ついてとりあえず下に降りようと立ち上がった時だった

「うぇあー」

足を踏み外したオレは、みごとに落っこち気を失ったらしい。


「痛っ」

気がついた時には辺りはすっかり暗くなっていた。

足が燃えるように痛かった。スマホの明かりで見ると岩のでっぱりにひっかけたのか

左のふくらはぎあたりがザックリ切れて血だらけだった。

泣きたくなりながらハンカチで何とか傷を覆うようにまいてしばる。

心細くて寂しくてどうしようもなくなってくる。

ハンカチと一緒にポッケットにいれていた涙石を取出しにぎりしめた。



その時、


「光った……」

にぎった手を開いてみると、血で汚れた手のひらの上で涙石が自らにぶい光をはなっていた。

「うそ……」

足の痛みも一瞬忘れ立ち上がった。

光は強くなったり弱くなったりするどうやら向く方向によって変わるらしい。

オレは、手じかな木の枝を杖代わりにして痛む足を引きずりながら涙石の光の強くなる方へ進んで行った。


10分くらい歩いただろうか昼間あれほど邪魔していた木々が嘘のように開けそれは突然オレの目の前にあらわれた。


「でかっ……、ってゆうかなんでこんなでかい湖が見つかんないわけ?」

そこには、対岸が見えないほど大きな湖と湖上に浮かぶ大きな満月あった。

物音一つしない静寂がただよう不思議な空間。

そのまま力もつきて岸辺にへたり込んだ時だった。


「パシャン」

響く水音に顔をあげる。


「あっ……」


挿絵(By みてみん)


湖上に浮かぶ満月を背景に、はねた。

飛び散る水しぶきに月明かりが反射してキラキラときらめく光をまとったその姿は…

あまりにも美しくて…… 時が止まったかのように感じられた。


言葉を失いただただ見とれる。湖面に残るのは静かに広がっていく波紋のみ。

「人魚……」

そのまま動くこともできず、声さえもでてこない。



どれくらい時が過ぎたのだろう、たぶんたいした時間じゃなかったのだと思う。

オレにとっては静寂と夢の中に迷い込んだかのような人生最高の時だったのだけど……



「はぁーい、真斗くん」

「えっ、うぇあー、えー……ってかなんでオレの名前……」

気がつくと目の前、岸辺に片手で頬づえをして手をふる人魚がいた。



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