約束
あの二分の一成人式の日の後から、オレはずっと後悔している。
人魚伝説が日常のここでなら大丈夫かと思ったのに。
特にオレに人魚伝説を教えたはずの健太たちはちょいちょいオレをからかってきやがる。
健太言わく、
「あんなのは、森の奥に入らないように大人たちが考えた話に決まってる」
だそうだ。
「そうだねぇ。二年生くらいまでは僕も信じていたんだよ。」
これは涼の言い分。
「まぁ、真斗はまだまだお子様ってことで」
チッ、隆おまえが森の奥の湖に人魚が住んでるってオレに言ったんだぞ
オレは、声には出さずに心の中でぶつぶつと文句を言う。
ふん、お前らはあの石を知らないからそんなこと言ってられるんだ。
でも、みんなにあの石を見せようとは少しも思わなかった。
あれは、オレだけのものだ。
あの日から涙石は何度もとりだして眺めている。そう、涙石って呼ぶことにしたんだ。
なぜだか分からないけれど、ある時心に浮かんだんだ。これは涙石だって。
涙石は不思議な石だ見れば見るほど引き込まれていく。それに月の光で光るのだ。
その光は月の満ち欠けに関係している。満月の夜、石を満月にかざして重ねると中の金銀の粒子がうずまくようにうごめいて、涙石が中から光っているように見える。
晴れて月が出ている夜は必ず涙石を取り出して月にかざしてみるのがオレの習慣になった。
大きくなったら曾おじいちゃんのノートだけじゃなく、古文書も読めるように勉強する。
そして、曾おじいちゃんの研究を引き継次いで森の奥、人魚の湖をみつけるのだ。
そう思っていたはずだった。あの日までは……。
夏休みになる直前の放課後の帰り道。このころには春先の寒さはどこへいったのか、やたらと暑い日が続いていた。
「なぁ、今年は夏休み泳ぎに行こうぜ」
健太が言い出した。
「学校のプールなら、毎年行ってるだろ」
隆が答える。
「プールじゃなくて、川とかだよ」
「川って遠くない?隣町との境あたりだよ」
涼は心配症だ。
「いっそ、人魚の湖に行ってみるかぁ。なぁ真斗、大きくなるまでなんてなんで待つんだよ」
チッ、またかよ健太。いつまで言い続けるんだよ。
「いろいろ調べることがあるんだよ」思わず答えてしまったオレに隆が言った。
「まさか真斗、おまえ曾じいちゃんの研究とか言わないよな」
「なっ……」
「なあに? 研究って?」
涼には悪気はないんだろう。
「この間、真斗のことじいちゃんに話したらさ言ってたんだ。真斗の曾じいちゃんはなんか人魚の研究するとか言ってふらっと出っていたり戻ったりしながら一人で変な研究ずっとしてたって」
「隆、変な研究ってなんだよ曾じいちゃんに謝れ」
「変な研究はホントのことだろ」
「違う、変じゃないオレは信じてる人魚はいるって」
「はっ、じゃあ証拠みせろよ」
「まってろ、絶対見つけて写真撮って来てやる」隆の売り言葉におもわず答えていた。
「いつだよ、大きくなったらか?」
健太も隆に加勢してきた。
「夏休み中に探しだしてやる」
「よし、約束だからな。健太も涼も聞いたな」
隆がにやけながら言った。
「真斗、森の奥は危ないよ……」
涼は心配そうにオレを見上げてきた。
一瞬しまったと思ったけれどいまさら後には引けなかった。
夏休み中に出来るだけ曾じいちゃんのノートを読んで行ってみるしかない。
そして夏休み、いつ写真を見せてくれるんだとうるさい隆と健太。心配する涼をかわしながら曾じいちゃんのノートを必死で読んでみたけど湖への道はけっきょくよくわからなかった。
だからといって、バカにされたままあきらめるなんてできない。
オレは、8月おわりの満月の日に人魚を探しにでかけると決めた。




