オレだけの秘密
そして小学4年になる春休みオレはこの水月村で1年間過ごすためやってきた。
毎年来ている村だけど3月に来るのははじめてだ。
東京ではめったに積もることのない雪が残る庭を見て、いつもより長く両親と離れる寂しさや友達はいるけど転校生として四月から過ごさなければならない小学校生活への不安を一瞬忘れられた。
あんがい転校生活はうまくいった。
なんと水月村の小学校は四年のクラスが1つしかなかったんだ。
だから、夏休みの遊び仲間の健太、隆、涼とは同じクラス。おまけに転校生をめずらしがってみんなやたらと話しかけてくる。だからすぐにクラスにはなじんだ。
それに、人魚伝説。この村では誰でも知っているっていうのは本当らしい。
会話の中でちょいちょい人魚って単語を聞く。おもに女子の話に多い気はするけれど。
なんとか水月村でも楽しくやっていけそうだけど、少し慣れないのが……
「寒―い。なんで春なのにまだこんなに寒いんだよ」
「はー、だいぶ暖かいぞ。今日なんか」って健太は言うけど。
水月村の春はまだ寒い誰が何と言おうと寒いものは寒い。夏と違って外では長く遊べない。
おかげで研究部屋で過ごす時間がふえた。でも健太や隆や涼は研究部屋には招待しなかった。
秘密の部屋は、一人で使うからこそいいもんなんだ。
曾おじいちゃんのノートは、この二年なかなか読み進められなかったけれど、最近は漢字も大分わかるようになったし、電子辞書も使いこなして解読中だ。古文書は相変わらずさっぱりだけど。
離れの小屋は、やっぱり寒いでもストーブは本だらけのこの部屋じゃ危ないだろうと、オイルヒーターを入れることになった。今日もヒーターのスイッチを入れたのに暖かくならないと思ったら、どうやらコンセントが抜けてたらしい。
「コンセントたしか机の裏の方だったよな」ひとりつぶやきつつ机の下にもぐる
「あっれー、どこだよ」懐中電灯を忘れ、とりに行くのもめんどうなのでそのまま手探りで机のうら辺りを探っていた時だった。
「カタン……」
何かがはずれた音がした。机の下の引き出しの裏あたり?
すぐに机の下から這い出して、右の引き出しの一番下をそろそろと引き出してみる。
外れた……今まで引き出しは開けられはしたけれど外れることはなかったのに。
だから、外れない構造のものだと思っていたのに……
急いで懐中電灯をとって奥に空いた薄暗い空間を照らして見る。
「うわぁー、なんかある。木箱?」
そっと奥から木箱を取出し机の上にのせた。
それは、古びた筆箱くらいの大きさの小さな木箱だった。
特に何も書いていない少しかび臭いようなにおいのする箱。
そっと蓋をあけてみる。そこには古びた紙と手のひらにのる位の小さい立方体の箱があった。
「玉手箱?」
見た瞬間頭に浮かんだのは、浦島太郎の玉手箱。
小さなそれは、真っ黒の漆塗で金の綺麗な模様が描かれ朱色の紐でむすんであった。
震える手で玉手箱と和紙をとりだす。
3つ折りの和紙を開く、筆文字?
「人魚の……なんだよ半分にじんでて解んないないじゃん」
さて、玉手箱だ。一度深呼吸をしてそろそろと朱色の紐を解く
「ハハ、まさか開けたら煙がなんてないよな……」
「綺麗……」
それは、500円くらいの大きさでビー玉みたいにまんまるの透明な石だった。
「これ、お父さんの言ってた……綺麗な石?」
小さな占い用の水晶玉を思わせるそれはのぞくと中で金、銀の細かい粒子のようなものがキラキラと輝いて
魂が吸いこまれそうなくらい綺麗だった。
オレは、石の箱をもとの木箱に戻して、また机の引き出しの奥にしまった。
これは、まだオレだけの秘密だ。
お父さんにも、お母さんにも内緒のオレだけの石だ。




