研究部屋
そこは、ほこりっぽく薄暗い小さな空間だった。ドアを開けた正面と左手に小さめの窓があり
薄汚れたカーテンがかかっている。
左の窓の下には木の机がある。それから右の壁は一面本棚になっていた。でもその本たちは本棚から崩れ落ちたのか床一面に散らばっていた。
「うわー。さすがにほこりがすごいな」
「何年ぐらい閉めきりだったの?」
「もう30年近くになるかねぇ」
「とにかく、まずは一度この本達を陰干ししましょう」
「よし、真斗ビニールシートとってこよう」
こうして研究小屋の大掃除がはじまった。
散らばった本や紙は、いったん庭の木の下の日影にオレとお父さんで広げた青いビニールシートの上に運ばれる。運ばれた本達の埃をそっと払って並べていくのはオレとおばあちゃんの役目だ。
「うわー、これ穴があいてるよ。おばちゃん」
「あゝ、虫にくわれたんだねぇ。」
「虫。虫って本食べるの?」
「そうだよ、だからこうして陰干しするといいんだよ。でも直接お日様にあてちゃ駄目だよ
本が傷むからね」
本が出し終わったら、部屋の掃除だ。お母さんとおばあちゃんが箒と雑巾で部屋をきれいにしてくれている間、お父さんとネットショップで新しいカーテンを注文することにした。
「お父さん、カーテンは青がいい海の青。人魚の部屋だもん、貝とかの模様の探してよ」
「わかったよ。本だらけの部屋だから遮光のカーテンがいいな」
「遮光?」
「光を通しにくいやつだよ。ほらこれでいいか?」
「うん、これがいい」
「よし、3日もあれば届くだろう」
「ありがとう」
お昼ご飯の後、みんなで陰干しした本たちをしまうことにした。
何やら難しそうな古い本が多く筆で書かれたものはさっぱりわからなくて、せっかくのワクワクがしぼんでいく。
「曾おじいさんはもともと古文書の研究をしていたから真斗には難しい本が多いねぇ」
「真斗、これは曾おじいさんが書いていたノートみたいよ」
「でも、真斗にはやっぱりまだ難しいだろう。漢字も多いし」
「真斗が、頑張って自分で読んでみたいなら家にある電子辞書を戻ってから送ってあげるわ。家でわたしの人魚の本を読むときに使い方は教えてあげたから」
「どうする? 真斗一人で読んでみるか?」
「うん」
ちょっと不安だったけど、みんなで片づけた研究部屋は秘密の部屋のようで気に入った。
それに、曾おじいちゃんのことももっと知りたい。
「よし、約束帰ったらすぐ送るよ」
「あー、そういえば貴方の言っていた綺麗な石は?みあたらなかったわね」
「そうだなぁ。おかしいな、確かにみせてもらったのに……」
そうだった。お父さんの見たっていう綺麗な石があった。もしかしたら、まだあの研究部屋には秘密が残されているかも。がぜん曾おじいちゃんのノートの中身が気になりだした。
翌日には、お父さんお母さんは家に帰り3日後、カーテンと電子辞書が届いた。
その年と翌年の夏休みは、健太達と遊びにいけない雨の日になるとオレの部屋となった
この研究部屋で曾おじいちゃんのノートとにらめっこの時を過ごした。