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Lily×Monster ~モンスター娘と百合コメです!~  作者: 白猫くじら
ロリっ子ヴァンパイア×薄幸の修道女
8/58

蹂躙してあげるッ!

 少女は、いつも一人だった。


 聖女ともてはやされ、戦地に向い、悪を討つ。

 強大な力に、モンスターは恐怖で逃げ出す。

 その姿に、人間たちからは喝采があがった。


 初めは、それが嬉しかった。

 孤児だった自分が、神様に選ばれ、人にはない特別な力を得たことが。

 人々に感謝され、喜ばれたことが。

 正義の味方みたいで、子供心に喜んだことを覚えている。


 代わりに病弱となり、力を使わないときにも些細なきっかけで吐血したが、周りの人間たちにとても心配してもらえて、嬉しかった。

 暖かさに触れられて、嬉しかった。

 

 だがそれは、少女自身ではなく、聖女としての役目に対して贈られる称賛。

 少女は、聖女という被り物を被るだけの、ただのヒトガタに過ぎなかった。


 ある時、少女は友を得た。

 その少女は、少女を聖女としてではなく、初めて人間として扱ってくれた。

 それが嬉しくて、少女はいつしか友情以上の感情を抱くようになっていた。


 だがそれは、聖女の力を我が物とせんとする、他の教会の策略であり。

 その間に、一切の友情など存在せず。

 あるのは、相手を利用してやろうとする邪な感情だけだった。


 当然だ。ヒトガタを人間として扱うものがどこにいる。

 神より使命を賜り、平和のために闘い続ける。

 そう言われれば聞こえはいい。だが、使命とは、ただの命令。

 それを実行し続けるだけの少女は、ただの人形と変わらない。

 

 何度戦っても平和への道は見えてこず、人間たちの私利私欲に利用され続け、それでも聖女として戦わざるを得ない。

 

 だから少女はすべてを諦め、人形として生き続け、そして死に続けた。


 だから少女は、いつも一人だった。

 

***


「聖女さま。準備はよろしいでしょうか?」


 教会の祭壇に立つクリスへと、司祭の女から声がかけられる。

 クリスはそうするのが使命だというように、聖女のように、慈愛をたたえた微笑を浮かべる。


「ええ、いつでも。この世に平和をもたらすため、喜んでこの身を捧げましょう」

「おお、流石は聖女様……なんというお言葉か……」


 感銘を受ける司祭。

 だが、そのでっぷりと肥え太った腹の中にあるのは、自らの出世と金銭に対する執着のみ。

 平和などどうでもいいと思っているのが、クリスには分かっていた。


 教会中に集まる修道女たち。

 その中に、真の平和を目指すものなど、一体どれだけいることか。


 こんな人間たちにクリスは何度も利用され続けてきた。

 そしてそれは、今回も。


 自分は今から、この修道院の権威を高めるための、ただの道具に成り果てるのだろう。

 本気を出せば、このような人間たちなど、一瞬で灰にできる。

 逃れることなど容易いこと。

 

 だが、そうしたところで、自由はない。

 あと数年すれば、命は尽き、再び赤子となって未来で聖女として転生する。

 何度死んでも、呪われた聖なる輪より逃れることはない。


 だからもう、諦めた。



 そのはずなのに、あのヴァンパイアの少女の顔が頭に浮かぶ。

 儀式までの暇つぶしとして戯れで招き入れたのだけだったのだが、しかしてそれ以上の存在となりつつあったあの少女。

 少しだけ、心残りができてしまった。

 いっそ、出会わなければよかったのに。

 


 もしわたしが、聖女ではなかったなら……。

 

 

 いや、聖女でなければあの少女に出会うことはなかったのだから、ここは忌々しい神に感謝するべきか。


「……ふふ」

「聖女様? 如何されましたか?」

「いえ、なんでもありません。さあ、始めてください」

「分かりました。それでは皆の者! これより救国の儀を執り行う! 聖女様へ祈りを!」

「「「「「祈りを!」」」」」


 そうしてクリスは、瞳を閉じた。


***


「はあ、はあ、はあ……。ただの獣風情が、このあたしに盾突くか……」


 闇夜に包まれた、とある場所。

 ヴァンパイアの少女は、忌々しげにつぶやいた。


 怒りを向ける相手は――ドラゴン。


 少女の何十倍はあろうかという巨体を翻し、その身を砕こうと滑空してくる。


「ちぃ!?」


 少女は紙一重でその攻撃をかわしたが――


「ゴアアアアアア!」

「なにっ!? きゃああああ!?」


 振り返り様に放たれた灼熱のブレスで、その身を焼かれる。


「く、そ……。なかなかやってくれるじゃない……」


 ボロボロになりながら立つ少女を挑発するように、ドラゴンはゆっくりと地面に降り立った。

 少女は苦笑する。


「いいわ。獣風情に必要ないと思っていたけれど……。この力を使わせたこと、地獄で後悔することね!」


 少女は口元を歪め、高らかに叫んだ。


***


 修道女たちが集う、真夜中の教会。

 聖職者たちが集っているというのに、そこはまるで魔女たちがサバトでも行っているような異様な興奮に包まれていた。


「「「「「祈りを! 祈りを! 祈りを!」」」」」


 祭壇の上の魔法陣に横たえられた聖女に向かって叫び続ける少女たちを、司祭は満足げな表情で見つめた。


「ふふふ。これで、この私の地位は盤石なものに……」


 過去の記憶のないらしい聖女の小娘には黙っていたが、救国の儀とは、神聖な儀式などではない。

 何年もの歳月をかけて準備された、強固な洗脳魔法をかける儀式なのだ。

 その準備が整うまでの間、小娘には極力その力を使わせず、修道院の一室に軟禁するようにして過ごしてもらっていた。儀式の際にかかる負担を減らすためとか適当な嘘をついて。

 

 聖女の力は強力だ。だが、それは何の代償もなしに扱えるものではなく。


 その命を削り、使う力だ。


 洗脳魔法をかけ、死なせるまでの間にできる限り力を好き勝手利用するため、使わせないようにしていたのだ。


 この力を利用すればこんな辺境の街の司祭などで収まっておかなくとも、教皇になるのも夢ではないかもしれない。

 輝かしい未来を想像すると、笑いが止まらなくなりそうだ。


「ふふ。路地裏で見かけた小汚い小娘を、ただの気まぐれで拾ったのだけど、それがまさか聖女さまだったなんて! 善行を積んだ私に、神が褒美を授けてくれたのよね!」

 

 神よ、感謝しますと司祭は祈りを捧げた。

 その様に聖職者としての威光など、最早ない。



 コンコン。



「……む?」


 そんなとき、司祭の耳に軽い音が聞こえた。

 それは、教会の扉がノックされる音。


「……ちっ。光の気配に充てられて、闇の下僕があらわれたか……」


 きっとヴァンパイアに違いない。

 ヴァンパイアはまともに戦えば確かに脅威ではあるが、しかし、ヤツらは変わった性質を持っている。


「招き入れさえしなければ問題ないのよ。残念だったわね!」


 司祭は高らかに笑い、祭壇の方へと目を向けた。

 あの地位と名誉と金の成る木である聖女様を見て、気を紛らわせよう。

 そう思ったのだが。



 瞬間、大きな破壊音が教会内に響き渡る。



「な、なに!?」


 驚いて、音のした方、教会の入口へ目を向ける司祭と修道女たち。


 そこには、拳を突き出し、重厚な扉をブチ壊した、1人の少女の姿が。



「無礼者が。このあたしがわざわざノックしてあげたのよ? 頭を垂れて迎え入れるのが礼儀でしょうに」


 口元を歪める銀髪少女。

 ゴスロリ服を纏った体はなぜかボロボロである。

 凶悪に笑う口元からは、鋭い牙がのぞいていた。


「ヴァ、ヴァンパイアよ!?」

「どうしてここに!? 誰にも招き入れられていないのに!?」

「も、もしかしてこの中に内通者が!?」

 

 混乱に包まれる修道女たち。


 彼女たちは知らない。

 自身たちが一心に祈りを捧げていた相手、その聖女自身が、昨晩ヴァンパイアをここに迎え入れていた張本人だったということを。


 そんなことなど露程も知らない司祭も、パニックに陥りそうになりつつ、少女たちを一喝する。


「落ち着きなさい! 敬虔なる神の僕であるわたくしたちに、下賤な闇の化身が敵うはずがありません! みなさん、戦うのです! 神は我々の味方ですよ!」


 司祭に鼓舞されて、修道女たちは怯えつつもヴァンパイアに向き直る。


「相手は一人、こちらは数百! いくらヴァンパイアと言えど、ただでは――」


 司祭が言いかけた時、1人の少女が弾け飛ばされた。

 少女は壁にぶつかり、気を失って倒れてしまう。

 

 司祭は少女が立っていた方に目をやり、驚く。


「な!? どうして!?」


 そこに立っていたのはヴァンパイアではなく、味方のはずの修道女。

 虚ろな目をした彼女が、味方に向けて光魔法を打ち出したのだ。


「みなさん、気を付けてください! その者は闇に魅入られています! 早く浄化を――」


 指示しかけた時、また別の少女が弾け飛ばされる。

 そちらでも光の消えた目をした少女が、味方へ光魔法を放っていた。

 司祭が驚く間に、一人、また一人と味方に攻撃し始めていく。


「一対数百? 偉そうな格好している割に、計算もできないの?」

「チャームか!? おのれ、卑怯な真似を!」


 司祭が気付いた通り、修道女たちの何割かは、事前にヴァンパイアのチャームにかけられていたのだ。

 怒気を強める司祭を見て、ヴァンパイアは口元を歪める。


「卑怯? このあたしが人間如きに力を使ってあげているのよ? 感謝されこそすれ、侮蔑される覚えなどないわ」


 司祭は、はらわたが煮えくり返る思いをしながら、修道女たちへ檄を飛ばす。


「みなさん! たとえ仲間であったとしても、容赦など無用です! その者らは、闇に屈しました! ならば、しかるべき罰を受けてもらう必要があります!」


 その言葉に、修道女たちは躊躇しつつも操られた味方へ攻撃を始める。

 それを見て、ヴァンパイアは楽しそうに笑う。


「クククッ! 愚かね、まったくもって愚かだわ! 操られているとはいえ、仲間同士で争うなんて! いいわ、興が乗った! このあたしが、てずから蹂躙してあげるッ!」


 そういうとヴァンパイアは、修道女たちの群れの中へと飛び込んだ。

 突如竜巻が発生したかのように、次々と修道女たちが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられていく。


「みなさん気をつけて! ヴァンパイアに血を吸われれば、ヴァンパイアになってしまうと聞きます!」


 修道女たちは死に物狂いでヴァンパイアへと光魔法を放ち続けるが、しかし、それはどれも当たらない。風よりも速く動き回られ、狙いを定めることができないのだ。


 人間を遥かに凌駕する身体能力を有し、それを十全に発揮する夜の王に立ち向かうというのが、そもそも無駄なことなのだ。


「ハッ! お前たちのような穢れた血! 誰が好んで飲むものか!」


 ヴァンパイアは右の拳に力を込める。

 するとその手に黒く燃え盛る闇の炎が現われた。


「暗黒の帳の中で震えるがいい! デス・ストーカー!」


 拳を床へ叩きつける。

 すると、拳に宿った炎は、何十、何百と別れ、地面を伝い、修道女たちへ憑りついた。

 その炎は足元から駆けあがり、少女たちの顔まで上がり、発火する。

 あちこちから悲鳴が上がり、1人、また1人と倒れ伏す少女たち。


 その炎は、浴びた者のトラウマを呼び起こす炎。


 本来それは、対象が恐怖で死に至るまで消えることのないものなのだが、ヴァンパイアには、その気はなかった。

 倒れ伏すと同時、少女たちの顔から炎が消えていく。


「意思のない人形なんて、殺す価値もないわ……。さて」

 

 と、突如ヴァンパイアを取り囲むように、その四方を水流が流れ始める。

 修道女たちもろとも巻き込む即席の河が出来上がり、ヴァンパイアは眉を潜める。


「……む?」

「ふ、ふふふ。知っているよ。ヴァンパイアは、水流を渡ることができないのよね?」

 

 恐怖に体を震わせながら、司祭はヴァンパイアへと言う。


「……お前、相当のクズね」

 

 流されていく修道女たちを見て、ヴァンパイアは吐き捨てる。


「闇の化身を倒すため、きっと彼女らもその命、喜んで捧げてくれることでしょう!」


 司祭は祈りを捧げる。

 それに応えるように、教会の中空に、光の球体が現われる。


 それは、まるで小型の太陽とでもいうように。

 闇の化身であるヴァンパイアの肌が、じりじりと焼けていく。


「さあ! 下賤なヴァンパイアよ! 神聖な光にその身を焦がされ、灰となって掻き消えよ! 『フォトンスフィア』ッ!」

 

 司祭が叫ぶと同時、それは落下していき、1人取り残され、水流に囲まれて身動きが取れないヴァンパイアを叩き潰した。


 高温の球体に触れられ、水は一瞬で蒸発。

 落下した球体は激しく明滅し、やがて爆発四散した。

 周囲に、燃えるように熱い水蒸気が充満する。


「ふふふ。ふはははっ! どうだ! これが神に祝福されし、司祭の力よ!」


 光魔法で障壁を発動し、しかし爆発を抑えきれず吹き飛ばされた司祭は、瓦礫の中から立ち上がり、高らかに笑う。


 なんだ、ヴァンパイアなどと言っていたが、他愛もないではないか。

 きっと人前にあまり姿を現さなくなったうちに、その牙は鈍らとなり、砕け散ってしまっていたのだろう。


「さて。骨かなにかは残っているかしら? 希少なヴァンパイアの遺骸として、見世物にしてやるわ」


 やがて水蒸気が晴れる。

 『フォトンスフィア』を受けた場所には、瓦礫が存在するだけであり、何も残っていなかった。


「……ちっ。やりすぎたか」


 司祭は悪態をつく。

 一稼ぎできると思っていたのに、残念だ。


「まあいい。あの聖女を使えば、金なんていくらでも入ってくる」


 今まで貯めに貯めた聖女の生血。

 正直気持ち悪くて嫌だったが、それもすべては金のため。

 当修道院で聖女を擁しているというのが分からないよう、今まで売却せず、地下に貯め込んでいたのだが、もうその必要はない。

 聖水なんかと比べ物にならないほどの神聖さが宿ったそれは、身に振りかければモンスターたちが逃げ出し、口にすれば体中に魔力があふれてくる優れものだ。


 実際司祭は、儀式の折に不測の事態があってはいけないと、嫌々飲用していたのだが、そのお蔭でヴァンパイアを討伐することができた。


 売却する際には、聖女が民衆のためを思い、自ら自傷して流した血とラベルに追加しておこう。


 金儲けのことを考えながら、司祭は聖女の方を振り返る。



 そこに、ヴァンパイアが立っていた。



「……え?」

「弾け飛べッ!」


 振りかぶった拳が司祭の肥え太った腹を打つ。


「ぶごおおぉぉ!?」


 その巨体は小石のように簡単に弾け飛ばされ、爆発でヒビの入った教会の壁を突き破り、庭へと落下した。


 腹を抑え、痛みに呻く司祭。

 骨折ならばまだいい方だ。

 人外の怪力をモロに受けた腹の中、臓器が損傷している可能性もあった。


「な、なんで……?」


 激痛に悶えながら、司祭は歩み寄るヴァンパイアに尋ねる。


「薄っぺらいのよ」


 ヴァンパイアは吐き捨てる。


「光魔法っていうのは、神の祝福を受けた者だけが扱える神聖な魔法。その強さは、信仰心に比例する。お前は今――たぶん、アイツの血液でしょうけど、それでドーピングをしたようだが。多少は補えたと思っているようだが。そのくらいじゃ足りないくらい、お前のそれは薄っぺらい。それに、その腹の中に溜まったどす黒い感情に、聖女様も嫌気が差したんじゃないの?」

「そ、そんな!?」


 怯える司祭を見て、ヴァンパイアは凶悪に笑う。


「なぜかしらね? あんたみたいな豚の怯える姿なんて、そそらないはずなのに……。ああ、そうか。そそっているんじゃなくて、殺意に震えているのか、あたし」

「ひぃ!?」

「あんたには色々言いたいことがあるけれど、まずはもう一回、殴らせなさいなッ!」


 ヴァンパイアは司祭目掛けて一直線に飛んでくる。

 迫る死の形に、司祭は泣き叫ぶ。


「た、助けてくれえええ!」

「ふふ。助ける者などどこにも――!?」


 不敵に笑ったヴァンパイアだったが、背後から放たれた巨大な光弾を受けて吹き飛ばされる。


 司祭が目線を向ける先、教会の入り口には――




「術者の助力を求める声を確認。闇の化身、ヴァンパイアを捕捉。これより討伐に移ります」




 光の宿らない瞳で機械的な言葉を発する、クリスだったものの姿があった。


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