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Lily×Monster ~モンスター娘と百合コメです!~  作者: 白猫くじら
続・ロリっ子ヴァンパイア×薄幸の(元)修道女
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助けてよっ!


 少女の狂気。

 その全てが、闇の姫君たちへ向けられる。


「だああああぁッ!」


 感情のままに奮われる鮮烈な剣。

 それは、決して乱雑に奮ってはいけない壊魂の絶刀。


「どうしてあなたたちは生き返ったのッ!? あなたたちだけ生き返れたのッ!?」


 地上より一足飛びに跳躍し、夜空へ浮かんだ二人を狙う。

 至近にて振り抜き、切り上げ、回避されてもなお縋り付く。


「そんなの卑怯ッ! 不平等ッ!」


 回避直後の刹那の硬直を狙ったのは、かざした剣より放たれる必滅の光。

 

「ちぃッ!?」

「おおっとッ!?」


 連撃の最後を飾る、夜空を引き裂く強大な一撃を、エリザたちは紙一重のところで回避する。

 その健在を確認し、暗部に呑まれたナギは、さらに声を荒げる。


「空気も読まずにイチャイチャしてッ! べたべたしてッ! 知ってるよッ! そーいうの、バカップルって呼ぶことくらいッ!」

「違いますよ、ナギちゃん。わたしとエリザは結婚式だって挙げました。みなさんの前で、変わらぬ愛を誓ったのです。だから」

「「「ジャアアアッ!」」」


 感情に波立ち、牙を剥いて迫るのは、聖を纏った邪竜の群れ。

 怯むことなく、滞空したままクリスは魔力を引き出す。

 

 その手に現れたのは、闇で象られた巨大な弓。

 掌中に顕現させた魔力を長大な矢と変え、竪琴でも引くように優雅に番え、


「カップルではなく、ふーふ。そこはお間違えの無きように」


 微笑みながら射出する。


「「「ギジャアアッ!?」」」


 風鳴りと共に放たれた巨大な矢は、真っ向から迫る複数の邪竜たちを、ただの一矢で、次々と射貫く。


 だが、瀟洒と構えるその背後。

 その柔肌を食い破ろうと、突如何もない空間から出現した邪竜が大口を開けるが、


「……ジャ、ぁ?」

「まったく。恥ずかしげもなく悠然と」


 完全に隙を着いた形であった、不可視の力にて肉薄した一頭の頸部を、暗黒の炎を纏った拳が貫く。

 神の力を受けたことにより、見透かす力を獲得したエリザは、竜を霧散させながら辟易する。


「のぼせあがるなド変態。そんなことしてるから、このあたしが手を汚すハメになるんじゃない」

「汚してくれると分かっていましたもの。だからこそ、真っ向のみに集中できたのです」


 背を預けられる喜びを抱きながら、クリスは感謝を悪戯心と漏らす。


「お礼に今宵、わたしのこの手、エリザで汚れるハメになると思いますのでっ」

「んなッ!?」

「知ってるよ。理解できぬも、なぜだか知らぬも、ちょっぴりなんだか羨ましいことッ!」


 戦場でのやり取りとは思えないソレに、ナギは肩を怒らせる。


「ジャアアアッ!」


 応じた一頭が打ち放ったのは、波濤のごとき濁流。

 クサナギの力で光属性を纏った結果、それは吐き出される端から聖水のごとき清らかさと変わる。


 ヴァンパイアは流れる水を渡れない。

 知れ渡ったその弱点。利用しない手などない。


「そのまま溺れちゃえばいいッ!」


 目標をもって進んだ激流は、宙に浮かんだままのエリザたちを瞬く間に囲い込み、渦を巻いて圧殺を望む。


 だが、迫る死の渦を前にしても、エリザはひとつも動じない。

 そんなものを憂慮するより、確認せねばならぬことがあったのだ。


「それよりも。確認しておくけど、その力」

「問題ありません。今、燃やしているのは、おのが命ではありません。あなたを想い、無尽蔵に溢れ続けるわたしの愛。それこそが」


 悠然と構えたクリスは応え、矢を番える。

 そして、動きを封じた水流の壁へと狙いを定めると、


「幸せを守る力と、変わっているのですッ!」


 ただの一撃で、消し飛ばした。


「なッ!?」


 流れる水にヴァンパイアは踏み入れない。

 直接干渉なんて、本来できない。

 だからと高を括っていたナギにとって、この驚きは当然である。


「……そっか」


 驚き竦むナギを尻目に、エリザは安堵を漏らす。



 此度クリスが望んだのは、孤独からの永遠の救済ではない。


 愛する者と共にあること。

 愛する者と幸せになること。


 その願いに応えた神の力が、後押しする災厄と『ナギ』の想いにて強化され、もたらされたのが今の力。


 呪われし聖女から、祝福されし妖女への属性変化。

 それは、愛する者を守り、幸せを守るための変貌。


 ヴァンパイアという強靭であるが故、弱点の多い種族である最愛を守るために。

 その性質どころか、その他いずれの魔の者の性質さえ――弱点さえ、携えない。

 純粋なる莫大な闇だけを秘めた、人に近き特殊存在。

 それが闇の妖女なのである。


 また、余談として付け加えるなら、幼女化しているのは体躯が小さい分エネルギー効率がいいという理由からなのだが、それは苦し紛れに近いものであり、そこの変化に関しての真実は、永年彼女を苦しめたことへの、神からのお詫びのオマケのようなものであった。


「ただ、この姿は限定解除な姿です。わたしたちの愛に脅威が迫った時にだけ発動できる激レア幼女姿なのです」


 奮うことができる場に制限こそついたものの、命を犠牲にするなどという自己犠牲からは解放された決戦形態。それを聞いてエリザは強く安堵した。


「ああでも、どうかご安心くださいませっ! 意気軒昂に頑張れば、いちゃらぶに骨抜きになったエリザから「ねぇおねーたん、もう一回シてよぉ。ごろにゃーん☆」と、おねだりの言葉をもらえるピロートークのお時間までは頑張ってみせますのでッ! 幼女×幼女のみらくる☆ないとっ。そんなユメみるドリームを、わたしが乞いますご期待を――」

「聞くにッ!」

「耐えないッ!」

「ユニゾン幼女のみらくる☆こんぼっ!?」


 赤面した幼女(エリザ)が拳を振り抜き、風と共に吹き飛んだ幼女(クリス)が浮かんでいた場所を、一瞬遅れて激昂した幼女(ナギ)の振り抜いた一閃が通過する。

 

 敵味方の見事な連携技により、大ダメージを受け、しかして即死を免れたクリスは、どうしてか幸せそうな顔で戦線復帰してくる。


「幼女たちに迫られる幼女ッ!? ゆりっろりな三角関係ッ!? この楽園に当事者として踏み入れるとか、もうわたし、死んでもいいです……っ!」

「「なら死ねよッ!?」」


 思わず言葉を重ねる二人。

 直後、我に返ったエリザは、すぐさま頭を振って訂正する。


「って違ったッ!? バカなことをのたまうなッ! 死ぬとかなんとか馬鹿げたセリフ、奇跡と戻れた此の今で漏らしてんじゃないわよッ!?」

「そ、そうですね。失礼いたしました」

「むー」


 ふくれっ面で言った後、雰囲気一転、エリザはナギを睨みつける。


「聞くがいい。クリスもあたしも。不幸なんぞに渡さない」

「ッ!」


 犬歯を剥き出しに猛るナギと邪竜の群れに、エリザは高々と胸中を叫ぶ。



「あたしたちの幸せは、もう誰にも犯させない。確かに掴めたこの最愛、手放すことなどあるものかッ!」




***




「よくも語って聞かせてくれたッ! よくもノロケて聞かせてくれたッ!」


 ひび割れ始めた体にかかる負担も、加速する消滅への道行きも度外視し、ナギは猛る。


「沈むわたしにッ! 悔いるわたしにッ! 愛だの、なんだのとおおおッ!」

「ジャアアアアッ!」


 再誕した純白の邪竜、その一頭が空を薙ぐ。

 手近に存在する新婚に、永遠の別離を齎そうと牙を剥いて殺到する。


 暴威を奮うクサナギの力。

 それに包まれ、輝いているのはナギだけではなく、竜たちも同じ。

 特化した力は、対象がたとえ無傷だとして、触れればたちどころに魂を砕くのだ。


(せっかく再会できたのよ。そんなの、絶対ごめんよねッ!)


 譲れぬ決意を体に滾らせ、赤き瞳を輝かす。


「『動くなッ!』」

「ジャッ!?」


 下知を受ければ従わずにはおられない。

 睨みつけられた一体が、その本懐を挿げ替えられ、中空に縫い留められる。


 それでもナギは動じない。

 どころかより苛烈に振る舞う。


「たかだか一匹くれてやるッ! さあ、新妻の絶望を引きずり出せッ!」


 それこそ待っていた事態と、控えし残りを解き放つ。


「「「ギジャアアアッ!」」」


 大口を開けて躍り掛かる竜たち。


 ヴァンパイアの『チャーム』は目線を合わせなければ効果を発揮しない。

 心無き影とはいえ、伝説に語られし竜種だ。

 その身動きを封じることに集中している今、迫る複数を縫い留めることも、対することも、本来、不可能である。



――そう、本来ならば。



「『動くなッ!』」


 轟いたのは、闇の姫君の絶対命令。

 響いた直後、暴徒のすべてが彼女にかしずく。


「「「ッ!?」」」


 竜たちはエリザへ飛び掛からんとした態勢のまま、生きた彫像と変えられる。


「ッ!? 知ってるよッ! ヴァンパイアのチャームは、目線を合わせなければ発動しないはずッ!? 不可能のはずッ!? なのにッ!?」


 同じく動けなくなったナギは、全神経を集中して、口だけ動かすことに成功する。

 動揺の隠せない彼女を、エリザは嘲笑う。


「再誕だって果たしたのだ。このくらいのこと、やってみせなきゃ拍子抜けだろう?」


 滾る力は、幸せを後押した想いの塊。

 エリザとクリス、そしてナギの未来を思った者らの献身によるもの。

 だからこそ、通用しないわけがない。

 他ならぬエリザ自身も、殊更と強く願っていればこそ。


「我が身に燃える想いの闇よッ! 下僕と成って蹂躙しなさいッ!」


 叫ぶ身体から闇の力が溢れ出る。

 再誕のオマケに拡張された魔力、加えて充溢する愛により、すこぶる快調な今宵のエリザ。

 妖しき闇は、巨大なコウモリ、オオカミ、イモリとなって無数に増殖し、敵対者へと飛び掛かる。


 出でた闇の軍勢は、数の暴力で邪竜たちに対抗。

 翼で裂き、牙を突き立て、尻尾でぺちぺちする。


 魂無き軍勢だからこそ、クサナギの力を纏った竜たちに触れても壊れない。

 全身に連撃を受け、溜まらず振り払おうとする竜たちだが、『チャーム』にて縫い留められているため、苦痛にたじろぐことすらできない。


「許しを乞うても許すものかよッ! 『デス・ストーカー』ッ!」


 追い打ちと唱えれば、闇の軍勢は、ぐにゃりと変貌。

 やがて巨大なサソリと変わる。

 それらは竜たちの身体を這い回ると、各々がしっくりくるポジションで準備を開始。

 高々と振り上げた尻尾の針を月光に映えさせたかと思うと、その体内へ向け、トドメと極太をぶっ差した。



「「「―――ッ!?」」」



 捻じ込まれる闇に、竜たちが悲鳴を上げんように見えたが、『チャーム』に阻まれそれさえも許されない。

 サソリたちは尻尾の針を伝って竜の体内に何かをドクドクと注送し始める。

 その分量に反比例し、サソリたちの姿は闇の魔力へと戻っていき、そのまま竜の中へと溶けていく。


 そうして姿が完全に消失し、その直後――竜たちが一斉に発火した。


「「「ギジャアアアァッ!?」」」


『デス・ストーカー』。

 対象を闇の炎で包み、トラウマを想起させ、心が壊れるまで回想させ続ける、ヴァンパイアの得意技だ。

 厳しき『チャーム』の戒めに逆らい、断末魔の如き叫びをあげさせるほど、その威力は絶大であった。


 だが、本来それは意志のある存在、つまり、心のある相手にしか通用しないものである。

 心無き影法師である竜たちには効果のないはず。

 

 だのに発揮しているのは、エリザの力が滾っているためという理由が一つ。

 その力を直接体内へ流し込み、効力を増やしたという理由が一つ。

 

 そしてなによりの理由というのは。


「知ってるよ。それらが恐れているものを。死して憎悪に生きた永劫、怖じぬ化生が唯一怖じた、化生よりも化生な残酷ッ! 心無き仮の身体にさえ、染みつき消えぬ戦慄の煉獄ッ!」


 視界一杯に広がる竜たちが悶絶する様に、ナギの脳裏に浮かんだ相手。


 あどけなき幼女の姿を取りながら、それに似つかわしくない属性を孕んだ。

 鬼嫁よりも鬼嫁だった残虐とスパルタでできた存在……ッ!


「殺してッ! いっそ殺してあげてッ!? 死してなお、あんな化け物見せないであげてッ!? 死という永遠の救済を、押し並べてみんなに差し上げてえええぇッ!?」

「狂乱一転、突然の懇願ッ!? そうさせるほどの相手って誰なの……?」


 身動き取れない状態ながらも、憎悪を捨てて頼み込むナギに、エリザは困惑が隠せない。

 その精神状態を案じ、彼女に技をかけなかったのは、果たして正しかったとも思いながら、エリザは腕を虚空に掲げる。


「よく分からないけど、幕引きはこちらも望むことッ!」


 掲げた掌中に闇が収束し、やがて形を成す。


 そこに現れたのは、一振りの剣。

 鋭利で粗削りなそれを手に、エリザは無防備を余儀なくされたナギを目掛ける。


 握ったそれは、ブラッド・アーミーの一人、竜殺しの騎士が手にした得物の一つ。


 竜殺し、即ちドラゴンキラー。


 力の滾る今のエリザだからこそ、秘奥を介すことなく顕現させることのできた業物だ。

 

「その手に握った聖なる邪悪は、竜の力の構成物ッ! なればこそ、竜殺したるこの剣でッ!」


 狙うのは、クサナギ。

 心乱れた隙をつき、精神を苛んで暗部を剥き出しにさせた聖なる魔剣。

 一層の戦闘力向上を齎したそれを手折り、無力化することが、彼女を救うための第一なのだ。


 夜空を翔けて迫ったエリザは、ナギの握る剣を目掛けて、渾身と共に振り下ろす。


「はあああッ!」


 そして相打ち、竜殺しは本領を発揮せんとするのだが――


「ッ!?」


 思わず見開く。

 猛威を振るわんと牙向いた竜殺しは、触れた途端にひび割れ砕け、散り果てる。


「驚愕と、見開く双瞳こそ驚愕」


 未だ封じられた状態の中、ナギは全霊を奮い、『チャーム』を破ろうとしながら言い捨てる。


「知ってるよ。知ってるはずだよ。竜殺しとは竜の素材にて成した得物。竜の力こそ竜殺し。なればこそ、この絶刀もその一つ。どこぞの駄竜如きの力で、災厄の血族をほふろうだとか、思い上がりもいいところ」


 掌中で砕け散るドラゴンキラー。

 エリザの脳裏に、いとけなき絶対王者に圧倒された記憶が蘇る。


「ええ、そうね。あの時も、一振りだけじゃ敵わなかった」


 闇の力を発動。

 その手の内に、何十振りもの剣や槍を表出させる。

 その全てが、竜にて形を成された得物。


 次々現れるそれは、次第に握り切れないほどの量となる。

 最終的に、小さな両腕の中に抱え込む形となる始末。

 

 バランスを崩しそうになりながらも、どうにかエリザは踏ん張った。

 秀でた膂力を誇るヴァンパイアだからこそできた無理筋。


「えっ、あの、なにを」

「ふふんっ。決まっているでしょう? ただの一つじゃ足りなきゃねえ……?」


 ナギがぎょっとする前で、エリザは凶悪な笑顔を浮かべると、


「束ねた無数で、ぶち当たればいいんでしょうがあああッ!」

 

 抱き留めた得物の束を、そのまま一纏めに振り下ろした。


「その当たり方は違和感の極みッ!? そ、そもそも、ちょっと待ってッ!?」


 驚愕の叫びを只中に、しかしてそのままぶち当てる。


 そうして仕掛けられる力業であったのだが、その目論見は成就せず。

 接触する端から、得物たちは崩壊していった。


 そして、それは誰も望まぬ副産物を生み出すこととなる。

 何百振りもの得物が、甲高い音を立てて散り散りと砕けたのだ。


「「ぴいいぃッ!?」」


 直近にて耳朶を震わす破砕音を聞いたエリザとナギは、鼓膜に大ダメージを受けて悶絶する。


「お、愚か者の極みッ! あんな攻撃するからこのざまッ! ヴァンパイアの優れた速度で、次々迫り剣戟乱舞を決めていく方が、見た目的にも優れるはずッ!」

「一本の矢なら折れるけど、三本纏めたら折れないよって逸話が、東方の小説に書いてあったからッ! 一本ずつより、こっちのが強いかなってッ!?」

「それは言葉通りでなく、結束の大事さを意味した話ッ! 知ってるよッ! 時々あなた、アホになることッ!」

「う、うるさいわねッ!?」

「うるさかったのは今の音ッ!」


 真っ赤になって言い合いを始める二人。

 そんな二人を見て、クリスは一人ほくほく顔だ。


「『しってるよッ! くりすおねーたんは、あなたなんかじゃまんぞくできないことだってッ! なぎにカイハツされたがってるってッ!』『そ、そんなことないもんっ! えりざ、がんばるもんっ! はずかしーけど、がんばってがんばるもんっ! だからねーたんとっちゃやらぁっ!』 ……はぁはぁ。脳内で音声を消してアテレコしたら、幼女二人が私を取り合う嬉しき修羅場にっ!?」

「だからどこがとらいあんぐるッ!? 腐った脳みそ引きずり出すわよッ!?」

「鼓膜いらなきゃぶち破るよッ!?」

「はああぁんっ! バイオレンス幼女×つー=いんふぃにてぃーっ!」


 昂った怒りのまま、変態を罵倒するエリザとナギ。

 幼女たちの罵りで身悶えながらも、しかし、クリスはやるときはやる女。


「もっと堪能したいけれども、ここはこらえて切り替えますッ! エリザの稼いだその時間ッ! 決して無駄にはしませんよッ!」


 伴侶が稼いだ時を手に、力を番えた闇の妃。

 既に手中に構成されしは、闇で創られし長大な弓矢。


 そんな彼女を中心に、気付けば夜空満点に煌めくものは、星々などという神秘ではない。


 宙に開かれし無数の扉。

 それより覗くは、首魁を無力と変えんと滾る闇色のやじりたち。

 その一矢一矢は、最大限チャージした『ルミナス』、それと同等程の力を内包する。


「降り注げッ!」


 エリザの退避を確認し、合図と共に、容赦なく射出される妖しき箒星。


「「「ジャャアアァンッ!?」」」


 抵抗することさえ許されず、蹂躙される邪竜たち。

 しかして、トラウマから解放されたが故か、消滅の刹那、一様に歓喜が浮かんでいた。


「元の優しき幼女への、『デイ・ブレイク』ッ!」


 手ずから番えた特段の鏃は、違うことなくナギへ向けて――手にしたクサナギへ放たれる。

 

「そんな戯言ッ!」


 既に狂乱と戻ったナギは、縛を与えた姫の意志に、血を吐きながら反逆する。

 狂気と悲哀の感情で、下知を無理やり引き千切り、殺到する矢を斬り落とす。


 獣と堕ちた今、彼女の奮う剣は、撫で斬り、袈裟斬り、剣術のケの字さえ憤怒と燃やして忘れ果てた、やたらめったらな素人チャンバラ。

 しかして尋常ならざる悲哀と怒気が、それを補い余りある破竹と変えていく。


 矢の豪雨を落とすナギ。

 その間に迫るクリスの想いの一撃。

 遅ればせながらその対処につけたのは、肉薄の直前だったのだが。


「ぐううっぅううっ!?」


 それでもナギは、荒ぶった逆袈裟と振り上げた剣で対抗する。


魂魄こんぱくとは命の輝き。冥府の者のみが観測できる、特殊エネルギーの塊……ッ!」


 ぶつかり合う力と力。

 じりじりと押されながらも、ナギは決して引くことはない。


「壊魂を成すこの剣は、エネルギーを御し、断つ力を持つ……ッ!」


 迫った秘奥たる一撃。

 それさえも、やがて彼女は押し返し始め、



「なればこそ、幼女で妖女などという、不可思議千万の放った、全力だとてええええぇッ!」



 絶叫と共に振り抜く刃は、妖女の秘奥を跡形もなく断ち切り、打ち落とす。


「完全に決まったと思ったのですが、想いに任せた無茶苦茶っぷり。やりますね……」


 奥義を打ち破られた悔しさより、尊敬すら抱きそうになるクリス。

 感嘆を聞きながら、ナギは荒い息をつく。


「そうだよ。知ってるよ、無茶だってこと。体が悲鳴をあげていること。わたしはもう、長くない」


 その体に入ったヒビは徐々に広がり始めており、パラパラと崩れ始めるところさえある始末。

 終わりの刻が近いのか、竜玉による再生機能さえ、まともに働かなくなっているのだろう。


「……ッ!」


 それが先刻の己と重なり、焦燥するエリザ。

 しかしてナギは焦りを見せない。

 最期の時まで憎悪を燃やすと幽鬼の如き立ち姿を続ける。


「……愛が奇跡を起こすこと。知りたかったけど、知りたくなかった。あの子がいなくなったこの世界で、知りたくなんて、決してなかったッ!」


 世の不平等を呪った彼女は、最愛共の必滅を誓う。


「だからこそ、愛の奇跡はこの場で絶やすッ! あの子のために、潰やし絶やすッ! じゃないと、あの子が浮かばれないからッ!」


 獣の如く吠える悲哀が闇夜を濡らす。

 

 振り上げられる悲壮の剣。

 それを目掛けて、集う力。


「あれはッ!?」

「この場にて交わされた、力のうねりですかッ!?」


 彼女の周囲に集まる、尋常ならざるエネルギー。

 それは、この場で砕けた死神の鎌『イガリマ』や、先に潰えたヤマタノオロチの影の力、さらに、エリザたちが振るった莫大な愛の力。


 闇も光も選別せず、残滓のすべてを集め、束ね、見る間にクサナギを中心に渦を巻いていく。

 

「死神と化したこのカラダも、忌々しき邪竜の力も、干戈を交えた宿敵の力も、使える

モノは全て束ねるッ! 全ては、愛を砕き折るためッ!」

「そのように哀しき決意など……ッ!?」

「口など絶対挟ませないッ! 愛を覚えてイロメキ立つ、幸せ塗れなふーふなどッ!」

 

 絶叫と共に、クサナギより同心円状に放たれる力。


「これはッ!?」

「身動きがッ!?」


 身動きを封じられ、驚愕するエリザたち。

 あたかも『チャーム』を放ったがごとく、クサナギとナギの瞳が、爛々《らんらん》と燃え立っていた。


 それに驚く間もなく、彼女たちの傍らに、突如浮き出て締め上げるモノ。

 血で成された聖女のヒトガタが、エリザたちに群がり、二重に身動きを封じていた。

 

「ちょ、ちょっと放しなさいよッ!? 離れなさいよッ!? あああ、なんだか息が荒いんだけどコイツらぁッ!?」

「流石はわたしの影! 自分自身が相手であっても、幼女姿に等しくはぁはぁする性根ッ! そうです、それでこそロリコン淑女ッ!」

「腐り切った性根を称えるなッ!? お前どっちのみかひゃああっ!?」


 感服するクリスと、ヒトガタに耳たぶを甘噛みされ飛び上がるエリザ。

 そんな二人の対応に、ナギはクサナギを掲げたまま、恨みがましく歯噛みする。


「絶命を目前に、いまだ道楽を見せつけて……!」

「うるさいッ! お前がこんなの使うからッ!?」

「いいんですよナギちゃんッ! 存分にわたしを『使って』くださいッ! 幼女に、はぁはぁ『使って』いただけるなんて、ロリコンにとって本望ですッ!」


 泣き気味でツッコむエリザと、どうしてか『使って』の部分を強調する興奮気味のクリス。

 その普段通りのバカふーふっぷりが、ナギの感情に拍車をかける。


「ああもう知らないッ! 末期まで普段通りと楽しみながら、バカげた最期を遂げるがいいッ! 『クサナギ』ッ!」

「ちょッ!? 待ッ!?」

「はあああん〜〜!」


 漏らす驚愕と漏らされる吐息。


 その全ては、自棄気味な必滅の光に呑み込まれる。




***




「……本当に、最期まで……ッ!」


 クサナギを振り抜いた態勢で、ナギは呼吸も荒く吐き捨てる。

 狂気に全振りされた覚悟を前に、最期の最期まで道楽を繰り広げて……。

 

 だが、これで終幕だ。


 狂った心に去来する、確かとは呼び難い達成感と、僅かばかしのナニカの感情。


 釈然としないものを覚えながらも、自身が成した形のない達成の形。

 存在が自壊する前にと、ナギは土煙の晴れた先に、急ぎ目を向けるが――


「……ッ!?」




***




「動揺に、ぱちくり見開くそのおめめ、どんな幼女も、素晴らしきかな」


 見開くナギを視界に捉え、クリスは口角を上げてつぶやいた。


 突き出された片腕の先には、強大に過ぎる秘奥から、最愛を守って見せた、盾の形を成した闇が具現化していた。


「やっぱり先に防いで見せたのは、見間違いなどでは……ッ!?」


 驚愕露わに漏らすエリザ。

 彼女が尋ねたのは、決戦の序盤、心失ったナギから不意をつく『クサナギ』を向けられた時のこと。


「言ったでしょう。この姿は、わたしたちの愛を守るための姿だと。愛する御方を守るため、その為に、愛が奇跡を成すのです」


 闇の妖女の力。

 その真価であり、最大の特徴とは、とある特効を持つことにあった。

 二人の愛を脅かす者より、幸せを『守る』効果を持つこと。

 それは例え、触れれば魂を砕く、絶刀の力でさえ例外ではなかった。


「戯言をッ!」


 聞いてなお、猛り続けるクサナギの光撃。

 しかし、その全てをクリスは優に防いで見せる。


「再誕だって果たしたんです。このくらいしてみせないと、拍子抜けでしょう?」

「ッ!」

「とはいえ、背に庇うは最愛の御方。万が一さえ許されません。だからこそ、今までは迎え撃たず、回避に徹していたのですが」

「最愛最愛とッ! いつまでもいつまでもうるさいんだよッ!」


 感情剥き出しのナギが剣を掲げる。

 途端、周囲に漂っていたエネルギーの残滓が巻き上げられていき、それを剣のみに留まらず、己の身体に纏わせていく。


 莫大なエネルギーの竜巻は、ナギの姿を覆い隠し、急速旋回していく。

 そうして全てを混ぜ込み、合わせ込み、練り込み続け。

 やがてその内より異常なエネルギーを感じたかと思った瞬間、威容が竜巻を消し飛ばす。


 死神の力と邪竜の力、さらには妖女や姫君の力。

 その全てを糧と呑み込んだ、漆黒に染まりし八首の巨竜が顕現する。

 集めた力と術者の憎悪で、影などには収まらぬ、力を伴って現れる。


「『見せつけるなッ! ひけらかすなッ! その無遠慮な撫で愛をををおおッ!』」


 血涙を流しながら、悲鳴と咆哮をあげる。

 同時に八首から放たれる、クリスたちへ向けた一点集中の多重砲撃。


 破壊力の主とされたのは、クサナギの魂を砕く力。

 

 虚無の世界にて、当の災厄よりクリスたちが聞いたことだが、それらが扱った人を呪い灰にする力とは、怨嗟の糧と吸収された血統、ナギの持つ聖剣クサナギの力の応用であった。

 壊魂を成す力は、剣を形と成っていた。

 だからこそ、手の無いヤマタノオロチに奮うことは叶わず、扱えない。

 だから、その力をナギごと吸収し、利用したのだ。


 奪ったその力で、本来は人に限らずすべての存在の魂を絶つことが可能だが、ランクダウンさせ、人のみを殺す力と変えたのは、並々ならぬ人への憎悪による、あえてのものであったとのことだ。


 そして今、ナギが放ったこの砲撃。

 混ぜ込んだエリザとクリスの放った力を肌で感じ、対象をその二人のみと違わず固定。

 そこへ、死神の持つ『送る』力を練り込む。

 それを、壊魂の力に補い、合わせる。



 結果、クリスとエリザのみを、確実に、防御さえさせずに、虚無へと屠り去る一撃となったのだ……ッ!


 

「……ッ!?」


 直撃を受ける。

 途端、愛を守るはずの障壁に、亀裂が入り始める。


「崩せぬはずの、想いの壁を超えていく……ッ!?」

「『知ってるよッ! あなたたちも、わたしも、この場で諸共、消え果てることッ!』」


 守護の想いなど唾棄すべきもの。

 己が憎悪はそのような甘さで凌駕されぬと、見せつけると。

 逃げ出す隙さえ与えぬと、ナギは全方位から必滅の光で迫っていく。


「……くッ!?」


 クリスは盾を球体と変え、どうにか耐え忍ぼうとするが、彼女の想いがそれを阻まんとする。エリザを連れて空間転移する、その一瞬さえ与えてくれない。


「絶対絶対逃がさないッ! ここを死地だとさだめおけえええッ!」


 その最愛は、そもそも始まってなどいなかったのだと。

 始まりと錯覚したこの地で、すべてを終わらせてやるのだと、狂った叫びが響き渡る。


 悲願の成就と歓喜する狂声。


 だが、狂気に塗り潰されたその絶叫。

 高々と響く、負の感情。


(……!)


 その中から、ひどくか細く、でも、確かに、その声は聞こえた気がした。



「ナギ……ちゃんッ!」


 だから、クリスは諦めない。

 歯を食いしばり、未来を見据える。

 

 救いたいと。

 こんな終わりを与えてはいけないと。

 きっと幸せに引きずり込むと。

 そう願うのは、彼女だけではない。



「そうよ、こんなところで終わらせない」


 クリスの傍らで、エリザは凛と立つ。


「絶対に終わらない。エリザも、クリスも。そしてナギも。こんな不幸(ところ)で立ち止まらない」


 この窮地にあって、彼女は決して諦めない。

 未来を信じる心を、伴侶に教えられた夢見ることを、決してやめない。

 その未来を、悲哀に沈む彼女にも伝えるために。


 だから、エリザは手を繋ぐ。重ね合う。


「エリザ……?」


 突然熱く片手の指を絡められ、赤面するクリス。

 力が抜けてしまい、防ぐ壁に亀裂が入る速度が増していく。

 だが、そんなものは些事であると、エリザは振る舞う。


「重なりましょう」

「ッ!?」


 優しく微笑まれ、思わず飛び上がる。

 だが、彼女になら、自分のすべてを託せると。


「重ねましょう。あたしたちの心を。力を。愛を束ねて、幸せな未来を、きっとこの手に」

「……はいっ」


 子細も問わず。

 否、問う必要はなく。


 以心伝心。

 姫と妃は、互いのすべてを預け合う。


「くッ!? 未だブチ抜けないのは何の冗談ッ!?」


 彼女らの雰囲気に気を使ったのか、必滅のはずの猛攻を受けて全体に余すことなく深い亀裂を受けながらも、あり得ないくらい受け止め続ける闇の障壁に、ナギが渋面する。


「想いを……」

「重ねて……」


 ナギの焦燥の声を前に、エリザとクリスは横並びとなる。

 互いに片腕の手のひらを合わせ、掲げる。


 掲げられたクリスの左手。

 掲げられたエリザの右手。


 そこから感じる互いの体温。

 その優しさを、これから先も感じ続けて生きるために。

 その体温を失って、我を忘れる優しい彼女を、絶望のまま終わらせないために。

 

 だから二人は、瞳を閉ざし、未来を願って、希望をうたう。



「切望するは幸福な未来。傍らに立つ最愛と、優しき時を紡ぐこと」

「一人滂沱す優しき遣いを、冥府魔道へ堕とさぬこと」


 思い重ねて唱える言葉。


 二人の身体が闇に包まれる。

 しかしてその闇は、鮮烈な気配を放つものでなく。

 闇でありながら、心の優しさを体現した彼女らに相応しき、柔らかき気配で。



「「ここに重なるこの想いッ! 応えて出でよ、我らが秘奥ッ!」」



 重なりあう旋律のような、柔らかき声。

 そうして、そこに現れたのは――銀色。




「「『フェンリル』ッ!」」




 対峙する巨竜と同等の巨躯。

 月光を受けて美麗に浮かび立つ銀の毛並み。

 凛々しき瞳に決意を宿し、鋭利な歯牙で幸せを勝ち取ると吠えたてる。


 幸福を希求するその獣は、銀色の歯牙で、迫った砲撃を安々と食い破る。


「銀のオオカミ、だとッ!? 闇の化生が銀を纏うかッ!?」


 ヴァンパイアの弱点の一つ、銀。

 悪しき象徴たるオオカミと変じて、その上で纏った二人の異様に、ナギは驚愕を隠せない。


 しかし、そのどこが不可思議であろうか。

 

 オオカミとは悪しき象徴。 

 それは、人によって勝手に貶められたこと。人の想いに歪められたこと。

 それをヴァンパイアたちが逆手にとって畏怖の対象と利用しただけだ。

 本来家族を想う愛の強いその心根は、かの血塗られた大戦以降、同胞を、罪なき民を大切にせんと、種の深くに誓ったヴァンパイアたちが、秘奥とかたどるにも適していた。


 加え、銀とは魔を滅する無垢の象徴。

 確かにヴァンパイアの弱点ではあるが、そこはクリスの力にてエリザに影響が出ないようにカバーしている。

 そも、二人の想いは幸せの希求と無垢に昂っているのである。だからどこに問題があろう。



 致命をもたらす必殺を軽々とかわし、巨爪で切り裂き、肉薄する銀の獣。

 

「「『おおおおおおッ!』」」

「『くッ!?』」


 色々が混ざったヤマタノオロチ。

 ではあるが、その翼は相変わらず巨体に似合わぬミニマムさ。

 攻撃に全てを捧げたが故の王者の肢体。

 言い換えて鈍重な身体では、疾駆する獣の一撃を回避することは叶わない。

 

「『ならば、自ずからッ!』」


 複数の首を隙間なく合わせると、地面へと向けて力を放射。

 その勢いを利用して、巨体を宙高く浮かび上がらせることに成功する。


 いくら秘奥と相成っても、象ったのはたかだかオオカミ。

 地を這う獣が、空舞う竜を落とすことなどできようか。


 辛くも逃れた獣の爪。

 たたらを踏むフェンリルへ、ナギは狙いを定める。


「『このまま直火で丸焼きにッ!』」


 激しい炎の勢いを、そのままぶつけると放射する。


 地を這うフェンリルは、疾走して回避し続けるが、灼熱は勢いを増し、さらに高く、激しく、辺りを取り囲んでいく。


「『異容となろうと無駄なことッ! 知ってるよ、所詮は必滅必敗だってッ!』」


 見計らって時折銀の炎を吐くフェンリルだが、迫る灼熱に後手と回らざるを得ず、ナギには全く命中しない。


 やがて、灼熱の壁に阻まれ、身動きが取れなくなったフェンリル。

 そこが勝機と、ナギは収束させた爆炎を浴びせかける。


「『これで、おしまいッ!』」


 勝利を確信し、狂気を溢れさせる。


 その視線の先。

 灼熱に退路を断たれ、上空より迫る爆炎により、窮地を迎えんとしたフェンリルは――




 跳躍し、爆炎の上に飛び乗った。




「『なッ!?』」


 足を焼かれ、効能にて消滅せんとしながらも、爆炎を橋としてヤマタノオロチへ疾駆する。


「『激痛に頭がおかしくなりそうですけど。それでも足が落ちる前にッ』」

「『想いをしるべと、別の足を進めていけばッ!』」


「「『きっと未来に辿り着くッ!』」」


「『どんな理屈を呈しているのッ!?』」


 すぐさま炎を止め、新たに炎を吐きつける。

 すると今度はそちらへと飛び乗り、迫ってくる。


 体を消しながらも、徐々に迫るフェンリル。

 炎を吐いたり止めたりすることで、どんどん高度を堕とすヤマタノオロチへと、次第に詰め寄っていく。


「『ふざけないでッ! こんな出鱈目、認めないッ!』」


 自らが高度を落とすのも構わず、ナギは攻撃を続けながら叫ぶ。


「『わたしは絶対負けられないのッ! あなたたちだけには負けられないのッ! だって、そんなのッ!』」

「『あの子が救われないと言うのでしょうッ!?』」

「『そうだよッ! あの子はいなくなってしまったッ! あの子のことを救えなかったッ! だから、わたしはッ!』」

「『でもそれがッ! お前を救えない理由になんてならないでしょうがッ!?』」

「『月並みなセリフになりますがッ! あなたが救われないことを、彼女は願っているのでしょうかッ!?』」

「『自分が救われなかったからこそ、きっと、その子は……ッ!』」

「『知ったふうな口をきくなアアアァッ!』」


 喉から血を吐きながら、それでも許せじと絶叫する。


「『知らない癖にッ! 本当の絶望を知らない癖にッ! のうのうと生き返ってきた反則者共にだけは、絶対絶対、言われなくないッ!』」

「『……そうですね』」

「『……そのとおりかもしれないわ』」


 永年転生を繰り返し、地獄を見たことも何度もあった。

 血筋だけで何もできないと塞ぎ込み、城に籠っていた夜もあった。


 だが経験したどんなことより、最愛の存在との別離を迎えたあの時が、なにより深い、真の絶望を心に刻んだ。

 摂理に逆らい、終わらなかった自分たちが、喪った彼女に説く権利などないのだろう。



 だがたとえ、そうだとしても。



「『それでもあたしたちは、お前のことを、諦められないッ!』」

「『そんなの知らないッ! うるさい黙れええええぇッ!』」


 ナギは、救いの手を跳ねのける。

 拒絶をあらわす、ありったけを込め続ける。

 その体がひび割れても、数刻後の魂の消滅に気付いても、それでも彼女は止まらない。


「『わたしのすべてを犠牲にしても、あなたたちには消えてもらうッ! だってこのままじゃ、このままじゃ……ッ!』」






「『わたし自身がやりきれないもんっ!』」






 本音と共に放たれる全力の炎。

 対し、フェンリルから放たれる銀の炎。



 終焉を望む想いと、未来を望む想いが、ぶつかり合う。



「見てられないよっ! 見てたくないよっ! だけど目なんて離せないよっ!? あったかもしれない、わたしとあの子の優しい未来に重なって、胸が詰まって苦しいよっ!?」


 狂気と染まりながらも、一握りにも満たない理性にて、押し留めていた悲嘆の想い。

 それすら隠せなくなるほどに、壊れながらも止まらない。


「わたしも助けてほしかったっ! あの子も助けてほしかったっ! あの子は何にも悪くないのにっ! 普通を望んだだけなのにっ! なのに、どうして許されないのっ!? 小さな幸せさえ、かみさまは許してくれないのっ!?」


 砕ける体で、砕ける心で。

 最期の最期のその時に、少女はようやく本音を晒す。



「助けてよっ! 誰でもいいから助けてよっ!? わたしとあの子を救ってよおおおおおっ!?」



 子供のように泣き腫らしながら、存在を失っていきながら。

 全力の想いを打ち放ちながら、ナギは気付いていた。


 心の底で、感じていた。


 彼女のことを救えなかった。

 彼女を本当の意味で助けられなかった。


 それは、自分に力がなかったからでも、時節が悪かったからでもない。


 あの時、自分が諦めていたからだと。

 必死に尽くしながらも、心の底では無理だと諦めてしまっていたからだと。


 最期の最期まで、手を伸ばすことを諦めなければ。

 彼女たちのように、どれだけ絶望に沈んでも、諦めないことを続ければ。

 頑張り続けることができたなら、その報酬に、奇跡が舞い降りたのかもしれないのに。


 本当に許せないのは、彼女たちではない。

 大好きな彼女を貶めたヤツでもない。


 彼女のために、手を伸ばし続けられなかった、弱い自分の心で。

 他者を信じて助けを求められなかった、自分の弱さで。



 だから、そんな自分が。




「「『だから絶対ッ! 愛の力でええええええええッ!』」」




 諦めないで手を繋ぎ続けた、二人の前に屈することは、きっと必然で。


「……ごめんね。わたしの心が、弱かったから……」


 ヤマタノオロチの身体を砕かれながら、ナギは一人、銀炎の中で涙を零した。

 




狂気=叫ぶことかな?「しんどい。龍●散なめたい」

気苦労の絶えないツッコみ姫「余韻ぶち壊しなメタ発言ッ!? しかも危険が危ないッ!?」

狂「さんざっぱら叫ばされて喉が痛い。死神っぽいバラッドだって歌えそうな、神秘的なウィスパーボイスが台無しになりそう」

気「ああ、あの作品は名作よね……。もしかしてお前の見た目のモデルって……って、だから色々あぶないからねッ!?」

狂「ねえ、知ってるはずだよ? わたしが無口系神秘ロリってこと。その場の盛り上がりを狙って安易にキャラを狂わせるのは、三流の極みもいいところ」

気「いやあの一体誰に抗議してるのッ!? というか、お前の所業にも、それなりの背景があったんじゃッ!?」

狂「覚悟して。これでバッドエンドになんてしようものなら、次元の壁を切り崩して、魂、壊しに行くからね?」

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