知ってるよ
親友の結婚式、その帰り道。
夜の森の中で、エリザたちは突如現れたローブ姿の集団に襲撃されていた。
敵対姿勢を見せる徒党に対し、エリザは不遜な態度で相対する。
「このあたしの命を、ですって? 何者かは知らないが、笑わせてくれるじゃない?」
先までのポンコツな空気一転、エリザは凶悪な夜の王としての姿を披露する。
(……ううん、まだ。まだよ。コイツらは違う。だって、先の炎は……)
一人推測した後、エリザはその正体を言い当てる。
「キサマらも夜の王の端くれだろう? その姫を相手取っているのよ? もう少し飾り立てた言葉で開幕を告げることくらい、できないのかしら?」
「夜の王。やはり、そうなのですか……」
同じく勘付いていたクリスが眉根を寄せた。
敵対を伝える不意を突いた一撃。
先ほど放たれた闇色の炎は、エリザたちヴァンパイアが扱う、対象者の精神を摩耗させる攻撃手段の一つであったのだ。
エリザの追及に対し、最前列に立った一人が進み出る。
「それは失礼をいたしました。ですが、我ら程度の口上で御身に満足して頂こうなどとは、とてもとても。不興を買うことなど目に見えておりましたので」
声の高さから、おそらく少女だろう――リーダーらしき彼女は、気圧されることなく返答した。
「気を遣った風に抜かしているが、何を今更。我が命を貰うなどと口にしておいて、よくもまあ」
不快感露わに言い捨てた後、エリザは殺気をあからさまに放ちながら問い詰める。
「で? そんな忠義者が、どうして姫に牙を剥けるのかしら? 口が利ける内に理由を述べること、許してあげる。我が無聊を託つため、などとは申すなよ?」
ローブを目深に被っているのは、身柄が割れるのを避けるためという点も、もちろんあるだろうが、『チャーム』にかかるのを防ぐという理由が大きいのだろう。
同じヴァンパイア族で、その上位に座する姫の『チャーム』に抵抗できるものなど、数える程度しか存在せず、その逆もまた然りなのである。
一応発動したチャームも、目線が合わず不発に終わる。
リーダーは、真摯な態度でエリザに応じた。
「まさか。先に申したように、我ら程度で姫様をお慰めせ遊ばそうなどとは、恥知らずもいいところ。……そもそも、姫様には」
「……?」
そこで不意に顔を向けられ、クリスは疑問を浮かべる。
だが、すぐにリーダーはエリザへと視線を戻した。
「……僭越ながら。申し上げたところで、姫様には理解していただけませんので」
「……いい度胸じゃない」
「ですが、一言だけ申し上げるならば」
「なによ? 末期の祈りでも捧げるつもり? 神に祈るなんて馬鹿げた真似、あたしたちは――」
「いいえ、そうではなく。ちょっとこれだけは申し上げさせていただきたく」
激しい殺気を放つエリザに対し、彼女はこればかりは譲れないと、低頭気味に、しかして強めに主張した。
先に命を貰う、などと物騒なことを言ってのけたが、どうやら、今いいたいことは態度からして別のことのようである。
「? 言ってみなさいよ」
妙な態度が気になり、警戒しつつもその主張を許してやる。
「はい、ありがとうございます」
リーダーはぺこりと頭を下げた。
この夜の王の圧力を受けながら、それでいてなお、口にしたい言葉とはなんであろうか。
「では、失礼を承知で。すーはー。すーはー」
注視するエリザに対し、彼女は大きく息を吸い込み、一呼吸置いた後、
「あなた様方ッ! 一体いつまでいちゃいちゃいちゃいちゃされ続けるのですか最高ですかッ!?」
虚を突きすぎる投げ掛けを、大音声で叫んできた。
「んなッ!?」
予想だにしない声掛けに動揺するエリザに対し、リーダーは覗く頬を真っ赤にしながら、羞恥に思わず握った拳を胸の前に持ってきて主張を続ける。
「襲撃の機会を窺って張り込むこと幾数日ッ! ずっと、もぉずーっと観させていただいておりましたけどッ!? 毎日毎晩飽きもせず、いちゃいちゃべたべたッ! なにが無聊を託つですか全然退屈してないじゃないですかッ!? ホントいい加減にしてくださいよッ! もう本当に、本当に……ありがとうございますッ!」
「そうよそうよっ! いちゃらぶしすぎー!」
「こーんないちゃいちゃ、前代未聞なのですわあああぁっ!?」
彼女の言葉に同調し、控える者たちもうんうんと激しく首肯する。
みな一様に頬が赤い。
その中の一人が、おどおどしながら財布を取り出す。
「お、お金。お金、払わなきゃ……」
「! あなた天才ッ!?」
ひらめきに、ヴァンパイアたちの間に走る激震。
リーダーは高揚しながら投げ掛ける。
「そ、そうよねッ! こんないいもの、タダで見せてもらうなんて筋が通らないわッ! わらわら集ったら悪いので、あたしのところで一纏めにしてからお渡ししますッ! みんな、ご祝儀包みましょうッ!」
「はいッ! 財布ごとどうぞッ!」
「わたくしもッ!」
「ああもうっ! 財布の中身だけじゃあの尊さに釣り合わないッ! リーダーッ! わたし実家を質に入れてくるので、少し帰ってきていいですかッ!?」
「あ、あなたも天才ッ!?」
「いやバカの集まりでしょうがああああぁッ!?」
遂に堪えきれなくなったエリザが全力のツッコみを打ち放つ。
命を貰うなどと、のたまった刺客たちが、なに人様の営みを盗み見てはぁはぁ盛り上がっているのか。
「ホントになに言ってるわけッ!? そ、そもそもねぇッ!? あたしたちは別に、い、い、いちゃいちゃなんて……!」
「いやぁ、見られちゃってましたぁ? だってこんなに可愛らしいお嫁さんがいるんですもの。そりゃあ毎晩燃え上がってしまうのも無理ないですよぅ。やぁんっ☆」
「いつそんなコトをシた……? 毎日毎晩、飽きもせず、赤の幼女にはぁはぁしていたド変態がぁ……」
「ロリっ子のジェラシーとかなにこれ最高ッ! でも、わたしの首も過去最っ高に締まってます……!」
吸血、触れ合いはしてくれたが、終ぞ一線を越えようとしてこなかったクリスへの怒りが再燃し、思わず頸動脈と気道に集中的にぶつける。
だがどうしてか、そのやりとりを見たヴァンパイアたちは、きゃあきゃあと黄色い声を上げ始める。
「やぁあんっ! 姫さまとお妃さまの生いちゃらぶよぉっ!? 何度見ても幸せそぅっ!」
「ほんとほんとっ! お妃様ったら嬉しそうに痙攣しちゃってっ! 幸せの絶頂に達すると、口から泡吹いちゃうのねっ! わたし知らなかったぁーっ!」
彼女らの感情を総括し、リーダーは赤い頬で興奮気味に主張する。
「ああもうっ! 申した側からさっそく痴話喧嘩ッ!? 羨ましすぎてこっちもきゅんきゅんきちゃうでしょうがッ!? こんな仲睦まじさ、さすがに邪魔なんてできないでしょうがぁッ!? 尊すぎて、いつまで経っても襲撃できなかったんですよッ! キリがないから今宵邪魔させていただきましたけどッ!?」
「どうして出歯ガメに文句言われなきゃなんないのよッ!? というか、痴話喧嘩ちがうわぁッ! 毎度毎度、こいつがあたしを放って他の女に走ろうとするから……!」
激怒するエリザに対し、リーダーはあからさまに肩を落とす。
「分かってないですね、姫様は……」
「はぁッ!? 何よ、その人を小馬鹿にしたようなッ!?」
「不敬を承知で申し上げますけどッ! 姫様、大馬鹿者ですよッ! あなた様のように気高く愛らしく麗しいお方がありながら、浮気するような者がいるはずないでしょうッ!? 彼女のそれは演技ですッ! 二人の愛をさらに燃え上がらせるための演技なのですッ!」
「……は?」
一体、この子は何を言っているのだろう。
妄言に茫然とするエリザの前で、ヴァンパイアたちは盛り上がる。
「そうよそうよー!」
「リーダーちゃん、言っちゃってーっ!」
「ええみなさんっ! 言ってやりますともっ!」
仲間たちの声援を受けたリーダは、節穴としか思えない目をローブの下で輝かせ、持論を展開し始める。
「障害があればあるほど燃え上がるって言うじゃないですかッ!? 彼女は、故意につれない態度をとって、あなた様からの愛をさらに確固たるものにと画策したのですッ!」
「いやん、切なーいっ!」
「なんて悲しーらぶ・とりっくぅーっ!」
合いの手を打つ仲間たちの声に、リーダーの熱弁が燃え上がる。
「あんな幼女好きで体だけが目当てだとか、救いようのないド変態ムーブをとったのも、すべてはそのためッ! 自分がおかしくなっても、あなたが愛してくれるか試してしまったんですッ! そう、愛ゆえにッ!」
「そう、ここで愛ッ!」
「ここでこそ愛ッ!」
高らかに宣言するリーダーに続き、仲間たちも一様に拳を振り上げた。
かと思えば、きゃあきゃあ言いながら手のひらを合わせてハイタッチする彼女たち。
「い、いや、それ違――」
「そうですそんなわけないでしょうッ!」
あまりの圧に押され気味のエリザを遮り、クリスが否定を口にした。
「そ、そうよね? そんなわけ……ん? いや、この場合、声高に否定するのってお前――」
「演技でロリコンなんてするわけないでしょうッ! そんなのイノセントなチャームに失礼でしょうが怒りますよッ!?」
「……」
感情の処理が追い付かないエリザを置いて、言葉を受けたリーダーは恐れ入ったと感極まる。
「クリス様。暴露してしまった点は謝罪しましょう。ですが、企てが露見して尚、激怒しているとしか思えぬ迫真さ。一生に一度の挙式の時でさえ、幼子に心奪われる芝居までされて。その徹頭徹尾の愛の計略。まったく、素直に感服です。それほどまでに、姫様を愛してくださって……!」
「だから演技などで相対しては失礼でしょうがッ!? この心の欲するまま、しゃろりしゃろりとした煌めきに導かれるまま、思いのままにはぁはぁしなければ、真のロリコン淑女足りえないッ!」
幼女好きという自身の根幹を否定する暴言に対し、クリスの声に熱が籠る。
自分がロリコンであるということを憚りもせず、クリスはその至高さを声高に主張する。
「そうッ! 言うなれば、わたしは蝶ッ! 花開いたばかりの――いいえッ! その前の、朝露に濡れる純朴な蕾。小さく幼い香しさに誘われてッ! 熟する前の蠱惑に惑わされッ! 本能のままに羽撃き群がるッ! そんな気高き蝶で――」
「なにが蝶だ蛾と言い直せえええええぇッ!」
「てふてふううううぅッ!?」
敵に向けるはずの拳を思わず味方の腹部へと向ける。
吹き飛んだクリスは高く舞い上がり、頭から地面へとめり込んだ。
突然の仲間割れに、しかし、ヴァンパイアたちは敵対勢力の半減に喜びもせず、ただただきゃあきゃあ幸せを溢れさせる。
「み、みなさん、見ましたっ!? 今のが生のふーふ漫才っ! あまりの尊さに、あたしたちが何度も自宅への退却を余儀なくされた、ふーふ漫才ですよっ!?」
「ええ、分かっていますわ、我らがリーダーっ! 思い返し、限界突破のきゅんきゅんさに、一人枕を抱いて自室でエンドレスローリングしましたものっ!」
「あんな一歩間違えば死に繋がりそうな激しいツッコみができるのも、きっと互いを信頼、いえ、信愛しあっているからこそなのねッ!?」
「そう、ここで愛ッ!」
「ここでこそ愛ッ!」
「あんたたち目が腐ってんじゃないのッ!? いっぺん聖水で丸洗いしてきなさいよそしてそのまま消え失せろおおぉッ!」
娘の妃に発情するネトリネトラレ大好物な女王を初め、すぐに幼女化する姫(屈辱的だが自覚あり)、そして他者の恋に盲目が過ぎ、並みの相手なら命を奪うほどのツッコみを、ふーふ漫才だと言って黄色い声を上げる刺客たち。
いつかの邪竜との死闘の際、付き従う臆病騎士から、ヴァンパイアは残念種族と図鑑に記されていたと聞かされたが、それはあながち間違いではないのかもしれない。
数少ないちゃんとヴァンパイアしている者たち(クリスを袋叩きにしてくれた衛兵たちなど)に悪いと思いつつも、エリザはそう決定付けた。そして落ち込んだ。
だが、それよりなにより、今は恍惚とした態度を見せるヴァンパイアたちに全力でツッコみを続けなければ。
伴侶に磨かされた体質に嫌気が指しながらも、謎の使命感に動かされるまま、エリザはお花畑な刺客たちに全力でツッコみ続ける。
「どいつもこいつも、ホンットいい加減にしなさいよッ!? ほら、思い返してみなさいよッ!? お前たち、いったいここに何しに来たのかッ!? このあたしに盾突くためなんでしょうがッ!? りめんばぁーっ!」
「お、おう、そういえばそうでした……。ご指摘ありがとうございます」
ヴァンパイアたちは我に返り、ペコペコと頭を下げた。
「ずっときゃあきゃあ言って過ごしたいですけれど。それこそあたしたちの悲願ですからね」
「いい? ほら、一回仕切りなおすから。今度は真面目にやるんだからね?」
「あ、少しお待ちください。死闘の前に、尊さ見物料を取り纏めてお渡ししますので」
「それはもういいからッ!」
小さくこぼしたため息をスイッチに、エリザは圧倒的なカリスマオーラを発動する。
「この夜の王に盾突いたのだ。尊厳ある死など、享受できるとは思うなよ? 生きたまま四肢を裂かれ、臓腑を引きずり出され、絶叫しながら絶命するのだ。もはや容姿すら分からなくなった芋虫ほどの肉片は、餓狼の餌と野ざらしに――」
「はぁはぁっ! 久方ぶりのカリスマたっぷりナイトプリンセスなエリザですッ! でもきっと、そのうち大ポカやらかして、通常モードの涙目ロリっ子に戻っちゃうんですッ! ええ、分かっていますともッ! 備え、わたしは期待に満ちた眼差しを向けますともッ!」
「なにが通常ッ!? こっちこそあたしの通常なのよッ!? ほんとお前から仕留めるわよッ!?」
「ああっ!? またまたふーふ漫才ッ!? ちょっと待ってください死闘の幕開けとスイッチ切り替えたところでその不意打ちはヤバいですッ!? あああんっ! きゅんきゅんせずにはいられないいぃぃッ!」
「リーダーッ!? 一人だけずるいですッ!? わたしたちも続きますからぁぁー!」
「ロリっ子姫×薄幸のお妃とか最高よおおぉッ!」
「おい誰よとち狂ったカップリングしやがったのはッ!? どこが薄幸ッ!? 今のコイツのどこが薄幸ッ!? もっと心眼鍛えなさいよッ!? もっと本質見極めなさいよッ!? ううぅッ! どいつもこいつもぉぉッ!?」
「……ハッ!? 姫様がえんえん大泣きしながら、がむしゃらに突っ込んでくるッ!? み、みんな、油断しないでッ!? 今はこんな感じでも、女王の血を引くお方ですからッ!」
「こんな感じとか言うなぁあッ!?」
そうして、緊張感の欠片もない突撃で、ヴァンパイアたちの死闘が幕を開ける。
***
「かはッ!?」
最期に立っていたリーダーが、大木に背をぶつけ、息を吐き出す。
「さ、流石は姫様。こうまで歯が立たぬとは……」
「当然でしょう? そんじょそこらに敗れるようじゃ、お母様の娘は名乗れないわ」
無傷のエリザとクリスの周囲には、戦闘不能となって転がるヴァンパイアたちの姿があった。
ヴァンパイア王族として、力あることを義務付けられるエリザ。
元聖女として永劫の時、人の世の平和のために脅威を屠り続けていたクリス。
彼女らの連携の前では、いかにヴァンパイアたちが徒党を組んでも、手も足もでなかったのだ。
しかも、エリザもクリスもヴァンパイアとしての特殊能力は使用しておらず、徒手空拳の格闘術のみで、複数の刺客を鎮圧したのである。
「な、何の異能も扱わず、複数のヴァンパイアたちを、その身ひとつで」
「これが、愛するもの同士が手を取り合った、いちゃらぶパワー……」
「そ、そう……ここで愛」
「こ、ここでこそ、愛」
「お前らそう言わなきゃ死ぬ病気にでもかかってるワケッ!?」
死に体で声を絞って断定する彼女らを、エリザは真っ赤になって糾弾した。
そんなことは本当にさておき、戦ってみて分かったことがある。
「お前たち、素人ね? 戦い方がてんでなってない。それに、若輩でしょう」
「……そんなところまで分かってしまうのですね」
嘆息と共に、リーダーは素顔を晒した。
「! あなたは……」
月光に晒された顔立ちに、クリスは息を呑む。
そこにいたのは、数日前のデートの際、エリザに話しかけてきた血液屋の売り子であった。
「お久しぶりです、お二方。あの夜はどうも」
愛らしい垂れ目に悲しそうな光を宿し、彼女は言った。
「……なにをしでかしたのか、理解しているのでしょうね?」
「もちろん、存じあげておりますわ」
そっけなく伝えるエリザに、少女は受け止めながら告白する。
「お許しいただくなど、あまりある望み。幾万の罪咎を与えられようと決して許されぬ。そのような所業を、あなた様に成そうとしたのですから」
「どうして、エリザを殺そうだなんて……」
理解できないと、クリスは尋ねる。
エリザの母親、ツェペシュが女王となってからは、民のことを考えた治世、罪を犯したものへの容赦ない制裁などにより、ヴァンパイア界には平和が満ちている。
市井からの忖度ない声を聞くため、色眼鏡抜きで営みを推し量るため、そして思いを汲み後々良い治世者となるため、母の居城から離れて久しいエリザだが、民たちから不満の声を聞いたことはない。
母はおろか、自身に対しての暗殺未遂など、今まで一度たりとも起こらなかった。
ヴァンパイア界から追われるはぐれ者たちでさえ、一枚岩である女王の治世に歯向かうことなどしていない。
王族に挑むことは、すべてのヴァンパイアを敵に回すこと。
統率のとれた怪物たちほど恐ろしいものはない。
そんなもの、ただの自殺行為でしかなく、そもそもソレらは粛正の手から逃げ隠れるので精一杯であるのだ。
で、あるというのにだ。
戦いの最中、エリザは他の者たちの顔も見ていた。
それらはいずれも、城下町に暮らす民たちだった。
この少女と同じく、自身の挙式を心より祝してくれた、愛する民たちだったのだ。
戦いに至る前の過剰なやりとりからも、自身らの結婚を心底から喜んでくれていたのは明らかだった。
そう、だったのだ。
だったのに。
「……」
俯くエリザを慮り、一人警戒を続けるクリスへ、少女は返答する。
「殺そうなどと申しておりません。姫様の命、貰い受けると申したのです」
「そんなの、同じ意味ではないですか」
「いいえ。まったくもって違うのです。――あたしたちが、成そうとしていることは……!」
刹那、意気消沈していた瞳に感情が宿る。
かと思った時には、少女は手を動かし、胸元へと伸ばしていた。
「……!」
だが、悪あがきを計算しないほど、クリスは修羅場を潜ってきてはいない。
即座の内に飛び出して、行動を阻害するのは造作なき事。
「だめですッ!」
「やらせませんのよッ!?」
しかし、倒れ伏していたヴァンパイアたちが、不意を突き決死の特攻を仕掛けてくる。
「ッ!? 邪魔ですッ!」
「グッ!?」
「きゃあぁッ!?」
即座に反応し、あしらうのは容易だった。
だが、その自己犠牲に阻まれ、真に止めるべきだった相手の行動、その完遂を許してしまう。
その事実を理解したのは、視覚情報からではなく、その前に嗅覚に届いた――香り。
「……! あなた、それッ!?」
少女の手の中で開栓された瓶より薫る、覚えのありすぎるその香り。
過去からの刺客に思わず固まるクリスの視線の先で、少女はその謂れを語り始める。
「かつて、聖女と呼ばれた修道女がいたそうです。外道の手に堕ちた修道院に囲われていたとされる彼女、その行方は知れずのところとなってしまいました」
手の内に握られた瓶の中には、月光を受けて妖しく艶めく紅が揺蕩う。
「ですが、その院が解体される際、彼女がいた証拠の一つ、それが裏のルートに乗り、流れ流れて、たった一つ、辿り着いた」
「ご存知ですか? 聖女の生き血と呼ばれる逸品」
そして彼女は、頭を傾け、決意と共にソレをあおり――
「えいっ」
声が、聞こえた。
小さな、声が聞こえた。
この鮮烈な空気に相応しくない、えらく間の抜けた声が響いた。
次に、音が聞こえた。
抜けるように透明で、子気味の良いような。
溜まった負の感情を、綺麗に発散させるような。
直接的に表現するならば、パリンという――瓶が割れるような音が響いた。
「「「「「「「「「「……え?」」」」」」」」」」
敵味方が、目を丸くする。
その視線の先、リーダーの手の中。
彼女は、瓶の飲み口だけを手にしていた。
それから下の部分は、地面へと落下。
粉微塵となって、大自然へと進行形で還っていく。
無論、内容されていた、真っ赤な血液と共に。
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
逸品・聖女の生き血が森の養分へと変わっていくのを、敵味方が、ただ茫然と見守っていた。
「よしっ。これで秘奥は封じたわねっ」
一人エリザだけが、いい笑顔で額の汗を拭っていた。
いい仕事をしたと、にっこにこな笑顔だった。
「……あ、あの、エリザ? い、今、なにを……?」
わなわなと震えるクリスへ、エリザは見て分からなかったかと、淡々と教授する。
「なにって、奥の手を封じたのよ。アイツらがお前に気を取られている間、後ろ手の指先に小さな炎を顕現してね? イモリと変じさせて地を這わせ、次にコウモリと変じさせて一直線。不意を突いて瓶に突撃させたのよ」
エリザは、事が上手く運んだと、とってもご満悦。
小さな胸を目一杯張る。
「ふふん。どうよ? 意気消沈していたと見せかけての見事な手腕。これが本当の不意打ちよ? 覚えておきなさい?」
しかし、驚きもせず、みな一様に茫然とする姿に、エリザは小首を傾げた。
「……あ、あれ? な、なによ? アイツらはいいとして、どうしてお前まで、そんな信じられないものを見るような顔をして――」
「はぁぁぁ……」
「な、なんでよッ!? なんでため息つくのよそこでッ!?」
狼狽えるエリザを捨て置いて、クリスはヴァンパイアたちに頭を下げる。
「すみません。ウチのお嫁さんが空気読めなくて。本当にすみません」
「あ、いえ。ま、まあ、その……。こんな風に奥の手を潰されるなんて、正直、予想してはなかったですけど……はい」
ぎこちない空気が流れる展開に、エリザは声を荒げずにはいられない。
「ちょ、ちょっとッ!? あたしを無視してるんじゃないわよッ!?」
「ほら、エリザも頭下げてください。ごめんなさいって、瞳うるうるしながらロリらしく許しを乞いなさいって」
「なッ!? 馬鹿にしてんじゃないわよッ!?」
真っ赤になるエリザに、クリスはやれやれと首を振る。
「……エリザ。今のはちょっとダメでしょう。ちょっと配慮が足りないでしょう。今のは辛くも生き血を口にした彼女が、無理くり秘奥を発動。それをわたしたちが手を取り合って、信じた民だったはずなのにと、葛藤しながらも退けるという、胸熱、そして涙ちょちょ切れ展開だったでしょう」
「い、いや、でも……」
「いつものあなたらしくもない。相手の強化シーンとか、傲岸不遜に看過して、全力の相手を真っ向から叩き潰すのがあなたのスタイルでしょう? ないですよー。正直、今のはないですよー」
「お、お前だって、阻止しようとしてたじゃないッ!? アレはフリだったワケッ!?」
「もちろん全力です。全力ですけど、そこをこう、自己犠牲のもとに阻止されてしまったこの展開。ならばもう、そこは敵さんに敬意を表してどうぞどうぞの展開じゃないですか? 顔には出しませんでしたけど」
クリスは残念そうに肩を落としてから、ヴァンパイアたちに向き直る。
「本当、ウチの子がすみませんでした。大変恐縮ではございますが、今宵はもうここまでといたしませんか? 仕切り直し、また後日、奇襲していただければと。切り札ももう無いのでしょう? ヴァンパイア的には、このような幕切れ、望むところではないでしょうし」
「そ、それは、そうですね……。じゃあ、その、次は何事もなかったかのように。初対面であるようなリアクションをお互いにするというので、ひとつ」
「承りました。本日は本当に申し訳ありませんでした」
「い、いえ。では、また後日。失礼します」
そうしてお互いに申し訳なさそうに頭をペコペコ下げながら、解散の運びとなっていく。
「なッ!? お前なに言ってるのよッ!? お前たちも、あたしの命を狙っておいて、みすみす逃げおおせるなどとひゃああんっ!?」
「しゃあ、みにゃひゃん! わたひが、みみたびゅはみゅはみゅひて、とめているうひにっ!」
「あにゃっ!? ば、ばかぁっ!? 噛みながらしゃべるにゃあぁっ!?」
息も荒く腰砕けとなるエリザの様子に、ヴァンパイアたちは後ろ髪を引かれる。
「土壇場での耳たぶはむはむプレイ、だとぉッ!? 姫様のあの恥じらいつつも嫌ではなさそうな表情ッ!? 正直、もっと見ていたいですけれど、今は彼女に従うのが賢明かッ!? 動けッ! 動くのよッ! あたしの足いいいぃッ!」
「ああううぅッ! 無念の涙で虹ができるうううぅッ!」
ヴァンパイアたちは、悔しそうに涙を流しながら、夜の森へと消えていった……。
***
「いやぁー。足止めの為の行いでしたのに。耳朶を打つロリっ子の甘い矯正に思わず盛り上がってしまいましたぁ……」
ほくほく顔で満足に浸るクリスの横には、耳たぶや首筋などに複数の吸血跡をつけられ、荒い息で額に拳を当てるエリザが転がっていた。
「ば、ばかぁ……」
嬉しくなかったかと問われれば嘘になる。
だがしかし、時と場合を考えれば、彼女の行いは愚策中の愚策。
色々と整えてから、エリザはクリスを非難する。
「お前。一体何のつもりよ? 襲撃者をみすみす見逃すなんて」
なんの事情があるにせよ、彼女らはエリザを襲撃した。
罪を犯した者には容赦なき罰を。
それが、ヴァンパイア界の掟である。
徒党を組んだとしても、あの程度の実力。
彼女らは巷で引き起こされているヴァンパイア失踪事件の犯人ではないと断言できる。
もちろん、エリザとクリスが強すぎたというのもありはしたが、あのくらいの力で、城に気付かれずに忍び込み、痕跡を残さずに衛兵を勾引かすことなどできるわけがない。
だが、その件に関わっていないとして。
同族の命を、ヴァンパイアの姫の命を貰うと公言した彼女らの罪は重い。
むしろ、失踪事件の加害よりも重いと断じられる。
見逃す訳にはいかないのだ。
「奴らを見逃すこと。それは王家の威信に関わるわ。敵対者に情けをかけたとあっては、盤石が揺らぐことにもなりかねない」
ヴァンパイアの姫として、当然の追及を向ければ、クリスは平伏し、同意した。
「当然の意見だと思います。仰られたことに、なんら不可思議はないと賛同できます」
「ならば、なぜ?」
「すべてはわたしの不徳の致すところ。申し開きはございません。どのような処罰でも、ご随意に」
「勝手に一人で完結するなッ! あたしは理由を問うているのよッ!」
声を荒げれば、クリスは口を開く。
「……ふーふなのですから。分からないわけありません」
「なに?」
「エリザ、あの者らを見逃そうとしていましたね?」
「……ッ!?」
たじろぐエリザに、クリスは柔らかな言葉づかいで真実を口にする。
「王家に牙を剥くなんて、いかなる理由があろうとも許されない。罪には罰を。女王様の敷いた法、たとえ姫であっても例外はない。則り、王族として処断せずにはいられない」
黙すエリザに、クリスは推論した真実を重ねていく。
「ですが、彼女らが口にしていた姫君への敬愛は、偽りだったと思えない。やむにやまれぬ事情があったのでしょう。命を賭けてでも達したい願いが」
実際、それだけの決意が、彼女らの瞳には燃えていた。
「しかし、それでも所業は重罪。命を以てして償えなぬ愚行。情状酌量の余地はない。本来は、そう断じなければならないのです。だけど、お優しいあなたは、彼女たちの命を奪いたくなかった」
彼女に救われたからこそ、自分は理解していると。
クリスは、実感を抱きながら口にする。
「らしからぬ不意打ち。あれも、彼女らを救うためだったのでしょう? 聖女の生き血なんて代物、力なき者にとっては、劇薬でしかありませんもの」
「そ、そんなこと……」
「いいえ」
否定を叫ぼうとするエリザの言葉を、強く遮る。
そして、温かな思いと共に、笑顔を零す。
「そんなあなただからこそ、きっとわたしは心惹かれたのです。そんなあなただからこそ、わたしはずっとお側にいたい。……そう、ずっと思っているのです」
「……」
心からの慕情に、感極まる。
知らず涙が零れようとするのを、必死で押し隠した。
「……なーんて、偉そうに語ってしまいましたが。これはわたしのただの妄想。ふーふだって、違った他人。すべて分かりあうことなんてできないもんっ! ……と、ロリっ子ふーふのムフフな本にも書いてありましたし」
「……ばか」
そこまで察して、代わりに罪を背負おうとして。
エリザに傷がつかないように、すべてを自分の愚かさだと言い張って。
また、誰かのために、自分の身を犠牲にしようとする。
「……お前はもう、聖女なんかじゃないのよ? 献身も、自己犠牲も、もうしないでいいの。もっと、自分を大事にしてよ……?」
胸に顔を埋め、か細く伝えるエリザを、クリスは愛しそうに包み込む。
「ご心配おかけして申し訳ありません。だけど、これは違うんです。そんな誰にだって施せる思いなんかじゃありません。あなたにだけ、ずっと捧げたいと、切に歌えるあたたかさ。この感情は、きっと――」
***
夜の森の中を、血液屋の少女は歩いていた。
空を駆けることができないほど、負傷した体を引きずり、茂みを分け入る。
奇襲は失敗。
ギャグっぽい感じの締めくくりではあったが、それは事実であった。
しかし、本来ならば、その時点で自身らは命尽きていたはず。
いや。たとえ、達していたとしても――
「……だのに、いまだ生きながらえているのは、情けを掛けられたことより他はないのです」
いくら甘噛みされたからって、王家に連なる姫として、刺客を見逃すことはありえない。
振り解き、脱兎の背中を貫くことなんて、容易だったはずなのに。
今になって思えば、あの時、妃だけでなく、姫もその芝居に乗っていたと容易に推測できた。
聖女の生き血を飲み干し、本来自身の力では発動すらできない禁忌の獣を纏おうとしたことを阻止してきたのも、この体を案じてくれてのものだったのだろう。
「……そうだ。そんなにお優しいお方であるからこそ、あたしたちは――」
その命を――ために――
「……ん?」
決意を固めながら歩いていた彼女であったが、それに気付き、ふと足を止める。
嗅覚に神経を集中させる。
そうして感じたのは、鼻孔をくすぐるあの香り。
「……なぜ?」
不思議に思いつつも、感じるままに、彼女は足を伸ばす。
可能性は正直ゼロだとしか思えないのだが、しかし、確かに感じたこの香りは、明らかに、紛れもないものであった。
茂みを分け入り進んでいくと、耳朶を打つのは小さなせせらぎ。
その音はどんどんと大きくなっていき、やがて、視界が開けていく。
茂みを抜けた先。
そこは、森に住まう者たちにとっての憩いの場であり、命を繋ぐ場所。
清水を湛える小川の淵へと辿り着いた。
しかし、彼女が嗅ぎ取ったのは、清らかな水の匂いとは真逆のモノ。
川のほとり、そこに飛び散ったソレを視認し、彼女は疑問を覚えずにはいられない。
「……一体、どうしてここに?」
状況を引っ繰り返せるかもしれない唯一に再度出会えたこと。
そして、不可逆となったあの時と違い、今眼下に散らばるコレは、小川の淵に広がる小石たち、その窪みに奇跡的に溜まっており、利用できそうだ。
存在しないはずの切り札との邂逅に、疑問は拭えない。
だが、それでもこれは、降って湧いた僥倖に変わりはない。
疑問を置いて、彼女は仲間たちへ奇跡を伝える。
「みんなッ! やったわよッ! 万策尽きたと思っていたけど、ここに一万と一つ目の手立てが――」
そうして、喜びを振り撒いた時。
彼女は、ようやく気付く。
みんな、いなくなっていることに。
「……? みんな?」
仲間たちの姿がない。
深手を負いながらも、生命には支障のない、手加減されていたとしか思えぬ絶妙な傷。
先ほどまで支えあって歩み続けていたはずだったのに。
その姿は、なくなっていた。
ありえないはずの切り札に気付き、逃走に臨んでいた向きを変えた。
だが、気持ちが逸ったにしても、自身も仲間と同じく瀕死に近い状態。
足並みはそんなに変わらないはず。引き離すほどの滾りは残っていない。
なのに、なぜ。
「……!」
ヴァンパイアが夜を恐れるなど、あってはならないこと。
しかし、まるで闇に呑まれてしまったとしか思えない急なことに、彼女は周囲に広がる夜闇に、恐怖を覚えずにはいられなかった。
「……ど、どこ? みんな、どこへ行ったの?」
不安に駆られながら、声を上げる。
「姿を消すことなど、あたしたちには許されないでしょうッ!? 冗談も道楽も、今は要らないッ! さっき思う存分堪能したでしょッ!?」
真っ青になりながら、叫び続ける。
そうして彼女は動揺しながら……冷静な部分で、判断していた。
遂に、自分たちの番が来た、と。
共同体と腹を括った者たちは、かつて、もっといた。
その真実を知り、決死を誓い。
秘密裏に集会を重ねるうちに、その規模は続々と増していたのだ。
だが、何の前触れもなく、行方を晦ます者が現れた。
身命賭して、相対すると誓ったのに。
たった一つを命と定め、なりふり構わず、それ以外すべて捨てると誓ったのに。
臆病風に吹かれたとは、とても思えない。
昨日まで、一気呵成に歌っていた者が、翌日には忽然と姿を消していた。
志も半ば、命を燃やし尽くせもせず、相対すらできぬまま。
幼い容姿ながら衛兵として勤務する実力者すら、闇へと溶けていた。
そのような惨状で不安に襲われる中、姫エリザと妃クリスの睦み合いは唯一の癒し。
いつまでも堪能していたい。邪魔なんてとてもできない尊さだった。
だが、共に語り合った仲間たちは徐々に数を減らし続けた。
彼女らが真に結ばれる姿を見るまで消えないわと息巻いていたレオンハルト(職業:百合専門の花屋。心は乙女の反抗グループ黒一点。百合紳士)さえも消えた。
それが引き金となり、今宵の襲撃は決行されたのである。
だが、それは決して許せない。
何かから糾弾されるかのように、とうとう、自分一人を残して、みな、消えてしまった。
いいや、それは語弊がある。
正体不明。
得体のしれないナニカ。
その手にかかり、今から自分も消えてしまうのだから。
「……ぅッ!?」
血管の中を虫が這い回っているようなざわざわとした恐怖に、思わず嘔気を覚える。
一人になった恐怖。
そして、なによりも、望みが果たせなくなるかもしれないという、絶望。
彼女は金切り声を上げて発狂する。
「ふざけるなッ! ふざけるなふざけるなふざけないでよッ!? こんなところで行方知れずとか、ありえないでしょうッ!? 全滅なんて、おかしいでしょうッ!? ねえ、なんのためなのッ!? 思い出してよッ!? この命を捨ててもと誓ったのは、あの方のためでッ!? そのために、あたしたちは、すべてを投げ打って――」
「知ってるよ。でも、それは邪魔」
「…………え?」
突如聞こえる声。
微かで、しかし嫌に耳に残る透明感。
反射的に振り返った彼女が目にしたのは――白。
「だから――――消えて?」
最期に耳朶を打ったのは、何の感情もない、無慈悲な言葉。
……一人の少女の存在も、決意も悲壮もなにもかも。
跡形もなく、帳に溶けた。
姫LOVE売り子「えッ!? 嘘ッ!? あたしの出番ここで終了ッ!? まともなバトルシーンだって描いてもらっていないのにッ!?」
電圧さん「まあまあ、いいじゃねえか。モブAとして終わらなかっただけ儲けもんだぜ?」
豚女「そうですよ。メインモブ級の輝き、十分放っていましたし。ほら、アメちゃんあげましょう」
姫LOVE売り子「え、誰、あなたたち……?」
電圧さん「通りすがりの――」
豚女「犯罪者ですが?」
姫LOVE売り子「そんな通りすがりイヤすぎるッ!?」
電圧さん「固いこと言うなよな? あとがきのような謎空間なんだし」
豚女「そうですよ。きっと神もお許しくださいます。いないもの同士、仲良くいたしましょう?」
姫LOVE売り子「そ、そうかしら……? ……って、え? 今、なんて?」
電圧さん「そりゃ、アレだけ悪事を働いたんだ、厳罰に処されても当然ってヤツだぜ?」
豚女「あの頃、私も若かった……。教皇だなんだと、生きっていた頃が懐かしい……」
姫LOVE売り子「……え? 今、不穏なルビ振りが……。って嘘、あたし死んだのッ!?」
電圧さん「そりゃまあ当然じゃね? 罪には罰をってのが、オタクらの統治でも常識なんだろ? 報いを受けなきゃおかしいってモンよ?」
姫LOVE売り子「で、でもッ!? 末路は明言されていないでしょうッ!? ワンチャンッ! ワンチャンないですかねッ!?」
豚女「アッハハー。おかしなことを言う娘さんですねえ。そんなあなたにいいことを教えてあげましょう」
姫LOVE売り子「……な、なんだかイヤな予感しかしないんですけれどッ!?」
電圧さん「作者が盲目的に愛する某絶唱アニメ」
豚女「そのコメント欄でよく流れるのが――」
電圧さん&豚女「「モブに厳しい」」
姫LOVE売り子「ッ!? いやああぁッ!?」




