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Lily×Monster ~モンスター娘と百合コメです!~  作者: 白猫くじら
続・ロリっ子ヴァンパイア×薄幸の(元)修道女
46/58

……ロリおね、さいっこうっ


 闇の中、ソレらはそこへ引きずり出された。

 身体の自由を奪われて、無造作に床へ転がされる。


「ふむ。ご苦労であった。下がるがよい」


 連行してきた者たちが、一糸乱れぬ礼の後、その場を跡とする。

 狩人たちの遠ざかる足音に、ソレらは悔しさに歯噛みした。



 あれらの邪魔立てがなかったならば、今頃、我らの目論見は――


 

 そこに、突如響く重低音。

 

 息を呑む。

 眼前、髪の毛一本にも満たない位置の床が、力任せに砕かれていた。



「余を前に思索に耽るか? 咎めはせぬが、命果てても非難はするなよ?」



 興味なさげに放たれる声に、理解する。

 命を奪うことなどなんとも思っていない、その冷酷さを。


「……いや、語弊があったな。まずは詫びてやろう」


 声を失う者らに対し、ソレは異例の謝罪をちらつかす。

 

「どのような所作を見せようと結末は変わらぬ。キサマたちは、余が手ずから闇へと還してやるのだからな?」


 だが、口にしたのは謝罪などではなく、処断。


 伺い知れぬ奈落の底から、突如伸びてくる化け物の手のように。

 前触れなく、命を絶つと宣言した。


『彼女』がそう決めたのなら、未来はもう変わらない。

 口にしたこと、それ即ち確定事項なのだ。



 今、ソレらの命運は、唾棄すべきと捨てられた。



 場に満ちる沈黙。

『彼女』は愉悦を漏らして追い打ちをかける。


「うむ? どうした? この余、直々の謝罪、加えての沙汰の知らせ。身に余る栄誉に感涙にむせばぬとはなにごとか?」


 やがて、声は秘めていた怒りを露わとする。


「……キサマらの罪状、子細把握している。なればこそ、予想だにせぬとは言わせぬぞ? 余の宝に手を出そうなどと、愚かしくも画策していたそうではないか。五体引き裂かれるくらいは、覚悟の上よな?」


 身を貫くは、未知なる殺気。

 それだけで命が砕けそうになっているのは錯覚などではない。


 次元が違い過ぎる者からの、圧倒的なプレッシャー。

 潰されそうになるのは当然のことだった。



 ……だが、そうされるのが、普通だとしても。

 その普通を認めるわけにはいかなかった。



 停止しそうになる心臓に喝を入れ、ソレらは睥睨する者の目をにらみ返す。



 命果てるのは元より承知。

 そのうえで、譲れぬ思いがこちらにはあるのだ。



 その不敬に、『彼女』は面白そうに口元を歪める。


「ほう? なにやら言いたそうな目をしているではないか? よいぞ、余は寛大よ。思い残しくらいは聞いてやろうぞ?」



***



 麗しい夜空の下、街の中には活気が満ちていた。

 軒を連ねる店から通りかかる買い物客たちへ、威勢のいい声が響いていく。


「さあさ、どうぞいらしてくださいな! 今宵も美しき月の如く、流麗な衣装に装飾品、たくさんご用意させていただいてますわっ!」

「なにをなにをっ! 綺麗なアクセサリーもいいけれど、まずはお腹を満たさなくては! 瑞々しく甘美な果物、夜長のお供にいかがでしょう!」


 客引きの声に、買い物客たちは足を止め、嬉々とした顔で品々に見入っている。


 他の店に負けじと、その客引きの少女も元気一杯に声を上げた。


「みなさま、いらっしゃいませー! 夜の王たるあたしたち! なればこそ、所以たるコレを呑まずには過ごせませんっ! 夜闇に紛れ、仕入れた生き血! さあさどうぞ、ご一献! お立ちよりくださーい!」


 ぽわっとした垂れ目に似合わない、熱の入った口上。

 何を隠そう今こそ稼ぎ時、そうなるのも仕方ない。


 彼女の声に惹かれる様に、客たちは次々と店の中へと入っていく。

 それに充足感を覚える間もなく、彼女は元気に客引きを続けた。


「いらっしゃいませー! 本日も特別ご奉仕ー! 幸せムードに浮かされるまま、赤字覚悟の特別ご奉仕ですよー! 試飲だけでも大歓迎でーす!」

「ふぅん。オマエ、えらく気合が入っているじゃない?」


 そこで声がかけられる。


 視線を向ければ、そこには年端もいかない少女が立っていた。

 他の客たちと同様に気品漂う身なりをした幼子は、目深に帽子を被り、髪をしまい込んでいた。

 その傍らには、保護者らしき金髪の少女が立っている。こちらも同じように、目深に帽子を被っていた。姉妹だろうか。


 客引きの少女は屈みこみ、幼子と目線を合わせる。


「ええ! 何を隠そう、偉大なる女王ツェペシュ様、その一人娘エリザ様がご成婚なされたんですもの! お祝いセール、しない訳にはいかないでしょ?」

「……ふ、ふぅん。そうなのね」


 幼子はなぜか顔を赤らめてそっぽを向いた。

 そんな彼女を、金髪の少女は微笑ましげに見守っている。


「輪をかけて、みんな活気づいているわよ!? あたしたちヴァンパイア族のお姫様がお幸せな姿を見せてくださったんだもの! 花嫁姿、とっても愛らしかったわ!」


 少女は客引きの仕事も忘れて、頬に手を当て幸せそうである。


「……あ、ありがと」

「え?」

「な、なんでもないわよ!」

「? そうですか?」


 客引きは小首を傾げた後、思い出したかのように仕事に戻る。


「っと、いけないいけない。お仕事しなくちゃ。お嬢様方もいかがでしょう? 引っ込み思案な慎ましい系から、悪戯好きのやんちゃ系まで、様々な乙女の生き血、揃っていますよ? ああ、もちろん違法なものではありません! 女王様の敷いた法を遵守して、相手は殺さず、惑わした間に注射器にて命に関わらない量だけを抜き取っていますので――」

「悪いけど、遠慮しとくわ」

「まあまあ、そう仰らずに。今なら特別価格でご奉仕を」

「申し訳ありませんが」


 そこで少女の前に、金髪の少女が歩み出る。

 たおやかな笑みを湛えた彼女は、流れるような動作で幼子へと手をまわした。


「わたしたち、愛する者の生き血しか口にせぬと誓っていますので」

「!?」


 妖艶に言い切る彼女に、客引きの少女は息を呑んだ。


「んなっ!?」


 抱かれた幼子は、茹で上がったように赤面している。


 その所作が示すところは、つまり――


「え、えっと、それはその、お邪魔しました……」


 赤面し、目線を落とす少女に、金髪少女は平静な様子で返答する。


「いえいえ。こちらこそお仕事のお邪魔を」

「ほ、ほんとよバカッ! 何言ってんのよッ!? 営業妨害甚だしいッ!」

「あの、初めに足を止めたのはエリザでは――」

「ちょッ!?」


 名前を口にした瞬間、幼子が息を呑んだ。

 対し、少女も失言だったと口に手を当てる。


「エ、エリザ……?」


 客引きの少女は名前を復唱し、硬直する。


 聞き知ったその名。

 それは、近頃自身の胸を幸福感で一杯にさせて下さった、この国の姫の名で……。


「そ、そういえば、面差しがよく似てる……。まさか、本当に……」

「ほ、ほらバカ! さっさと行くわよ!」

「は、はい!」


 そうして走り出す彼女たち。

 その勢いで、幼子の被っていた帽子が落ち、上着にしまっていた長髪が夜風の下に晒された。


 夜闇に映える滑らかな髪は、王族の血統のみが持つ、蠱惑的に煌めく銀髪で――


「邪魔したわね! せいぜい頑張って稼ぎなさい!」

「失礼いたしましたー!」

「う、嘘……。こんなところで……」


 突然の相対に言葉を無くす少女を置いて、姫と妃は、夜の喧騒の中へと消えて行った。



***



 ヴァンパイアの民たちの活気づく声を遠くに。

 公園の茂みに隠れたエリザは、怪訝そうな顔をしていた。


「まったく、余計な力を使ったわ」

「申し訳ありません」


 傍らのクリスが、失態に頭を下げる。


「平静を保ってはいましたが、動揺していたみたいです」

「ふ、ふん。……別にそこは謝らなくても」


 それだけエリザのことでドキドキしてくれたというわけなのだろうし。

 

「はい?」

「う、うるさいっ! なんでもないわよっ!」


 察しないクリスと、なかなか素直になれない自分に呆れながら、エリザは赤面しそっぽを向いた。


「ですけど、こういうのも悪くはないでしょう?」

「……まあ、ね」


 微笑むクリスに、エリザは小さく肯定を口にした。


「うん。良かったです」


 クリスはただただ嬉しそうにしていた。



 今宵、クリスはエリザに何度目かのデートを持ち掛けた。

 その場所は、人間たちには秘匿されている街。

 ヴァンパイアの女王の城、その城下町であった。


 そして、それはただのデートではない。


 一族の姫、そしてその伴侶。

 正体を隠してのデート。


 お忍びデートである。


 結婚初夜の不始末へのお詫び、そして、幼女ヴァンパイアファッションショーを披露して頂いたことへの絶大なる感謝を込めてクリスが企画したのだ。


「ただのエリザとして街を練り歩いてみるのも、新鮮で楽しいかなって思ったんです」

「そうね。肩肘張らない民の姿が見られたのは、悪くなかったわ」


 今日はエリザの婚礼のお祝いムードが続いていることもあって、普段とは多少違うかもしれないが、民たちは幸せそうであった。

 また平時に(・・・)正体を隠してくるのもいいかもしれない。

 そうしてなんの気兼ねもなく、デートにのみ集中してみたいものである。


「この街、素敵ですよね」


 クリスは、街の喧騒へ目を向けながらつぶやく。


「こう言ってしまっては、怒られてしまうかもしれませんが……。ヴァンパイアの街も、人間の街と同じくらい素敵です。活気にあふれて、みなさんいい方ばかりで」

「……そうね」

「ヴァンパイアは成長が遅い分、ロリっ子さんが多いですし……ぐへへ」

「……怒るわよ?」

「じょ、冗談ですよ! 冗談!」


 怒りの籠った視線に、すぐさまクリスは訂正する。

 だが、その訂正を、クリスはさらに訂正する。


「……いえ。他の何をおいても、ロリっ子の発する無垢なる蠱惑が偽りなどと、申す訳には参りません! エリザッ! 憤怒してもらって構いませんッ! たとえこの身が果てようと、この命が尽きようと、わたしは謳い続けますッ! ろりめく魅力を、永遠にッ!」

「…………うっわ」

「ああ!? 怒る気力もなくなるほどあきれ果ててッ!? その蔑み切ったろりめく瞳も、チャーミングぅぅッ!」

「やかましいッ! それにろりめくってそういう意味じゃないって言わなかったかしらッ!? というかつまり何が言いたいのよッ!? ろりろり言いたいだけならあたしもう行くからッ!」


 長文で捲し立て、街中へ戻ろうとするエリザに、クリスはなんとか追いすがる。


「お、お待ちくださいッ! 確かにろりろりは言いたいですけど、それだけじゃないのですッ!」

「言いたいのね、やっぱりッ!?」


 エリザをどうにか押しとどめた後、クリスは息を整えてから口にする。


「だからこそ、守りたいと思います」

「……」


 真剣な顔つきでつぶやいたクリスに、エリザは黙し、同意を示す。



 今、この街では事件が起こっていた。



 幸せなムードが溢れかえり、民たちが笑顔を浮かべて歓喜に包まれる中で。

 人知れず、魔の手にかかる者たちがいた。




 失踪事件。




 それが起こっていると知らされたのは、母ツェペシュの口からであった。




 ***




「行方不明、ですって……?」


 屈辱のマイクロビキニなエリザちゃん事件の夜。


 夜風に素肌を晒したことで、お腹が痛くなったエリザが、明け方ごろに涙目で居城へ戻り、その姿を今さら直視し興奮し始めたクリスへと、色々が籠った制裁を加え、黙らせた後。


 母の口から聞かされた予想外の言葉に、エリザは全てを忘れて目を丸くせずにはいられなかった。


「ええ、そうなの。お祝いの席の前後だったから、伝えるのもどうかなって思ったのだけれど。やっぱり、耳に入れておくべきだと思って……」


 母ツェペシュは、深刻そうな顔をして告げた。


「ここ数日、城下で忽然と姿を消す者たちがいるらしいの。だから、遠方に暮らしているとはいえ、エリザちゃんたちにも気を付けてほしくって。城下の者たちにも、不要不急の白昼の外出は避けるよう、触れを出しているわ」

「……」

「あ、あれ? どうしたのエリザちゃん? 顔色悪いわよ?」


 ツェペシュの心配の声も聞こえず、真っ青になったエリザは、ふらふらした足取りで、床で幸せそうな顔でボロ雑巾になっているクリスに近寄る。


「このばかああぁあッ!」

「この嘆きの声は愛しのマイロリプリンセスッ!? おはようございまぐへえぇッ!?」


 悲痛の叫びに一瞬で覚醒したクリスが、その刹那、時間差で飛んできた悲しみの拳に打ち据えられ、先日修理したばかりの窓を突き破り、崖下の森の中へと落下する。


 三度地面にクレーターを作るクリス。

 エリザは痙攣する彼女の身体など考慮せず、すぐさま飛びつき、馬乗りになって肩を激しく揺らし始めた。その瞳は涙目であった。


「いつかやると思ってたわよっ!? いつか罪を犯すって思ってたわよっ! でも、あたし、心の奥底ではお前のこと、信じてたのに……ばかぁっ!」

「あの流れが分からないんですがッ!? わたしいったいなにかしぐぼぇえッ!?」


 頑強なヴァンパイアでなければ首が360度回転しているほどの右ストレート。

 クリスが目を回しているのも構わず、エリザは真っ青な顔で涙し続ける。


「とぼけるのもいい加減にしなさいっ! さあ白状しなさいっ! 勾引かどわかした幼女たちを、いったいどこに隠したのッ!? どこに監禁しているのッ!? 」


 悪い方悪い方へと想像は膨らみ、エリザの顔から血の気が引いていく。


「ああ、でももう手遅れよ。ロリっ子ロリっ子声が枯れても叫び続けるこいつのことよ……? 命は奪っていないにしても、きっともう、キズモノに……。あああッ!? あ、あたし、どうすればッ!? どう償えばいいのッ!? どれだけ覚悟を持って踏み込んでも、彼女たちに、両親に、顔向けなんてできないッ!?」


 半狂乱で頭を振るエリザの下に、慌てたツェペシュが飛び込んでくる。


「お、落ち着いてエリザちゃんッ!? その子は犯人じゃないからッ!」

「そんなわけないじゃないッ!? 幼女が行方不明なんでしょッ!? なら変態性欲をもったコイツが、きっと――」

「幼女だけじゃないからッ! 年齢層幅広いからッ! 大人の女性も失踪しているからッ!」

「……そうなの?」


 きょとんとするエリザ。

 その瞳をじっと見つめ、ツェペシュは荒い呼吸でうなずいた。


「そ、そうなの。だから落ち着いて? 姫が冤罪なんて、作っちゃダメ……」

「そ、そっか……」


 エリザは涙を拭き、ふぅと息をつく。

 そして落ち着くと、ふとお尻の下に柔らかい感触が。


「ん?」


 目線を落とせば、そこには幸せそうな顔でボロ雑巾化する、クリスの姿が。


「! ご、ごめんッ! ごめんなさいッ!? だ、だだ大丈夫ッ!?」


 自身の早とちりの結果、引き起こされた惨状に気づき、エリザは慌てて解放する。


「う、うふふ。問題ない、ですよ。これもすべて、日頃の行い、自業自得。なにより、涙目で息の荒いロリっ子が、わたしの下腹部に馬乗りになって上下運動してくれたんですよ……? こんな奇跡、理不尽な暴力を頂いたって、お釣りがくるくらいで……ごふっ!?」

「久方ぶりの吐血ッ!? ごめんなさいッ! 本当に、ごめんなさいーッ!?」



 ***



 傷ついたクリスを介抱し、どうにか一命を取り留めさせた後。


 誘拐犯の疑いをかけてしまい、プライドも捨てて平身低頭で謝罪するエリザに対し、

「幼女とはろりめく翼で無邪気に自由にろりろりしているからこそ素晴らしいのですッ! 無垢な風切り羽を手折り、鎖につないで籠に入れるなど、ロリコン淑女として許せませんッ! ……あ、ですが、光を失った瞳で、明日に絶望する堕ち切った幼女というのも、ありかないかで言えば、まあ、ありだとささやく邪なわたしも――」

 などなど長々語って聞かせてくれて、しかし、冤罪未遂を作った手前、制裁できずにやきもきした一件の後。


 ツェペシュから再度失踪事件について説明されたエリザは、疑問点を口にした。


「お母様、そもそも、それは本当に事件なの? 治世に嫌気の差した愚か者どもが、愚行の末に『はぐれ』へと堕ちたという訳ではないのですか?」


 母の言葉にエリザは疑問を隠せなかった。


 ヴァンパイアは凶悪な闇の存在。

 エリザたち王族や城の衛兵など、常日頃から有事に備え戦闘訓練を積んでいる者はおろか、城下に暮らす民たちだって、凶悪な力を有している。

 しかも、それが一所、女王の下で結束して暮らしているのである。

 他者から簡単に、それも立て続けに害されるなど、考え難いのだ。


 そう考えての疑問であったのだが、ツェペシュは首を振る。


「いいえ。衛兵たちに調べさせているのだけれど、姿を消した者たちは、わたくしの治世に不満なんて抱いていなかったとのことなの。どころか、熱狂的に崇拝していた者も多かったらしくて」

「でも、その……」

「その心中までは分かりません。面従腹背の徒であったのかもしれないですし」


 口にするのを躊躇った意見を、察したクリスが引き継いでくれ、エリザは感謝を覚えた。

 愛する民を疑いたくはないが、そちらの方が現実的であるのだ。

 

「ええ、そうね。無きにしも非ずだわ」


 言葉では賛同しながら、ツェペシュの口調には含むところがあった。

 察したエリザが二の句を待っていると、ツェペシュは一度躊躇う様子を見せながらも、観念するように口を開いた。


「……あのね。これはまだ、内密のことなのだけれど」

「なに?」



「衛兵の中からも、なの」



「!」

「昨日、いたでしょう? クリスちゃん。あなたを不本意ながら喜ばせた小柄な衛兵が。彼女も、今朝姿を消していたの」

「そんなッ!?」


 先日、クリスがツェペシュと不貞を働こうとした後、エリザに加え、衛兵たちからも袋叩きにあっていた。

 その中に、小柄な童顔の者がいたが、その彼女もいなくなったという。


 あんな形ではあったが、直接出会った者が失踪したと聞かされ、エリザもクリスも衝撃が隠せない。

 それに、彼女の立場も衝撃を大きくする要因の一つだった。


「共に寝起きしていた者らも、誰も前兆に気づけなかったわ。もちろん、その現場に出くわしてもいない」


 先も示したが、城の衛兵たちは常日頃から戦闘訓練を積んでいる。

 城に部屋を設けられ住み込みで生活している、忠誠心厚い者たちだ。

 

 そんな者が女王に背き、姿を消すなどとは考え難い。

 ならば、第三者の手によってと考えられるのだが、誰にも気付かれることなく女王の居城に忍び込み、対象者を証拠なしに害するなどとは、いったいどのような手練れなのか。


「今、わたくしたちの世界で何かが起こっている、これだけは間違いないわ。全力で事件にあたります。被害者たちを、全員、必ず救い出す。わたくしの民たちに手を出した愚か者がいるのなら、見つけ出し、必ず報いを受けさせる。エリザちゃんたちも、どうか気を付けて」




***




「お義母さまから事の次第を知らされて数日。尻尾だけでも掴めればと、こうしてエリザと捜査の意味もかねてお忍びデートを続けていますが……。まったくと言っていいほど、なにもありませんね」

「ええ。怖いぐらいにね」


 行方不明となったものたちの人数は、少しずつ増えている。

 この街に暮らすものの数からすれば、微々たるものではある。


 しかし、夜の王たちが、おそらく事件に巻き込まれて姿を消す、それだけで前代未聞の事態である。


 だが、街の活気は変わらない。


 力が多少制限される日中こそ、女王の触れに従い、人通りはなくなった。

 しかし、夜になればみな普段通りの営みを繰り広げているのだ。

 

 みな、心の片隅では思っているのだ。


 自分たちは夜の王たる存在。

 そこいらの者に屈服させられるわけがない。

 きっと何かの間違いだ、自分は絶対大丈夫だと。



 だが、エリザは思うのだ。



 まるで、無味無臭の仕込まれた毒が、知らずの内に量を増していき、気付いた時には手遅れとなっているようでならないと……。


「……絶対、見つけ出したいです」

「当然よ」


 同意するエリザの前で、クリスは決意を口にする。


「だってわたし、想像なんてできなかったんです。わたしが人並みの幸せを――人並み以上の幸せを手にできる日が来るなんて。こんな幸せな世界に連れてきていただけるなんて、ずっとずっと思えなかったんです」

「……」


 かつて、聖女とされていた少女は、秘めていた感情を漏らす。


 エリザの生きた二百年を高々と扱き下ろせるほどの永きに渡り、献身することを宿命づけられた彼女。

 人の世を平和とするため、孤児は聖女へと変えられた。

 真の平和をもたらす為にと、神に使命を賜ったと。


 だが、真の平和など、世に満ちるわけがない。


「人と魔物同士、そして、人同士の大戦。それも、いつかは終わる。戦禍の中で、一筋の希望を信じた者らがいたでしょう。望みの果てに、終焉はやってきた。遥かな過去に比べれば、今の世は平和である、太平だと呼んでも差し支えはないでしょう。……でもそれは、常人の視点」


 クリスは夜空へと視線を向ける。

 深き闇夜の先、その先へ佇む主だったモノを眺める様に。


「彼女からすれば、それだけでは物足りなかった。こんな世は、平和などと呼べなかった」


 人外だからこその発想を、彼女は代弁する。


「彼女は――神様は、人の味方。魔を裂き世を安らかとすることが、人の祈りから生まれたという、彼女の存在意義。だから彼女は望むのです。人の世の平和を。誰も隣人と争わない、真の平和を。……諍いというもの自体が全く起きない人の世を」


 平和の定義。

 

 戦争がなくなること。

 殺し合いがなくなること。

 食うに困る者がいなくなること。

 奪われる者がなくなること。


 それは、語る者によって変わるものである。


 そして、ソレの――神の定義する平和とは、それだった。



 全ての諍いがなくなること。



 戦争や略奪、殺人だけではない。

 隣人全てが安らかで、にこやかに過ごしていくこと。

 世界中の皆が、仲良くなること。


 暴力だけでない。

 口げんかも、討論すら認めない。

 一切の意見の隔たりのない世界。


 皆が皆、本当に一丸になる世界。

 それを平和と、神は定義したのだ。


「そんなもの……!」

「ええ、実現できるわけがないでしょう。長命なエリザだってそう思うはず。だからこそ、わたしは成り果てた」

「……!」


 歯噛みするエリザの前で、クリスは自嘲する。


「聖女なんていう終わりのない永久機関。真の平和とやらを希求する彼女によってあてがわれた、呪われた聖の輪。可能性にゼロはないと前向きに過ぎる彼女に見初められた、擦り切れても終われない……わたしだったナニカ」

「……ッ!」


 エリザは、砕けんばかりに歯噛みした。



 神が望む平和とやら、その定義についての議論は置いておくとして。


 人の世を平和にするというのなら。

 真の平和を希求すると言うのなら。

 

 そもそも、クリスを聖女とした時点で、その高尚さとやらは破綻している。



 すべての人を幸せにするというならば、どうしてクリスを幸せにしないッ!?



 未だ見ぬ神への怒りに、血液すら沸騰しそうになる。

 己が妃に与えてくれた恥辱に、一見必滅を誓う。



「でも、もういいんです」



 険の抜けきった言葉。

 虚を突かれるエリザを、ふんわりと抱きしめ、押し倒す。



「だってわたし、エリザ(いま)がとっても大好きですから」



 クリスは瞳に涙を溜め、抱きしめる手に熱を込める。


「過去でもない。未来でもない。今がとっても大好きです。大好きなあなたと寄り添えて、その体温を、呼吸を感じられる、この今が」

「ッ!?」


 突然の告白に真っ赤になるエリザへ、クリスは独白を続ける。


「平和なんて、どうでも良かった。ただ、孤独に耐えられなかっただけ。役に立ったら、みんなに褒めてもらえるかなって、何の気なしに祈ってしまい、口車に乗ってしまった。幼かったとはいえ、不純な理由を抱いた罰が当たったんです。自業自得な愚かな女だったんです」

「……」

「そんなわたしなのに。あなたは好きになってくれた。救い出して、傍にいさせてくれた。分不相応な、あなたの妃にさせてくれた。だからわたしは守りたいんです。今、この時を。わたしの手で、でき得る限り」

「……不相応などと、蔑むな」


 彼女の背に腕を回し、感情を込めながら力を入れる。


「たとえ始まりがなんだったとしても、お前は人間共を救い続けたのでしょう? 絶望に呑まれながらも、他者の幸せのためにと――民のためにと、その力を奮い続けた」


 たとえ自身が報われなくても。

 希望がないと気付いていても。

 彼女は迷える民を救い続けたのだ。

 

 その行いを糾弾できるものなど、どこにもいないし、いさせない。


「あたしは王族。民を統べる者となる存在よ。なればこそ、お前のような馬鹿と扱き下ろせるほど民を慮れるお人よし、似合いすぎるくらいでしょう?」


 そしてエリザは、誰にも救えなかった彼女を、救い出した言葉を繰り返す。


「言ったでしょう? 止まり木などで満足しないと。永久に傍で生きなさいと。いい加減に気付きなさい。お前以外に、あたしと番い合える者なんて、いないのよ」

「……ッ!?」


 照れながらも、真摯に向けた告白。

 クリスは目を丸くし、顔面を蒼白とし、エリザの胸に顔を埋めた。


「いやあ、まったくもって面目ない……。持病の、ロリっ子のお胸でよちよちしてもらわないと死んじゃう病が出てしまいました……。緊急事態ですので、仕方ないですよね……?」

「……ばか」

 

 言葉とは裏腹な、か細い声を発する彼女。

 その背を撫でてあげながら、こちらも言葉と裏腹な優しさを込めて伝える。


「……ごめんなさい」


 つぶやいた後、肩を震わせ始めるクリス。


「……」


 その震えが収まるまで、エリザはただただその背中を撫で続けたのだった。




***



「その、ご迷惑をおかけしました。せっかくのデートでもあったのに、またわたし、お手を煩わせるようなことを」

「別にいいわよ。気にしてないから」


 ひらひらと興味なさげに言った後、エリザはぶっきらぼうにそっぽを向く。


「幸せも悲しみも分かち合う。困ったときには助け合う。そういうのが、その……ふ、ふーふってやつでしょっ」

「!」


 目を丸くするクリス。

 そっぽを向いたエリザの表情は伺い知ることができない。

 だが、その頬に浮かぶ朱色が、不器用な優しさを雄弁に表していて、嬉しくなった。


「……ええ、本当に」

「ふ、ふんっ」


 今を噛み締める様に幸せを零すクリスに、エリザの頬は更に真っ赤になった。


「ほ、ほらっ! いつまでこんなところに突っ立てるつもり!? このあたしの貴重な時間を無駄にさせるとか、言い度胸してるじゃないっ!」

「はいっ。申し訳ありませんっ」


 照れ隠しの糾弾に、瀟洒に差し伸ばされる手。

 月光の下、二人きりの舞踏会へと誘うように、彼女らは手を取り合った。


「……おや?」

「? なによ?」


 ふと何かに気付いたらしいクリスが、手を取るのをやめて跪く。

 せっかくいい雰囲気だったのにと内心残念なのを押し隠すエリザに対し、クリスは申し訳なさそうな顔をした。


「ここ。汚してしまったみたいです。申し訳ありません」


 彼女が指し示す先、エリザの胸元の辺り。

 先ほどクリスに胸を貸してやった付近の布地に、何やら湿り気のあるものが付着していた。


「? なにそれ?」

「恥ずかしながら、わたしの涙が……」


 きょとんとするエリザに、クリスが羞恥に顔を染めながら断定する。


「!」

「本当に申し訳ありません。せっかくのオシャレな衣装が台無しに。お城に戻ったら丁寧に汚れ落としを。とりあえず、今はハンカチで――」


 そうして拭い取ろうとするクリス。


「!」


 その手から、エリザは反射的に逃れた。


「? あの、汚れがついていますから」


 不思議そうにしながらも、クリスは再びハンカチで拭おうとする。


「!」


 その手から、再び逃れるエリザ。


「あの、エリザ……?」

「……」


 戸惑いを露わにするクリスを前に、エリザは視線をずらす。


 自身の胸元を汚す、不届き者たち。

 不遜にも、この夜の王に盾突く愚か者たち。


 それは、涙。


「エリザ?」


 視線を向ければ、そこには不思議そうに小首を傾げる金髪の美少女がいる。

 自身の妃、愛を捧げる唯一無二、クリス。


 その彼女から……彼女のナカから染み出したモノが、自身の服を汚している。



 つまり、それは――彼女の体液。



「……」

「エリザ? あの、汚れたところをずっと見つめて。本当に、どうしたんで――」




「……ちゅっ」




「……へ?」


 クリスが、目を丸くする。

 そして、すぐさま目を疑った。



 視線の先で、エリザが涙のついた箇所に口づけしていたのだ。




「え、エリザ……?」


 突然の奇行に硬直することしかできないクリス。

 彼女の前で、行いは更に加速する。


「……ちゅぅ。ちゅっ、ちゅちゅ」

「ッ!?」


 熱病にでも浮かされるような顔つきになったエリザが、愛おしそうに涙のついたところに口づけを繰り返し始めたのだ。

 親愛を示すようなものから、愛し合う者同士が行うようなものへと変わり、触れる時間がどんどん長くなっていく。


「……ん。……んっくっ。……あっ」

「〜〜〜!?」


 終いには甘い声まで漏れ聞こえる始末。

 クリスは顔を真っ赤にせざるを得なくなり、しかし、視線は釘付けにさせられて動けない。


 ただただ、熱中するエリザと、真っ赤な顔で棒立ちするクリス。



 そうしてしばしの間、夜の公園に湿った音と姫の甘い吐息が漏れ続けた。



「……はぁ」


 行為を終え、エリザはうっとりとした顔で上気していた。

 触れた箇所と唇を、てらりとした唾液が伝って糸を引く。

 

 全身を満たす甘い感情に、得も言われぬ充足感を覚える。

 

 そうして幸せな気持ちに浸るエリザであったが、なんというか、頬に熱烈な視線を感じた気がした。

 

 甘さを引きずったまま、視線を向ける。


 そこには、真っ赤な顔で硬直する、クリスの姿があった。


「……え」

「……ッ!?」


 目があったクリスは、恥ずかしそうに俯いてしまう。


「ッ!」


 そこで、ようやく正気に戻ったエリザは、夜中の公園で、自分がトンデモないことにふけっていたことに気付いてしまう。


「ち、違ッ!? その、これは、違くてッ!?」

「……」


 いつもならばよく喋るクリスが、無言になって動かない。というか、動けない。

 真っ赤になるクリスと、そんな彼女にどうにか弁解しようと試みる、こちらも真っ赤なエリザ。



 上手く言葉を紡げなくなったエリザに代わり、突然の行為の理由を述べるとするならば。



 居丈高で短気な性質に隠れがちではあるが、エリザは愛する相手のことなら、その全てを認められる系の懐の広い少女である。

 そもそも、そうでなければ、この浮気性でロリコンという、度し難く底辺な性質をもったクリスと番おうなどと思えないし、共同生活も継続できないはずである。


 ロリコンに勤しむことに激怒はするが、その救いがたい欠点すら、最終的には仕方ないの一言で終わらせる。


 それはきっと、自分の力不足の結果だから。

 だから、もっと自分に磨きをかけて、より彼女に尽くしてあげて、幸せにしてあげて。

 そうして浮気をする暇などなくなるほどの、いい家庭を気付くのだ。

 

 そんな風に無意識のうちに努力できる、滅多といないほどの尽くしたがりなのだ。


 ここで、前提としての事実を述べるが、エリザはヴァンパイア。

 対象の血液を啜ることを好む。

 番い合うことを誓ってから、エリザはその対象をクリスのみに定めた。

 

 ヴァンパイアがヴァンパイアの血液を吸っても美味しくない。

 何とも言えない苦さを覚えるだけである。

 

 だが、それが愛する者のモノならば、苦くたって喜びに替わる。

 クリスへの溢れんばかりの愛情から、その苦さにも喜びを覚えるようになったのだ。


 そして血液、それはつまり、体液である。

 

 だからこそ彼女は、涙でさえも、それが愛する相手のものならば、包み込み、愛せるようになったのだ。



 ……などと、彼女の名誉のために長々と記述しはしたが、一言で説明するならば。



 長々とほしがりさんになっていたのに、ずっとお預けを食らい続けた結果、小さな体に溜まり続けた、やり場のない火照りが、彼女の体液を見て発露してしまったというお話。


 さらにオブラートに包まずに言ってしまえば、体液フェチの気がある少女が、好きな人の体液を見て、惜しげもなく剣を抜き放つように発情してしまったということなのだが、なんの修飾もなく示してしまうのは流石に誇り高いヴァンパイアの沽券に関わるので、記述は差し控えさせていただこう。


 さておき、愛する者とのデート中だったとはいえ、今は行方不明となった民たちに繋がる何かを捜索するという意味もあった、シリアスな場面。

 そんな中でいきなり発情するとか、不謹慎すぎる行いだと、エリザも自覚していた。

 それもあって、彼女は取り乱さずにはいられない。


「なんというか、そのッ!? あれなのッ!? あたしは、そのッ!? ……え、えっちじゃないもんッ!?」


 混乱した体からどうにか放たれたのは、大好きな伴侶に嫌われたくないという思い。

 こんな有事に睦事未遂な行いに走った自分ではあるが、それでもふしだらな女と思われたくないと、必死で否定する。


 そんな風に、涙目で幼児退行しかけるエリザに対し、弁解とも思えぬ弁解を受けたクリスはというと。


「……」

「なぜそこで滂沱〜〜!?」


 瞳から熱い滴を流し、口元を押さえて感じ入っていた。


「ろ、ロリっ子が、わたしの涙を……わたしのナカから溢れた滴を、迸った分泌液を、頬を上気させながら美味しそうに舐めとって……。ちゅぅちゅぅ、して……」

「ッ!? やめろッ! そういう言い方はやめろぉぉッ!?」


 真っ青になって制止をかけるが、ゾーンに入ったらしき変態は、なにも意に介さない。


「こんなに、こんなに幸せなことがありましょうか……ッ!? 欲しがられることって、ロリっ子に求められることって、こんなにも高まるものですのねッ!?」

「だから違うからッ!? お願いだから話聞いてッ!? 別にあたし、欲しがってないもんっ! そんなふしだらなこと、したんじゃないもんっ!?」

「物語の世界だけだと、諦めておりましたのに……。幻の存在(ろりびっち)は、こんな、身近に……! はああぁんっ!」

「ッ!? ち、違うもんっ! 違うもん違うもんっ! えりざ、そんなのじゃないもんっ! びっちじゃないもんっ! ろりびっちなんかじゃないんだもん〜〜っ!?」


 そうして夜の公園に、幼女と化した姫の泣き声が響き渡った。



***

 

 

 彼女らのやり取りを、ソレらは視ていた。

 

 ソレらの抱いた使命のため。

 ソレらの信じる未来のため。


 結集したすべては、あの御方のため。

 矜持も、命も。

 その他の全てをかなぐり捨てる決意は、とうの昔に済んでいた。




『愚かしやかな目論見よ。達することなどありはせぬ。だが、やれるものならばやって見せよ』




 遺骸とならねば出られぬと、苦渋に染まった門から、生きて帰ることができた。

 一度は囚われの身となれど、異例の放免を受けたのだ。


 ならばもう、あとは行動に移すだけ。

 この決意をもって、無理くりにでも、承服させるだけなのだ。


 罰される覚悟も済んでいる。

 既に失ったような命なのだ。


 あとはもう、この拳を奮うだけ。

 決意し、この闇夜に集うたのだ。





 ……その、集うたの、だが。




「ああ、おやめください……。そんな、強引に柔肌を……。全てをあなたに捧ぐつもりではありましたが、そんな強引なプレイなんて……はぁあんっ」

「なにみてるのっ!? きをうしなって、まんぞくそうなひょーじょーで、いったいなにをユメみているのっ!?」

「愛するロリっ子が出来た時にと守り通してきた清らかなカラダ。望む事態ではありますが、幼き肢体にこんな、欲望のままに弄ばれるなんて……ロリおね、さいっこうっ」

「だ、か、らっ!? なにみてるのっ!? どんなひどいことされてるのっ!? えりざ、そんなのしないもんっ! すっごくやさしくするもんっ! いちゃらぶしかのぞまないんだからあああぁあっ!」


 失神しながらも、満足そうな顔で時折ビックンビックンする妃……。

 ソレに縋りつき、幼児退行してえんえん泣き叫ぶ、未来の女王……。



 評すべき言葉すら見つからないほどの混沌っぷりを見せる彼女らを前に、ソレらの思考は、一考する間もなく統一される。

 




 うん。今日はもう、おうちに帰ろう……。と。





謎の余であるッ!「ククク。暗躍する暗き影。交錯する思惑。なんとも不穏な空気が流れ始めたではないかッ! 策謀の匂い、これもまた一興よなぁッ!?」

謎の余であるッ!「と、思っていたのだが……。それを中和してあまりあるこの残念な感じ。せっかくの余のカリスマっぷりが台無しではないかッ!? お、おのれ……。このままでは済まさんぞッ!?」

謎の余であるッ!「なに? フラグにしか聞こえない? この作品で敵役がシリアスを維持したことなど、一度たりともない……?」

謎の余であるッ!「だ、だとしてもッ! だとしても、余は負けぬぞッ!? 前例にも、空気にも、お約束にもッ! ほ、本当だからなッ!? 余の活躍、刮目して待つがよいッ!」




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