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Lily×Monster ~モンスター娘と百合コメです!~  作者: 白猫くじら
続・ロリっ子ヴァンパイア×薄幸の(元)修道女
45/58

ばら撒いてやるんだからアアアアァッ!


 メイド少女、秘蔵の名案。

 それにより、闇の姫の居城では、混迷極まる事態が巻き起こされていた。


 瞳を爛々と輝かせたクリスが、獣の息遣いで指定する。


「そうッ! そうですエリザッ! 大事なご主人さまにお仕えしますッ! お守りしますッ! ぺたんこなおむねに、目一杯のご奉仕を膨らませッ! かしずいてッ! ちいちゃいおてては、にゃんこの手ッ! はーいッ! そしてええええぇッ! ……御言葉ぷりーずッ!!」




「ご、ご奉仕する……にゃん?」




「してしてえええええぇッ! 思う存分、好きにしてええええぇッ!」



 恥じらいを見せる、にゃんこなメイドエリザちゃんに、クリスは五体投地し、



「次はッ! 患い人たちを癒す、白衣の幼女ッ! うんしょ、うんしょと、いっしょーけんめいはたらく頑張り屋さんッ! あっちに、とてとて、こっちに、とてとて、毎日とってもおーいそがし☆ だけどえらいぞっ! お顔の笑顔は絶やさないッ! 彼女は天使か? いや、女神だッ!」




「おねえちゃん、お加減、どうですか……?」




「べりべりぐぅううッ! でもでもだめです、別のナニカを患っちゃウウウゥッ!」



 ナース服で健気に尽くす、ロリっ子ナースなエリザちゃんに歓喜し、



「……はー、はー……。そ、そして、トドメは……え、それ着ちゃう!? 嘘でしょエリザッ!? 花も恥じらう貞淑敬虔ッ!? 俗世を離れ、幼女の願いはただ一つッ! 世界が平和になりますようにッ! 触れてしまえば壊れちゃいそう、扱い注意なキケンなKARADAッ! 他意なき願いは、とっても無垢で、心が萌えちゃうッ!」




「かみさま、おねがい……。みんな仲良くなれますように……」




「はい健気ええええぇええッ! さあ、平和への第一歩に、まずはお姉さんと仲良くシましょ……?」



 跪いて祈りを捧げる無垢なるシスターエリザちゃんに、素直に興奮した。



 

 メイド少女の名案。

 それは、ロリっ子ヴァンパイアのオンリーファッションショーを開くことだった。




 曰く、


「どれだけ魅力的な女の子だったのか、思い出させてあげればいいんだよー」とのこと。

 

 それにプラスアルファ、ギャップを付け足すことで、釘付けにしてしまえばいいと。


 いくら制裁、拷問を加え、自分のことだけ愛しなさい、などと無理やり命じても、それでは本当の意味での愛など得られはしない(そもそも、意地っ張りなエリザにはとても命じられない)。

 周囲の幼女たち、そして、母親に負けないためには、自分がいかに魅力的な存在であるか、思い出させてやる必要があったのだ。


 奇しくも、それはかつてクリスへ言い放った言葉を想起させる。


 


『目移りできなくなるくらい、いっぱい愛してやるんだからっ』




 今回の一件で、エリザはクリスに憤怒していた。

 だがその理由は、彼女の性質に辟易したからだけではないのだ。


 エリザ自身、恥ずかしくて自覚できていないのだが、大切な彼女をそこらの女に目移りさせてしまう、自分自身の魅力の無さへの怒りが多くを占めているのだ。

 

 もちろん、そんなことはなく、エリザは十分魅力的である。

 プライベート時の中身はアレだが、女王の名に恥じぬ美貌を備えたツェペシュ、そして、同じく外見に文句のつけようのなかった伴侶の血を引いているのだ。

 クリスのような変質者だけでなく、一般的な者から見ても、二度見することを義務付けられ、我を忘れることを決定づけられるくらいの容姿なのだ。

 

 性格だって、その尊大さと稀によく見せる子供っぽさのギャップは、十分愛らしいといえるはず。


 だが、事実クリスは他所の女に全力で尻尾を振ることばかり。


 イコール、自身には浮気させる程度の魅力しか備わっていない。

 無自覚のうちに、エリザはそう結論付けていた。


 


 誇り高いヴァンパイア族、女王の娘でありながら、好きな相手を満足させられていない。

 そんなこと、絶対に許せない。




 エリザは、少女の提案を即快諾。

 街の服屋へ駆け込み、多種多様な職業の衣装を買い漁った。


 並々ならぬ熱意を感じ取った店主も力を貸してくれ、今では作られていない太古の衣装を作成してくれた。

 それどころか、国から作成が禁じられているものさえ、厳重に封じられていた製法本を書庫から取り出し、解析し、従業員総出で、数時間の内に製作してくれたのだ。


 親指を立てて見送ってくれる主人と従業員たち、声援を送るメイド少女。

 彼女らに、自身の一件であると露呈していることすら気付かず、エリザは礼を言ってやってから家路へ急いだのであった。



 果たして、念願は成就した。

 


「……生きてて。生きてて良かった……。数多の生を重ねてきた意味は……。きっと、この時のために……。……神よ」

「お前、それとんでもない失言よね……?」


 幾年月も生かされ、転生させられ続けるという不幸に陥れた仇敵に感謝を述べたこととか。

 否応なかったとしても聖女であったというのに、生き続けた意味が幼女のファッションショーを見ることだったとか。

 

 跪き、むせび泣くクリスの姿に、エリザは顔を引きつらせた。


 ファッションショ―の開催された寝室には、何着もの衣装やアクセサリー、小道具などが散らばっていた。

 後の始末が大変そうなのは言うまでもない。


 だが、今この瞬間、彼女の心はエリザだけで一杯だ。

 間違いなく、エリザ自身の魅力が、彼女を満足させ、幸せに浸らせる事態を引き起こしているのだ。


「……!」


 エリザは、幸福感ににやけそうになるのを、必死に抑えた。

 憎らしい神の下僕共の衣装にでさえ、袖を通してやった甲斐があったというものだ。


 気付かれないように自身の太ももをつねっていると、トリップから帰ってきたらしいクリスは、深々と頭を下げた。


「エリザ、本当にありがとうございましたッ! 至福を超える極上の一時ッ! わたし、素直に達してしまいましたッ!」

「と、当然でしょッ!? このあたしがここまでしてやったんだからッ! 満足しないわけがないものッ! でも最期のぶっちゃけは余計よッ!? ちょっとは恥じらいなさいよ今さらだけどッ!?」

「ふふっ。本当ですよねー」

「なに他人事みたいに微笑んでるのよッ!?」


 湛える微笑だけ見れば、深窓の令嬢にしか見えないのに、本当に中身が残念過ぎる。

 だが、これでこそクリスであるのだ。仕方ないとするしかない。


 そして、そんなことよりも、今は気にすることがある。

 

「……」

「どうしました? 急に黙り込んでしまって」

「……そ、その。あれよ。なんというか……」


 もじもじとするエリザを、クリスはじっと見つめてくる。

 エリザは、言おうか言うまいか迷った後、そっぽを向きながら頬を染める。


「……他に」

「はい?」


 察せないクリスに、エリザは苛立ちを込めながら叫ぶ。


「だからッ! ……他に、なにか、ないの?」


 尻すぼみになりそうになりながら、どうにか横目で言葉を終える。


「……!」


 だが、恥ずかしすぎて、エリザはすぐに目を背けてしまった。



 その胸の内を明らかとするならば。

 エリザは、もう一歩を望んでいたのだ。



 だが、もちろん言葉になどできるはずがない。

 居丈高、プライドの塊、跪かせ、へりくだらせるのが大好物。

 誇り高い夜の王である彼女が、元聖女、元人間である相手に対し、言えるはずもなかった

 

 いいや、相手が誰だろうと、それは関係ない。

 

 

 キサマに望みがあるのなら、頭を垂れ、言葉を尽くし、その身を捧げ、懇願しろ。

 ならばあるいは応えてやろうか?

 嘲笑い、断末魔と共に闇へ溶かすか?

 



 それがエリザのスタイル。

 おのずからというのは、劣等種のすることである。



 だからこの曖昧な質問は、彼女のプライドにギリッギリ抵触するかしないかの生命線。

 いいや、正直、矜持にもとる行いではあったのだが、エリザは目を瞑っていた。


 だって、押さえられそうになかったのだ。

 愛しの相手を首ったけにさせ直したのを自覚し、褒めちぎられたことで、類を見ないほど有頂天になっていたのだ。

 


 いや、もう正直に暴露しよう。

 



 エリザは、おねだりしていたのだ。

 ほしがりさんになっていたのだ。




 状況を整理する。


 時刻は深夜。

 場所はエリザの城。

 

 ショーを催していたのは寝室。

 今いる部屋は寝室である。

 

 

 今いる部屋は、寝室である。




 図らずも、などとは言うまい。


 もし、目論見が成功したら

 彼女の心を自分の魅力で満たせたならば、と。


 結婚初夜にお預けをくらった傷心と憤怒が生み出した、限りなく無意識で意識的な悲劇の打算だった。



 禁じられれば、その分思いは燃え上がる。

 いつかの純愛小説で読んだ言葉を、下劣な企みに利用した。

 ショーの最中のお触りは厳禁。

 禁を犯せば、即中止、即制裁だと命じた。

 

 企ては成就した。

 奇跡の光景を少しでも脳裏に焼き付けるためか、クリスは節度ある狂乱を維持した。

 めいを守り、ショーは無事閉幕した。



 そして今、二人はかなりいいムード。


 

 なれば、さあ、来るがいい。

 その身を賭して、この夜の王を陥落させてみるがいい……ッ!



 などと、プライドと欲求がごちゃまぜになっているのが、今のエリザの内心だったのである。

 

 そんな、心中穏やかならないどころか、打算と情欲の波でかつてないほどに時化まくっている夜の王を前に、クリスは頭を悩ませた。


「ふむ……?」


 彼女は真剣に考える。


「……んんっ」


 エリザは、それとなくベッドの方を見る。


「うむむ……?」


 彼女は視線を巡らせる。


「あー。なんだか疲れたわー。ちょっと休憩しようかしらー? 休憩しようかしらー」


 エリザはベッドに近づいて、腰を掛ける。


「えーっと……?」


 彼女はエリザに視線を移す。


「……なんだかちょっと暑くない? というよりか熱くない? 一枚脱ごうかしらー。ぱたぱたー。ぱたぱたぱたー」


 エリザはわざとらしく足を組み、太ももをさらし、修道服の首元をぱたぱたする。

 そうして繰り広げられる一連の茶番。



 それが、ようやく功を奏した。



「……ええ。分かりました」

「……!」


 神妙な顔で呟いたクリスに、エリザの心臓が高鳴る。



 ああ、今度こそあたしもOTONAになるのね……。

 そうね、子供は三人、きっとあたしたちに似て、月も恥じらう美少女に……。



 酔狂すぎる妄想が浮かぶ。

 愛する彼女に手を握られながら愛の結晶を産み落とし、夜泣きの中に夜の王の風格を見出し親バカ丸出しとなり、反抗期の我が子と全力の殴り合いをし、やがて、成人した娘が巣立つ。

 育ててくれてありがとうと感謝を受け、我が子の成長に号泣するところまで刹那の内にシュミレーション――泣いた。


 袖口で拭うエリザへと、クリスは口を開く。


「ご過分な配慮、痛み入りますッ! じゃあわたし、お花を摘んできますねッ!」

「いやなにそれッ!?」


 見当違い甚だしい言葉に、エリザは大声でツッコんだ。

 動転するエリザに、クリスは頬を染めながら応える。


「も、もう……。つまびらかに問い質すのはやめてくださいませ。だからその、おトイ――」

「いや知ってるわよッ!? 馬鹿にしないでくれるッ!?」


 呼吸を乱しながら、エリザはまくし立てる。


「隠喩の意味を問うたのではなくッ!? この状況で、どうしてそういうこと言うのかってコトよッ!? ほらッ! ほらぁッ!?」


 もはやプライドなどかなぐり捨てたエリザは、埃が立つのも構わず、腰掛けたベッドをバシバシ叩きながらクリスを誘おうとする。


 しかし、


「ええ、ふかふかなお布団ですね? 何度も使わせていただいたので、分かっています。どうぞお先に休まれてくださいな」


 ここまでしてやっても、クリスは一向に察しない。


「はあッ!?」


 怒りと呆れの混ざった顔で聞き返せば、クリスは嬉しそうに胸を弾ませる。


「もうっ。おっしゃらないで。先に休んでおいてくださるのでしょう? ロリっ子う゛ぁんぱいあちゃんの、ドキドキ☆ポロリもあるかも!? 奇跡のふぁっしょんしょー☆ の観覧終了という大願を成就したわたしに、気を遣ってくださっているのでしょう?」

「いや……え?」


 何をほざいているのか理解できず、当惑するエリザを前に、クリスは頬に手をやって恥ずかしそうに身悶える。


「昂ぶったままでは寝付けそうにありませんもの! 己を鎮めないと……慰めないと! どうにかなってしまいそうですものッ! ああもう、エリザったら、どこまで察してくださるのでしょうッ!? 心まで美幼女ッ!」

「いや、あの。そんなのしなくても。その、あたしで……」

「というわけで、わたし、お花を――いいえ、花びらをッ! 摘みに行ってまいりますのでッ!」

「……あ、あのね? ここに可愛い新妻が……」

「ああッ! 夢中になりすぎて散らしてしまわないように……あら、これはちょっと、下品が過ぎましたかしらー」


 おほほほほと、お嬢様笑いをしながら、クリスは部屋の外へと消えて行った。

 

「いや、だからそんなのしなくても、ここで散らせば……。散らして、くれれば……」


 満開ピンク色な性女につられ、トンデモ発言をしているのにも気付かず、エリザはただ一人、茫然とする。


「……」



 寝室を悲しい静寂が支配する。



 それから、ほどなくして。



「だあああああぁあああああなんなのよもおおおおぉッ!?」


 我に返ると同時、エリザは激情を爆発させた。


「このあたしがここまでお膳立てしてやったというに、よくもまあ抜け抜けとッ!? いい度胸じゃないッ!?」


 いつもなら、一線は超えないとしても、何をせずともベタベタすりすり、髪の毛すんすん、太ももなでなでなど、ふーふでなければ犯罪的な行いだってやってくるというのに、なぜなのか。


 その気になっているのだ。

 意地っ張りな自分が、珍しくその気になっているのだ。

 稀有な機会を、どうしてみすみす看過するのかッ!?


「あれかッ!? 純愛はお嫌いかッ!? 嫌がるロリに無理やりじゃないと興奮なんてできないわけッ!? このクサレ外道ッ! 鬼畜性女ッ!」


 実際、今のクリスは、エリザ決死の奮闘、際してのマジックアイテム作成時の邪竜、神龍などの助力もあり、聖女からヴァンパイアへと変化している。

 言葉通りの人外の外道ではあるのだが、もちろんそこを糾弾しているわけでは無い。


「……いいわよ。お前がそのつもりなら、こっちも秘奥をつまびらくわ」


 クリスは決死の炎を瞳に宿し、衣装の山の中へと手を突っ込む。

 そこから、一つの布袋を取り出した。


 縄で厳重にぐるぐる巻きにされ、内包されているそれこそが、禁忌の品。

 

 かつて、ごく短い期間でのみ製作されていた、幻の品。

 だが、あまりの危険さに、国によって全て回収され、焼却された。

 以後、製作でもしようものなら、その者は即牢獄行き。

 悪ければ縛り首とされたとかなんとか。

 そもそも、製法を記した書物も焚書とされ、今の世では知る者などいないはずだったのである。


 だが、エリザの駆け込んだ店の主、その先祖たる女店主は、その魅力に取りつかれ、身命を賭して書物を隠し続けていたらしい。

 いつか必要とする者が現れたなら、全身全霊で力を貸す様にと、一族に代々伝わっていたとのこと。

 あとできたら肖像画にして墓前に供えてほしいと死に際とは思えない声音で言い残したとのこと。


 店主自身にはその魅力は分からなかったが、今がその時だと思ったらしく、エリザのためにと仕立て上げてくれたのである。

 だが、肖像画云々については、店主は望まなかった。

 愛する人にのみ披露すべきだと心中で思っていたのである。

 

 その隣で、先祖の霊が血涙を流して慟哭していたのは、エリザしか気付かなかったが、見て見ぬふりを貫き通した。



 ともかく縄を解き、その品を月光の下に晒す。



「……ッ!」


 受け取りの際に、袋の隙間からちらりと確認し、全容は理解していた。

 だが、それでも改めて目にすると、息を呑まずに入られない。

 この夜の王でさえ、怖気づくことを強制されるのだ。


「……く。このあたしをもってしても、御しえるか分からないなどと」


 このような代物を思いつき、作り出すなどと。

 人間は、愚かで劣った種族だと見下していたが、この手のものの計り知れなさにだけは、畏敬を抱いてしまう。

 

 思わず二の足を踏むエリザだったが、ふと、冷静にその代物を観察する。


「……いや。ていうかコレ。……アレよね。あの……本で見た……袋とじ」


 思い返すと、吐き気を覚えてしまう。

 あの衝撃は、数百年生きた内でも、一、二を争うものだっただろう。


 そんな代物を、今度は自分自身が扱うのだ。


 一度扱えば最期、もう、元には戻れない。

 

 偉大なるヴァンパイアとしての誇りも、名誉も、矜持すらも、すべてが瓦解してしまうかもしれない。


 だが、今のエリザは思っていたのだ。

 何を失ってでも、あの性女に思い知らせてやりたいと。


「ええいッ! もう、知ったこっちゃないわッ! 目に物見せてやるんだからッ!」


 そして、少女は道を踏み外す。



***



 エリザは、クリスが戻ってくるのを待っていた。

 禁忌をどうにか手中に収め、ベッドのド真ん中に潜りこんでいた。

 

 なにも予期せず戻ってきて、布団をめくった時が、クリスの最期。


「ふふん。そうよ。お前には絶対に防げない。成す術なく獣となるしかないのよ」


 袖にされた怒りから、羞恥メーターがぶっ壊れているエリザは、ただただ彼女とイチャイチャすることだけを考えて待っていた。


「……くっ!?」


 そんな彼女を、禁忌が蝕む。

 具体的に言うと、とってもスースーする。


「……ホント、早く戻ってこないかしら? ベッドに入ってても、コレ、お腹冷えるんだけど……」


 纏う肢体に不備がないかは確認した。その点に問題はない。

 というよりか、纏うという言葉自体に不備があるような代物であるのだが。


 と、そんなことを考えているうちに、部屋へと近づく足音が聞こえてきた。


「!」


 ようやく獲物のお出ましである。

 息を殺して待つ。

 その時の到来を前に、覚える緊張と、高鳴る胸。

 

 出し惜しみなどしてやるものか。

 夜の王の飛び切りで、理性の軛を叩き斬るッ!


 全霊を誓う中、寝室の扉がノックされる。

 返事をしないで待っていると、扉が躊躇いがちに開かれる音。

 

 警戒しているのか、足音が止まる。

 立ち止まっているようだ。

 

(ふふ。さあ、早く来るがいいッ! 定められし敗北のロードをッ!)


 人知れずカリスマポーズをキメながら、手をこまねく。

 やがて、ベッドの膨らみを感知したのだろう。足音はゆっくりと、こちらへ近づいてきた。

 そうして、ベッドの前で止まる気配。


 やがて、布団がゆっくりとめくられて――


(うん、今よッ!)


 月光を瞼に感じながら、エリザは魅せる。



「あのね、クリスおねえちゃん。えりざ、おむねがドキドキするの。おねえちゃんのこと考えると、おへそのした、むずむずして……」



 瞳を閉じ、胸の上でぎゅっと手を握り、太ももをもじもじとすり合わせ。

 決意と共に瞳を開き、赤らめた頬に無垢さを添えて、両手を目一杯広げて誘う。



「おねえちゃん、このむずむず、なんなのかな? おいしゃさんになって、なおしてほしーな……?」



 先のファッションショーで無理やり鍛えられた、女優顔負けの演技力。

 それを最大限に発揮し、恋する幼女になりきって、ロリコンをナイショのお医者さんごっこで誘惑した。

 

 彼女の嗜好を把握しきった完璧な誘い文句。

 確かな手ごたえに、脳内で複数のエリザたちが喝采をあげる。




 ――だが。




「……ッ!?」


 視界に映った人物に、エリザは硬直する。

 

 その人物――実の母、ツェペシュは、怜悧な相貌を真っ赤にしていた。


「そ、その……えっと……。エリザちゃんたちには、悪いこと、しちゃったと思ったから……。その、お詫びに、来たんだけど……。伝えたかったことも、あったし……」


 目を白黒させて、お詫びの品だろう、血液の入ったボトルらしきものを取り落としそうになる。


「……ふーふ仲は、問題ないみたいね……。でも、エリザちゃん、その恰好は……」


 そして、スっと目を背けるツェペシュ。


 彼女が糾弾したエリザの衣装。


「あ……あう……あう……!?」


 瞳に動揺の涙を湛え、自我崩壊すらしそうに狼狽えるエリザ。

 その肢体を覆い隠すのは、否、僅かばかりほど隠すのは、極少の布地。


 凹凸のない胸部を覆うのは、頂がどうにか隠れるほどの逆三角。

 秘所を隠すのも、同じく心もとない黒色のソレ。



 今ではその名称を知る者もいない――マイクロビキニと呼ばれていた禁忌の水着であった。



 漆黒の水着で狼狽える愛娘を、ツェペシュはなんとか落ち着かせようとする。


「い、いや、違うのよ!? 別に責めるとかそういうのじゃないからね!? ただその恰好には、恥ずかしい思い出がというかなんと言うか!? とにかく落ち着いてエリザちゃん!?」

「やだっ! もうやあだっ! えりざおうちかえるぅううッ!」

「デジャヴッ!? だから落ち着いてエリザちゃん! ここあなたの家ッ! あなたの家だからッ! というか飛び立つにしてもせめて着替えてーッ!?」


 窓を開け、がむしゃらに外へ飛び立とうとするエリザを、ツェペシュは必死で押さえようとする。


「なっちゃうッ! このままじゃなっちゃうからッ! 女王の娘(ひとりむすめ)が、ろりびっちにいいぃッ!?」


 だが、最上級の羞恥心により暴走した彼女を止めることはできず、エリザはツェペシュを振りほどいた。


「知らないもんッ! もうなにも知らないもんッ! 美幼女う゛ぁんぱいあ☆ツェペシュちゃん☆袋とじな水着姿、複製してばら撒いてやるんだからアアアアァッ!」

「ブッ!? なんでそれ知ってッ!? ていうかやめてエリザちゃんッ! それだけは本当にやめてくださいッ! あれだけは見られても嬉しくないからッ! 我が生涯で最大の汚点ッ! 焼却したい黒歴史だからあああああぁッ!?」


 巻き添えをくらった母の悲哀の叫びを背に、ろりびっち(見た目のみ)姿のヴァンパイアは、夜空に輝く流星となった……。



***



「黒歴史ッ!?」


 少女は、背筋に走った怖気に、顔を青くした。


「な、なんでもないよー。なんというか、その、イヤーな単語が聞こえた気がしてー」


 向けられる視線の主へ、少女はひきっつた笑みを浮かべて誤魔化した。


「そ、そんなことはいいんだよー! それよりキミは、キミ自身のコトをしたほうがいいんじゃないかな!?」


 かけられる言葉に、ソレは身構える。

 対し、少女はひらひらと手を振る。


「だいじょーぶだいじょーぶ。そんなに警戒しないでー。さっきも言ったけどー、別にキミの邪魔するつもりはないんだよー。第一、それは世の摂理だものー。ならばこそ、出る幕なんてひとつもないよー。そもそも、こんな感じに戻っても、自分からはできないしー。ここにいるのは、ただの謎のメイド少女―」


 少女は、くるくる回る。


「ここに来たのは、ただ気になっただけだからー。一応関わってしまったことだし、顛末くらいは見届けてあげないとー」


 少女は悪戯っぽく笑う。


「なんというか、これは好みの面白ーい感じに転がっちゃったみたいかもー。まあ、あのおじょうさまいい人だしー、手を貸さなかったとしても、いちゃいちゃらぶらぶは、すぐできるでしょー。うん、きっとだいじょーぶ」


 無邪気に語った後、その顔に、ふと暗さが混じる。


「……それが本当になれないのは、アレだけどね」


 少女の言葉に、ソレはただ立ち尽くした。

 気付いた少女は眉根を寄せる。


「あっれれー? なに? いっちょ前に罪悪感なんて覚えてるのー? にゃははっ! そーんな必要ないと思うけどなー? そうすることが、今のキミの使命なんでしょー?」

 

 励ました後、少女の顔に影が差す。


「……苛まれるべきは、キミじゃないよ」


 どう言葉を掛けるべきか戸惑っていると、少女はおちゃらけた様子になった。


「ほら、そうやって見ず知らずの謎メイドを励まそうと悩んでくれてー。なかなかできることじゃないよー? そういう優しさー」


 柔らかに微笑んだ後、少女は背を向ける。


「……慮れるキミには、やっぱり辛いコトなんだよね。だからこそ、あの時の自分も許せない。許そうなんて思えない。ああするしかなかったとしても。此岸も彼岸も、幸せばかりは満ちてない」


 でもね、と少女は続ける。


「もしも、キミが望むなら……。自分だけでは、叶わぬなら。祈ってみるのもいいかもしれない。覚えておいて。そしたらさ?」


 そして、少女は振り返る。




「――頼りない神様が、力を貸してあげるから」




 その顔に、憂いを帯びた笑顔を浮かべて。









わたしがロリコンです「ここで秘蔵の袋とじをおっぴろげッ! 『秘密のビーチでの写生会。はじめはデンジャラスなサンシャインにむすっとしていたツェペシュちゃんですが、可愛いよ可愛いよつるぺた最高の絶賛に、無邪気な笑顔が大・爆・発ッ☆ 浮き輪片手に元気なぴーすッ! かわいいやえばが、こんにちはっ☆ ちいちゃなお尻をむむっと突き出すABUNAIポーズは、みんなの心をわしづかみッ! サービス精神旺盛な姿に、一同感涙むせび泣きッ! ……な、なんと、次回作では、生まれたままの姿を特別に披露してあげちゃいます☆と、『え。その水着着てもらえただけでも想定外なのに、それはちょっと、のせられすぎじゃ……?』と、正直ドン引くスタッフたちに、ツンツンしながらも遠慮するなと主張してきて――』」

黒歴史は塗り替えてナンボです「ちょっとおおおッ!? 何してるのッ!? こんなところで何してるのッ!?」

わたしがロリコンです「いいものを見せてもらった勢いのまま、犯罪級の袋とじを開いたのです。脳内でロリ母子そろっていただきます的な、本編では到底できない禁断の扉を開いてみちゃおうとしたんですけど。……うん、その、なんというか、アレですね」

黒歴史は塗り替えてナンボです「な、なんですかッ!? 急に冷め切った目をしてからにッ!?」

わたしがロリコンです「いや、その。凶悪種族を纏め上げる絶対者たる女王様にも、若気の至りでは済まされないトンデモな過去があったのか……というような。あ、それはそれとして、次回作持っておられません?」

黒歴史は塗り替えてナンボです「あるわけないでしょそんなものッ!? 『流石にそれは捕まりますからッ!』って懇願されて企画倒れになったのですからッ! ああもう良かったッ! でかしたわよ人間どもッ!」

わたしがロリコンです「そ、そんな……!?」

黒歴史は塗り替えてナンボです「それよりその本渡しなさいッ! 焚書にしてやるッ!」

わたしがロリコンです「デジャヴッ!? させません、させませんよそれだけはッ!? モンスター図鑑だと言い張って、どうにか憂き目を逃れてきていますのにッ!」

黒歴史は塗り替えてナンボです「そんないかがわしいモノが図鑑などであるものかッ!? そもそも、犯罪級がどうとか抜かしてたでしょうがあああぁッ!?」

わたしがロリコンです「ああ、このやりとりも予想済みッ! 流石母子、ツッコミがよく似ていらっしゃるううぅッ!」


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