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Lily×Monster ~モンスター娘と百合コメです!~  作者: 白猫くじら
続・ロリっ子ヴァンパイア×薄幸の(元)修道女
43/58

控えめに言ってもマジ最高だわッ!



「や、やめなさいッ!」


 月光差し込む一室に、拒絶の言葉が木霊した。


「あなた、何をしているのか分かっているのッ!?」


 高価な家具の設えられた、豪奢な部屋。

 ベッドに押し倒された彼女は、自慢の銀髪も、高級そうなネグリジェが乱れるのも構わず、激しく抵抗する。

 

「ほんとにッ!? 一体何を考えているのッ!? 疾く放せッ! ちょ、ちょっとッ!? こらぁッ!?」


 だが、うつ伏せに組み敷かれた体は一向に自由とならず、ただただ苦悶の声が漏れるばかりである。


 人外の美麗さを湛える彼女は、文字通り人間ではない。

 誇り高き闇の化身、ヴァンパイアである。


 巨岩を難なく砕く膂力、対象を思うままに操る異能、吸血したものを己が同族とする力などによって、広く人間たちに恐れられるべき怪物であるのだ。


 そんな彼女ら闇の化生に、許可なく触れることだけでも万死に値する行為である。

 だというのに、このように、力なき小娘のように組み敷かれ、弄ばれ、あまつさえ、意に添わぬままベッドに押し倒されるなどと、いかほどの屈辱か……ッ!?


「……キサマッ! 八つ裂きにされたいかッ!?」


 牙を剥き、赤い感情に猛るも、状況は一向に変わらない。

 ままならない体で、純白のシーツを握り込むのが関の山だ。


 羞恥やら憤怒やらの入り混じった赤い瞳。

 どうにか首を捻って、その愚か者を射貫く。




「もうっ。そんなに恐ろしいこと、おっしゃらないでくださいな?」



 視線の先にいたのは、一人の少女だった。


 フリルがふんだんに使われた純白の衣装に身を包んだ、品の良さそうな少女。

 肩より長いゆるふわな金髪を揺らした彼女が、ヴァンパイアの背に覆いかぶさるようにして、自由を奪っているのだった。


「ご安心くださいませ。別に取って食おうなどと、考えているわけではございませんから」


 柔和な笑顔を浮かべて、少女はそう口にした。

 

 安心しろ、と口にしたのだ。

 危害は加えないから大丈夫だと、宥めすかそうとしたのである。



 誇り高きヴァンパイアである、彼女のことを、だ。



「キサマアアァッ!」


 プライドをズタズタにされ、思わず猛る。

 だが、その喉笛を食い千切ることも、臓腑を掻っ捌くことも叶わない。

 許されるのは、ただただ敗者の負け惜しみにも聞こえんばかりの感情を吐き出すことだけである。


「同胞となって日も浅い若輩風情が図に乗るだとッ!? おのれ、斯様な屈辱を……ッ!」


 ヴァンパイアの容姿と、筋力、異能力の力は比例しない。

 よって、現状のような事態も起こり得る。

 加えて、少女はヴァンパイア王族、その姫の吸血を受け、直々に同胞となった存在。

 通常の成り立てよりも凶悪な力を持つのも理解できる。

 

 だが、だとしてもだ。

 こんな細腕をした、いかにも温室育ちのご令嬢のような風体の小娘、しかも新参者。

 そんなのに、この自分が好きに勝手にされているという現状は、感情を助長させる原因にしかなりえない。



 ……だが。

 正直な話、彼女がこうまで猛っている最大の理由は、前述したどれでもないのである。



「疾く放せッ! 放せッ! ……『放せ』ッ!!」


 ヴァンパイアの特技、『チャーム』。

 目を合わせた相手を魅了し、命じた言葉に従わせる精神関与の力。


 ヴァンパイアの中でも頂点の力を持つ彼女。

 その命を受け、ひれ伏さぬ相手などいないはず。


「ふふっ。流石ですね。その激しさ、癖になるほど素敵です」


 だが、少女は涼しい顔。

 合わせた瞳は苦痛に歪まず、どころか、微笑を湛えてうっとり顔だ。


「ッ! このッ! おのれッ! 『放せ』ッ! 『は〜な〜せ〜』っ!」


 体裁すら忘れ、ヴァンパイアはジタバタもがこうとする。


「はーなー……ッ!?」


 その動きが、突如、停止する。

 させられる。



 ふんわりと抱きしめる、少女の体温に。



「……できません。そのようなこと、できるはずもありません」

「ッ!」


 優しく、甘く、囁く魅惑。

 

「氷の如く怜悧で残酷。しかして子猫の如く愛くるしく。やっと出会えたこの奇跡。手放すことなどできましょう?」


 心に纏わる甘い毒。

 その声音には嘘はなく。


 だからこそ危険で……惑わせる。


「……ふざけないで」


 心に灯る背徳に、必死に抗おうと顔を背ける。


「……そんな、ダメ。そんなこと、言わないで……。だって、あなたは……」

「いいえ」


 強い言葉。


「……っ!」


 聞こえたと同時、視界が回る。

 振り切ろうとする思いを晒す様に、仰向けに組み敷かれていた。


「立場も、世間も、関係ありません。そう思えるほど、心が滾っているならば、わたしたちは、きっとどこまでも羽ばたける」



 急接近する少女と、その思いに。


 ダメだと、分かっているのに。


「……本当の幸せは、いつだってそばにあります」


 絡まる手が。


「……その胸の感情を、隠さないで」


 紡がれる言葉が。


「……愛に生きることを、諦めないで」


 触れる吐息が。



「……あ」



 理性の鎖を、体裁という檻を、立場という負い目を、焼き尽くす。



「……し、は」

「……はい」


 潤む瞳を、少女は優しく見つめていた。

 ただただ優しく、見つめていた。


「……わたくしは」

「……はい」


 そうして彼女は応えてしまう。


「……」


 肩を震わせ、頬を朱に染め。

 瞳を強く引き結んで。


「幸せに、なりましょう。……きっと」


 閉ざし待つ彼女へ、少女は潤ませながら涙を零す。

 



 そして、二人は――




***



「なにやってんのよお前はああああああぁッ!?」

「あいあんめいでんッ!?」


 甘いムードでむせかえる空気を、怒りの鉄拳が叩き割った。

 比喩表現ではないのが恐ろしい、文字通りの鉄拳制裁。

 ふわふわ夢心地のベッドの上から、インテリアとして飾られている拷問器具に叩きつけられる金髪の少女。


「扉が開いていれば良かったのに……ッ!」


 目を吊り上げるのは、室内へ飛び込んできた銀髪の幼姿。

 真紅の瞳を憤怒に燃やすヴァンパイア――エリザは、ひび割れた鉄の乙女と共に床を転がる少女を睨みつけた。


「い、いつもならばお礼を返すわたしですが、流石にそれはおやめください……」


 吹き飛ばされた少女――クリスは、よろよろと立ち上がりながら懇願する。


「逝っちゃいます……。流石にそれは逝っちゃいますから……」

「うるさいッ! 逝っちゃえ、ハートの全部でッ! このド変態ッ!」


 剥き出しの感情をぶつける。

 正直、執り行った直後(・・・・・・・)に、このように口汚く喚き散らしたくはない。

 だが同時に、だからこそきっちりと矯正しておくべきだとも思ったのだ。


 その成果に、心底からの侮蔑の言葉が、この恥知らずに猛省の感情を覚えさせて――


「愛しのロリっ子ヴァンパイアから、蔑みと侮蔑のダブルパンチッ!? ああダメッ! こんなの逝っちゃいますッ! 気持ちいい方でイっちゃい――」

「暴力もどうぞッ!」

「まさかのトリプルッ!?」


 憔悴一転、昂ぶりかける彼女に、怒りに任せた制裁をブチ当てる。

 衝撃に石壁を破って夜空の星となる彼女へ、怒りを推進力にエリザは飛びつき、そのまま空中コンボを続行する。


「なにが、まさかよッ!? こっちのが、まさか、だって、言うの、にいいいぃッ!」

「フルコンボッ!?」


 華麗な空中技の最後を飾るムーンサルトにて、星は彗星と変じる。

 近くの森の地表へと、神速をもって急降下し、衝撃と共にクレーターを作る。


「か、苛烈な家庭外DV……好き……」


 落下したクリスは、失神しながらも満足そうに痙攣していた。


「バカッ! この……この……バカぁッ!」


 あまりの怒りに語彙を失い、子供のように罵倒してから背を向ける。

 小さな体に苛烈な怒りを渦巻かせながら、エリザは寝室へと舞い戻った。


「ハーッ、ハー……ッ!」

「え、えっと、その、エ、エリザ……ちゃん?」


 憤怒に呼吸を荒くしていると声をかけられる。

 ピクリと反応するエリザの背後には、バツの悪そうな顔をした女性が立っていた。

 

 二人の応酬に呆気に取られていたヴァンパイアの女性は、震える唇をどうにか動かす。


「そ、その、ね? これは、その、違うの。あの、なんというか……」




「ナニガ、チガウンデスカ……?」




「ぴぃっ!?」


 氷点下。

 室内が一瞬にして凍り付いたと錯覚するほどの、冷たい声音。

 萎縮する女性に、エリザは満面の笑顔で繰り返す。




「なにが違うんですか? ……お、か、あ、さ、ま?」




 自身と彼女の立場を示す名称を特に強調して主張した後、エリザは俯く。


「……そう、お母さま。この方は、あたしのお母さまなの。とても大切で、とても大切に育てて下さった、世界に誇れるお母さま。誇り高きヴァンパイア族を統べる、カリスマ溢れる女王、ツェペシュ様。なのに、なのに……。フフ、ウフフフフ……」

「あわわわわわ……」


 どこぞの病んだ聖騎士もかくやというほどの闇を纏う娘の姿に、ただただ母は凍り付く術しか持てない。

 エリザは一人狂ったようにほくそ笑み続けていたが、やがてその目をかっと見開いた。


「なのにッ!? なに我が子が使っていた部屋でッ!? そのベッドの上でッ!? 一人娘の妃を寝取ろうとしてるのッ!? ホントにッ! ホンットに、なに考えてんのよおおおおおぉぉぉッ!?」


 感情のままに詰め寄らずにはいられない。


 一体何を考えているのか?

 その頭はどうなっているのか!?


 改めて言葉にしてみても、常識が消し飛んでいるとしか思えない彼女の所業に、憤怒やら羞恥やらがないまぜになった感情が、波濤の様に押し寄せてくる。


「ち、ちちち違うのエリザちゃんッ!? ネトリじゃないのッ! ネトラレなのッ!」

「うるっさいッ! 気にしてんのはそこじゃないのよッ!? 言い間違いの指摘より先に、弁解でもしてみなさいよッ!?」

「そ、そうねッ!? 流石エリザちゃん賢い子ッ!」


 冷静になれない状況でも適格にツッコみできるのは、クリスとの生活の賜物だろう。

 そんな自分にほとほと嫌気がさし、余計疲労を覚える中、母ツェペシュは、狼狽しながら釈明する。


「わたくし、頑張ったのッ! 可愛い娘の掴んだ幸せ、水を差すことなど決していたしてはなりませんものッ! してはならぬと、母は屈さぬと抗したのですわッ!」


 ツェペシュは頬を羞恥に染め、顔を背けつつ言葉を漏らす。


「なのにキヤツめッ! 甘く滴る血液のような所業と言葉で、この熟れた肢体を篭絡し腐って……くッ!」

「くッ! じゃないわああああッ!? 嘘言ってんじゃないわよッ!? ノックしても返事がないから、おかしいなって覗き見たら、即落ちだったじゃないッ!? 安っすい官能小説かおのれはああぁッ!?」


 閉ざしたまなじりに涙を浮かべ、悔しそうに歯噛みをしているのが余計腹立たしい。

 おのれ、などという言葉で初めて母を糾弾する。

 それほどの怒りで激しくツッコみを入れれば、しかし、ツェペシュは目を丸くし、逆にエリザを糾弾する。

 

「ま、まあッ!? ダメよエリザちゃんッ! そんな不埒なモノを熟読しちゃッ! 変な嗜好に目覚めちゃったらどうするのッ!?」

「じゅ、じゅじゅ熟読なんてしてないわよッ!? ちらっとッ! ちらーっとだけ目を通しただけッ! ただの興味本位だからッ! というか、不埒なのはどっちよ馬鹿ぁッ!?」


 気恥ずかしさと怒りで声を荒げつつ再度糾弾する。


 読書を好むエリザではあるが、そういった類の書物には基本興味を示さない。

 最近初めて目を通したのだが、それは大切な人ができたからであり、近い将来、そーいうコトもするかもしれないから、そんなときに恥をかかないよう、満足してもらえるよう、知識と耐性を付けるためであったのだ。

 ただ、内容の過激さに耐え切れず、さわりにまで達せられずに、ちら見程度の結果となったのだが。

 

 まあ、そんなことは置いておくとして。

 

「そもそもッ! そもそもよッ!? さっき式が終わったばかりよッ!? 月光の下で、民の前で、永遠の愛を誓ったばかりなのよッ!? なのに一日も持たずッ!? 一晩と保てずッ!? 結婚初夜にこのザマかッ!? どういうことよどうなってんのよ、高鳴る胸で震える拳で寝間の扉をノックした、あたしのドキドキ返しなさいよおおおおぉッ!?」 


 こんな結婚初夜いやああぁと、頭を抱えて狂乱する。

 醜態だと自覚していても、そうせずにはいられなかった。


 エリザが喚き散らした通り、本日は、エリザとクリスの結婚式が執り行われたのだった。

 式の最中、嬉し恥ずかし目配せすると、応えたクリスが優しく微笑んでくれたり、手を握ってくれたり、列席していたロリっ子にハアハア飛び掛かったのをジェヴォーダンったり、色々あった。


 ともあれ、本当に幸せだったのだ。

 その幸せ度合いに並び合えるのは、数百年生きた日々の中で、彼女の命を救えたあの日くらいのものだろう。

 親類縁者、そして多くの民たちに祝福され、嬉し涙で視界が滲んだのはほんの数時間前の話。




 だというのに。



 だというのにッ!



「ッ! あああああ〜〜〜〜ッ!」

「ひいぃッ!? エリザちゃんやめてそれ国宝ッ!? 一族の歴史たる国宝だからッ!? そもそも拷問器具に拷問しないでッ!? 命が無いのが分かっていても可哀そうになるくらいの、モザイク級の拷問しないでええぇッ!?」


 恐怖を与えてきた拷問器具たちに、今度はお前たちが処される番だと、次々に手をかけ始めるエリザの姿に、ツェペシュは悲鳴を上げる。


 現在使用しておらず、城の各場所に飾られる調度品と化しているとしても、それらの多くは始祖より脈々と受け継がれた国宝であり一族の歴史。

 それを直系の姫がぶち壊していく様に、女王の心臓は張り裂けんばかりだった。


「放してッ! 放してお母さまッ! こうでもしないとッ! なにかに当たり散らしでもしないと、あなたに手をあげそうなのよッ! 国宝なんぞ、なにするものぞおおおおぉッ!」

「いやああぁあッ!? 女王の娘(ひとりむすめ)が国賊にいいいぃッ!?」

「うるっさいッ! 下剋上するよりはマシでしょうがあああぁッ!」


 やんややんやと繰り広げられる、母と娘の大立ち回り。


 それが止むのは、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが、命賭けで制止に入って吹き飛ばされ、それでも諦めずに忠義を尽くし続け、漸くのことであった。



***



 ここは、高貴なる闇の眷属ヴァンパイア、それらを統べる者の住まう城。

 漆黒の空、高くより降る月光が、闇の者らに繁栄あれと、古城を妖しく照らし出す。


 その城の中、一際豪奢な造りがされた一室に、彼の者の姿はあった。


 城の長たるその女性。

 長き歴史を誇る闇の魔性、幾度も人間共を恐怖へと引きずり込んだ、人外の化生。

 抜きんでた実力とカリスマ性にて、ヴァンパイアたちを一枚岩と束ねる女帝の姿が、そこにはあった。



「えっぐ……。ごめんなさ……ごめんなさいー……」



 ……床に座し、全身を鎖でぐるぐる巻きにされた、彼女の姿が。


 怜悧な相貌を涙でべちゃべちゃにし、子供の様に泣いて謝る彼女。


 首からは

「わたしは我が子の妃に手を出した、夜の王(下ネタ)です」

 と、札が下がっていた。


「もう最悪……」


 泣き喚く母親を前に、エリザは茫然と脱力する。

 荒ぶったツッコみの嵐と、尊敬する母の目の当てられない姿に、疲労が隠し切れない。


 ちなみに、先まで騒ぎが繰り広げられていたのも、ここ。

 エリザが城を出るまで使っていた部屋である。

 


 ことの成り行きは、こうだ。

 城での挙式の後、せっかくだから一泊して帰ろうという話になった。


 あなたの部屋、綺麗に掃除してあるわ。

 誰にも邪魔はさせないからゆっくりしていきなさいな?


 そう言って気を利かせてくれた母。



 それは、つまりそういうコトよね。

 遂にあたしもOTONAになるのね……。



 嬉し恥ずかし、染まる頬を隠せない。

 エリザはクリスと二人並んで部屋へ向かった。


 ウェディングドレスを脱ぐのさえ忘れるほど、小さな胸は高揚していた。


 だが、扉の前に来ると恥ずかしくて。

 やっぱり少し、覚悟の時間がほしくって。


 エリザは礼を伝えねばならぬ者どもがいたからと、描かせていた肖像を便箋と纏め、夜闇の中を飛び立って行った。


 そうして、とある秘境へ思いを届けた。

 その後、夜風に晒されて、なおも冷まし切れない、冷ませない、甘い熱を帯びた体で戻ってきて。


 彼女も、きっと待ちきれないでいることだろう。

 これ以上は悪いからと、覚悟を決めて扉をノックした。



 その結果が…………コレ。



 事もあろうに純白のドレスを纏ったままの伴侶が、これまた事もあろうに義母となった相手と……すなわちエリザの母と、よろしくしあっている現場。



 しかも、エリザの使っていたベッドの上で。



 こんなの、狂乱しないのがおかしいでしょう。

 あたし、なにか間違ってる? と。



 事の次第を聞いた衛兵、臣下たちは、そりゃそうだとエリザに同情アンド賛成。

 反旗は一切上がらず、軍配はエリザに上がった。

 そして姫の命じるがまま、信奉する女王に反逆。鎖でぐるぐる巻き。

 そうして、もう大丈夫だからと宣ったエリザに従い、心配しつつも立ち去ったのである。


「……大事な大事なエリザちゃんだもの……上手くやれてるか心配で、こっそり様子をうかがって……いい感じだったら、立ち去ろうと思ってたの……子を思う親心だったの……」

「なればこそ絶対しないコトよ? 覗き見も、そのあとの不貞も……」


 ちなみに泣き腫らす彼女の横には、

「私は姫の母と秘め事しようとした、とんでもないクサレ性女です」

 と、札を下げ、衛兵たちから怒りの制裁を受けて倒れ伏すクリスの姿があった。


 だが、ボロボロでありながら嬉しそうな顔で失神しているのが腹立たしい。

 幼姿の見た目ロリっ子衛兵の一人に侮蔑されて足蹴にされたのが嗜好にドストライクだったからなのは想像に難くない。


「うふふ、ちいちゃい、ちいちゃい、ふにふにおみ足……」

「……」


 腹が立つのでこれ以上考えたくもない。

 聞こえてくる満足げな寝言は、止めてやりたいが無視しよう。

 間違って息の根まで止めてしまいそうだし。

 

「いっちに、さっんしー。あんよはじょーず☆」と歌い始める猫なで声を、額の血管二本が切れる音を代償に堪えていると、今度は母が情けなく弁解してきた。


「……こっそり見たのに、エリザちゃん、いなくて。わたくしに気付いた彼女に、せっかくですのでお話しましょう、お義母様って、招かれて……そのまま流れで……」

「どんな流れよ……」


 呆れかえるエリザに、ツェペシュは開き直って喚き散らす。


「人肌ッ! 恋しかったのッ! 一人寝ッ! 寂しかったのッ! そんな時に、見た目はドストライクな美少女から、しかも、娘の妃なんて背徳の塊から、強引に褥に誘われっちゃったら……お母さんは……お母さんはぁッ!?」

「あーもうッ!? 娘の前で発情するなッ! その妃で発情するなぁッ! あとお前は、いい加減黙れええぇッ!」

「よっちよち☆ よっちよち☆ そーこはふかふか、わたしの、ちきゅぐほえをッ!?」


 身をピクピクと震わせる母の姿と、全身をビックンビックン痙攣させ始める変態に挟まれ、エリザはもう正気を失いそうだった。


 母ツェペシュのことを、エリザは心底から尊崇している。


 闇夜に浮かぶ満月さえも恥じらうほどの美麗な容姿。抜群のスタイル。

 強大な力を持つが故に我の強いヴァンパイアたちを、平伏、心酔させる圧倒的なカリスマ。

 同族であろうと罪を犯した者には容赦しない冷徹さ。


 自らの目指すところとする、理想の姿なのである。

 


 ……ではあるのだが、プライベートの彼女には、とてもアレな面があった。

 とんでもない愛のカタチを好むのだ。


 具体的に言ってしまうと背徳的なモノ。

 もう、ぶっちゃけてしまえば、不貞なドロドロ……ネトラレが大好物なのである。

 

 

 

 女王がネトラレ好きとか、それどうなの? 控えめに言っても国滅びません?

 

 


 そのような指摘、もっともだろう。

 王位継承、血みどろ錯綜、ハニートラップの連綿による国家の大混乱なんて、火を見るより明らかである。


 しかしながら、長きに渡り国が安定しているのは、その嗜好が二次元の範囲で収まっていたからである。

 そういった系の物語を読んだり、舞台を見に行ったりなどの、あくまで架空のものでその欲望を満たしていたのである。

 

 これがあの冷徹な女王なの? と、我が子であるエリザさえドン引きな顔で、トリップして垂涎していたことはありはしたのだが……。


 ともかく伴侶との仲は良好であり、数百年前に先立たれてからも愛し続け、貞節を保ってきたのである。

 

 ……で、あったはずなのだが。


(よりによって、どうしてこのタイミングなのよ……)


 落胆せずにはいられない。

 娘の結婚式の直後、その伴侶となった相手と何故不貞を働こうとしたのか。


 現実と虚構の区別がつかなくなり、倫理にもとる行いを働く者もいるだろう。

 いずれこうなったとしても、正直、おかしくなかったかもしれない。


 だとしても、今日でなくてもいいではないか。


(いや、もしかして、だからこそなの……?)


 頭を悩ますエリザだったが、彼女の前で、母はぽつりと独白する。


「……そ、それに、エリザちゃんに隠れて、彼女とそういうコトできると思うと……思うと……はぁはぁ」

「ネトラレどころか、ネトリにまで目覚めたのッ!? ふむふむ、そっかあ、なるほどね☆……もう最悪なんだけどッ!?」


 頭の痛くなる疑問を、下の下を行くトンデモ回答で氷解させて下さったお母様に、エリザは泣き叫ばずにはいられない。


「だ、大丈夫よエリザちゃんッ! こんな気持ちになったの、今日が初めてだからッ! エリザちゃん達ふーふにだけだからッ! わたくしがこういうコトに走るのは、彼女にだけだと断言できますッ! 一人娘の温かな家庭を幸せの絶頂にぶち壊すッ! 控えめに言ってもマジ最高だわッ!」

「お母さまッ!? !?」


 トンデモ発言に驚愕するエリザを前に、ツェペシュが恥ずかしそうにもじもじする。


「あ、あらやだ、わたくしったらはしたない……。なんてことを口走って……」

「ホントに何言ってるんですかッ!? なに言ってるんデスかッ!?」

「じょ、冗談よッ! 冗談に決まってるじゃないエリザちゃんッ!? だから全力で揺さぶるのやめてええぇッ!?」

「十重二重に縛った鎖を、いい笑顔で引き千切って、冗談なんかと流せますッ!? いなぁッ!?」


 ヴァンパイアの全力で、母をがくがくと揺さぶるエリザは、もはや半泣きだ。

 衛兵や臣下たちに、「礼を言うわ。でも、これ以上は無用よ。疾く失せなさい」と、威厳たっぷりに命じた姿が遥か過去のように思えてくる。

 というか土下座でもなんでもしてやるから、誰か助けてほしいくらいだ。


「先立たれたあなたの伴侶も、草葉の陰で冷や汗ですよッ!? 顔を覆って慟哭ですよッ!? 化けてでるかもしれないですよッ!?」

「……え? こんな醜態、あの人に見られるかもしれないの……? ……はぁはぁ」

「いやぁッ!? ひぎゃくせいよくもぉッ!?」


 どんどん開く、母の変態趣味という名のパンドラの箱。

 処理しきれなくなってきたエリザの頭は、どんどん幼児退行してしまう。


「やだぁっ! こんなママやだぁっ!?」

「やだもうっ。エリザったらママだなんて……。確かに毎晩夢の中で、幼女で妃なあなた様と、脱がせっこしながらクローゼットの中でナイショのお医者さんごっこしてる時にそう呼ばれてはいますが……。実際にそう言われると、ちょっと照れ――」

「死ねッ!」

「単刀直入な殺意もイイッ!?」


 目覚めるや否や属性盛りすぎのカオスな夢を白状したクリスを、お花畑な頭ごと失神させ直すも、事態はもう収拾がつかない。

 

「もうやだっ! もうやだぁっ! えりざもうお家帰るぅううッ!」

「いやここあなたの実家ッ!? って、ねえ、エリザちゃんッ!? エリザちゃあああああんッ!?」


 母の指摘する声に耳も課さず、幼女と化したエリザは、わんわん泣きながら夜空へ飛び去って行ったのだった……。




***




 夜空に飛び立つ夜の王。


「……」


 その姿を、ソレはじっと見つめていた。


 その身に課せられた、使命のため。

 果たさねばならぬ、償いのため。


 その姿を、ずっと見ていた。


「……(ドン引き)」


 子供のように号泣する様に、正直引き気味になりながらも。

 踏みとどまり、頑張って、じっと見続けていた。





救いようのないロリコン「全世界のロリコン淑女&紳士のみなさんッ! 長らくお待たせいたしましたッ! 続編ッ! わたしたちの物語の続編が開始されましたよーっ! 物語は一度幕を閉じた後。いうなれば、これは続編という名のエピローグッ! ハッピーエンド至上主義なお話のそれは、砂糖菓子よりも、あまっあまだと相場は決まっているのですッ! さあ、目指せ朝チュンッ!」

鬼嫁と化した合法ロリ「……そうね。冒頭からお前、一体誰と、ちゅんちゅん目指していたのかしら……?」

救いようのないロリコン「い、いたのですかッ!? 幼女になって夜空に飛び立っているはずじゃッ!?」

鬼嫁と化した合法ロリ「ここはあとがきのような謎空間だからね。そういうのは関係ないのよ。……で? なにか、申し開きは?」

救いようのないロリコン「ち、違うのですッ! 違うのですよッ!? あれにはやむにやまれぬ深く悲しい事情があったりなかったりしてですねッ!?」

鬼嫁と化した合法ロリ「ふーん? 悲しい事情を押し隠すときって、これでもかって目が泳ぐのねぇ?」

救いようのないロリコン「ひぃッ!? まずい顔してますッ!? 幼女がしちゃいけない顔してますッ!?」

鬼嫁と化した合法ロリ「ここで本編の憂さを晴らしてやってもいいんだけれど……。あたしは甲斐性のあるお嫁さんですもの。それは容赦してあげる」

救いようのないロリコン「あ、ありがとうございますッ!」

鬼嫁と化した合法ロリ「というわけで、次回、続・ロリっ子ヴァンパイア(略)、エリザ、嗜虐の宴に狂喜乱舞する。それでは愚かな人間ども。また、麗しき月の下で会いましょう?」

救いようのないロリコン「不穏なんですがッ!? 予告不穏すぎるんですがッ!? わたし■されるんじゃないんですかあああぁッ!?」



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