愛の結晶だあああぁあッ!
「うふふふふふふっ!」
瞳のハイライトを消し、殺戮を謳い始めたヘタレ騎士の姿に、ヴァンパイアが動揺する。
邪竜の一撃により砂漠を掘削した大きなクレーター、その底から猛然と駆けあがってくる獣の如き勢いに、彼女は上擦る声を抑えられない。
思わず旧・ヘタレ騎士、現・バーサーカーが守ると叫んだ相手である、旧・邪竜、現・邪竜兼喜びぴょんぴょん幼女のゲヘナへと声をかける。
「ね、ねえちょっと!? コイツなんだかヤバくない!? ねえッ!?」
「ふははッ! 恨みや嫉みを極端に恐れていてな? 追い込まれると我が身可愛さに、対象を抹殺し始めるのだっ! そんなところもめちゃカワだろうっ?」
「んなわけあるかああぁあッ!? お前、頭ぶっ飛んでんじゃないのッ!?」
「あ、気を付けるがいい」
ニコラの殺意を乗せて投擲された魔槍が、ヴァンパイアの喉元へと跳ぶ。
「ヒィッ!?」
ギリッギリのところで、彼女はどうにか回避する。
ハラリ、舞い落ちた銀の長髪。
彼女は血の気が引く音を確かに聞いた。
「キサマこそ頭がぶっ飛ぶところだったな? 物理的に」
「あ、ああうぅぅ!?」
ヴァンパイアは幼児退行して涙を浮かべた。
飛び抜けた異常者との対峙に、覚えたことのない恐怖に、牙の覗く小さな口から、あり得ない保身が飛び出てしまう。
「き、聞きなさいッ! このあたしは姫なのよ!? ヴァンパイアを統べる現女王、その娘なのよッ!?」
「王族だと? やはりキサマは……」
なにか勘付いた様子のゲヘナを無視し、ヴァンパイアはニコラの反応だけに注視する。
彼女が保身第一の人間ならば、ヴァンパイアたちからの報復を恐れ、その姫に手を出すことなどできやしないだろう。
そう推測しての叫びだったのだが。
「うふふっ! 王族ならば、尚も良しッ! 王位継承ッ! ドロドロ策謀ッ! 犯人候補は無量大数ッ! あたしは恨みを買いにくいッ♪」
しかして予想は外れ、警告は火に油。
狂気の笑顔を浮かべたニコラは、勢いを増して迫ってくる。
それが怖すぎて、ヴァンパイアは更に説得を重ねるしかない。
「き、聞きなさいッ! 王位継承もなにも、あたしは一人娘なのッ! お母さまは無節操じゃないから、他所に子供なんていないしッ! ヴァンパイアは女王に忠誠を誓う一枚岩ッ! だから、あたしに手を出せば、ヴァンパイアたちが黙っちゃ――」
「それならそれで、滅殺するだけ♪ 断末魔すら微塵に砕いて、微分子すらも残さないっ♪」
「ああああああぁッ!? もうなんなのよッ!? なんなのよもおおおぉぉッ!?」
まったく話が通用せず、ヴァンパイアは泣き喚く。
そもそも、異常なほど保身に走るニコラにとって、一撃をくらわせた時点で対象を報復の可能性とともに排除するということは確定事項であり、もはや交渉の余地などないのである。
自分が死ぬか相手が死ぬかのデッドオアデッド。
それまで、彼女は止まらない。
どちらかが敗北するまで止まらないのは、一般的な騎士と同じであるのだが、しかし、彼女は幾分以上に狂気が過ぎていた。
交渉が無意味と悟ったヴァンパイアは、ヤケクソ気味に号令をかける。
「ああもう行きなさい下僕たちッ! あの化け物に圧倒的な力を示し、ただの痴女に戻してやりなさいッ!」
「「「」」」
号令に応え、佇んでいたブラッド・アーミーたちが、ニコラ目掛けて一斉に雪崩れ込む。
数を数えることすら飽くような集団に膨れ上がった血の軍勢。
対するニコラは舞い戻った槍を手に、躊躇なく只中へと突き進む。
「生きてないなら恨みを買わない。やりやすい。だから、思う存分……ッ!」
歓喜に震え、喜びに沸き立ち、彼女は凶悪に槍を奮う。
相手取るのは意志無き兵隊。
しかし、その一体一体は強靭無比。
ヴァンパイアの祖先たちが吸血した人間のコピーが、このブラッド・アーミーたちだ。
古今東西、歴戦の強者たち。
並みの冒険者では歯が立たない、無敵の軍勢。
しかしニコラは、ただの一人でその無敵を食い殺す。
「消えろおおあああぁああッ!」
咆哮と共に槍を奮う様は、まさしく狂戦士。
一切合切、後先など考えず、目前の動く全てを反射を超えるスピードで蹴散らしていく。
すべては、愛すべき日常のため。
そこで、愛する人と生きるために……ッ!
「!? こ、こんな無理くりッ!?」
「すごいぞすごいぞニコラっ♪ 頑張れ頑張れニコラっ♪ わああああっ!」
たじろぐヴァンパイアに対し、ゲヘナは歓声を上げてはしゃぎまわる。
無邪気に喜びながら、胸を張って威張り散らす。
「ふははっ! どうだっ! ニコラはすごいだろうっ! めちゃカワだろうっ!」
「……認めないわけには、いかないようね」
「そうだろうそうだろうっ! ……やらぬぞ?」
「いるかッ!? あんなバーサーカー誰が欲しがるかッ!? あたしはアイツ一筋よッ!」
「おお、そうだったなっ! 許せ!」
発言の後、口を滑らせたことに気付いて真っ赤になるヴァンパイアへ、ゲヘナは謝罪する。
その後、ゲヘナは彼女の意中の相手について聞いたことを思い返す。
「さて、なんだったか。キサマの思い人とやらは」
考え込んでいたゲヘナは、思い当たり、ポンと手を打つ。
「そうだ、思い出したぞっ!」
「な、なにがよ?」
「たしか、ろりこんと言っていたなっ!」
「ちょッ!?」
ヴァンパイアがツッコむが、時すでに遅し。
無邪気にはしゃぐ悪意無き幼女の言葉にて、すべては凍り付く。
ニコラはギギギと顔を動かし、得体の知れない者を見るような目でヴァンパイアを見つめた。
「……需要と、供給?」
「い、いや! その!? え、えっとね!?」
「照れる必要などないだろうっ! そのろりこんとやらと結ばれるために、キサマは全霊を賭けているのだろう? その身に負担をかける、秘奥までつまびらかとして!」
「……つまびらかに、するために?」
「「「「」」」」
ガタガタと震えるニコラの周囲では、意志も感情もないはずのブラッド・アーミーたちが互いに抱き合って震えていたり、事実に耐えられずぶっ倒れたり、はあはあしたりしていた。
そんな様々な感情に晒されたヴァンパイアは、もう耐え切れなくなり、涙全開で金切り声を上げるしかない。
「うっ、うっさいッ! 好きになっちゃったんだから仕方ないでしょッ!? 大好きなんだからしょうがないでしょッ!? なに見てんのよッ! 真面目に戦いなさいよッ! もうお家帰りたいよおぉぉッ!」
「ご、ごめんなさい……」
「「「「」」」」
あんまりに取り乱すヴァンパイアの姿に、ニコラとブラッド・アーミーたちは頭を下げて謝った。
その後、「それじゃあ、いっせーのーで」と、戦闘を再開する。
再開される戦闘を眼下に、ヴァンパイアは羞恥の残る顔で息を切らす。
「ああもう、ホンットに調子狂いっぱなしよ! 偉大な夜の王としての」
「という設定なのだろう?」
「設定とか言うなあ! ……ああ、もうダメ。連日のツッコみで声帯が」
「うむ。やはりキサマ、苦労しているのだな?」
「そう思うならツッコませるようなことしないでよッ!? お願いだからッ!」
喉のダメージを押してでもツッコんでくるヴァンパイア。
取り合わなければそれで済むだけなのだが、そうしてくるあたり、芸人気質が板についているようだ。
それはさておき戦闘の軍配は、依然ニコラに上がり続けていた。
破竹の勢いで血の軍勢を抹消していく彼女の頼もしさに、ゲヘナはワクワクが抑えきれない。
「うむうむっ! これはもう、勝負はついたようなものだなっ!」
浮かれあがるゲヘナ。
彼女へのご褒美は何がいいだろうかと、早くも思案し始める。
とりあえずヘルシーでフルーティーなフルコースは確定である。
他にも彼女が望むならば、嫌悪する肉料理に挑戦してやってもいいほどだ。
そうしてルンルン気分なゲヘナに対し、調子をどうにか取り戻したヴァンパイアは不敵に笑う。
「ふふんっ。果たしてそうかしら?」
「そうもなにも、不安要素はまるで見当たらぬだろう? 会敵する者、会敵する者、例外なく絶対に逃がさないと、急所を貫き一撃で抹消し続けているではないか?」
「う、うんまあ、命のない人型相手とは言え、躊躇いなく殺戮を続ける残虐性は、このあたしからしても恐ろしいんだけどね……?」
ヴァンパイアは口元を引きつらせた。
「だけど。手にした凶器こそ、曝け出された急所でしょ?」
「? なにを――」
丁度その時、数体の人型を斬り殺したニコラへ、背後から一体の人型が大太刀を振り下ろしていた。
「そんなものおおぉッ!」
だがニコラは異常な保身の力にて、気配で危機を察知。
すぐさま反応し、振り向き様に魔槍を突き出す。
そうして、得物同士が切り結ぶ。
魔槍の切れ味は抜群。
すぐさま得物ごと相手を真っ二つにすると思われた。
しかし、そうはならなかった。
「ッ!?」
目を見張るゲヘナ。
その視線の先で、魔槍ミルクトゥースが、大剣に触れた先から、激しく発光し始めたのだ。
その輝きは、蝋燭が散り際に激しく燃え上がるのに似ていた。
ヴァンパイアは、ニヤリと笑う。
「そこに竜が宿るのなら、命無くても斬り殺す。それが竜殺しでしょう?」
「なるほど、ドラゴンキラーか!」
その特性により、ゲヘナの乳歯、竜を素材とする槍を折り砕きにかかったのだ。
「クククッ! いくらなんでも、無数の愚か者たちを前に、得物なしでは対抗できないでしょう!? さあ、餌食になりなさいッ!」
勝ち誇るヴァンパイア。
その狙いに気付くが、時既に遅く。
竜殺しを正面から受け止めた竜の宿る魔槍は――砕け散ることなく、逆に竜殺しを食い殺した。
「なッ!?」
あり得ぬ光景と打ち震えるヴァンパイア。
彼女の眼下で、何事もなかったかのように、無傷の魔槍は殺戮を継続する。
「ど、どうしてッ!? 相打ったのは、確かに竜殺しだったはずッ!? ならば、手折られぬ道理など……ッ!?」
「時にだ。キサマは、その竜殺しが一体なにで構成されているか、知っているか?」
「な、なに……?」
鼻っ柱をへし折られたヴァンパイアに、ゲヘナは語る。
「竜とは伝説の存在。その鱗は金城。有象無象の刃では鎧通すこと相成らぬ。伝説に対抗できるのは、伝説だけなのだ」
「! ま、まさか……」
「そうだ。ドラゴンキラーの素材。それは、竜族の体の一部だ」
「ッ!?」
「自らでは敵わぬからと敵の力を頼みとするとは、愚かさここに極まれりだろう? しかもそれを、凡庸な魔物どものみならず、我ら伝説にも例外なくずけずけと! 人間というのは、これだから……ッ!」
ゲヘナは、心底愉快そうに、そして物悲しげに笑った。
彼女はすぐさま胸を張り、傲慢を見せつけて嘲笑する。
「強者が弱者を蹂躙するのは世の常。そして、あれに見えるは封印前、全盛期の俺で形を成した魔槍ッ! 同じ伝説を相手取ったとて、そこいらが敵う道理などありはしないのだッ! ふははは――」
「あ」
「もうなんだっ。今いい気分だったというにっ」
頬を膨らますゲヘナ。
不満を漏らす彼女に、ヴァンパイアは無感情に告げる。
「折れたわよ、全盛期」
「な、なにッ!?」
指差された先へ身を乗り出せば、魔槍ミルクトゥースが真っ二つに叩き折られたところだった。
「あ、あああ〜〜!?」
「ふふんっ! いくら強くても、何度も集られてはタダでは済まなかったみたいね?」
膝をつくゲヘナと入れ替わるようにふんぞり返ったヴァンパイアは、鼻高々である。
「そして、戦場で得物を失った。それが何を意味するかくらい、分かるわよね……?」
無慈悲な夜の王は、哀れな仔羊を見下す。
魔槍ミルクトゥースには完全な再生能力があるが、無数の白刃が迫るこの状況、間に合うとは思えない。
つまり、ニコラに残された道は、
――無手でつかまつり、迫りくる得物を砕き折る尋常を越えた狂気のみッ!
「……え」
ヴァンパイアの視線の先で、ありえなさが爆発する。
「たとえ得物がなくたってッ!」
ニコラは魔槍が使い物にならぬとみるや、砕け、鋭利となった柄にて手近の一体の頭蓋を貫き即殺、地へと縫い留める。
それが血霧となって消滅する前に、躍りかかる数体。
「わたしにはッ! このッ!」
それらの刃を躱し、蹴落とし、白刃取り、少女の身に似つかわしくない、鬼神の如き体術にて、攻撃を無効化する。
「拳がああぁああッ!」
そして、僅か怯んだように見えた人形たちを、逃さぬと、瞬く間の内に絞め殺し、殴殺し、抹殺した。
獣のようにその身一つを以てして、血塗れの英雄たちを蹂躙し始めるニコラの姿に、ヴァンパイアは何度目かの驚きを隠せない。
「嘘……!?」
「嘘なものか。ニコラこそが保身に全力を注ぎ、非効率な訓練のみでカンストする、めちゃカワな人。ならば、あらゆる状況への対処、習得していても不思議ではないだろう?」
魔槍抹殺のショックを引きずり、涙目ながらゲヘナは語った。
その予想の通り、ニコラは徒手での戦闘訓練も積んでいた。
アダマンタイト・ジャイアント相手の戦闘で示していたが、あのように力任せだけでなく、適切な体捌き、反撃に移りやすい回避の仕方など、書物により研究、そこに我流を加え、既にその動きは達人の域であったのだ。
それもこれも、すべては保身に重きを置くが故。
保身に全力全開であるということは、尋常ならざる臆病さを持つということであり、本来は褒められたものではない。
しかし、裏を返せばそれは、生きることに全力を注いでいるという、称賛されるべき性質にもなるのである。
生きることを諦めないということ。
それは当たり前のようでいて、人間にとって、なかなかに難しい。
それを願う本能の力が生まれながらに強く、生まれ落ちてより願うようになったこと。
生への飽くなき執着が生み出したのが、ニコラの尋常を超える力なのであった。
加えてニコラの原動力には、今、新たなものが生まれていた。
愛だ。
愛しい人を守りたい。
それもまた、生物が本能的に抱く思い。
それを自覚し、そのために勇気を奮うと誓った者は、光り輝く。
その輝きは、何者にだって穢せはしない。
愛する者のためならば、人は、どこまでも気高く、そして、汚くなれる。
「だけど、あるに越したことはないからッ!」
ニコラは蹂躙するだけでは飽き足らず、人形たちが持っていた武器を奪い取り、それを利用して戦い始めたのだ。
「その卑劣さ、まさしくめちゃカワっ! もう大好きっ! 大好きだっ!」
騎士は、剣、槍、斧など、他のクラスに比べて、多くの武器を扱うことができる。
徒手による戦いを極めているニコラではあるが、やはり、これだけの大軍を前にするのならば、得物があったほうが殺戮しやすいのである。
「ふッ!」
隙をついて、番えた弓から放った銀の矢。
それがジェヴォーダンに命中し、射抜いた地点に穴が開く。
「ぐるあぁあ!?」
「こいつッ! 銀の武器まで利用してッ……!?」
銀とは、ヴァンパイアの弱点の一つ。
水流とは違い、直接的な攻撃力を持ち強力な損害を与えることが出来るのだ。
ブラッド・アーミーは、その身も得物も真紅に染まっており、いったいどこが銀なのだとツッコまれるかもしれないが、武器の特性はそのままコピーしているため、本来の物と同じく効果覿面なのである。
ツッコみが入るほど凄まじいのは、的確にそれを銀と見抜いたニコラの審美眼なのだ。
ジェヴォーダンから溢れ出る血液、湧き出でる無数の軍隊。
だが、その軍隊も、ニコラの猛攻により端から瓦解し始めていき、湧き続けていると言うのに、今では数を大幅に減らしていた。
だからこそ首魁を叩く絶好だと、ニコラは判断したのだろう。
「ふっ! はっ! せええぇいっ!」
佇む人型の群れを蹴散らしながら、銀の武器なら種類を問わずに奪取し、ジェヴォーダンへとやたらめったら的確に投擲する。
「ぐルルるあアァァッ!?」
「ちいぃぃッ!」
苦悶の咆哮を上げるジェヴォーダンと、歯を食いしばるヴァンパイア。
猛攻に晒されながら、しかしジェヴォーダンは、先にゲヘナから受けた攻撃により損傷激しく、移動することがままならない。
そうして地味に窮地へと陥るジェヴォーダンの元へ、やがてニコラは辿り着く。
「クッ!?」
接近を許し、恥辱に染まるヴァンパイア。
「ふふっ! うふふっ! ああ、ようやっと。ようやっと待望のメインディッシュッ!」
対し、ハイライトを消し、頬を上気させたニコラは、槍を手に跳躍する。
「狼まるまる串刺して、愛がドバドバのハッピーエンドッ♪」
「どこがハッピーッ!? ドバドバなのは愛じゃなくて血液じゃない!?」
猟奇発言を放って浮かれる姿に、ヴァンパイアはぎょっとした。
そうして慌ててニコラへ叫ぶ。
「と、ともかく! 『動くな』ッ!」
「!」
瞬間、ジェヴォーダンと、ヴァンパイアの真紅の瞳が妖しく輝く。
目にしたニコラは、途端、槍を投げようとする体制のまま中空で硬直した。
そして、そのまま受け身を取ることすら許されず、地面へと落下する。
「ッ!? ッ!?」
「ニコラッ!?」
指一本すら動かすことができなくなり、戸惑いを露わとするニコラの姿に、ゲヘナが悲鳴をあげる。
「ふんっ。いくら強くても、騎士は騎士。魔法耐性の低いクラスには、これは効果覿面でしょう? 勝てると思って油断したわね」
首の皮一枚繋がり、正直腰を抜かしかけながら、それを悟られぬよう、ヴァンパイアは全力でカリスマぶる。
そんなこととは露知らず、ゲヘナは顔をしかめて牙を剥く。
「チャームかッ!? 身動きを封じるとは、なんて卑怯なッ!?」
「ふんっ。なにムキになってるの? 人間如きにこのあたしが本領を発揮してあげたのよ? 感謝こそされ――」
「だ、だがな? やはりどれだけアピールされても、俺は絶対に靡くことなど――」
「しつこいわあぁあッ!」
申し訳なさそうにするゲヘナに、ヴァンパイアは辟易さ全開でツッコんだ。
「それはもういいホントにくどいッ! キメゼリフなのよッ!? 夜の王っぽい、キメッキメな嘲りゼリフなのよッ!? 言う端から全部雰囲気ぶち壊してくれてからにッ!? ちょっとは遠慮しなさいよもおおぉッ!?」
地団太を踏むヴァンパイア。
満身創痍っぽく見えていたのだが、割合元気そうである。
これならもうしばらく、ツッコみに全力を発揮できるだろう。
ゲヘナは、ちょっとほっとした。
「……まあ、いいわ。うん、もういいことにしてあげる、特別に」
大きく肩を落とし、諦念に包まれるヴァンパイア。
だがその直後、瞳に凶悪を躍らせる。
「――今から全てひけらかし、満足するから」
そして、牙を剥き出すと同時、膨れ上がる闇の気配。
ジェヴォーダンは大きく天を仰ぐと、遠吠えするように大口を上げた。
しかし、その口腔より生じるのは、天地を震わす轟きではなく。
「グッ、グッグるルルッ、ルるぅ……」
聞く者を恐怖の底へ突き落すような、不気味な声と、闇。
「これはッ!?」
「こらえなさい。耐えなさい。そうすれば、極上の晩餐にありつけるわ。我らを辱めた身の程知らずの愚か者。その断末魔を堪能できる……ッ!」
ヴァンパイアが恍惚の吐息を漏らす。
蕩ける瞳が待望するのは、口腔にて凝縮される、測りようのない、闇。
あれは、先にゲヘナへ対し、うち放った闇の炎。
邪竜たる身には毛ほども響かぬ一撃ではあったが、しかし、人の身ならば話は別。
あんなもの、まともに食らってしまえば……!?
「ニコラッ!」
痛む体を押して、駆け出すゲヘナ。
だが、その歩幅は彼女に届くには小さすぎた。
「あうッ!?」
駆けるゲヘナだったが、激戦の後の体には、それだけで負担が大きく、小石につまずいて転げてしまう。
「間に合うものかッ! 合わせるものかッ! そこで無様に這いずって、ただただ悲嘆に暮れるがいいわッ!」
「ニコラッ! 動けッ! 動くのだッ! 」
ヴァンパイアの嘲りが響く中で、ゲヘナは負けじと懸命に声援を送る。
「俺はキサマを認めているッ! キサマのすべてを信じているッ!」
「ッ! ッ!」
「矮小な分際で、この俺のすべてを手に入れた果報者ッ! この俺に愛を教えた愚か者ッ! ならば果たせッ、責任をッ! 思いの強さで、闇夜を蹂躙してみせろッ!」
「……!」
「……焼き尽くせ。ジェヴォーダンッ!」
少女の懇願を前に。祈るような命令を前に。
しかして、ヴァンパイアたちは容赦せず。
「グルルァアアアッ!」
渾身の一撃を、容赦なく見舞う。
「全部捧げるッ! だからッ! ニコラあああぁあああッ!」
***
闇の魔性の渾身が、ちっぽけな人間を呑みこんだ。
闇の全開、最大火力。
一人に対し、お釣りがくるほどのオーバーキル。
「……ふん」
朦々と煙が立ち込める光景をヴァンパイアは見つめていた。
その表情は、勝利を手にしたにしては、やや陰っているようにも見えた。
「相手を選べ。ただの人間風情が、このあたし相手に粋がり続けられるものか」
ヴァンパイアは吐き捨てる。
邪魔者は失せた。
だから後は、邪竜から生き血を奪いこの場を去るだけ。
本来、気にしていたのはあの幼女好きの少女のことのみ。
だから、他はどうでもいいのだ。
この胸に去来する、言いようのない不快感など。
「……ぁ」
眼下には、生気を無くし、滂沱することしかできない邪竜の姿。
あとは抵抗もままならない彼女から、生き血を奪いこの場を去るだけである。
元来の茶目っ気も無邪気さも、全て壊したあの少女から。
「……くそッ!」
ヴァンパイアは不快感に瞳を瞑った。
そして、誰に向けてか吐き捨てる。
「……愚か者がッ! 愛を語ったのなら、責任を果たしなさいよッ! 本当に……ッ!」
「……ええ。それはおっしゃる通りです」
「!?」
声が響いた。
聞こえるはずのない、ねじ伏せたはずの人間の声が。
驚愕を露わとし、瞳を開く。
先で、変化が起こっていた。
煙の立ち込める中心に向かい、砕け散った魔槍、その粒子が意志を持ったように殺到していた。
闇色に鳴動しながら、しかし、どことなく優しく、なにかを守りたいというような意志が見えた気がした。
「絶対に守りたい。添い遂げたい。鍛え上げた力は、今この瞬間のためにあったのかもしれない。そう思いました。だけど、わたし一人だけでは。人のみの力では、届かなかった」
かと思うと、輝きが溢れる。
一筋、二筋と、煙の中から閃光が飛び出し、溢れんばかりの輝きが、立ち込めていた煙を吹き飛ばした。
「だけど今、この身は人のみに在らずッ! それだけに在らずッ! だから粋がり続けますッ!」
輝きの色。
それは、決して神聖な物ではない。
人の放つことのできない……とある存在にしか許されない、暗黒の色。
嫌というほど見せつけられ、打ち据えられた存在の前触れに、ヴァンパイアの身に怖気が走る。
「う、嘘でしょッ!? そんな、ありえないッ!?」
「嘘でもないッ! 夢でもないッ! そうだなんて、言わせるものかッ!」
そして、凛然とした声と共に姿を現す――代行者。
「ゲヘナちゃんが捧げてくれたッ! 応えたいと切に願ったッ! だからできちゃった幸せの形ッ!」
すらりとした肢体にまとうのは、闇より深い、漆黒の無敵。
有象無象には決して打ち破ることのできない、傲慢を滲ませる、金城の鎧。
纏った少女は――闇夜へ向かって咆哮する。
「これは愛だッ! わたしとゲヘナちゃんで産み落とした、愛の結晶だあああぁあッ!」
そしてここに、騎士は果たした。
幻の上級クラス――竜騎士へのクラスチェンジを。
***
上級クラス、竜騎士。
伝説とされる竜の力をその身に宿すことができるという規格外のクラス。
しかして、クラスチェンジ条件は不明。
相成れたという話も、とんと聞かない、伝説のようなクラスであった。
その力が本当ならば、聖騎士をも凌ぐ特殊性。
追い求める者は数知れず、片っ端から書物を調べる者もいたのだが、終ぞ辿り着けたものはいない。
「……だと、言うのにッ!?」
人知れない秘境の砂漠。
その片隅にて繰り広げられた死闘の最中。
終焉をブチ当てたと信じたヴァンパイアの面前で、その伝説は顕現した。
怖気づく彼女は知らない。
竜騎士へのクラスチェンジ条件。
それは、人間と竜が、何の打算も下心もなく、仲良くなること。
そして、竜が体の一部を素材として自ら捧げること。
あとは、共通のクラスチェンジ素材、マスターストーンを使用することだ。
ニコラとゲヘナは互いを思い合う仲となった。
そしてゲヘナのニコラのためにという思いに、彼女の乳歯を素材とした魔槍ミルクトゥースが従い、ニコラの元へと終結。
あとは、アダマンタイト・ジャイアント戦で、チェンジストーンと同じくとして、実はドロップしていたマスターストーンを、鎧を纏う暇は惜しかったが、せめていつかの本で読んだように弾除け程度になればと、ニコラが無い胸の谷間に根性と血涙で無理やり押し込んでいたのが反応したのだ。
「ニコラっ! ニコラだっ! ニコラが応えてくれたっ!」
嬉し涙を流しながら飛び跳ねるゲヘナを眼下に、随所に竜を思わせる意匠をこらした鎧を纏ったニコラは、新たとした得物を手に、地を駆ける。
「終わらせるッ!」
手にしたのは、邪竜の牙を思わせる、鋭利で強固な長槍。
それをブチ込むと、ひるむことなくジェヴォーダンへと向かっていく。
「ふんっ! 人間風情が……誰に物を言っているッ!?」
ヴァンパイアは、牙を剥き瞳を真紅に輝かす。
夜の王に盾突く愚か者を前にしているというのに、どうしてかその顔は、嬉しそうに見えた。
「その場で無様に杭となれッ! 『動くな』ッ!」
頑として射抜き続けてくる命知らずの瞳へと、ヴァンパイアは再び下賜する。
だが、それは通用しない。
「効くものかああぁッ!」
「ッ!?」
むず痒いと叫びながら、ニコラは突進を続けていた。
「キサマこそ誰に物を言っているッ! 伝説をかしずかせようなどと、無礼が過ぎるぞッ!」
叫ぶゲヘナ。
彼女には、一切の精神操作、幻系の特技は効かない。
その力を宿したニコラにも、それは同様となったのだ。
「クハハッ! 生意気ねッ!? ならば来なさい見せてあげるッ! 夜の王の全力をッ!」
「言われずともにッ!」
凶悪に笑う夜の王に、愛する邪竜の力を共にした騎士は立ち向かう。
ニコラは槍に力を込め、躍りかかる。
「はあああああぁッ!」
「ああああああぁッ!」
相打つ槍とかぎづめ。
だが、それは錯覚。
ジェヴォーダンのかぎづめは、ガラス細工のように、粉微塵に砕かれる。
「なッ!?」
「だあああぁッ!」
どころか、刹那の驚愕の暇に、巨木のごとき前腕ごと切り落とされた。
「グるぁああァッ!?」
苦痛の咆哮を轟かせるジェヴォーダン。
それが耳障りだと言うように、巨体の下へ潜り込んだニコラは、槍に力を凝縮。
「うおおおおぉぉッ!」
そして、臨界に達し、明滅し始めた槍を、渾身の力と共に振り上げる。
全てを込めた渾身に、巨体が浮き上がり、宙を舞う。
「だけで、終わらせないッ!」
元々の人間離れした身体能力に加え、邪竜の力を助けとしたことにより、ニコラの筋力はさらに増強。
勢いのままに跳躍。
打ち上がるジェヴォーダンを追い越し、天高くへと飛び上がる。
「ッ! 誰に許しを得て、あたしの頭上を取っているッ!?」
ヴァンパイアが牙を剥いて吠える。
「つけあがらせるかッ! のぼせさせるかッ! らしく、地べたでのたうつがいいッ!」
応じて、主人の意に沿った忠犬が、烈火の咆哮をうち放つ。
「グルウアアアアアアッ!」
負荷を考えない無理筋で、口腔に高速で闇を凝縮。
その分を教えてやるため、満月を背とした愚か者へとうち放つ。
迸り迫る、闇の濁流。
普段ならば、迷わず命乞いを見せるところ。
しかし、今のニコラは違う。
臆病さは変わらない。
逃げ出したいのも変わらない。
だが今、その傍らには、何物にも代えられない、掛け替えのない――
(守りたい、人がいるッ!)
「だからわたしはあの子のために、ちょっとは虚勢を張ってみせるッ!」
「見せつけてやれニコラッ! 俺たちの愛の力をッ!」
眼下からの叫びに、体が昂る。
(その全てを、力に変えるッ!)
槍を構えたニコラは、勢いに乗って、真正面から闇へと挑む。
「うおおおおおおおぉッ!」
「このおおおおおおぉッ!」
激突する、漆黒と闇夜。
譲れないのはどちらも同じ。
どちらも、愛する者のために、一歩も引けない。
だからこの勝敗を分けるのは、どちらが今、手を取り合えているか。
愛する者と、ハッピーエンドを望めているか。
よって、勝利するのは、未だ闇の中でもがき続ける夜の王ではなく――
「な、なんでッ!? どうして押されて……ッ!?」
「決まっているッ! これがわたしとゲヘナちゃんの、ラブラブパワーだからだあああぁあッ!」
ニコラの槍が、闇の光をかき散らし、食い破る。
闇の光を辺り一帯へ着弾させながら、夜空の処刑場で、禁忌の獣を串刺しに処した。
「きゃああああああッ!?」
轟く泣き声。
完全に機能を停止、大穴を開けたジェヴォーダンは、地面へと叩きつけられ、ヴァンパイアは投げ出された。
「ニコラーっ!」
着地して息を切らす彼女の元へ、ゲヘナが駆け寄り、飛びついた。
受け止めるニコラ。その頬へと、ゲヘナは嬉し涙全開でほおずりをする。
「すごかったぞっ! かっこよかったぞっ! めちゃカワだったぞっ!」
「ありがとう。ゲヘナちゃんの応援のお陰だよ」
「なんとも素直なお礼の言葉ッ! そうして油断させ、とんでもないゲスな行いをしてやろうと画策する、見え透いた下心もとってもめちゃカワッ!」
「い、いや。あの、今のは素直に言っただけなんだけど……」
そうしていちゃつくニコラたち。
そんな彼女らへと、視線を向ける者がいた。
「ふんっ。見せつけてくれるじゃない……!」
砂に塗れたヴァンパイアが、よろよろと立ち上がっていた。
だが、溢れんばかりの殺気は、既に消えていた。
「うむっ! 憚ろうなどと思わんぞっ! だって俺たちはラブラブなのだからっ!」
「ふんっ。初めからそうやって素直になっておけばいいのよ、まったく……」
ヴァンパイアはそっぽを向き、しかし、優しげに微笑んでいた。
「うむうむっ! さあニコラっ! 俺はまだイチャイチャしたいぞっ? 頬ずりするか? いい子いい子がいいか? それとも膝枕が」
「ヒイッ!?」
「おっと、これはダメだったな。許せ」
「あの、どうして膝枕がトラウマなの……?」
ゲヘナはこほんと咳払いをし、ニコラへ抱き着く。
「さあさあ、望むものを言ってみるがいいっ! 先のように一個だけではなくていいぞっ! キサマの望むことなら、なんだってしてやるのだからっ! これでもかと甲斐性を見せつけるぞ、この妻は!」
「うん、ありがとうゲヘナちゃん。わたし嬉しいよ」
「うむうむっ!」
ニコラは幸せそうに微笑み、ゲヘナへ愛しそうに頬ずりをした。
「ったく、見てらんないわね。もう好きなだけやってなさい」
ヴァンパイアはやれやれと、満足そうに呆れかえる。
「もう行くとするわ。……本当に教えられたものね。愛があれば、叶うって」
ヴァンパイアは決意を胸に、去って行こうとする。
その背後で、ニコラは言う。
「あのね、ゲヘナちゃん。先んじてわたし、欲しいものがあるの」
「うむっ! 言ってみるがいいっ♪」
「うん、それはね……?」
「アイツのイノチダアアアアァッ!」
「ヒイイィッ!?」
途端、膨れ上がった殺意を向けられヴァンパイアが飛び上がる。
しかし、尋常でない殺気を発していたからこそ、初手に気付くことができ、放たれた魔槍の一撃を回避することに成功した。
腰を抜かしてへたり込みながら、ヴァンパイアは声を荒げる。
「な、なななんでよッ!? もう話は終わったじゃないッ!? このあたしが手打ちにしてやったじゃない特別にッ!?」
「なにも終わってなんていないよ……? そう、報復の可能性と共に、あなたの命を終わらせるまではねえええぇッ!?」
「いやああぁッ!? なんなのよコイツッ!? 最初も思ったけど、最近流行ってるのッ!? 残念美人ってヤツううぅぅッ!?」
ブンブン槍を振り回すニコラから、ヴァンパイアは涙を流して逃げ回る。
「帰るううぅぅッ! もうお家帰るうぅぅッ! お母様ッ! おかあさまああああぁッ!?」
「大丈夫、帰してあげるよ?」
「えっ? ほんとぉ?」
「うん。ただし、この地面にだけどねッ!?」
「土に還れとッ!? そんな引っ越しいやあああぁッ!?」
狂気の騎士により、カリスマ総崩れとなったヴァンパイアは、幼児退行して泣き喚く。
そんな二人の様子を、ゲヘナは微笑ましげに見守っていた。
「うむうむっ! 強敵と書いて友と読むッ! 雨降って地固まるとは言い得て妙よッ! 鬼ごっこをする仲になるとは素晴らしいっ!」
「そうだよっ! ほんとに鬼ごっこだよっ! 命かけてのデスゲームだよおおぉぉッ!?」
「ふははっ! なにはともあれ、一件落着だっ! うむうむっ!」
「――そうだったら、よかったのにネ」
刹那、響く声。
「えっ?」
その声に、ニコラもゲヘナも動きを止める。
虚を突かれ、無防備となる二人。
対し、部外者だったからこそ。
親愛を抱いていなかったからこそ、ヴァンパイアは反応する。
「ジェヴォーダンッ!」
迷うことなく叫んだ焦りに、ボロボロのジェヴォーダンが飛び起きる。
そうして三者の前に躍り出る。
それと同時、ぶち当たる――水流。
清らかに過ぎる、聖水すら霞むほどの神聖なそれが、猛威となってニコラたちを襲ったのだ。
「グルアァアッ!?」
悲鳴をあげるジェヴォーダン。
その体が水流に当たる端から、分解されるように崩れ落ちていく。
ヴァンパイアは苦悶に吠える。
「クッ!? 『ナイト・シールド』オオォオッ!」
ジェヴォーダンがいけないとみるや、なけなしの力を使い、障壁を構成するヴァンパイア。
しかし、聖を打ち崩すはずの絶壁は、ひび割れていく。
「こ、この力ッ!? まるで、アイツの神聖さと同じ……ッ!?」
「キサマッ!?」
窮地であることを体が理解し、ゲヘナが手を貸そうとする。
しかしヴァンパイアは突っぱねるように叫ぶ。
「いらぬ世話ッ! それより早く逃げなさいッ!」
「そのようなことなどッ!?」
「うるさいッ! 悔しいけど、もうダメなのッ! こんなのッ! 長くは、もたな――」
言い終わる前に、障壁は突破され、猛威となった水流が襲ってくる。
「きゃああああああッ!?」
そうしてもみくちゃとなり、すべてが清流に飲み込まれる。
清らかな殺意に揉みしだかれ、洗われ、命が削られる。
やがて水が引き、どうにか立ち上がるニコラたち。
ジェヴォーダンは灰燼と帰し、その主も姿を消していた。
「い、一体なにが……」
「……アレだ」
何とも言われぬ表情で、ゲヘナが空を見る。
そこにいたのは――
青いチャイナドレスを纏う者。
見知ったはずの、女の子。
「――ボクは神龍。聖なる存在。悪しき異形の者どもを、この力で誅するものネ」
クォンが、敵になったのだ。




