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Lily×Monster ~モンスター娘と百合コメです!~  作者: 白猫くじら
ヤンデレ聖騎士×暗殺者ハウンドドッグ
24/58

甘く見たらダメなんだから


 決戦の果て。

 本気を超えた本気の力を見せ、敵うはずのない邪神を少女たちは遂に打ち倒した。


 未来をつかみ取った喜び。

 それに浸る前に、ゼロワンは言葉を漏らす。


「……師匠。ありがとうでした」


 瞳を閉じ、口にする。

 散っていった、自らの手で散らせた彼女へ、言葉を紡ぐ。

 

 感謝、そして懺悔の黙祷の後、ゼロワンは隣に立つ、愛しい少女へと向き直る。


「やったですね、ミリア。これでゼロワンたちは、ずっと一緒です」

「うん、そうだね」


 応えて彼女が笑顔を見せる。

 それだけで、ゼロワンの胸は温かくなった。


 以前なら、そんな気持ちに浸ってはいけないと、自身を戒めていた。

 だがゼロワンは、素直に生きると決めたのだ。

 そうして思いのまま、感じる温かさに微睡んでいると、


「……さてと。じゃあこの勢いで」

「です?」


 ミリアは、玉座に座し深くうつむいているセーラへ、剣を構えた。


「アタシたち以外のイノチ。ぜんぶぜーんぶ消し去っちゃおうね?」

「なぜそこでジェノサイドッ!?」


 幸せそうにハイライトを消す姿に戦慄する。

 確かにセーラはどうにかしないといけないが、無辜の民まで巻き込む必要はない。

 だから凶悪発言のスケールを世界規模とする必要はないはずなのだが。

 

「ゼロワンたちは暗殺依頼を暗殺にきたんですよ!? なのに、どうしてそうなるです!?」

「より強く愛を覚えて、より強く決意したの。意思を持っていれば、生きていれば、ゼロワンちゃんに害成す可能性はゼロじゃない。だから事前に摘み取って、ふたりっきりの世界を作るんだ! ユートピアを作るんだ! ウフフフッ!」

「血に彩られた世界が楽園であるものですか!? その病んだブレインに、少しは常識というものをインプットしてほしいです! できる女オーラを隠しきれないカリスマティーチャー、ゼロワンが教えますから!」


 と、ゼロワンが必死で彼女を説得しようとしていると、



「そ、それは参観可能じゃろうか!?」



 突如、熱に酔ったような昂った声が響き渡る。


「……です?」


 その出所を探すと――はあはあと息を荒げ、頬を上気させる姫君と、目が合った。


「……え、えーっと」


 狂王の卵として知られる彼女が、どうしてそんな顔をしているのだろう……?

 言葉に詰まるゼロワンへ、セーラは興奮した様子で身を乗り出して言う。


「どうじゃ、どうなのじゃ!? もちろん、タダでとは言わぬ! 金ならばわらわのポケットマネーからいくらでも……!」

「!? いくらまで出せるです!?」

「ゼロワンちゃん、気にするところはそこじゃないよね!?」

「はっ!? そ、そうでした……」


 思わず乗せられてしまったゼロワンをたしなめた後、思いがけないセーラの挙動により冷静さを取り戻したミリアが、剣を構え直す。


「姫さま。いったい何を企んでいるのですか?」

「企みなどしておらぬ。お主と同じように、遂にわらわも生まれ落ちたというだけのことじゃ」

「は?」


 眉根を寄せるミリアへ、セーラは全身全霊をもって返答する。



「そう、わらわは今、生まれ落ちたッ! 愛し合う少女たちの語らいを眺め、キュンキュンしたいと強く望んでッ!」



「え、えっと……です?」

「いや、ですから……は?」


 セーラの言葉に他意のないことは、溢れんばかりの熱意と、気力に満ち溢れた瞳が物語っていた。そして、だからこそ意味不明だった。

 唖然とするゼロワンたちの前で、セーラは夢見る乙女な表情で語り始める。


「手に手をとりあい、決して諦めず、熱き思いを滾らせて、敵わぬはずの難敵を打ち倒したその姿ッ! ほとばしる愛ッ! ああなんと素晴らしきことかッ! わらわの心は初めて満たされ、幸福を知り、生き続けたいと切に願ったッ!」


 セーラは拳をぐっと握り、本人はいたって真面目なつもりの言葉をのたまう。


「愛し合う少女たちを眺め、充足感に包まれていくこと……。そう、それこそがわらわの生きる道ッ! 天命であると悟ったのじゃッ!」

「いや、天命なんて自分のせいにされてもって、神様が困っている気がするですよ?」


 ゼロワンはおずおずとツッコむが、しかしセーラはまったく聞いていなかった。

 自分の世界に入ったまま、ゼロワンたちへ謝罪する。


「お主らにはすまぬことをした! 暗殺依頼、もちろん取り下げよう! で!? それでどうなのじゃ!? 参観はさせてもらえぬじゃろうか!? 小窓からそっとのぞき見させてはくれぬじゃろうか!? クローゼットからでも可ッ! なのじゃッ!」

「いやその、さっきのは言葉のあやというですか……」

「密室、やがていい雰囲気になり、『だ、だめだよ! そこからの授業は、成人コースだよぉ!』と、イケナイ講座を開講するのじゃろう!? は、破廉恥なっ! じゃが、思いあう少女たちのほとばしり、邪魔する権利は誰にもないのじゃ! ひゃっほーうっ! 百合園最高おおっ!」


 きゃあきゃあと黄色い声をあげながら、身をくねらせるセーラ姫。


「なんですか、この人……」


 開いた口がふさがらないとはまさにこのことだ。


 セーラは確かに生まれ変わったようである。


 だが、再び狂王の素質を携えてしまったようだ。

 それも、とってもアレな感じの。

 

 とんでもないものを生み出してしまったんじゃないだろうかと自責の念にとらわれるゼロワンの前で、アレな素質を発揮するセーラは息を荒げながら言う。


「贅沢は言わぬ! 全年齢コースまででよいから! わらわはただの観葉植物じゃから! じゃからわらわに充足を! 天命を!」


 いや、そんなことをおっしゃられても。


 ゼロワンに応じるつもりは全くない。

 もちろん、ミリアだって――


「分かりました」

「です!? ミリア!?」


 うなずく姿に、思わず飛び上がる。

 どうしてあんな馬鹿げた発言に応じるのか、彼女を問い詰めずにはいられない。


「なにを言ってるですか!? そういうのはもっといっぱい愛を育んでから、静かな部屋で二人っきりで――じゃなくって! あああああ!? ゼロワンこそなに言ってるですかああ!?」


 動揺し、自滅するゼロワンをおいて、許しを受けたセーラが嬉々として申し出る。


「おお、礼を言うぞ! なれば、恥を忍んで申すのじゃが。リクエストが許されるならば、時刻は深夜よりも昼下がりがよいな。うむ、なんぞ背徳的でよい気が――」

「そのおかしな頭、胴体と切り離しましょうねー?」

「おかしな!? それお主が言う!?」

「おかしいな!? どっちもどっちですよ!?」


 ミリアにセーラがツッコみ、セーラにゼロワンがツッコむというツッコみの連鎖が起きる中、ミリアは剣を手に玉座へと駆けて行く。


「愛する者のために刃をふるうその姿、まさに至高ッ! じゃが、生きる意味を見出したばかり、わらわは果てるわけにはいかんのじゃッ!」


 セーラは、その場でひしと構え、


「じゃから誰かー!? 誰か助けてー!?」

「恥も外聞もないですね!?」


 打って変わって助けを求める。

 

 だが、命乞いなど全くの無意味。


「さあ、断頭のお時間ですよー?」


 柔らかに微笑み、しかし、微塵も容赦することなく振り下ろされた刃が――止められる。



「誰かだなんて、寂しいこと言わないでほしいなー?」



 瓦礫の下から現れた、羽衣を纏った褐色幼女が、剣を両手で受け止めたのだ。


「お、おお! 見知らぬ幼女よ、礼を言うぞ!」


 感謝するセーラに対し、幼女はぷっくりとほおを膨らませる。


「ぶーぶー。ひどいよ姫さまー。こんなに魅力的な子のこと、忘れちゃうなんてー」


 聖騎士の一撃を封じたまま、ふりふりとお尻を可愛らしくふり、ウィンクする。


「その人をからかうような立ち振る舞い、も、もしや!?」

「師匠ですか!?」

「ぴんぽーん。ムーちゃんですよー?」


 羽衣幼女――ムーは、正体を言い当てられ、嬉しそうにはしゃぐ。


「!」


 そこで仕切り直すべきと悟ったらしいミリアが、悔しげに後退した。

 だが、その目に宿る殺意が、溢れんばかりに増幅していく。


「閻魔様に土下座して蘇ったの? いいよ、何度だって叩き落してやるからッ!」

「にゃっははー。相も変わらずなマンティコアアイだねー。ムーちゃん身震いしちゃうよー」

「嬉しいッ! モっとガタガタイわセてアゲるッ!」

「同じ言葉でも、憎悪と殺意を込めるとここまで違って聞こえるんだねー……」


 体躯が小さくなっている分、攻撃を避けやすいのだろう。

 斬りかかるミリアの攻撃を、ムーはひょいひょいかわしていく。

 

「ちょっと落ち着いてほしいなー。ムーちゃんもう敵意ないからさー」

「どの口がそんなこと!」

「まあそうだよねー。うーん、でもホントなんだけどなー?」


 その言葉が真実であれ、嘘であれ、彼女を前にして冷静さを欠くのは得策ではない。

 ゼロワンはミリアに制止をかける。


「ちょ、ちょっと待ってくださいミリア! いったん落ち着くです!」

「だけどこのクソアマは!」

「そ、その、全年齢までなら、後でなんだってしちゃいますから!」

「……も、もう。しょうがないな」


 ミリアは頬を染め、剣を収めた。


「なれば昼下がりの宿の一室で、親子プレイをいけるとこまで所望する!」

「あなたに言ってるんじゃないですよ!?」


 馬鹿げたことを抜かすセーラへ、ゼロワンは罵声を浴びせた。

 セーラは照れた様子で謝罪する。


「おお、誤解させてすまぬ。わらわはただの傍観者。わらわ自身でなく、お主とミリアでのそれを、のぞかせてほしいという意味じゃ。あ、親子プレイというのは、なにやら母×娘が至高と言っておった兵がおったので――」

「しゃらっぷです! しばしお口にチャックですっ!」

「お、おおう……。時折見せる芯の強さ。これはたまらぬ……」


 満足げな表情でセーラは押し黙った。

 今後、この国はどうなるのだろうか……?


「ひ、姫さま、すっかりお変わりあそばされて。ムーちゃん悲しいよう……」


 目元を抑えるムーであるが、言葉とは裏腹、笑いをこらえているのが丸分かりだった。


「さておきー。弟子ちゃん、ありがとねー」

「どういたしましてです。師匠、ご無事だったんですね。ですけど、そのお姿は?」

「ぶーぶー。力を放ったキミが言うー? 愛の籠った一撃は、弟子ちゃんの力が混ざったことで、時間を戻すのに特化したみたいでさー。時をぐんぐん遡らされたムーちゃんは、邪神と堕ちる前まで戻っちゃったみたいなんだよー」

「堕ちる前? と言うことは師匠って――」

「ふっふふーん。これでも昔は、ぴっかぴかな神様だったんだからねー?」


 ムーは服をひらひらさせながら見せつけるように回る。


「それよりどうどう? 変じたんじゃないナチュラルな褐色ロリ姿! 人の子には出せない、長い時を生きるが故の屈指のプリティーさがあると思わないー?」

「え、えっと、とりあえず街を歩くときは気を付けてくださいね? 世の中にはロリッ子好きのゴスロリ服な見た目お嬢さまとかいますから。人だろうとモンスターだろうと、きっと神様だって関係ないですから」


 過去にその少女にハウンドドッグだと名乗った後も、「だとして、ロリっ子には違いないのでしょう? ならば些末事ですッ!」と、とびかかってきたし。


「? 何のことかわからないけど、一応気にしておくねー?」

「……それで? そんなロリ神がなんの用? 目的はなに?」


 ビーストモードを解除したミリアが、しかし殺意だけは残して尋ねる。


「実はムーちゃん。キミたちにツガイになってほしかったんだよー」

「つ、ツガイです!?」


 若干のアダルトさを含む言葉に、ゼロワンは思わず真っ赤になる。

 ミリアも多少頬を朱に染めているが、因縁の相手を前にしているからだろう、動揺を抑えようとしながら聞き返していた。


「それって、どういう意味?」

「言葉の通りだよー。守り守られ、弟子ちゃんを幸せにしてほしかったんだー」

「ゼロワンを、ですか?」


 決戦の果ての意外な言葉にきょとんとするゼロワンへ、ムーがうなずく。


「そうだよー? ムーは弟子ちゃんを弟子にした。でもそれは、組織からの依頼、そして弟子ちゃんの希望に沿った結果。ムー自身は、弟子ちゃんに暗殺なんて危険なこと、してほしくなかったんだよー」

「え? でも、師匠はゼロワンに優しく丁寧に暗殺者の技を」

「それは、少しでも弟子ちゃんが生き残る確率をあげるため。応じるだけの駒にはさ、それくらいしかできなかったからねー。やめてなんて言えなかったしー。たとえ邪神と堕ちたとして、神様って、他者の願いに応えることが存在意義だからさー」


 ムーは吐き捨てるようにつぶやいた。

 彼女らしからぬ悔しげな様子に、ゼロワンは思わず尋ねてしまう。


「あの、師匠は、どうして邪神に……?」

「にゃはは。秘密は、魅力的なレディーにつきものなんだよー?」


 はぐらかすムー。

 ひょうひょうとした態度の中、その瞳の奥に哀しみをひた隠しているようで、ゼロワンはそれ以上聞けなかった。


「……ごめんねー。あんまり気持ちのいい話じゃないから、遠慮してほしいなー?」


 申し訳なさそうに言った後、ムーは説明を続ける。


「こんなどうしようもないムーちゃんだけど、慕ってくれた弟子ちゃんのことは、とっても大事だって思えたんだー。殺伐とした世界に生きるムーに、癒しを与えてくれた弟子ちゃんには、これでも感謝してるんだよー?」

「師匠……」

「でもね、ムーには応えることしかできないから。自分から手を伸ばすことができないから。だから、ムーは望んだんだ。弟子ちゃんを、光の世界へ連れ出して、一緒に幸せになってくれる、誰かが現れることを」

「クソアマ……」

「え、えっと、感じ入ったような顔をしてもらって申し訳ないけど、その呼び方で全部台無しだからねー?」


 引きつった顔をした後、ムーは続ける。


「だけど、それは不可能だろうって思ってた。だってそうでしょー? 誰が暗殺者を幸せにしようだなんて思う? そんなの、頭がおかしな人でも思わないよー?」

「ゼロワンちゃんゼロワンちゃん、もしかしてアタシ、ディスられてる?」


 再び剣を引き抜くミリアの言葉を、ムーは否定する。


「にゃっははー。違うよー? 褒めてるんだよー。命を奪いに来た暗殺者に告白して、何よりも大切、殺されたって嬉しくて、あなたのためなら何を敵に回しても関係ない、なんてさー? ホント、予想外も予想外! 覗き見ながら、ムーちゃん思わず笑っちゃったよー」

「も、もしかしてずっと見てたですか!?」

「監視してたって言ったでしょー? にゃっははー。弟子ちゃんもまんざらでもなさそうだったからー、これならいいかなーって?」

「おのれムー! 一人で堪能しおって! 許せぬ! せめて雰囲気だけでもおしえてくれぬか!? なるべく詳細に頼む!」

「なーいしょ。ああ、あの時のやりとり、とっても素敵だったなー。にゃっははー」

「お、おのれーっ!」


 わざとらしく言うムーの言葉に、セーラは悔しそうに歯噛みしていた。


「アタシたちの語らいは、お前たちの見世物じゃ、ないンだけド?」

「ああ、また獣と堕ちかけて!? ど、どうどうです! これ以上の混沌、ゼロワンには御せる自身がないですよ!?」

「がんばれがんばれー。弟子ちゃんならやれるってー」

「誰のせいだと思ってるですか!?」


 参戦しようとするミリアを必死で押し止めるゼロワンを笑ってから、ムーは説明を続ける。


「その子の思いは本物だった。それならばって思ったけど、でも、それだけじゃ託せなかった。弟子ちゃんのことを大切にしながら、ずーっと幸せを紡げるように、どんな敵にも――神様にだって負けないくらい、強くあるように。それが必要だったんだ」


 そこは絶対に譲れないと、ムーは言う。


「ハウンドドッグは幻のモンスター。ウチのボスがそうだったように、その力を狙う相手だって他にもいるかもしれない。いた場合、死の化身なんて呼ばれる存在を御そうなんて言うんだから、とてつもなく強大で、計り知れない相手なのは目に見えてる。だから、妥協なんてできなかったんだー。でも、丁度良かったなー、姫さまが追加オーダーを出してくれて。おかげで自分自身で確かめることができたもん」

「すべてはお主の手の平の上じゃったということか」

「怒ってるー? ごめんなさーい」


 顔をしかめるセーラへ、ひらひらと謝罪する姿に、ゼロワンは思わず指摘する。


「いや、師匠? いくらなんでも謝る時はちゃんとした態度で」

「良いッ! おかげで少女たちの語らいを、これより愛でることができるのじゃからッ!」

「……」


 セーラは『やってやったぜ!』とでもいうような清々しい顔で親指を立てた。

 いや、その頭がやってやられたのではないだろうか?


「わーすっごくいい笑顔ー。姫さまの在り様を心配してた騎士団長さんも、見たらきっと喜ぶよー? 『ひ、姫さま!? なんたる姿に!?』って」


 それはきっと、あまりいい意味ではないのだろうなと、ゼロワンは予想した。

 そしてなんだかもうグダグダだったので、早くお開きにしたくなった。


「みなさん、色々とお世話になりました。というわけで、もう帰っていいですか?」

「待ってゼロワンちゃん、もう一つ残ってる。組織からのゼロワンちゃんの排除依頼が」


 眼光鋭くミリアににらみつけられるが、しかし、ムーはひらひらと手を振る。


「ああ、あれはもう気にしないでー。排除って言っても、下っ端の弟子ちゃんは重要機密とか知らないしー。単に組織から追い出してくれってだけだったからー。ゼロワンちゃんが家庭に入ったので、万事解決ー」

「な、なんだかいろいろ、納得いかないのですが……」

「結婚式には呼んでよねー。ムーちゃん感動のスピーチ披露しちゃうよー? ……あららー? これはまずいかなー?」


 と、そこでムーが顔色を曇らせる。


「? どうしたですか?」


 小首を傾げた後、ゼロワンの耳に、いくつもの音が聞こえてきた。


 最初はざわざわとした音に聞こえるだけでよくわからなかった。

 だが、ほどなくして気付く。

 

 これは、地を踏み鳴らす複数の足音。

 そして、こすれ合う鎧の音。

 人々の喧騒の声だ!


「むう。どうやら兵たちが帰還したようじゃな。この足並み、騎士団長が率いていると見える。転移先に魔法を使える者らがいたか」


 遅れて気づいたセーラは眉をひそめた後、ゼロワンたちへ向き直る。


「お主ら! この場はわらわが上手くやる! わらわの威光で、すべてをひれ伏せさせて見せよう! 転移させる故、一所に集まるのじゃ!」

「は、はいです!」


 澄んだ瞳となったセーラの言葉に、ゼロワンは思わずうなずいた。

 

 こちらには聖騎士のミリアがいる。

 エリクサーがあるため、回復しながら戦えば、勝てる可能性はある。


 だがそれを、セーラは望まないだろう。

 そもそも権力を握っているのはセーラではない。

 女王に事が知られてしまえば、ゼロワンたちはお尋ね者、幸せな生活など夢のまた夢だ。

 無用な戦闘を避け、彼女に応じて退散することが、今は最善であるだろう。


 不承不承ながら了承した様子のミリアが、ゼロワンの隣へと寄り添った。


 しかし、ムーだけはその場から動かない。


「師匠!? どうしたですか!? 早くするです!」

「いくら姫さまでも、これだけ城が崩落してたら取り繕いようがないでしょー? 一人遊びでやりました、なんて言い訳が通用するわけないしー」


 そして、ムーは笑う。


「だから咎人、必要だよね?」

「お主……」

「なに言ってるですか!? 師匠、早く!」


 ゼロワンの声に応えることなく、ムーはセーラの元へと歩み寄る。

 そしてどこからか取り出した縄をセーラへと手渡した。


「姫さま決死の大捕り物により、狼藉者は捕縛。次代の女王を狙った罪と、城を崩落させた罪で、極刑ってことでどうー?」

「じゃ、じゃが!」

「……お願い。きっと償いにもならないだろうけど、このくらい、させてほしいんだ」


 悲しい言葉。

 それは、いったい誰に向けたものなのだろう。


「……く!」


 セーラは顔を苦渋に歪ませ、しかし、それ以上なにも言わなかった。


「なに言ってるですか!? そんなのふざけるなです! 師匠! ゼロワンと一緒に!」

「ゼロワンちゃんッ!」


 駈け出そうとするゼロワンの体を、ミリアが抱きしめて離さない。


「なにするですかミリア!? ぎゅーは後で気の済むまでするです! 朝までだって許すです! だからやめるです! 放すです!」

「そう、それでいいんだ。弟子ちゃんが一緒にいるべきは、ムーじゃないから」


 儚げに笑ってから、ムーは折り目正しく頭を下げる。


「ふつつかな弟子ではありますが、ムーの大事な人だから。だからどうか、一緒に幸せになってあげてください。よろしくお願いします」

「……安心して。身も心も、魂も、幸せ色に染め上げるから」

「……うん。ありがとうね?」


 ムーは、嬉しそうに笑った。


「師匠! 師匠!」


 こんな形での離別なんて望んでいないと、ゼロワンはじたばたと暴れ続ける。

 しかし、ミリアにぐっと抱きしめ続けられ、彼女の元へとたどり着けない。

 やがてその体が、セーラの呪文によって、淡い光に包まれていく。


 白く染まる視界の先で、ムーは恥ずかしそうに頬を染めた。


「最期だから、言わせてね? ムーは、ずっとあなたのことを――」

「やです! やあです! そんな、最期なんて!」

「……『テレポート』ッ!」

「師匠っ! 師匠ー!」


 そして、慕い求める声は、掻き消えた。


***


 夜半の城での死闘。その翌日。

 温かな日差しに包まれた街外れ。


「……でしたよね?」


 一本の大木の真下にて、ゼロワンは肩を落とした。

 

 その隣で、


「にゃは? なにがー?」


 メイド服をきた褐色幼女――ムーが小首を傾げた。


「なに可愛く小首を傾げてるですか!? だから昨日! 今生の別れをしたじゃないですか!?」

「あー、あのことだねー。確かに見る人が見ればそう見えたかもねー」

「百人中百人がそう答えるですよ!?」

「まーまーそう熱くならないでー。正直あの場で果てるつもりだったんだけどねー? ムーちゃん時間を遡ったでしょー? だから今、ムーちゃんは邪神でなく、神々しい神様、それに近い存在に戻ってるんだよねー。そして、姫さまが望んでくれたから、それに応じてごっどぱわーでちょちょいのちょいっとできましてー。なんて言うんだっけ、こういうの。でうすえくすまきなー?」

「師匠こそチートもちじゃないですか……」


 ゼロワンは、呆れるように吐き捨てた。


 もちろん、ムーが無事であったことは喜ばしいことだ。その点に関しては文句などない。

 しかし、あの後、祝賀会を開いてくれたミミックたちの前で、それどころでなく号泣し続けて台無しにしてしまったのが申し訳なかったり恥ずかしかったりで……。


「……というか、もし師匠に戦う気が合ったらゼロワンたちは――」

「んーん。あれはムーの完全敗北。キミたちの勝利に間違いないよー? そもそもあの時は力が不安定でー、制御できたのが奇跡みたいなものだから戦闘続行は不可能だったしー。……下手したら城ごとごっそりなくなってたかもー」

「い、今さり気に怖い事いったですか!?」

「にゃははー。気のせい気のせいー」


 顔を青くするゼロワンを笑ってから、後ろ手に手を組み、ムーは身を乗り出してくる。


「それより弟子ちゃんはなにしてたのー? ちなみにムーちゃんは、姫さまに迷惑かけちゃったお詫びとして、可愛いメイドさんになって現在お使い中ー」

「ゼロワンは、その……待ち合わせ中、です」

「ふーん……」


 ムーはじとっと、責めるような視線を向けてきた。


「な、なんですかその目は!?」

「べっつにー。師匠と今生の別れをした後にさー? いちゃらぶデートしようなんて考えた立派な弟子に、ムーちゃんプンスカなんてしてないですよー?」

「い、いやそのこれは、涙に濡れる薄幸の美少女ゼロワンを、ミリアが元気づけようとしてくれた結果で! 別に乗り気だったわけでは!?」

「よく言うよー。それだけめかしこんどいてさー」


 ふくれっ面のムーが攻めるように視線を向けてくる。


 そんなゼロワンは、真っ白いワンピース姿だった。

 頭にかぶる真っ白いハット。

 髪は綺麗に肩口で切りそろえられ、目元を覆っていた髪の毛も愛らしくカットされ、真紅の丸い瞳がばっちり露わとなっている。


 暗殺者だったときのダークな印象も、死の化身であるハウンドドッグとしての矜持もすでになく、日差しの下で無邪気に舞い踊る妖精といった表現がしっくりくるくらいだった。


 黒もいいけど、清廉潔白な元暗殺者にはきっと白も似合うはずと、ミミックとその恋人がコーディネートしてくれた結果で、実際ゼロワンもまんざらでもなかったりする。


「真っ黒い服が好きだったのにさー、今は頭の先からつま先に至るまで全部真っ白コーデだしー。インナー、ショーツだっておそろだしー」

「!? ど、どうしてそれを!?」


 思わずスカート部を押さえるゼロワンを見て、ムーは愉快そうに笑った。


「にゃっははー。図星図星―」

「な!? 謀ったですか!? ううう!」

「ごめんごめん。あなた色に染めてオーラ全開の姿をされてたからさー、ちょっとだけイジワルしたくなっちゃったー」

「え! あの、えっと……」


 ムーが別れ際に放った言葉を思い出し、困ってしまうゼロワン。

 その様子に、ムーは安心するよう言ってくる。


「心配しないで。弟子ちゃんはあの子に託したから。場をかき乱すのは好きだけどー、幸せなカップルに水を差すほど、ムーちゃん空気読めなくないしー」


 くるくると回って言った後、ムーは物憂げに零す。


「……この思いはムーちゃんの宝物として、大切に仕舞っておくねー? そのくらいは、許してくれる?」

「……そんなの。もちろん、いいですよ?」

「にゃっははー。ありがとー」


 からっと笑った後、ムーは背を向ける。


「じゃあ、ムーちゃんもう行くねー。有り余るのぞき見衝動を暴走させて、秘密の花園な語らいに、空気の読めないおバカ姫が水差してるかもしれないしー」

「あ、あははー、ですよー……」

「あ、でもねー……?」


 ムーは思い出したかのようにゼロワンの元へ駆け寄ってくると、耳元へ口を寄せ、



「半端な幸せに浸ってるようだったら、ぜーんぶ、奪い取っちゃうからね……?」



 幼い声で、淫靡に囁いた。


「で、です!?」

「にゃっははー。じゃあねー! 末永くお幸せにー!」


 真っ赤になるゼロワンを置いて、ムーは今度こそ元気に駆けて行ったのだった。


 どうやら自分は、やっぱり師匠には敵わない気がする。

 底知れなさにドキドキしていると、やがて待ち人が現われた。


「ごめんゼロワンちゃん! 遅くなっちゃった!」


 息を切らせて駆けてきたミリア。

 その服装を見てゼロワンは息をのむ。


 白銀の鎧を脱いだ彼女は、黒を基調とした私服に身を包んでいた。

 黒髪長髪の彼女が全身を漆黒に包んでいれば、一見印象が重たくなりがちである。

 だが、それはゼロワンと並び立つことを考えたコーディネート。

 並び立った二人は、とても絵になっていた。


 二人で一人。揃って完璧。

 そう示されているようで、ゼロワンは嬉しくなってしまう。


「あれ? どうしたのゼロワンちゃん?」

「んーん。なんでもないですよー?」


 照れくさくて、ゼロワンは思いを隠してみることにした。

 恋人同士だけど、ちょっとくらいいいだろう。



 ……が、



「……そっか。はい、どうぞ?」

「……です?」


 ミリアが手渡してきたものを思わず受け取る。

 

 それは、彼女の剣だった。


 意図するところが分からないゼロワンの前で、ミリアはほほ笑み、ハイライトを消す。


「フフッ!」

「ひぃ!?」


 ゴキリと、首が折れんばかりの角度まで傾げるミリア。

 白昼の突然のホラー展開に、ゼロワンは粗相をしかけてしまう。


「な、なんですかミリア!? どうして突然!?」

「アタシ、言ったよね? 飽きた時には、殺してほしいって」

「そ、それが何ですか!?」

「……うん。白を切ろうと冷汗だらだらの姿もとっても可愛い。ああ、大好き!」

「いや冷汗は冷汗でも後ろめたさによるものじゃなくて、不穏なオーラを前面に押し出す恋人を前にした恐怖によるものですからね!?」

「フフっ! ゼロワンちゃん、アタシを見てそんなになってくれてるんだ? つまりアタシ、ゼロワンちゃんの心に踏み入っているんだ! はあぁー……」


 頬を主に染め、身をかき抱いて震えるミリア。


 ゼロワンはどうしていいかわからない。

 というか、誰だって成す術がないだろ、こんなの。


「え、えっと、どうしてこうなったか、説明してくれないですか?」

「……ニオイがするの」

「です?」


 小首を傾げるゼロワン。

 その胸元に、一瞬のうちにミリアは移動する。


「ゼロ距離ですっ!?」


 時間停止なんて使えないはずなのに!?

 怯えるゼロワンに身を寄せ、ミリアは鼻をすんすん鳴らす。


「ほら、やっぱり。……甘くて、可愛くて、うずうずする香りの中に混ざってる。あなたを寝取った、オンナのニオイが。ああ、鼻が曲がりそう……!」


 いや、ハウンドドッグという名に違わず、犬のように嗅覚に優れたゼロワンにだって、そんなニオイは嗅ぎ取れないのだが。ヤンデレとはどこまで規格外なのだ!?


「しかもこれ、あのクソアマのニオイだ。生きていたんだね、ゼロワンちゃんを、奪うために……」

「いや、それは違って……」

「ゼロワンちゃん、アタシに飽きたんだ。フフッ! フフフフッ!」

「だ、だからそれは誤解で……」


 ミリアは悲しげに笑い、そして瞳を閉じた。


「少しの間だけだったけど、でも、アタシは幸せだったよ。さ、せめて、殺意だけは偽らずに――」


 聞く耳持たない彼女の姿に、ゼロワンは遂に――ブチ切れる。


「あああああ! ミリアァァァッ!」


 感情を露わにするゼロワン。

 その姿に、ミリアが飛びあがった。


「レアレアな怒り顔!? 偽りのない怒号!? 好きぃ!」

「うるっさいです! ちょっとそこに座るです!」

「は、はいぃ!」


 たじたじとなったミリアが地面へ正座する。

 彼女へゼロワンは怒りをぶつける。


「言ったはずです! ゼロワンはミリアのものだって! ゼロワンはあなたのこと、死んじゃえるくらい大好きだって! もちろん覚えてるですよね!?」

「アタシがゼロワンちゃんの言葉、忘れると思う? 一言一句、速度まで、表情と共に脳裏に焼き付いてるよ? 完璧に再生可能だよ?」

「え……。そ、それはドン引きですけど……。でもその、それならなおのこと、ゼロワンの大好きも分かるですよね? あなたのこと、裏切らないくらいおっきいことが!」

「もちろんだよ! 愛してくれてありがとう!」

「ど、どういたしましてです! ……なのに! なのにどうして疑うですか!? どうして信じてくれないですか!? せっかくゼロワンたちは、幸せな未来をつかみ取ったのに!」


 このデートは、落ち込むゼロワンを慰めるためのものであったが、それだけではなかった。

 ミリアの要望も含まれていたのだ。


 お願いを聞くというゼロワンに対し、ミリアが望んだこと。

 それは、しばらくの間、恋人として過ごすことだった。


 偽りの恋人関係から始まった恋。

 あの時間があったからこそ今がある。

 だから、あれはあれで忘れてはいけないものではあるが、結婚する前に、正真正銘の恋人として過ごしてみたいとミリアは提案したのだ。


 だから今、思いに応えるため、デートをしているというのに!


「うう……。ゼロワンは、ゼロワンは悲しいですよ……」


 感情が抑えられなくて、膝をつき、涙してしまう。

 みっともないかもしれないが、しかし、止めることができなかった。


「……ごめんなさい」


 ミリアはゼロワンをそっと抱きしめた。


「大好きで、誰にも渡したくなくて。アタシ、一番大事なあなたの気持ち、見過ごしてた」

「うう、ほんとですよ。ほんとにほんとです……。ずっと一緒にいてくれるって言ったのに。バカミリア」

「ごめん、ごめんね。これからは、大好きをセーブするよ。暴走しないように、頑張ってみる」

「! です!」

「あいたっ!?」


 ゼロワンはミリアの額にデコピンをした。


「ゼ、ゼロワンちゃん? どうして?」

「ですです! そんなことしたら、ゼロワンほんとに寝取られてやるですよ!? 可愛すぎる未来のケモ耳幼な妻ゼロワンは、引く手数多のプリティーさなんですから!」

「そんな!? ダ、ダメだよ! やっぱりいやだよそんなの! アタシ、いったいどうしたらいいの!? お願い、なんでもするから行かないで!」


 涙目となってすがってくるミリア。

 そんな気弱な姿に、ゼロワンの胸にうずうずとしたものが浮かんでくる。


「……そ、そんなの、簡単ですよ」

「ホント!?」

「じゃあ、……してください」

「え?」


「だ、だから! ……キス、してください」


 真っ赤な顔でつぶやくゼロワンの姿に、ミリアは思わず素っ頓狂な声を上げる。


「え、ええ!?」

「ほら、早くするです! ゼロワンからは、したですけど。まだミリアからは、もらってないですから」

「で、でもその、アタシ。きっとあんなに上手くは」

「そんなの関係ないんです! ミリアにだからしてほしいんです!」

「わ、わかったよ。じゃあ、その、目を閉じて……」

「りょ、了解です……」


 ゼロワンは、ドキドキしながら目を閉じる。

 望んだのはゼロワンだが、しかし、鼓動が高鳴るのを抑えられない。


「え、えっと……失礼、します……」


 やがてその唇に、おそるおそる触れる感触。


 いつもはあれだけ強気なのに、いざとなるとへっぴり腰とか。

 でも、そこがとっても可愛くて。

 ゼロワンの心が、すごく、きゅーっとなった。


「……ん。……んん」


 たどたどしく、しかし確かに愛を伝えてくる、初心な行為。

 壊れ物に触れるようなそれが、しばしの後、終わる。


「え、えっと、その……お粗末さま、でした……」


 沸騰せんばかりに真っ赤になるミリアへ、ゼロワンは平静な顔をして答える。


「け、結構なお点前だったです」

「う、うん。その、それより、どうしてさせたのかな?」

「え、えっと、それはですね……」


 ゼロワンはコホンと咳払いし、おずおずと語る。


「マーキング、です」

「? それって、おしっ――」

「ち、違うです! 確かに最近危ないことは多かったですが、粗相はしてないですよ!? そもそも誰のせいだと思って――」

「わ、わかったから。ムキにならないで?」

「ですー……」


 うなった後、ゼロワンは説明する。


「ゼロワンはミリアのもので、ミリアはゼロワンのものです。だからそれを、他の人に見せつけるです。入り込む隙がないくらいイチャラブだって分かるように、互いの愛でマーキングしたらいいんですよ。ほら、完璧ですよね?」


 ゼロワンは得意げに胸を張る。

 ゼロワン自身は気づいていないが、その理論は穴だらけであった。

 しかし、彼女の姿が可愛かったので、ミリアは何も言わないことにしたようだ。


「ふふっ。そっか。ゼロワンちゃんは頭がいいねー?」

「当然ですっ! スマートなブレインをイチャラブにフル活用するジーニアスガールゼロワンとはゼロワンのことです! もっと褒めてくれてもいいんですよ? えっへへー」

「うん、いい子いい子ー」

「ですー……」


 頭を優しく撫でられ、外れとはいえ街中であるのを忘れ、耳と尻尾を表出させて、ふわふわしてしまいそうになるゼロワン。


「でも、ちょっとまずったねー」

「です?」


 ミリアの声に視線を向ければ、そこにはかけ迫ってくる見覚えのある騎士たちの姿が。


「よ、幼女とイチャラブちゅっちゅ、だとぉ!? 貴様、性懲りもなく!」

「おお! 今日は隊長がやる気にみなぎっている! これなら聖騎士だって!」

「もちろん、養子縁組はかわしてきたのだろうな!? 義母×義娘も至高であると、気づいたゆえの行為であらば……許すッ!」


 頬を緩める隊長の前に、部下たちが躍り出た。


「相も変わらずその思考か!? アタシらは許さねえよ!?」

「ちょ!? 待てお前たち!? どうして切りかかって!?」

「うるっさい! いい加減うんざりなんですよ! 『三度の飯より母×娘好きで、だらしなく笑う残念美人な隊長さんだわー! 従うあの子たちもきっと母×娘好きなのよキャーキャー!』って、後ろ指さされるのに飽き飽きなんですよ!」

「そうっすよ! ああもうやだ! お嫁いけない!」

「……? 母親と結婚すれば、万事解決だろう……?」

「言うに事欠いてそれか!?」

「そのきょとんとした顔やめろよ! ちくしょう、ふざけやがってぇええ!」


 ミリアたちに迫ることなく、内輪揉めを始める騎士たち。


「……」


 ミリアは剣を収め、何も見ませんでしたよとゼロワンへと向き直った。

 ゼロワンも、彼女に倣うことにした。


「じゃあ行こっか? ゼロワンちゃん、まずはデート、たくさん楽しもっ?」


 差し出された手を、ゼロワンは照れつつ、しかし、確かに握り返す。


「ですね。じゃあその、マーキングは、帰ってからに……」

「うんっ。ちょっと恥ずかしいけど。でも、早く夜にならないかな?」

「で、ですけど! その、今は全年齢コースだけですよ!?」

「う、うん。分かってるって」


 照れ笑うミリア。

 彼女へと、ゼロワンは精一杯のオトナレディな不敵な笑みを向ける。


「でも、覚悟するですよ? ハウンドドッグの愛の力に、無様に呆けて果てないように」

「ふふっ。ゼロワンちゃんこそ、アタシの愛、甘く見たらダメなんだから」


 互いの手のひらから伝わる体温に浮かされながら。

 元暗殺者は、ターゲットへ向ける感情を、殺意から愛情へ持ち替えて。


 ハッピーエンドを迎え、その先に待つ幸せな日々へと、溶けていくのだった。


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