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入れ替わりとキス



喫茶店で向かい合い座る俊哉と凪生。

この喫茶店は人形を捨てた、あの喫茶店。

相変わらず客足の少ない店内に俊哉と凪生以外にマスターと客が一人いるだけ。

ただこんな話をするにはこれでよかった。

人前で話すような内容ではない。

「…あんたも……」

俊哉の投げ掛けにゆっくり首を下げる凪生。

そしてコーヒーを持ってきた店長の腕を掴み、

「マスターもちょっといいですか。」

と凪生は呼び止める。

そしてお互いの鞄から出てくる例の人形。

「あれ?うちでゴミに出した人形だよね?」

マスターの疑問は俊哉と凪生の思いを確実なものとした。

「やっぱり捨てたんですよね。勘違いじゃなかった。」

凪生は恐怖からか涙が溢れ出す。

それをみた俊哉も頭を抱える。

そのときマスターが「これは呪いなんですか?」

と二人に聞いた。

「そりゃそうでしょ!それ以外ないでしょ!」

二人の重なった声にたじろぎながらも、マスターの疑問を口に出す。

「その割には……お二人とも呪われてる感じじゃないですよね。」

それは一体どういう意味なのか?マスターは続けた。

「一般的な呪いは最終的に死ぬものです。ですがお二人の呪いは共鳴してるときにどちらかが死なない限り生きてます。つまり、共鳴さえしていなければ死ぬのは片方です。」

凪生は涙をぬぐい耳をさらに傾けた。

「だいたいどのタイミングで共鳴するのかもわからない。そのタイミングさえわかれば、一生共鳴させないようにもできるのでは……?」

そのときだった。喫茶店の扉ががらんがらんと開き

君島と弥生が入ってくる。

凪生が連絡したようだ。

話は聞きましたと二人は同じ席に座り出す。

君島と弥生は顔を会わせ、「おそらく……」と声を会わせ話し出した。

「弥生と話したけど……二人は何か興奮してる時に共鳴してたような気がするんだよね。」





小中大学科学研究部。

椅子に座り、目隠しに心電図を取り付けた俊哉と弥生。そしてそれを眺める君島と弥生。

「二人の心拍数と共鳴が関係しているのかを確かめさせてもらいます。」

君島の声は続き、「弥生よろしく。」と指示を出した。

「今からお二人の心拍数を上げさせてもらいます。」

弥生は凪生の前へいき、小さな声で「ごめんなさい……」と行ったあとに凪生へ呟いた。

「……ブス。厚化粧、いきおくれ、妖怪ばばあ……」

弥生にはもう限界だった。

凪生も普段言われたら怒るが弥生の本当は言いたくない感じが伝わってしまっている。

これでは怒れない。

「時任。無理するな。それよりもっと簡単な方法があるぞ。」

そう言い俊哉は目隠しを外した。

「君島さん、心電図から目を離さないでくださいね。」

俊哉はそういうと、自分の指を二本かまえた。


目隠しをしてなにも見えていない凪生。

そのとき、なにかが勢いよく自分の鼻に入ってきた。

「ふがっぇ!!」

その状況に唖然とする弥生と君島。

「変な顔だなぁ!」

と爆笑する俊哉。

凪生は目隠しを外した。

鼻に突っ込まれた俊哉の指。

「この野郎……」血圧121

「ブタみたいな顔だなぁ」

「指抜けコラ!殺してやるこの××××!」血圧150

「鼻くそめっちゃついてるし」

「てめえに食わせてやるからなぁ!」血圧165


(共鳴)


「やっていいことと悪いことがあんだよ!てめえ本当にセンコーか!?」

また同じ台詞を言っている。それでもお構い無しの凪生。

「一回ぶん殴ってやるからな!」

右ストレートをかまえた。




「ダメだよ凪生ちゃん、共鳴してるんだから殴ったら殴り返されるよ。」

君島が間にはいるが、すでに俊哉の記憶は戻っていた。

「成功したな。君島さん、心拍数は?」

「165ですね。まあ、これだけではまだ。」

凪生は「次はあんたね。」と右腕右肩をまるで卓球選手のように開いてかまえた。

「覚悟っ!」

凪生の掌は俊哉の左頬に命中。

まるでミサイルがぶつかったような衝撃。

「さっきのお返しだ。くそ男!」

「……思いっきりやりやがったな……」血圧130

「鼻に指つっこむからだろうが!」

「血圧あげるためじゃねえか!」血圧155

「やりすぎなんだよ!」

「言葉使いどうにかしろ!女だろ!」血圧165


(共鳴)


「そんな口の聞き方しかできないから男がよってこねえんだよ!もっと慎ましく女らしく……」

同じ台詞が返ってくる。わかってはいるが何かいらつく。

「てめえいい加減にしろ!」

お互いの顔が睨むように近付いた。

「だからいい加減に……」

お互いの距離……0m。

「あっ!」「あっ!」

その声は目の前の光景に声を失った君島と弥生。

二人は早めに喧嘩を止めにいこうと思ったが……なぜか近付くことができなかった。まるで何か見えない壁のようなものに止められたような感覚だと君島と弥生は感じた。


くっついた二つの影。

くっついたのは俊哉と弥生の唇だった。



凪生は目の前で頭を抱えてしゃがみこむ俊哉に気づく。

記憶にはないがボロクソに言われてたにちがいない。

「あんた、謝るなら今のうちだからね!」

凪生は凄んだが、立ち上がった俊哉の顔は真面目な顔をしていた。

「……ごめんなさい。僕が悪かったです。」

俊哉のその意外な返答に?が頭から離れない凪生。

「え?一体なんで?」

凪生が周りを見ると赤面しプルプルと体を震わせる君島と弥生の姿。

「え……私……何しちゃったの?」




英語の授業中の俊哉。

いつも通りの光景のはずが、頭の中から昨日の絵が消えない。

あのキスが自分の純情さを語る。

「……shit 」

もやもやとした思いは恋とかそういうものではもちろんない。

ただそれが何かはわからなかった。

「先生!」

一人の女生徒が俊哉を呼ぶ。

「エキスパートとスペシャリストとプロフェッショナルってどう違うんですか?」

おそらくそれを知らなくても大学にも行けるし留学もできるだろう。

ただ今の俊哉にはあのことを忘れさせる問いかけであった。

「基本は全て仕事に使われる。プロフェッショナルは腕の良し悪しに関係なく何かをして代価をもらう者だ。あとの二つはそのなかでも腕の良い人に使われる。」

その女性徒はまだ不満げであった。

「じゃあ……」さらに口を開く。

「恋のエキスパートはあり得ないんだ……」

生徒たちがそれを聞いて興奮してきている。

教室が「恋してんだな!」というピンク色に染まり始める。

俊哉は冷静に「……そんなやつはいないよ。」

と返す。

「でも先生……」まだ何かあるってのか!?

「先生も女の人と歩いてたよね!エキスパートじゃん!」

はっ!?

「喫茶店で仲良く話してたって聞いたわ!」

なんで?

「私もそれ聞いたわ!」

うそだろ……見られてたのか……

ただ今の血圧157 ……




凪生は新発売のスマートフォンの説明を先輩から受けていた。

それをお客に説明をするためだ。

「へー充電長持ちなんですね。水没も5mまでは30分耐久か。私もこれに買い換えようかな。」

それを聞いた先輩が凪生の顔を見てニタニタと笑い始めた。

「どうしたんですか?」

凪生ただただ疑問に思っている。

「凪生……」

「はい?」

先輩は凪生の方を叩き、

「彼氏にスマホかってもらいな!」

と呟いた。

何を言ってるんだ?急に。

「しらばっくれなくても……皆知ってるんだぞ。喫茶店で男といたんだろ!」

辺りを見渡すと皆が自分の方をにこやかな顔つきで見ていた。

一体誰に見られたんだ……!?

やばいくらい誤解している。

「彼氏じゃないですよ!むしろ敵といいますか……」

ダメだ……照れてるようにしか見られていない。

否定すれば否定するほどドツボにはまっていく……

ただ今の血圧157




「なにおまえら言ってるんだ。あの女の人は先生の彼女じゃあない!だいたい俺が恋のエキスパートなわけねえだろ!」


「なにいってるんですか!あんな七三眼鏡には興味ないです!もっと良い人捕まえますよ!」




(血圧165…………同時共鳴……)




「私だってもっといい男みつけますよ……」

あれ!?あれあれあれ!?

凪生の前には高校生らしき大勢の男女の姿が……自分の手を見るとチョークによごれたゴツゴツした掌が見える。

「ちょっ……こんなの聞いてないわよ!入れ替わるなんて!」

凪生は目を点にして見つめる生徒たちの前にいられなくなった。

すっと教壇の影に隠れた。

「え……先生男が好きなの?」

教壇の影から妙な女子校生の声が聞こえた。




「俺だって誰でもいいわけじゃないんだ!あんまり大人をからかうんじゃない……」

俊哉の目に映るどこぞの携帯ショップと妙な顔でこちらを見る女性。

ん?どうなってんだ?

店内の鏡を見ると俊哉がいるところに凪生の姿が!?

「どうなってんの?え!ここどこですか!?」

「凪生~そんなこと言ってとぼけんじゃないよ。あの男が好きなんだろ!」

あの男?あー君島のことか。

「はい!大好きですよ。優しいし頭いいし。今度会わせてあげますよ。」



(同時共鳴終了)




俊哉が気がつくとそこは教室だった。

なんだったんだ今のは……

「男が好きだったんだ~ごめんね先生。噂を鵜呑みにして。」

はっ!?

「いやいや俺は女の人が……」

タイミング悪くチャイムが鳴り響く。

「……あの女……なに言いやがったんだ……」





凪生が気がつくと元通りのショップだった。

今のは一体なんだ?なぜ俊哉と入れ替わったのか。

「約束だよ凪生!今度、頭よくて優しい彼氏に会わせてよね!」

彼氏!?

凪生は冷静に考えた。

俊哉と入れ替わっていたのは間違いない。

すると俊哉は……自分で優しい彼氏とか言ってわけわからない約束をしやがったのか……

「……あのくそ野郎!」




「俺は男色家じゃない。」

またお馴染みの喫茶店。俊哉は「まあ、どうでもいいんだけど」と返す。

そしてその俊哉を睨み付ける凪生。

なぜ睨まれてるのかはわからんが、それはさておき今日の出来事を話す。

「なんか今日お互いが入れ替わったな。今回のパターンまるで始めてだな。」

凪生からの返答はない。

ただただ睨まれている。

「なんか睨んでるけど……俺だってビックリしてんだよ。また血圧が上がったら大変だから喧嘩はよそう。」

その声を無視するように凪生はテーブルを叩いて立ち上がった。

「あんたどういうつもり!?なんで約束なんかしたのよ!」

俊哉はふと考える。そういえば君島のことで約束したような。

「怒るなよ。ただ会えばいいだけだろ。」

君島と。


凪生は何で俊哉が冷静なのか理解できない。

「会えばって……あんたどういう関係だと思ってるの?」

私とあんたが。


俊哉はなぜこんなに凪生が怒ってるのか理解できない。

「恋人同士とかじゃないの?」

凪生と君島が。


その言葉に凪生はゆでダコどころではすまないくらい顔が赤くなる。

「え……マジ?そういう風に思ってるの?」

あんたがわたしのことを。ちなみに血圧140


えらい顔を赤らめてるが、そんなもん君島の態度を見てれば一目瞭然だ。まあ恋人どおしではなかったようだ。ここは君島のために一肌脱ごう。

「ああ、大好きだよ。間違いない!あんたは嫌いなのか?」

君島のことが。


なんでそんなことさらっと言ってるの!?

俊哉はこう見えて相当な手練れなのか!?でもそんなこと言われたら……

「嫌いじゃないです……でもそんな直に言われたの初めてなので……頭がパンクしそうです…」

血圧150まで上昇。


君島の気持ちに気づいてないなんてすげえ鈍感だな。ここはお膳立てが必要だな。

「ベタだけど映画館なんていいよな。あんた映画は嫌いか?」

君島が実は映画嫌いってパターンは無いよな。



もうデートの取り繕い考えてる……やっぱ俊哉は手練れだ。でも普通に話すといい人だし、顔とかも、髪型と眼鏡を抜けば悪くない。

「わかりました……お付き合いします。映画は好きですから……」

血圧160越え……



なんで俺に返事を言うのかと俊哉は考えた。

返事を俺にしても。

でも君島の気持ちは間違いないから結果よかった。

「なんか嬉しいわ!両思いだったんだな。これからも頑張ろう!」

君島の気持ちを考えると自分が嬉しくなる。

いいことしたなぁと自分に浸る。


「そんなに嬉しいんだ……」

嫌いだったはずなのに笑顔がこぼれる凪生。

「……そしたら一個お願いが……」

凪生の問に答えようとする俊哉。

「あんたってお互いに言うのは辞めましょう。これからはあなたは凪生って下の名前で呼んで。私は俊哉って呼ぶから……」

血圧一気に170


(共鳴)  



恥ずかしさのあまり下を向く凪生。

ちらっと俊哉を見ると、向こうも下を向きチラッと凪生を除いている。

目があった。めちゃくちゃ恥ずかしい。

またチラッと覗くとまた目が合う。

「……ごめんなさい」

凪生は自分の名前を呼ぶ俊哉を想像した。

不意に自分の名前を口にする。

「……凪生。」

やばい……今さりげなく俊哉に名前を呼ばれた……

また赤面してしまう。

こちらもお返しに呼び返す。

「俊哉……」

31歳にもなりなぜこんなドキドキしているのか。

ふいに胸を押さえると俊哉も胸を押さえている。

向こうもドキドキしていることに嬉しくなった。

もう少し顔を近づけてみたい。

顔をあげると俊哉も顔をあげていた。

まるで、凪生の気持ちを知るかのようにお互いに顔が近くなる。

気がつくとお互いの顔の距離は1cm程になっていた。



マスターは明日用意するコーヒーの焙煎をしていた。

すると炙りがダメだったのか豆が焦げてしまう。

「あーもったいないな。」

焦げた豆を捨てて、新しい豆を店頭に取りに行った。

そこで見てしまったものは……唇が重なりあう……俗に言う……キスをする俊哉と凪生の姿。




俊哉の唇の感触が自分の唇に伝わる。

ふいにしてしまった……でもいい。

今は恋人同士なんだから。

その時何かがこぼれるような音がする。

その音に俊哉と離れる凪生。

横を見ると床にこぼれる豆と呆然と立ち尽くすマスターの姿が。

再び茹ですぎたタコが凪生の顔に現れた。




俊哉が気がつくと、目の前に顔を茹ですぎたタコのように赤くする凪生と、床に散らばるコーヒー豆の上に立ち尽くすマスターが。

「マスター大丈夫かい?」

返答はないが、口の前に手をやると「呼吸はしてるね。」と安心した。

顔を赤らめている凪生は大丈夫か?

記憶が飛んでる間に何かあったのか?

おそるおそる「なんか俺したかな……」と聞いてみた。

首を思いきり横に振る凪生。

またなんかしたのかと俊哉は凄く焦った。

「……俊哉と私はお互いに大人だからさ……でも早すぎたかな……」

俊哉?大人?早すぎた?

呼び捨ての意味も他のこともまるでわからない。

「……ちょっとキスするの久しぶりだったから……気にしないで……」

はい?

今なんと言った?

聞き間違いか……

キスと言ったような……

まさか、あのときのキスがばれたのか……

共鳴してるときに事故でキスしてしまったことが……

俊哉はふいに土下座をした。

「……そんなつもりじゃなかったんだ。つい……顔を近づけたら……そうなってしまったんだ。」

頭を下げる俊哉を凪生は肩を持ちたたせる。

「映画……楽しみにしてるから……」

俊哉は涙を流した。

あのキスを全て忘れ、君島とのデートへ行ってくれる凪生の心の広さ。

この日からむしろ尊敬の眼差しで凪生を見るようになった。





あの事故があった日の喫茶店。

俊哉と凪生が捨てたのに戻ってきた人形のことを話していたあの日。

錆び付いたボロボロの喫茶店の一番奥の席。

新聞を読みながら紫色の頭をポリポリと掻く老婆。

何やら見知らぬ男女まで合流し、どこかへ消えてしまった俊哉と凪生。

「まずいね~あの二人は呪い殺されなければならないんだ……邪魔だね~あの男女は」

老婆はトランクケースから四角い箱を取り出した。

「人はみな悪い噂が好きなもの……この噂箱を使って噂を広めてやる……」

なにがいいかな……これにしよう……

「衣川俊哉と古内凪生は恋愛関係にある……」



そしてもうひとつ道具を取り出した。

それは四角いお札のようなもの。

「これを使えばあの二人に恋愛感情を抱くものが誰も近づけなくなるのさ……あの邪魔な男と女……恋愛感情が有る限り、衣川と古内には近付けないよ……えっへへへへへへへへへ……」











































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