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共鳴の回路





俊哉は中山メンタルクリニックにきていた。

もちろん来院理由は…。

「最近記憶が途切れてしまって…」

「人間はストレスが限界に達すると一時的な健忘症に陥ることがあります。」

果たしてただの物忘れなのか。

怒ったり、踊り出したりしていたと周りの者は言っている。

もちろんその話しは中山院長に話した。

「日記を書くのはどうでしょう」

「何のために?」

「記憶をなくさないように数時間に一回今の出来事を書くのです。そうすれば健忘症はおきにくくなります。それでも忘れるようなら、記憶が無いその時刻を書いておき、その時に何をしていたか、見ていた人がいるなら書きとめておいてください。」




凪生はダンスコンテストの会場へきていた。

もちろん出場のため…と言いたいところだが、前に予選落ちしたので会場設営のアルバイトのためであった。

がちゃがちゃと小道具を運びいれるが一つ一つがなかなか重たく女にはなかなかしんどい。

「なんでこんなことやってんだ!練習してたほうがよかったよ。」

一緒にアルバイトする後輩のマリが近づいてくる。

「荒れてますね~!でもここなら他の子のダンスが見れます。勉強になりますよ。」




クリニックを出た俊哉は家までの帰り道を歩いていた。

何かすごくイライラする。

自分の中にもう一人誰かがいて、人生をめちゃくちゃにしようとしているのか。

何かでこのイライラを解決したい。

すると目の前にゲームセンターがあった。

ふいに中に入るとそこには古びたパンチングマシーンが置いてある。


(共鳴)



パイプ椅子を運び作業する凪生の前にひとつの影が近づいてきた。

それは見たくも無かった影。

「ごきげんよう。凪生さん。」

「うさこ…」

それはコンテストの決勝で凪生をやぶった宇佐山孝子25歳、通称うさこ 元は凪生のダンススクールの生徒だったが、やり方が気にくわないと辞めていった。そして凪生の前にさらに嫌なやつになり戻ってくる。

「私のダンス見に来てくれたんですね…」

「んなわけねーだろ。他のやつのを見にきたんだ。基本のなってないダンスなんて見て勉強になるか。」

ウサコは凪生の持っていたパイプ椅子を足で引っ掻けて止めた。

「そのダンスは誰が教えたんですか。そしてそのダンスに負けたのはどこのどいつでしたっけ?」


(共鳴)


凪生の握りしめた拳がウサコの顔面へヒットした。

その後もその拳は空をきっていた。

「あんたは誰だ!俺に何の恨みがある!出ていけ!おまえなんぞにやられてたまるか!くたばれ!悪霊め!」


あ…まただ。

目の前に涙ぐみ倒れこむうさこ。周囲の目はこちらを向きなにかに怯えている。

「うさこ、あんたなにやってんの?憎まれ口叩いてるひまあったらそんなとこで寝てないで練習しろ!」

「あんたのせいでしょ!暴力ふるったわね!」

凪生はさらにうさこに顔を近づけた。

「こんな罵声程度に傷ついてちゃしょうがないね。ゆとり世代ってやつは…」

うさこは右の頬を抑え「覚えてなさいよ!」と逃げていった。

「さすが凪生さん!あいつ私も嫌いなんです。スッキリしました。」

マリの声だった。

「あんな言い争いなら何度もしてるじゃない。」 

「でもあの右のストレートは始めて見ましたよ。くたばれ悪霊とかすごいこと言ってましたね。」

右ストレート?くたばれ悪霊?

「なんのこと?」



「俊哉、その髪型カッコ悪いぞ。」

城陽寺住職兼、俊哉の父親の段治は口を開いた。

昼食の手を止めず俊哉は「んなことは知ってる。」

と軽々しくあしらった。

「なんで七三なの?髪を下ろしたらそんな顔も悪くないのに…」

その声は俊哉の母親の洋子だ。

沢庵を口に含みながらその声を無視した。

静かな食卓。日曜はこんなもんでいい。

「そういえば…」また段治だ。

「さっき、時任って女の子がおまえを尋ねてきたぞ。おまえのコレか?」

段治のピッと立った小指が俊哉の目の前にくるが、それよりその名前に俊哉は箸が完全に止まった。

「時任…時任弥生か!?」

「ああ。おまえが帰ってくる10分程前かな。」 



コンテスト会場の設営も一段落し、うさこの情けないダンスを笑いながら見た凪生は昼食の弁当を会場の裏で食べていた。

「先輩。男いないんですか?」 

マリの問答に米を吹き出してしまった。

「いねーよ。付き合っても皆逃げていくんだよ!」

マリは「わかる~!」と笑いこけていた。

それがムカついてマリの海老フライを盗んでやった。

そんなとき、スタッフの一人が会場裏にくる。

「古内さん、お客さんが呼んでるよ。」

誰かわからず言われた場所に向かうとそこには…。

「たけちゃん…」

「久し振り、凪生ちゃん。」

そこには昔からの幼なじみ、君島剛が立っていた。

「たけちゃんなんでここに?」

君島は照れたように凪生に話しかけた。

「凪生ちゃんがコンテストに出るってきいたから。やっぱ好きな人の晴れ舞台だから見に来なきゃ。」

凪生は少しドキドキしたが、一度深く息を吸い直す。

「まず、私は出ません。予選落ちしたんです。」

そして…

「たけちゃん。私とあんたは親が勝手に決めた被害者通しよ。たけちゃんは科学者になったんだから、私みたいな売れ残りじゃなく違う人を見つけたほうがいい。」

その時君島は手持ちのカバンから何かを取りだした。

「それは…」

「昔、君から盗んだ赤いリボンだ。返しにきた。」

凪生はそのリボンを受け取れなかった。

その様子を見た君島。リボンをあげる手は下ろさない。

「凪生ちゃん。僕が嫌いかな…?」


(共鳴)



俊哉は家を飛び出し走った。

何分走ったろうか。

しばらくすると目的の姿を捕らえた。

その目的の女はへとへとになる俊哉の姿に驚いていた。

「先生…なんでここに?」

「親父から時任がきたと聞いて走ってきたんだ。」

その女、弥生は俊哉の髪型を見て驚いていた。

「なんで七三何ですか?かっこよくないですよ。」

俊哉はきれた息を整え直して口を開く。

「カッコ悪くていいんだ。俺のことが好きだとか言うバカな生徒を出さない為にな。」

その声に沈黙が続く。

「あのときは…迷惑でしたか?」

「迷惑なのは想いが通じないと学校を辞められたことだ。」

弥生は俊哉の目を見つめた。そして聞きたかったあのことを聞く。

「一度、立ち直れなくてこの町から逃げた。でも、好きなものを嫌いにはなれませんでした。だから勇気を出してお寺を訪ねたんです…」 

聞きたいこと…

「先生…私が嫌いですか…?」


(共鳴)


「こんな私を好きだって言ってくれてるのに嫌いなわけないでしょ!」「先生?女言葉?」

「でも今は答えられない。大事に想ってくれてる人に迷惑をかけられない。おそらく私は夢を追い続ける。死ぬまで。」

弥生は涙を流し俊哉の胸へ抱きついた。


「あれ?」

気がつくと弥生が抱きついている。

「両想いになれたんですね。嬉しい。」

両想い?

「あの~時任。俺今…」

「私は夢がある方が素敵だと思います。夢を追いかける先生が好きです。」

ゆっくり状況を確認する。

夢がなんなのかわからないが、取り合えず周囲にはこちらを指差した近所のガヤガヤが聞こえてくる。


(共鳴)


「よかった。嫌われてるのかと思った。」

君島は持っていたリボンを鞄に入れ直した。

「僕は君といれるだけでいい。君がおばあちゃんになっても一緒にいたい。」

赤面する凪生。こんな私を好きだと言ってくれる男なんてそういない。でもまだ答えられない。

君島の鞄からはみ出たリボンを戻した。

君島はその姿に何かのリミッターがキレた。

両腕が凪生の体を抱き寄せる。


(共鳴)


「離れろ~!」

両腕を前に突きだし君島の体は後ろへと飛んでいった。

「よく聞け。俺は病気なんだ!」「俺?」

「時折記憶がなくなるんだ。今何て言ったかはわからないが君を喜ばせることを言ったとしたなら、それは俺が言ったんじゃない!時々俺の中のもう1つの人格が勝手に喋り出すんだ。もう嫌だ!」


気がつくと君島が土まみれになり倒れている。

「たけちゃん、何してんの?」

君島は土を払い、口を開いた。

「凪生ちゃん、記憶がなくなる病気を患っているのか!?」

なぜそれを知ってるんだ?

病気か知らないが最近確かに記憶がなくなる。

君島は一枚の名刺を出して、凪生に渡した。

そこには、小中大学科学研究部と書かれている。

「いま、僕達は記憶や二重人格について研究してるんだ。来週時間があるとき来てくれないか。」



「記憶喪失なんですか?」

弥生のその声に答える俊哉。

「信じないだろうがそうなんだ。この間はテスト中に暴言をはき、その次は踊ったこともないダンスを踊り出した。学校中で妙な噂になってるよ。」

弥生は今俊哉が言った言葉を言う。

「先生は私に嫌いじゃない。でも夢があるから迷惑かけたくないと言ったんです。覚えてませんか?」

そんなことを言ったのかと顔を赤らめる。

「…覚えてない。しかも俺に夢なんかない。35歳まで教師を続け、その後坊さんになるだけだ。」

泣き顔を見せるかと思った弥生だが、俊哉の目には笑ってるように見えた。

「私先生を助けるから、嫌いにならないでください。」

そう言い弥生は一枚の紙を俊哉に渡す。大学の部員募集資料のようだ。

「小中大学科学研究部?」

「私の親戚の兄がここで記憶や二重人格について研究をしてるんです。来週時間ありますか?」


凪生は疲れはてていた。

小中大学研究部は色々片付いてすっきりしていた。

ただそこには無数にホワイトボードに書きなぐられた英語なのかフランス語なのかわからない暗号のような言葉。

「たけちゃん、私は何をすれば?もう、記憶がなくなりすぎて怖いんだけど。」

白衣を着た君島は分厚い本を数冊両手で抱え持ってきた。

「この文献は全てオカルトやら不思議な現象を取り扱ったものだ。ただし、僕達はそんなもの信じない。信じるのは科学的に解明されたものだけ。」

一冊の本を開き、ある一部に君島は指を指す。

「1921年、イギリスでポルターガイストと呼ばれる物が勝手に動き出す事象があった…」

だが…

「それは強力な磁場が変異を起こしたものと解明された。他にも…」

凪生はその本を無理矢理閉じて君島を睨み付けた。

君島を反省したように「ようするに…」と話し続ける。

「君に起きてること。病院にいけばただの健忘症と言われるだけだろう。でもそれには必ず何か現象が存在する…」

例えば…とホワイトボードの羅列に指し棒を伸ばす。

「同じ体に二つの人格が存在する、それはそちらが本当の人格で、今の人格は建前の人格で…」

「たけちゃん、私が建前で人と話すの見たことある?」

君島をなにも言い返さず「他にも…」と話し続けた。




俊哉は疲れはてていた。その後何回記憶がなくなったことか。

見慣れない小中大学廊下のベンチで座り込む。

「ごめんね。今お兄ちゃんお客さんがいるんだって。」

弥生からジュースを受け取りそこから見える学生たちの光景を眺めていた。

「おまえもまた復学すれば大学にだっていけるのに。もったいな…」

弥生は「いいのよ。」と俊哉の声を遮った。

「先生が私の告白を断った後、この世の終わりかと思ったわ。でも今こうして先生と二人でいれてる。大学出ていい仕事につくよりそれが幸せなの。」

俊哉にはわからなかった。なぜ俺なんかを。

親に反発してなった教師。今は早く辞めていたいと思いながら過ごしているというのに。

「時任は俺がまだ明るい性格だったころを知ってるからな。今は七三頭の口うるさい男だよ。」

弥生は微笑みながら俊哉の髪の毛をくしゃくしゃにした。

「先生は私みたいな生徒を出さないように厳しくしてるんでしょ。でもあの時の私は先生が優しくてかっこよかったから好きになったわけじゃない。」

弥生はあの頃を思い出していた。

7年前、勉強ができなかった私に言った言葉。

(俺は教師だからこんなこと言ってはいけないんだろうが、点数取れればいいっていうだけの勉強は俺は嫌いだ。点数には心がない。だが周りに何を言われてもやりたいことを見つけたとき、その為に必要な勉強をして得た点数には心がある。時任が勉強できないんじゃない。教師として生徒にやりたいことを見つけてやれない俺の方がよっぽど勉強できてないんだ…)

「おい、大丈夫か時任!?」

ふと気がつくと弥生の目の前には髪を七三に戻した俊哉がいた。

フフフッと声がもれる。

「なんで戻すのよ。変な頭!」



君島の他にもとあげた例はきりがなかった。

凪生はあきあきしていた。

それに気づく君島。

「長くなったね。それじゃ…最近何か変わったこととかない?」

考え込む凪生。記憶がなくなった以外は別に…あった。

「少し前に見覚えのないお店に入ったの。いかした頭のおばあちゃんがいて、変わったものばかり売っていたの。仮面とか人形とか」




「へえ。変なお店があったんだ。」

弥生は俊哉の話に相槌をうつ。

「いつも通る道なのに初めてみたんだ。そこで言葉遣いの悪い女と喧嘩になった…それから記憶がなくなったりするようになった。」




「何かそこで買ったのかい?」

凪生は顔の前で手をふった。

「いいえ。買おうとしたけど変な男のせいで辞めたわ。」

なるほどと君島は顎を押さえて考え始めた。

「それがなんか関係あるの?」

「そこから記憶が無くなったならそこにいた男も同じかもしれない。そうすれば何かしらのレゾンサーキットが働く…」

レゾン?

「正確にはレゾナンスサーキット。共鳴回路ってしってる?音叉を叩いたら隣の音叉も鳴り出すってやつ。」

習ったような。首を横にふる凪生。

「つまり君が発した言葉が何かしらの回路で誰かに届く。誰かが発した言葉が君に届く…」

そんなことあるかと凪生は机をたたく。

「じゃあさ。その店とその男を探してみようよ。」



「お兄ちゃん遅いなぁ。」

弥生は時計を眺めていた。すでに30分は待たされている。

俊哉はどちらでもよかった。日曜は静かに過ごすに限るから。

「お待たせしてすいません。」

そこに見知らぬ男がやってくる。

「遅いじゃない。」

弥生のそんなやり取りからその人が親戚の兄とわかる。

「はじめまして。君島といいます。」

「衣川です。」

君島は申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。別用ができてしまいました。また別の機会に話をお伺いできませんか?」

弥生は怒るものの別にどっちでもよかった。

日曜はゆっくり過ごすに限るから。

君島はその場を離れ、弥生が困り果てている。

「時任…おまえ暇か?」

弥生は突然の俊哉の問答に首を下げる。

「あの店に行ってみようかと思って。ビザレ堂つったかな」



凪生は君島と一緒にあの日に入った店の場所へ行った。そこには… (共鳴)

「ない!店がない!なんで!?」

凪生の焦りは君島にも伝わりそれが妄想ではないことがわかる。

「落ち着いて!ここに店があったんだね。」


 

(共鳴)

「ない!店がない!なんで!?」

いきなりのと俊哉の状態にびっくりした弥生。

また記憶が飛んでいるのだと確信する。

「先生!大丈夫?」

「…どうした。なんかあったか?」

やっぱり記憶が飛んでいたようだ。今の状況を俊哉に説明する弥生。

「店がないっていってたのか?」

なんのことかわからず、結局俊哉らはあの店のところまで歩いてきた。そこには見知らぬ男女のカップルもいたが一体何だろうか。

同じ方向をみつめてみる…なぜだ!?


(共鳴)


(共鳴)


「ない!店がない!確かにここにあったんだ!」


「ない!店がない!確かにここにあったんだ!」



それを見た弥生は絶句した。

そこにいた女も俊哉とまるで同じリアクションをしていたからだ。そして台詞もさっきの俊哉と同じ台詞。



それを見た君島も絶句した。

後からきた男が凪生と同じリアクションをしていたのだ。そしてさっき凪生が言った台詞と同じことを言う男。




「おにいちゃん?」

弥生はその男に気づいた。

君島だったのだ。

「弥生!しかもその人は!?衣川さん?」

君島も弥生の存在と、リアクションをとる男が衣川と気づく。

そして1つの疑問を弥生に投げ掛けた。

「弥生…衣川さんってたまに記憶がなくなって変なこと言い出したりするか?」

えっ…と驚く弥生。

首を一回縦にふる。



まだまだ序の口じゃ…この呪いはまだまだあんたがたを喰いつくすぞ…えへへへへへへ…

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