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短編6



「アランちゃーん、お掃除手伝いにきたよー!」


 とロッカが元気の良い声をあげたのは長閑な日中。

 エプロン姿に頭巾を被り――頭巾の隙間からちょこんと獣の耳が出ているのがロッカらしい――手にはハタキと雑巾の入ったバケツ。まさにお掃除スタイルである。

 詰所から出てきたアランも彼のこの気合の入りように思わず「よろしくお願い致します」と頭を下げてしまう。それほどまでにロッカの格好は掃除に対してのやる気が見られるのだ。

 白いレースのエプロンと同デザインの頭巾、手にしているハタキはピンクと相変わらず少女のようなコーディネートではあるが。


「ごめんねロッカちゃん、手伝ってもらっちゃって」

「いいよ! お掃除大好き! それにアランちゃんの巣の本が図書館に戻れるんでしょ!」


 嬉しそうにピョコピョコと飛び跳ねながら詰所に入ってくるロッカに、アランは深く頷いて返した。

 過去の産物、聖騎士団を抜けた家の不名誉な歴史、そうとらえられ処分されかけていたところを引き取って山のように積んだ本達。アランの唯一の武器である『魔物への知識』の源であり、そして今となっては『間違いの始まり』を記すものでもある。

 それを正式に図書館に戻せることになったのだ。聖騎士団が見直され、そのうえで『聖騎士団を作ってはいけなかった』というあるべき姿に戻った今、それらを綴る文献達もあるべき場所へと返される。

 非力なアランにとって唯一の武器であった文献達が手元を離れるのは少し切なくもあるが、それと同時に沸くのが、今度は自らが誰かの知識になるものを記していこうという意欲。

 今度こそ間違えず、人と魔物のことを記すのだ。


「アランちゃんの巣は執筆のお部屋にするの?」

「うーん、今までの机で全部できるからわざわざ部屋を作るのもねぇ……当分は空き部屋かな」

「それじゃ空っぽになるようにガッツリ掃除しよ!頑張るぞー!!」


 拳をあげるだけでは足らず、尻尾をビン!と張り上げるロッカにアランもまた片手を上げて応えた。



◆◆◆



「お掃除の基本は捨てること!要らないものは勿論、要るかな要らないかなってものも思いきってポイ!」

「ふむふむ、なるほど」

「そして何より大事なのが、散らかる原因を断つこと!」

「ふむふむ、原因を断つこと」

「収納スペースがいっぱいだからって物を買い込んじゃうなら収納スペースを無くすのも一つの手だよ。再発防止のためには原因から絶つのだ!」

「ふむふむ、なるほどなるほど」

「というわけで、アランちゃんの巣に何でも放り込むヴィグさんを縛り上げたから捨てよう!」

「ふむふむ、なるほ……団長ぉ!!」

「なにかな!?これはなにかな、どういうことかな!!?」


 荒縄で縛り上げられご丁寧に段ボール箱に入れられ、ヴィグがわけがわからないと悲鳴をあげる。

 昼寝をして目が覚めたらこの状況なのだから仕方あるまい。


「ロッカちゃん、確かにものを捨てるのは大切だけどヴィグ団長は捨てないであげて!」

「それじゃお外に置いて天日干ししておこう!」

「天日干し!?」


 ちょっと待って!とヴィグが悲鳴をあげる。だがお掃除モードのロッカは容赦がないようで、「よいしょっ!」と可愛い声を上げて段ボール箱入のヴィグを持ち上げた。

 さすが獣王の末裔、レースのエプロンをフワリと揺らして軽々とヴィグを運んでいく。

 そうして戻ってきたロッカが改めてエプロンのリボンをキュッと結び直し「今日中に片付けるぞー!」と拳を突き上げた。

 そんな勇ましく可愛い姿を眺めつつ、アランは彼の隙を見てヴィグを助けようと考えていた。もっともそれも最初のうちで、掃除が進み想像以上に彼の『どうしていいのか分からないもの』が放り込まれていることを知り「原因を絶つ……」と小さく呟いたのだが。



 そんなお掃除組が頑張っているなか、詰所の外では遊びにきたデルドアが目を丸くさせていた。

 もちろん、荒縄で縛り上げられ箱に入れられているヴィグを見てである。


「……ロッカか」

「あぁ、天日干しだ」


 そう互いに交わす。詳しい説明は不要である。


「掃除モードのロッカは手が付けられないからな、下手にちょっかい出さないほうが良い」

「ザリガニでも釣りに行くか」

「あぁ、そうだな」


 うんと頷きあいデルドアがヴィグの荒縄を解く。

 そうして詰所の中から聞こえてきた「やっぱり原因を絶とう!」というロッカの声に、二人は慌てていつもの釣り場へと向かった。



◆◆◆



「なるほどな、それで空いた部屋を応接間に」

「はい、最近は他の騎士団の方々も魔物について聞きにくるようになってきてますし、落ち着いて話をできる場所をと思いまして」


 そう話すアランに、向かいに座るジャルダンがなるほどと頷く。

 そうしてチラと視線を後方に向ければ、そこには昨日掃除したてのガランとした部屋が広がっていた。

 カーテンすらも捨てたおかげで全開の窓から風が直に入り込んでくる。そこに机とソファーを置いて資料を置ける棚も置いて……と話すアランにジャルダンが相槌を返した。

 今まで外界と壁を作っていたアランとヴィグにとってこの部屋は外と繋がるための部屋になるのだろう。応接間という響きに、外からの客を歓迎する意思が在るのだと分かる。

 なるほど、とジャルダンが頷いた。そうしてフッと小さく息を吐くと……



「お前ら全員、今日は勤務日だろ……」



 と、低く唸ると共に頭を抱えた。




「ジャルダン様、部屋の掃除は?」

「詰所であろうと騎士の仕事じゃない。身辺を整えるのは勤務時間外にやるのが騎士というものだ」

「なぁジャルダン、天日干されるのは?」

「騎士の仕事じゃない。だが熱中症には気をつけろよ」

「嫁さんおっかない人、ふかふかのパンを焼くのは?」

「騎士の仕事じゃない。ふかふかでも騎士の仕事じゃない」

「番の尻に敷かれてるの、ザリガニ釣りは?」

「騎士の仕事じゃない。というかどうしてお前達は隙あらばザリガニを釣るんだ」



「……ジャルダン様、もう一度聞きますが部屋の掃除は?」

「……もうそれぐらいなら認めても良いかと思えてきた」




…end…



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― 新着の感想 ―
[一言] このお話のジャルダンのツッコミ力の高さがとても好きなのです。 というかツッコミ不在で自由人カルテット野放しというのが、逆にこの国だいじょぶかな?と心配になりますよね。
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