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【完結】ふたりぼっちの聖騎士団  作者: さき
第二章『硝煙の王子と棘城の赤ずきん』
31/90

13


 天井の一角がガタと崩れる。見れば黒々とした焦げ跡の穴があき、硝煙が揺れている。

 だけどどうして天井に……そう誰もが疑問を抱く中、アランがハタと気付いたようにデルドアを見上げた。


 魔銃の魔物。

 世界のどこに居ても狙った獲物を撃ち抜く狙撃手。


 つまり彼は誰かを撃ったのだ、見えなくても、間に天井があったとしても、それが別の階だとしても……魔銃の魔物にとってそんな問題は無いものと同じ。

 まさに問答無用。あの銃弾はその銃口の向かう先にいる彼の獲物を撃ち抜いた。


「だ、誰を」


 そう尋ねようとした瞬間、次いで二発・三発と轟音が続いた。思わずアランがビクリと体を震わせ、彼の体にしがみついてしまう。音源だと分かっていても。

 だが次の瞬間、更にデルドアの腕が抱き寄せるように背を押さえて来て心臓が跳ね上がった。自分からしがみついておいてこれでは元も子もない。


「俺を相手に、高みの見物なんて出来ると思うな」


 そう冷ややかに言い放つ彼の言葉、見上げればその赤い瞳でジッとどこかに居る的を見据えるその鋭さ。

 アランが思わず見惚れるように吐息を漏らし……


「本来の使い方!」


 と、声をあげた。


「なに得意気になってるんですか、これ通常の魔銃の使い方じゃないですか! 魔銃の魔物の在るべき姿ですよ!」

「でもなぁ、これすっごくつまらないんだ」


 気分が乗らない、と心の底からつまらなさ気に返すデルドアに、アランが思わず「もったいないお化けに呪われてしまえ!」と心の中で叫んだ。

 が、すぐさま思考を戻すのは、もちろん彼が数度天井に向けて魔銃を放ったからである。その先を自分には見えないと分かっていても視線で追えば、「撤退しろ!」という怒声が会場内に響きわたった。


「な、なに!?」

「なにって、撤退だろ。トップをやられたんだから尤もな判断だ」


 そう淡々と言い放つデルドアの言葉にアランが数度瞬きを繰り返す。

 先程まで暴れていた賊達が散り散りに出口へと向かっていく。もっとも、出口に向かったところで今頃増援の騎士達が来ているのだから逃げようもないだろう。

 その光景を思い描きつつ、アランがデルドアを見上げた。

 落ち着いてきたのか、それとも遠距離射撃で気分が落ちたか、彼の赤い瞳が普段通りの色合いに戻っていく。あの深い射抜くような赤も魅力的だが、やはりこの色が落ち着く……そうアランが考え、ふと我に返るや自分がデルドアにしがみついていたことを思い出して慌てて飛び退いた。


「あ、あの、魔銃で賊のトップを撃ったんですか?」

「あぁ、でも安心しろ、一人は話が出来る状態にとどめておいた」


 不敵に笑うデルドアの言葉にアランが天井に視線を向ける。

 上の階で指示をだしていたのか、それとも逃げ遅れた来賓でも装っていたのか、どちらにしろ階下から撃ち殺されるとは思っていなかっただろう。逃げようもなく、避けようもなく、それどころか狙われていると知りようもない。

 魔銃の魔物のその圧倒的な戦力に、アランが言葉もないと立ち尽くした。


「……アラン、怖いか」

「デルドアさん?」


 珍しく彼に名を呼ばれ、視線を向ければ僅かに細まった赤い瞳が見下ろしてくる。窺うようなその瞳に、どういうわけかアランの心臓が締め付けられるような感覚を覚えた。

 そんな戸惑いを肯定と取ったのか、デルドアが再び「俺が怖いか」と尋ねる。

 魔銃の魔物らしい赤い瞳。先程の圧倒的な戦力。それが怖い……?


「まさかそんな、怖くなんてありません! 私は聖騎士ですよ!」


 ふん!と胸を張ってアランが答えれば、デルドアが僅かに目を丸くさせた。


「私には聖武器もありますから、デルドアさんなんて怖くありません!」

「……そうか、さすが聖騎士だな」


 デルドアが小さく笑みをこぼす。安堵にすら見えるその柔らかな表情は普段とはまた違った魅力があり、思わずアランが頬を赤くさせ……「アラン!」と聞こえてきたフィアーナの声に我に返って二階を見上げた。

 手すりに寄りかかるようにしてフィアーナがこちらを見下ろしている。幸い彼女の周囲に他の人影はないが、それでも顔色が悪いのは無理して立ち上がっているからだろう。


「フィアーナさん、大丈夫? 今行くから待ってて!」

「おい、お前も怪我してるんだろ」

「でもフィアーナさんは足を痛めてるんです。まだ残党もいるかもしれないし」


 撤退が無理だと判断し自棄になる者がいるかもしれない。そうでなくとも彼女は怪我をしているのだ、散乱するテーブルや椅子、それに割れた食器やガラスが散らばる中でまともに歩けるとは思えない。足をかばった為にバランスを崩し、ガラスの上に倒れ込み……。

 そんな最悪なパターンを想像し、アランがブルリと体を震わせた。フィアーナさんが怪我をするなんて、そんなのダメだ。


「すぐに行くから、無理しないでそこで待ってて!」


 あたふたと慌てだすアランに、デルドアが「待て」と告げて首根っこを掴む。「むぎゅう」と魔の抜けた声があがるも、相変わらずお構いなしだ。


「二階だな、最短ルートで届けてやる」

「最短ルート?」


 どういう意味かと尋ねようとしたアランの体がヒョイと浮く。

 持ち上げられたのだ。流石は魔物、片手で持ち上げて平然としている。それどころかアランを見ることもなく、その視線の先には……ゴリラ。あのゴリラ。獣王の咆哮により集ったゴリラ。

 それを目にし「まさか……!」とアランの表情が一瞬にして青ざめる。が、ほぼそれと同時にグイと体が動き軽々と放られた。もちろん、ゴリラに向かって。


「こいつを二階まで投げてやれ」

「冗談じゃなっ」


 冗談じゃない! と、そう叫ぼうとしたアランの言葉が途絶える。

 言わずもがな、デルドアからゴリラの手へとパスされ、そして会場に綺麗な弧を描かされたからである。



 そうしてガタン! と盛大な音をあげて二階へと到着する。流石は最短ルート、その間わずか数秒、着地場所もまさに二階のフィアーナのすぐ近く……の、散乱した机の山ど真ん中。

 ほぼ追突と言える勢いでテーブルへと突っ込み、派手な音をあげて周囲を荒らし、それでもアランがガバと勢いよく起きあがった。聖武器の加護で痛みはない、恨みはあるが。


「フィアーナさん、大丈夫!?」


 慌ててアランが駆け寄れば、フィアーナが若干引き気味の表情でコクコクと頷いて返してきた。


「アラン、貴女私より酷い怪我してるじゃない」

「大丈夫。それよりフィアーナさん、肩を貸すから早く安全なところに」


 そっとフィアーナの腕を取り、自分の肩に回させる。

 彼女に触れたことで聖武器の加護が切れ左腕が痺れるような痛みを訴えだすが、今はそんなことを気にしている場合ではない。右腕と足が動くのだから、彼女を支えることは出来る。

 痛いけれど自分は聖騎士なんだから、そう自分に言い聞かせ、痛みでふらつきそうになるのを堪えて足に力を入れる。

 と、次の瞬間


「ふざけんなゴリラ!」


 という怒声が聞こえ、次いでヴィグが吹っ飛んできた。

 アランと同じ最短コースをたどって。ご丁寧に着地場所も同じくテーブルの山である。

 ――そんな中、ロッカの「もう、ゴリラさんってば! だめだよ!」という可愛らしい声が聞こえてきた。このパッションピンク、いざという時には甘すぎる――


「だ、団長……」

「ロッカちゃん! ゴリラさんには帰ってもらいなさい! ……と、アランどうした大丈夫か?」


 ガバ! と勢いよくテーブルの山から顔を出したヴィグが目の前の光景に目を丸くさせる。ボロボロの、まさに満身創痍といったアランがそれでもフィアーナに肩を貸そうとしているのだから、疑問に思うのも仕方ないだろう。むしろ「逆だろ」と、そう考えても仕方ない。

 だがヴィグは二人に交互に視線をやると、すぐさまフィアーナの隣へと回った。もちろん、アランと二人で彼女を支えるためである。

 その当然とした動きに、フィアーナだけが戸惑いを診せた。アランもだが、ヴィグもまた満身創痍なのだ。


「ヴィグ・ロブスワーク、貴方わたしよりもアランを」

「そう思うならさっさと安全な場所に運ばれてくれ」

「でも……」

「俺もアランも聖騎士だ。負傷者を放ってお互いを気遣うなんて出来るか」

「……そうね。さすがは私のアランだわ」

「そうだろ。さすが俺の可愛いアランだ」


 突如冷ややかな空気を漂わせバチバチと音がしそうなほど熱く交わされる視線に、アランだけがついていけないと言いたげに「なにそれ」とだけ呟いた。


 そうしてフィアーナを外に連れ出すとほぼ同時に、あらかたの避難誘導を終えたのか騎士達が駆け込んでくる。その姿に、終わったと安堵を覚えてしまうのは騎士として誉められたことではないだろう。

 もっとも、いつの間にやら背後に構え

「さ、ギルドに寄って割り増し請求するか」

 だの

「あのねー、ゴリラさんが皆に「ごめんね」って言ってたよ」

 と、一仕事終えたオーラを放つ二人よりはマシである。

 もちろんデルドアは既に魔銃をしまい、ロッカも獣達をどこかへ帰している。……が、まだロッカの耳と尻尾は生えたままだ。


「ロッカちゃん、まだ耳と尻尾が残ってるよ」

「興奮冷めやらぬだから消えないの。騎士さん達にパンツ見られちゃう! デルドア、ヴィグさん、どっちかズボン貸して!」

「それで貸したら、俺達のどちらかが大変なことになるぞ」

「ロッカちゃん、とりあえずどっかから布でも借りて……なんで俺のズボンを凝視するかな!? 地味にゴリラを呼び戻さない!」


 相変わらず場違いなやりとりが始まり思わずアランが苦笑を浮かべれば、それを見ていたフィアーナが覗きこんできて笑う。


「楽しそうね」


 と、そう告げられた言葉に、アランが僅かに瞳を細め、それでも素直に一度頷いて返した。




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