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【完結】ふたりぼっちの聖騎士団  作者: さき
第一章『ふたりぼっちの聖騎士団』
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17

 

 厳重な警備をなんとか――隠し通路を抜け、扉の前に構える警備員には「ここまで通されたんだから正式な呼び出しに決まってるだろ」「我々は聖騎士、今回の件の第一人者。呼ばれてないわけがないでしょう」と平然と嘘をついて――説き伏せて、大会議室に舞い戻る。

 そうしてゆっくりと扉を開けて中に入れば、当然だが誰もがこちらを向く。その驚愕の表情といったらないが、除け者にしていた聖騎士二人が突如として現れたのだから仕方あるまい。

 もっとも、そんな中でも騎士達に取り囲まれるようにして立ち尽くしていたレリウスだけが青ざめた表情でこちらを向き、ポツリと「アルネリア嬢……」と呟いた。


「なんだ君達は、どうしてここに」


 真っ先に声を上げたのは、議会を取り締まっていた議長。立派な髭と厳しい目つき、いかにも重鎮といった低く響く声が威圧感を感じさせ、怒りさえ覚えるその声色に思わずアランの肩が震える。年頃の少女に対してあんまりな態度だが、場が場なだけに仕方あるまい。

 そんな怯えを見せるアランに反して、ヴィグはこの場の空気が気に入らないと言いたげに議会中を睨みつけるように見回した。


「なにが”どうして”だ。俺達を除け者にしやがって」


 ちっ、と小さく舌打ちをするヴィグをアランが慌てて肘で小突く。

 怒りたいのは分かるが、ここで怒鳴って追い出されでもしたら堪ったものではない。

 なにより、今問題視すべきは自分達が呼ばれなかったことではない。どのみち追い出されるにしても、本題だけは伝えなくてはならないのだ。

 そう決意し、アランが一度深く息を吸い込んだ。


「あ、あの……議会はレリウス様……レリウス・スタルスが亜種の可能性があると話しておりましたが、その件について私達からお話ししたいことがあります」

「いったいどこでその話を聞いていたんですか?」

「……その、それは、どこかで」

「そもそも、君達聖騎士団は黒騎士を倒した時に関して説明すべきことがあるのではありませんか? 提出された報告書には矛盾が多すぎる」

「……そっちが色々と話してくれれば、こっちだって話しますぅ」


 むぅと唇を尖らせるアランに、今度はヴィグが「拗ねてる場合か!」と足を踏んで咎める。

 もっとも、デルドアの正体を隠した報告書は議長の指摘する通り矛盾だらけで、突っつかなくてもボロが出るほどだ。

 だがそれを今は取り繕っている場合でも、ましてや矛盾だらけの報告書を開き直っている場合でもない。


 そんなアランとヴィグに対して、コホンと咳払いが二つ響いた。


 二人の男が咎めるような視線で聖騎士達を見ている。厳格な風貌、堅苦しいほど着こなされた正装にはそれぞれの家紋が刺繍されており、その威圧感は並ぶ面々の比ではない。

 コートレス家当主と、ロブスワーク家当主。つまりアランとヴィグの父親であり、聖騎士を二人に押しつけた張本人。

 その姿にアランはビクリと肩を振るわせて半歩ヴィグに身を寄せ、対してヴィグは至極冷静に、むしろその姿を見て冷静さを取り戻したと言わんばかりに冷ややかな視線を返した。そうしてふいと視線をそらして、今度はレリウス・スタルスを見る。

 アランもそれに倣うように視線を向ければ、かつての騎士様は青ざめた表情で立ち尽くしていた。痛々しい姿に令嬢達が焦がれた煌びやかさはない。


 そんなレリウスを眺めつつアランがスンと軽く周囲を匂うも、甘い香りはしない。試しにとヴィグの腹部を押せば「いてぇ」と文句が返ってきた。

 あの香りは鼻が覚えた、微かにでも香れば気付くはずだ。それにヴィグの腹も強く押したつもりはない。普段から鍛えている彼が健康体であれば(・・・・・・・)あれしきのことを痛がるはずがない。

 黒騎士と応戦して負った傷、さんざん殴られ吹き飛ばされ果てには大剣をくらって出来た傷も全て癒えている。彼が痛がっているのは腹だけだ。


 ……つまり。


 間違いない、とアランが決意を新たに大会議室を見回した。


「レリウス・スタルスは亜種なんかじゃありません!」


 アランが声高に訴えれば、議会室中の視線が一瞬にして注がれる。

 その重苦しさに思わず怖じ気付きそうになるのは、ひとえに聖武器の加護が働かないからだ。一回りどころか二周り以上歳が離れた親の世代である権力者達に凝視され、そのうえ誰よりもジッと見据えてくるのが父親……。

 それを考えればアランの中で臆病心が頭をもたげはじめるが、ここが正念場だと心の中で己を鼓舞しレリウスへと視線を向けた。


「彼は間違いなく人間です!」

「どうしてそこまで断言できるんですか?」

「これがその証拠です!」


 そう言い切り、アランがヴィグの騎士服を掴み、ぐいと豪快にまくしあげた。

 鍛え上げられた腹筋が露わになる……そしてそこに残る痛々しい痣も。

 だがそれを見ても誰もアランの考えに至らないようで、注がれる視線に怪訝そうな色が混じり始める。その眼光の威圧感、今すぐにでも怒鳴りつけられる蹴り出されかねない空気にアランが寒気すら感じブルリと体を震わせるも、それでもと見せつけるようにさらに上へとヴィグの服をまくしあげた。

 腹筋と、厚い胸板が露わになる。そこにも痣があり、まさに満身創痍である。

 もっとも、ヴィグは「アラン、めくりすぎだ。寒い」と至極冷静に文句を言っているのだが。


「ヴィグ・ロブスワーク、その痣は?」


 痛々しいと言いたげに眉間に皺を寄せつつ訪ねてくる議長に、ヴィグがふんと不満そうな表情を浮かべる。そうして一言「あいつにやられたんだ」と答えた。

 その視線の先には、もちろんレリウスがいる。

 あの日、アランが訪れる前にレリウスに(・・・・・)負わされた傷。あれから数日経った今も、ヴィグは「黒騎士さえいなきゃ、あんなやつ」と悔しそうにぼやきつつ体のあちこちに残る傷の痛みに呻いているのだ。


「それがどうしました?」


 男の裸体には興味がないのか――あっても困るけど――冷ややかに説明を求めてくる議長に、アランが「我々は聖騎士です」と返した。

 そして今一度視線を集めるように掴んだ服をまくしあげれば、ほぼ上半身を剥かれたヴィグが「いい加減にしろ」とアランの手を叩いた。いかに理由があれど、この場で上半身を晒し続けるのは辛いらしい。


「我々聖騎士には、魔物と対峙した時のみ聖武器の加護が働きます」

「それがいったい……あぁ」


 そういうことか、と議長が頷く。

 ほかの面々もアランの言わんとしていることを理解したのか、一部は頷き、一部は「なるほど」と口にしている。とりわけスタルス家当主はハッと小さく息を呑むように表情を変えた。

 もっとも、自分に下された処罰に呆然としているのかレリウスだけは未だボンヤリとしているが、流石に彼を正気に戻してやる義理はないとアランが話を続ける。


「聖武器の加護が働くのは魔物のみです。ヴィグ団長の傷が治らずにいることこそ、その傷を負わせたレリウス・スタルスが魔物ではない何よりの証です!」


 アランが結論づけるように声をあげれば、議会室が一瞬水を打ったように静まりかえった。誰もが難しい表情を浮かべて言葉を発せずにいるのは、多少なり今の発言をもとに処断を改める必要があると考えているからだろう。

 といってもアランもヴィグもこれが決定打に、ましてやレリウス・スタルスの処断を覆す要因になり得るとは思っていない。――あれだけの目にあわされたのだ、無罪放免とされてもそれはそれで釈然としない――

 それでも『魔物かもしれない』等という理由で彼が処断されるのは気分が悪く、わざわざここまで来たのだ。


「……考慮しましょう」


 とは、シンと静まりかえった中にポツリと響いた議長の言葉である。

 新たな判断材料を得て、先程の決議が一時とはいえ撤回されたのだ。思わずアランがホッと安堵の息をつけば、議長が改めるようにコホンと咳払いをした。


「それで、二人はどこでこの話を?」

「やばいなアラン、逃げるか」

「はい」


 突然こちらを向いた矛先に、ヴィグが囁くような小声で提案する。

 もちろんアランも盗み聞きしたなどと答えられるわけがなく、不法侵入者を捕まえるべく駆けつけてきた警備員達に連行される形でその場をあとにした。


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