九章:「聞いてもいいの?」
「……暑い」の続きです。
あまりにも悲しそうに項垂れていう彼女を見なかったふりなど出来ず僕はスポーツドリンクと水を買って彼女の傍による。
近づく度に分かることだが彼女は小柄だ。
どのくらい小柄かと聞かれると答えにくいが、少なくとも高校一年である同級生の女子と比べても一回り小さい。
僕よりもはるかに大きい桐といるとライオンとウサギぐらいの体格差。
ま、ウサギはライオンを使役は出来ないけど……。
「最上さん」
「っ!!?」
僕が声をかけると彼女は弾かれたように顔をあげる。
心底驚いたように目を大きく開かれているが、不思議とそこには僕が写っていないような感じがした。
何故かは分からないけど彼女はぼくを見ていない気がしたのだ。
だけど彼女は何故か安心したように微笑み僕を見ていた。
気のせい……なのかな?
「こんにちは、西木くん」
「こんにちは
良かったら水飲んで」
そう言って僕は水を彼女に差し出すと彼女はおずおずと受けとるが困ったように眉を下げる。
あれ?要らなかったのかな?と、不安になり始めると彼女はおもむろにペットボトルを振りだした!?
確かにジュースは振るが水は振るのか!?
「ど、どうしたの?最上さん」
思わず止めた僕は悪くないはずだ。
すると彼女はペットボトルを片手にキョトンとしてしまう。
可愛らしいが今はそう言う問題じゃない!
「え?これって振るものですよね?」
「(これって……)水は普通振らないよ?」
「では、どうやって飲むのですか?」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………えーっと、僕はどうしたらいいのかな??
まさか飲み方を聞かれるとは思わなかったな……。
少しだけ思考回路が停止したがなんとか思考を動かすことに成功した僕は首を傾げる最上さんに説明する。
「キャップを開けたら飲めるよ」
「キャップ?
これですか?」
「そうそう」
僕が頷くと彼女はキャップを引っ張る。
いやいや、違うから!
開かないと非難めいた目はやめて下さい!
まさか引っ張るなんて思いませんからね!?
埒があかないので僕がキャップを捻るとカチッと言って開く。
それを彼女に渡すと彼女は不思議そうにペットボトルを見てから一口ずつ飲み始める。
それを見てから僕は自分のスポーツドリンクを開けて飲む。
汗をかいている時はスポーツドリンクが一番身体にいい。
「……何も聞かないのですね」
飲んでいると少し沈んだ声音で最上さんが口を開く。
「聞いてもいいの?
何で桐がいないのか?」
「そこですか!?」
あ、初めてツッコまれた。
そのことに僕は思わず笑ってしまう。
今まではこの双子について僕がツッコんでいただけに何か可笑しい。
すると彼女は不満げに眉をよせる。
「ご、ごめん
最上さんと桐はいつも一緒にいるから
いない方が珍しいよ」
「……学校がない時は別々に分けられています」
「え?」
「……西木くんはここをご存知ですか?」
ツッコまれるのが嫌なのか話を変えてきた彼女が見せるのは1枚の写真だった。
写っているのは何処かの崖から写された海だ。
「ここって……」
「ご存知ですか!!」
「知ってるも何も地元の人達なら誰でも知ってるよ?」
僕が小さい頃はよく友達とこの付近で遊んだ。
ここからなら40分程度でつくはずだ。
「ここに私は行きたいのです
でも行き方が分からず、桐に聞きたくても見張りが多いので……」
「見張りって……」
一体何をやったんだよ。
小さく呟くと最上さんは苦笑した。
ま、困っている最上さんを見捨てたら確実にシスコンに殴られるので明日と言う条件で僕は了承してしまう。
もしも、この時に戻れるなら僕は高校一年の僕を止めた。
あれほど苦しく哀しい想いは高校生でするべきじゃないから。
でも、どれ程僕が止めても高校一年の僕は彼女の願いを全力で叶えてしまうだろう。
それほどまでに彼女の満面の笑みは可愛らしく綺麗だった。