八章:「……暑い」
七月、二回目の定期テストが終わり待ちに待った夏休みがやって来た。
某有名私立高校であるこの学校でもしっかりと夏休みがある。
正直、高校一年の夏休みは今までののんびり感のない夏休みだった気がする。
この後の物語を……僕の今までの人生とは180°違うものへと変えてしまうことになる分岐点だった。
とは言ってもこの時の僕はあまりにも非力で凡人すぎたから気づけなかったけどね。
もし、知っていたら最上姉弟とは関わろうとはしなかったと思う。
その話を今ここでするのはおかしいのでまたおいおい話そうと思う。
私立だからと言っても僕の家は普通の平均的な家庭だった。
母親は専業主婦、父親はサラリーマン、姉は専門学生と本当に普通の家族。
ホントに欠伸が出るぐらい普通過ぎるな~。
「だったら夕飯の買い出し宜しくね!」
「いきなり過ぎない!?」
だったらって何がだよ!
まさかゴロゴロしているところに買い物を要求されるとは思わなかった僕は渋々立ち上がり母親に頼まれ、追い出されながらスーパーに向かう。
我が家の鉄則の一つで「母親に逆らうな」と言うものがある。
怒らせるとその日1日全く家事をしないからだ。
昔姉が母親に逆らい、怒った母親はものの見事に1日全く家事をしなくて家が動かなかったことがある。
良い子の皆さん、母親の言うことは絶対なので逆らわないようにね。
スーパーまでは家から徒歩で30分で自転車で12分ぐらいの所にある。
真夏の炎天下で徒歩で行く馬鹿はいないが僕は歩く。
理由は簡単。
姉に自転車をとられたからだ、くそっ!
「……暑い」
汗がだらだらと流れており首に巻いているタオルで拭くもののタオルが濡れるだけで、ほとんど拭えていないぐらい次々に汗が流れる。
当たり前だが肌にシャツが引っ付くから気持ち悪い。
「……せめて飲み物だけでも買おっかな」
ちょうど目の前に自動販売機もあると言う事だから飲み物を買うために近づく。
自動販売機は近所で一番緑が多い、大きな公園の入り口の近くにある。
僕は自動販売機にお金を入れる前に公園にあるベンチに座る存在に目が行く。
光さえも吸収してしまう夜色の髪と瞳の小柄な少女、満点主席という天才 最上梢さんが座っている。
夏らしく薄緑のワンピースの上には白い長袖のカーディガンが羽織われいる。
俯いているせいか僕には気づいていないよう。
いつも傍にいる桐はいないようで一人だ。