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三十二章:「夢……なの?」




ある意味チートな発言で僕もこの一件で初めて知ったのだが若い頃、うちの両親は世界各国や日本全国を飛び回りありとあらゆる要人たちと友人関係になった。

普通だと思っていた僕の家族は普通じゃなかったらしい。

そのことに遠い目をしながら僕は一本前にでてあり得ない事実に打ちのめされ座り込む最上司を無視して、今だ爆笑している桐に声をかける。

「助かったよ、桐」

「くくく

まさかここまで上手く行くとは思わなかったな!」

「それは父さんのお陰だよ」

「てか、プライベートジェット機を貸してくれる友達なんてなかなかいないだろ?」

「某大国のファーストレディが貸してくれたらしいよ」

「……あ、うん

お疲れ」

僕のげっそりとした表情から何かを感じ取った桐は深い同情の視線を向けてくれる。

一つ、ため息をついてから僕はいまだ状況が理解できていない梢さんに声をかける。

「大丈夫?」

「……なの……」

「え?」

小さく独り言のように彼女は呟く。

あまりにも小さな声に僕は問いかけるが……思わず押し黙る。

気丈でいつも冷静だった彼女が静かに泣いていたのだ。

「夢……なの?」

「違うよ、現実

君はもう自由なんだ」

「わたし……が……?」

どんなに驚異的な頭脳を持っていようとも彼女にはこの状況を理解しきれないらしい。

僕は彼女の横の通路にしゃがみこむ。

ちなみに通路を挟んだ左隣に最上司でその後ろが桐だ。

僕はそっと彼女の手を両手で握るとあまりの冷たさに少しは目を見張ってから今だ涙を流す彼女に言い聞かせるように話す。

「梢さん、これからは一緒だよ」

「いっ……しょ……?」

「うん、君は自由の身だよ

何にも縛られていないよ」

「……」

どれだけ言葉を並べようと長い間最上司に奪われてきたことがトラウマとなっているのか彼女は押し黙るだけ。

おそらく僕の言葉だけじゃだめなんだ。

そう思うと梢さんの手を握る僕の手の上にそっと暖かい手が置かれる。

「音樹が迎えにきてくれたぜ、姉貴」

桐だ。

彼は見たこともないぐらい穏やかな笑みを浮かべて梢さんに話しかける。

唯一の家族の言葉に梢さんは更に涙を流し等々子供のように泣いてしまった。

ようやく自由になった彼女の涙は今まで押し殺してきたものなのかもしれない。




「梢ちゃん!

泣くならお姉さんが慰めてあげよう!!」

「折角の感動的なシーンをぶち壊すな!

この変態犯罪者紛いの馬鹿姉貴!!」

思わず姉さんに蹴りを入れた僕は悪くないと思う。


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