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三十一章:「久しぶり、梢さん」




静かな機体の中。

小さな異変に気付いたのは最上司だった。

「……どういうことだ」

「え?」

「なんでCA(キャビンアテンダンド)が居ない」

訝しげに言葉を発する最上司に思わずニヤリとしてしまう。

おそらく後にも先にも彼が驚いたのはこの時だろう。

隣にいた“姉さん”も笑っている。

どうやら悪戯は成功。


“僕”はカーテンをめくり彼らを見る。

やはり3人のうち二人は驚きのあまり固まり一人は必死で笑いを堪えている。

“僕”だって笑いたいのに我慢しているんだけどね?

二人のうち一人……最上梢さんが震える唇で発する。



「おと……き……くん?」



その言葉に僕こと“西木音樹”はニヤリと笑ってから彼女に告げる。

「久しぶり、梢さん

迎えにきたよ」










「なんのつもりだ西木音樹」

若干苛立ったように僕を睨み付ける。

どうやら驚きから解放されたらしい。

「お久しぶりですね、最上司

なんのつもりって梢さんを帰しに貰いにきただけですよ」

「なんだと……?」

「おひさー、司さん

それは私が説明するね」

そう言って僕の後ろから現れた姉さんはいつも通りの悪戯っ子のような笑みを浮かべている。

最上司は視線だけでも人を殺せそうなぐらい睨み付けてくる。

……うん、怖いね。

だけど僕の姉さんはそんな怯むほど乙女じゃないよ。

むしろ姉さんのひょうきんさはライオンですら逃げるんじゃない?

「弟よ、余計なことを言ったら殺すよ」

「すみません、どうぞ続けてください」

恭しく頭を下げてから僕は姉さんの後ろにたつ。

「まずこの飛行機はうちの父親の友人のプライベートジェット機で今回の作戦の為に貸してもらいました

因みに機長はうちの父親こと女みたいな名前の“西木留佳(にしき るか)”です!」

「それはいらない気がするのは僕だけ?」

「でもって!」

無視したよこの姉!

弟を華麗にスルーしときながら話を続けるか!?

「貴方達を案内してくれた人も貴方達をここまで連れてきてくれた人も父親の友人もしくは身内ですよ」

「目的はなんだ?」

「それは、音樹が言ったじゃないですか

梢ちゃん達を帰しに来たって」

そう言ってから姉さんは最上司に一枚の紙を見せる。

その紙を見た彼は僕が生涯忘れることも出来ないぐらい間抜けな顔で桐が大爆笑、梢さんは目を丸くしていた。

そんな中姉さんはにこりと笑いながら続ける。

……ある意味大物だと僕は思う。

「見えます?

何て書いてありますか?」

「……嘘だ」

「な訳ないでしょうが

いくら父親の友人の一人が戸籍改竄できるからってこんなめんどくさいこと頼みませんよ」

うん、かなり聞き捨てならないことが聞こえた気がしたのは僕の気のせいだね。

姉さんはため息をつき、最上司は震える唇で発する。

「馬鹿な……






双子の親権が“西木留佳”が持っている……だと!?」





さあ、取り返しましょうか。

家族を。

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