三章:「最上梢って……」
出会いはひどく単純。
偶然、廊下をすれ違って肩がぶつかっただけ。
「あ、ごめん!」
「てめぇ!姉貴にぶつかりやがって!!」
「(ええ!!?
何で君が怒ってるの!??)」
すぐに謝ったのにまさか男の子に怒鳴られるとは思わなかった凡人の僕は驚きのあまり固まってしまう。
漆黒の髪と同色の瞳の柄の悪そうな男の子に絡まれたら固まると思わない?
170㎝ある僕よりも頭半分ぐらい高い彼に睨まれ僕は大袈裟なまでに死を覚悟したよ。
今となっては笑い事だけど……。
「桐、ボーッとしてた私も悪いから」
「姉貴に危害加えたからこれぐらいは当然だ!」
「ぶつかっただけだよ!?」
おっと、思わずツッコんでしまった。
反射的にツッコんだ僕を桐と呼ばれた青年がライオンも裸足で逃げ出すのではないかと思うぐらい恐ろしい目付きで睨んでくる。
……てか、ライオンって裸足か。
「てめぇの意見なんか聞いて「桐」……」
「私も悪いからね」
「……ちっ」
桐は舌打ちしてから後ろに一方下がると彼よりも遥かに小さな影が前に出てくる。
当たり前だけど僕よりも小さいので視線を下げるて、僕は目を丸くした。
第一印象は“黒”だった。
詳しく言えば“夜色”だ。
光を反射せず吸収してしまいそうな夜色の髪と瞳。
もう五月だと言うのに白いブラウスの上に黒いカーディガンが彼女を儚く見せている。
不覚にも僕は目を奪われてしまった。
「ごめんなさい桐……弟が早とちりをしてしまって」
「あ、ううん
ぶつかった僕も悪いし気にしないで」
急に話しかけられたから僕の声は上ずっていたけど彼女は気にしてないのか小さく微笑んでから「ありがとう」と言った。
「私は最上梢と言います
こっちは双子の弟 桐です」
「……」
「僕は西木音樹」
なんだこの突然の自己紹介とは思うなかれ。
後々知ることになるが彼女はやることなすこといつも突然で、僕の人生はそれに振り回されることになる。
だけどこの時の僕は突然すぎる彼女の性格よりも彼女の名前に驚いたんだ。
「え、最上梢って……」
「姉貴を呼び「桐」……う」
なんだなんだこの猛獣と猛獣使いみたいな関係!?
第一印象が柄が悪いと思っていたけどお姉さんには頭が上がらないようだ。
手のかかる弟にため息をついてから姉は僕に視線を向ける。
どうやら見た目は可愛らしい小柄な少女だがかなりの猛獣使いなようだ。
「私のこと知っているのですか?」
「入学試験主席で前回の模試試験も主席満点という驚異の点数とった人を知らないわけないと思うけど?」
「ああ、そう言えばそんな点数とりましたね……」
え!?そんなさらりでいいの?
「姉貴は天才だからな!」
なんで君の方が誇らしげなの?
「普通なんだけどな……」
「それは全力で違う!!」
なんだよこの双子!
凄くツッコみどころ満載だよ!!
これがぐだぐだでどこかずれた双子の姉弟との出会い。
そして凡人の僕が非日常に足をいれてしまった始まりでもある。