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二十九章:「多才な人だったよ」




“最上留衣”

旧姓は“西木留衣”で僕達の叔母で父親の年子の妹。

20年程前に突然行方不明になり11年前に双子を引き連れて帰ってきた。

その時の双子が梢さんと桐で当時4歳のことだ。

兄である父さんもそうだが幼なじみだった母さんも留衣さんが無事だったことに喜び彼女と双子の為に家を渡した。

その家を留衣さんが亡くなるまでの7年間3人はそこで暮らしていた。

姉さんは当時12歳だったこともあり鮮明に覚えていたが残念ながら僕は覚えていなかった。




「留衣さんはね梢ちゃんによく似た容姿の人だけど明るくて元気で……年子の兄である父さんとよく喧嘩していたから男気溢れる人だったの

そこは桐くんに似たかな?

……父さんも平均的になんでもこなせる人だけど留衣さんは人並み以上に平均的になんでもこなせる人だったの

料理もプロ並み、裁縫もプロ並み、スケートもプロ並み、バスケットもプロ並み……多才な人だったよ」

「なんか……梢さんが普通に思えるよ」

「梢ちゃんは特化されたからね

そのせいか家事は出来ないわ運動はだめだわでしよ?」

「……」

はい、姉さん正解。

「……最上司に会ったのは私が19歳でアメリカ留学してた頃よ」

その言葉に僕は姉が23歳であることを思い出す。

高校卒業してすぐに姉さんはアメリカに留学し、帰国後何故か栄養士養成校に入ったのだ。

姉さんは大きく深呼吸してから話す。

「もともと栄養士になるために栄養士養成校に入ろうとしたんだけど父さんが“色んな事を経験してこい、と言うことでアメリカに留学する手続きをしたから”って言われていったのよ」

そう言って苦笑する姉さんだけどそれってかなり無茶苦茶だよね?

今思い出したけど僕達の父さんはかなり無茶苦茶で無鉄砲な人だ。

「最初は怒り狂いそうになったね」

正しい反応だと僕は思う。

自分の進路をいきなり変えられたら誰だって怒ると思うよ。

「でも結局はいい経験になったし帰国後なんて父さんにどや顔されたし……一発殴ればよかった」

「うん、凄い正しい反応だけど……

いい加減本題に入ってよ」

「ごめんごめん

まあ、至極簡単に言うとアメリカの栄養士の人って病院じゃ大きな権限を持っているの

その見学の為に父さんのツテで病院に見学したときに会ったのが最上司さんよ」

姉さんは不意に自身の腕を抱くように腕を組む。

まるで何か大きな存在から自身を守るかのように。

いつもとは違う姉さんの行動に僕は少なからず驚いた。

姉さんはまたもや大きく深呼吸してから話始める。

「一目で分かった

この人が最上司で留衣さんと関係が深い人だって

そして彼も気がついたの

私が“西木音嶺”で彼女の血縁者だと

あり得ないことだけど互いに分かってしまったし私は恐怖したの……」

そう言って姉さんは僕を見る。

その瞳は何処までも深い哀しみに満ちている。

「私を通して留衣さんを見ているあの人が」

「……最上司は留衣さんを愛したって言うの?」

僕の問いかけに姉さんは頷く。

あり得ない。

愛しているなら何故留衣さんは最上司から逃げたのか?

最上司が留衣さんに何かしたのではないのか?



そこまで考えて僕は思い出した。

かつて桐が言っていた最上司は梢さんを溺愛していると。

かつて梢さんが言っていた母親が“無事”ならと。

「……人体実験って赦されてた?」

「弁護士用意するわ」

僕の言いたいことを理解した姉さんは大真面目に言った。



記憶にない叔母。

想い人がよく似た彼女の身に何が起こったのかなんて僕には分からない。

でも僕は思った。

今ここで梢さんを見放してはいけないと。




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