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二十三章:「家の事情とか言う奴だろ?」



梢さんが“幽閉”された、と言われても凡人の僕には“幽閉”の意味がいまいち理解できなかった。

ただ言えるのはもう彼女には会えないかもしれないと言う予感がした。






文化祭前日。

1組の劇は完璧に近いほど仕上がり残すところ明日のリハと本番だけ。

僕は息を吐き出してから自分の椅子に深く座り込んだ。

本当に疲れた。

毎日毎日夜遅くまで残って劇の準備をするのは。

できればもう二度としたくないけどお調子者が多いこのクラス、3年間過ごすと思うとまたやりそうで怖い。

「お!台本兼監督!」

「お疲れだな」

「うるさいな……」

友人が声かけてきたので僕は苦笑いを浮かべながら答える。

凡人の僕には当たり前の光景だ。

ふと友人の一人が日常を壊すようなことを言う。

「そう言えば最上姉の方学校に来てないらしいぜ」

「家の事情とか言う奴だろ?」

「それがどうもおかしくて……

ほら、双子の父親って遺伝子工学の権威“最上司”だろ?

なんでも双子はその実験体……て、おい!音樹!?」

あまりにも聞いていたくない言葉の数々。

怒りが暴発しそうだったので立ち上がりその場を離れる。

友人たちの声を背中に感じながらも頭の中では梢さんの事で一杯だった。



あの日、桐に梢さんが“幽閉”された事を聞き僕は目の前が真っ暗になった。

桐がなにかを必死に伝えていた気がするがそれに気付けないほど僕は絶望しきっていた。

もう、会えないことに対する絶望と彼女の願いを叶えきれなかった哀しい気持ち。

何が“最上司”に梢さんを“幽閉”すると言うことに走らせたのか。

このときの僕にはわからなかった。

とりあえず梢さんの事を聞きたくなかった僕は普段は誰もいない屋上にたどり着く。

空を見ると雲一つもなく天気が言い逃れよくわかる。

僕はフェンスに近づき校庭を見下ろす。

……今、何をしても思い出すのは“最上梢”と言う人の存在の大きさ。

入学以来満点主席を取り続けた天才少女。

誰にたいしても作り笑顔で接し強がり続けた。

だけど心のそこから笑った笑顔は可愛く光輝いている。

「……は、何で僕は何も出来ないのかな?」

凡人でひ弱な存在な僕。

天才で強がりな存在な梢さん。


明らか接点が無いのに僕は彼女に恋してしまった。


半年しか関わっていないのに僕は彼女に恋してしまった。


どうしようもなく僕は彼女に恋してしまった。




雨は降っていないのに何故か頬に雨が伝った。



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