二十二章:「梢さん、桐は?」
にしてもこの状況は一体どこの漫画なんだろう。
好きな女子と密室で二人っきりって……。
「恋愛漫画かよ!」
「何がよ……」
思わず声に出してツッコむと氷よりも冷たい鋭い視線を向けられる。
怒っていることが分かり思わず正座して待機。
そのうち1組の誰かが僕の不在に気づいてここに来てくれるかもしれないしね。
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うん、1時間経っても来ない場合はどうしたらいいのかな?
もしかして僕って存在が希薄なのかな?
うん、ちょっとショック。
僕の存在が希薄なのはこのさいしょうがないとしよう。
だけど梢さんは?
あのシスコン弟が迎えにこないのはおかしい。
「梢さん、桐は?」
「……休み」
「…………そっか」
うん、帰れないのも覚悟しないといけないかな?
さらに1時間経ち辺りが暗くなりはじめても誰も来なかった。
とりあえず電気をつけて誰かが気づいてくれるのを待つしかない。
十月の夜は冷えて視界の端で梢さんが震えているのが分かる。
体力が皆無な梢さんにはこの寒さはキツいのかもしれない。
風邪を引かれても困るので一先ず僕のブレザーを被せると彼女は弾かれたように顔を上げて困惑しきった表情を浮かべている。
僕は微笑んで彼女から離れた位置に座り込む。
寒いけど彼女が凍えているのを見るよりはマシだ。
「……音樹くん」
「どうかしたの?梢さん」
「…………有り難いけど音樹くんが寒かったら意味無いよ」
「大丈夫、最悪カーテンにでもくるまっとくから
梢さんは気にしないで」
「……ありがとう」
そう小さく呟いてから梢さんは部屋の隅で膝を抱え込み丸くなる。
まるで小動物のように丸々彼女を微笑ましく思いながらも僕はすっかり暗くなった夜空を見る。
この後にクラスメイトに助けてもらい無事に家に帰れた。
次の日になればクラスメイトに冷やかされるが全力で無視して隣のクラスを覗き込む。
まだ、梢さんは来ておらずまた後で来ようと2組を後にするが
「音樹!!」
切羽詰まった桐の声に振り替える。
彼にしては珍しく息切れをしており一瞬フルマラソン走ってきたのかと思ってしまったのは仕方がない。
彼は息を整えてから言葉を発する。
「あ、姉貴が……
“最上司”に幽閉された!!」
それは信じがたい事だった。




