二十章:「…………姉貴にしては非科学的な発言だな」
私は馬鹿だ。
音樹くんと話したいが為に音樹くんを哀しませてしまう。
それでも私は彼の側を離れたくなかった。
どれほど辛く哀しい想いをしても彼と離れなくない。
それほどまでに私は心を許していた。
桐は驚異的な“頭脳”を持つ私とは違い特に欠点もない遺伝子を強化した遺伝子を持っている。
その気になれば私よりも勉強が出来、他の誰よりも全ての事が平均以上に出来てしまう。
夏休みに音樹くんには桐は勉強が苦手的な事を言ったけど実は違う。
勉強まで出来たら私が“幽閉”されてしまうことを恐れているからしないのだ。
私にはもったいないぐらい優しい弟。
一番大切な家族…………だった。
「姉貴」
「……」
「姉貴」
「…………」
「……音樹を苦しませたいのか?」
「っ!」
思わず振り返り桐を見ると弟は哀しげに眉を下げている。
まるで私を責めるかのような表情を見ることが出来ず私は視線を反らす。
「……“最上司”は姉貴の願いを叶えた音樹を疎ましく思っている
それだけじゃない、母さんが死んで以来笑わなかった姉貴を笑顔にしたのは“最上司”じゃなくて音樹だ
そのことに“最上司”が黙っているとでも?」
「……思わないよ
だけど身体や頭が理解しても心が理解できない」
「……」
「桐?」
私の発言を聞いて桐は何故か固まる。
目を丸く見開いて身体は氷付けになったかのように見事にピシリと。
あまりにも見事な固まり具合に氷像かと思ってしまう。
「………………姉貴にしては非科学的な発言だな」
急に口を開いたかと思うと少し馬鹿にしてくる。
思わず睨み付けるけど苦笑いを浮かべるだけ。
「……姉貴を変えるなんてな……」
「ん?何か言った?」
「いいや、別に
とにかく、少しは音樹と喋るのは自重してくれよ」
「……善処するわ」
曖昧に答えてから私はその場を去る。
多分私は音樹くんの傍にいることを選んでしまうという確信からきているからだと思う。
私は気づかなかった。
桐が何かを決意したことに。




