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十八章:「初めてかもしれない」




それは唐突だった。

文化祭の真っ最中。

前触れなんてない。

本当に唐突で受け入れがたいものだった。

梢さんがアメリカに移住することが。

目の前の男性は言葉を続ける。

「言っておくが梢がアメリカに移住するのは高校卒業してからだったよ」

「な、なら……!」

「君のせいだよ、西木音樹くん

君と言う存在が梢の願いを叶えてしまったからだよ」

願い。

それは夏休みの彼女のお母さんの死に場所に連れていったことを指しているのかそれ以外なのか僕には分からない。

だけど一つだけ分かることがある。

僕の目の前の男性……“最上司”は僕を嫌っている。









まずこうなった経緯は文化祭まで10日に迫った時まで遡る。

劇の練習が本格的になり始め最上姉弟との交流が少し疎遠になり始めたこのところ、僕は息抜きにカフェテラスまでやってきた。

そこで見つけたのは今にも消えそうな儚い存在の梢さんが椅子に腰を掛けている。

一瞬桐の忠告が、頭を過るが無視して彼女に近づく。

彼女は俯いており表情が見えないけど空気からして重い。

彼女が座っている席の机を挟んだ側に立つ。

「梢さん」

「!?」

僕の声に驚いたのか勢いよく顔をあげる。

一瞬透明な何かが頬を伝っているようにみえた僕は息を止めてしまうが、見間違いだとわかると息を吐き出し彼女の前に座る。

一方、梢さんは僕が何故ここにいるのか分からないようで大きな目を限界まで開けて驚いている。


考えて見れば桐の話から今までおよそ1か月振りの会話だったりする。

てっきり話題が少ないと思いきや気づけば二人揃ってこの1か月分話したいことを話していた。

話題は尽きず僕たちは話したいことを話していた。

先程までの暗い表情から明るい表情の梢さんを見ていると僕は僕の為に言ってくれた桐の言葉が意味をなさないことを知る。

結局のところ、どれだけ彼女のことが好きかということなのかもしれない。

「そう言えば音樹くんのクラスは劇よね?

確か“ヒヤシンス”……だっけ?」

「うん、シェイクスピアの作品を元に考えたものだよ」

「シェイクスピア!?

私、彼の作品大好きなの!!」

「そうなの?」

「うん!

特に悲劇は素晴らしいと思うの!

あれほどの人間観察眼持つ人なんてそうそう居ないよ!!」

いつもの冷静な彼女らしくない……いや、こちらが彼女らしいのかもしれない。

明るく無邪気な彼女に僕は目を丸くするが、嬉しさのあまり頬が緩む。

初めてかもしれない。

彼女が自分の好きなものを言うのは。




初めてかもしれない。

彼女が何かを必死に堪えているのは。


いよいよ双子の父親が出てきました!

ようやく物語の最終地点!!

と言ってもこの話は最終章に入っただけでまだもう少し続きます。

なんかかなりグダグダになってきましたが最後までお付き合いください。

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