十三章:「向日葵のように」
すっかり梢さん(最上さんと呼ばれるのが嫌と言う理由で名前呼びに)を気に入った馬鹿姉は僕が止める間もなく僕を出汁にこの勉強会を開催してしまった。
「でも、本当に数学が嫌いなのね」
そう言って梢さんは僕の解いた数学の冊子を見てため息ついている。
今にも「馬鹿なの?」と言われそうだ。
「馬鹿なの?」
あ、言われてしまった。
実際に言われてしまうとかなりショックだ。
「基礎は完璧なのに応用で全問間違いって……
桐でもしないけど?」
「赤点すれすれの桐に負けるなんて……」
「あの子は要領がいいの
……勉強以外は」
哀しげに呟く梢さん。
おそらく遺伝子操作で桐は“勉強”だけは要領が悪いと言うものなのだろう。
僕には遺伝子操作でどこまで人を思い通り造れるかはわからないけど彼女が哀しむ顔は見たくないと思う。
それに勉強ができる桐なんて桐じゃない。
「勉強ができる桐なんて想像できないし、出来れば見たくないよ」
「ぷっ、確かに音樹くんの言う通りね
あの桐が真面目に勉強なんて……」
どうやら僕の発言が彼女のツボにはまったらしく、必死で堪えているが我慢が出来ないのか大きな声で笑い出した。
その晴れやかな笑顔はまるで向日葵のように明るくキラキラと輝いていた。
いつもは作り物のような笑顔で年不相応だが、こちらが本来の彼女なのかもしれない。
哀しげな表情よりも、作り物のような笑顔よりも、無邪気に大きな声で笑う彼女が彼女らしいと僕は思う。
僕は微笑みながら彼女が笑い終えるのを待っていた。
恋に落ちる瞬間なんて人それぞれだと思う。
僕が恋に落ちたのは彼女の無邪気な笑顔。
誰よりも頭が良く、誰よりも明るい彼女に僕は恋をした。
止められない苦しい想い(こい)の始まり。




