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Brevity is the soul of wit.

作者: Joker



「・・・仕方ねえな、今回だけだからな」


「は、はい!」




ーーーーあーあー・・・もう、何でこう・・・あいつにはいつも甘いのかね。




女だから?くノ一だから甘いわけ?



・・・いや、それにしても、あいつはどこか特別に扱われている気がする。



今回だけだからな、だって?




その言葉、もう何度も、というか毎回聞いてますよ。




「はぁ・・・」




憧れの人に認められないことが、ここまで辛いことだとは初めて知った。




手柄なら俺のが立ててる。ミスだって少ない。



そうだというのに、認めてもらえない。




いつもキツくキツく叱られるだけ。




俺とわりと親しい関係にある同期のくノ一、アドリアナには甘いくせに、俺は微塵も褒めてもらえない。





「早く、早く完璧にならねえと・・・」




でないと、認めてもらえないんだから。




ーーーー・・・でも、

こうやって馬鹿みてえに拗ねたり妬むくらいなら鍛錬を積み重ねた方が効率的だよな。




「・・・頑張らねえと」




きっとこれは間違えてない。あの人もそう思うはず。



そう思った。




「ジャン、てめぇは馬鹿か。そんなに根詰めて、任務前に過労死したいって?」





なのに、これだ。





溜息が出る。



「・・・じゃあ、どうすりゃいいんすか」


「あ"?」



「どうしたら、貴方みたいに完璧になれますか。

褒めてくれますか?・・・認めて、くれますか」


「・・・」



「俺より手柄を立ててなくてミスも多いアニーに叱る時はいつも甘くて、さらにあいつは小さな手柄でも褒められて、何で俺はキツく叱られてばっかり・・・短所しか見てくれないんすか?」




何故か饒舌なことに自分でも驚いた。




「・・・拗ねて妬む暇があるなら鍛錬を積み重ねて努力するのが一番いいと思ったのに、それも駄目なんすね」




もうここまで来たら全部言ってやろうと、最後まで打ち明ける。どうにでもなれ。どうせ俺は叱られるだけなんだから。





相手の溜息が聞こえる。



ーーーー・・・まあ、そうだよな。




「変なこと言って申し訳ありませんでした、失礼します」




そう言って頭を下げると背を向けて早々に姿を消そうとした



「おい」




が、待てよと言わんばかりに腕を掴まれる。




「っ、何・・・ですか」




ーーーー嫌だ嫌だ嫌だ、逃げたい、逃げ出したい。



ーーーー説教なら後でいくらでも受けるから。今は、今だけは、どうか見逃してくれ。




そう心の中で叫んでいると、

背を向けていた俺の腕を引いて自分の方へ向かい直させ、頭の上にそっと手を乗せられた。思わず下を向く。顔なんて見れなかった。




ーーーー・・・あれ?殴られない・・・?




「・・・しょげるな、うぜぇ」



そう言ってわしゃわしゃと乱暴に撫でてくる大きくてゴツい手。



「・・・はい。申し訳ありません・・・」




ーーーー・・・変なの。言葉も撫で方も酷いってのに、なんか優しく感じる。




思わず笑みが零れた。





ーーーー下を向いていて正解だったな。でなきゃバレて怒られてたかも。





「鍛錬をするのは良いことだ。長所だと思う。だけど焦って高みを目指しても、身体が追い付かない。それで倒れてみろ。元も子もねえし、優秀なお前が欠ければ皆が困る」



「申し訳ありません・・・」




ーーーー・・・ん?あれ?今この人、優秀って言った?誰に?俺に??





「あと、悪かった」


「へ?」


「・・・たまには素直に褒めてやれば良かったな」


「えっ、あ、・・・え?」




ーーーー謝った・・・?この人が?俺に?

つーか、素直って?は?じゃあ、なんだ、少しはこう・・・認めてくれてたり、すんのかな。優秀って、言ってくれたし・・・




「でも、だからといって一々しょげるなよ。

いいか?お前は忍だ。忍が感情に左右されてどうする。それも・・・」




そこまでで、言葉が止まった。




「?」


「・・・それも、俺に褒められたくて努力してどうする」


「・・・、ふっ!」



それを聞くとつい吹き出した。




ちらっと相手の顔色を窺うと、かなり御立腹のようだ。



でも、この人の理解を得るためにはきっと本心を言うしかない。




「だって、テディさんやっぱ凄いんすもん!すっげえすっっっげえ!かっこいいから!俺ほんと、貴方に憧れてるんです!!」




気が付いたときには遅かった。しまった、と思った。


うっかり目を輝かせて子ども並みの文章力で口を滑らせてしまった。




ーーーー俺は馬鹿か・・・もっとなんかあっただろ!あんなにいつも細やかに観察しておいて、いざ本人の前で言葉にするとこうかよ・・・




相手は少し面食らっていたが、すぐに怖い表情をして呆れたように溜息を吐いた。



憧れの先輩に自分の思いも伝えられなくて悔しいの一言に尽きる。





ーーーー・・・でも、よく考えたら事細かに憧れてるところ言った方が引かれたかも。




「・・・だ、だからその、あー・・・やっぱりその人には、少しでいいから認められたいなー・・・なんて」


「・・・」



精一杯付け足してみるが、相手の表情は変わらないし無言のまま。




ーーーー・・・まあ、いつも通りかな。




なんて思いながら苦笑すると、深呼吸をしてそのまま先ほどのような子ども並みの文章力で最後まで言葉を紡ぐ。




「忍だけどさ!忍でも憧れずにはいられないくらい魅力があるんすよ貴方には!!だからそこは大目に見てください!失礼します!」




そして、すぐにその場を去った。




ーーーー・・・やった。満面の笑みで言い切ってやった。もういいや、なんかこれで満足した。




「・・・チッ、言い逃げか・・・」




そのあと誰かさんに舌打ちされていたというのは、知らない話。






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