交際 ①
七星と結花と別れ、先生と二人手を繋いで、車が停めてある駐車場まで歩いて行く。
店から駐車場まで大した距離じゃないのに、やけに遠く感じた。
緊張からか繋いでる手が汗ばんでくる。
(恥ずかしいなぁ……)
もそもそと手を動かしていると、親指であたしの甲を撫で始めた。
驚いた反動で、思わずギュッと手を握ってしまう。
先生の顔をそっと見上げると……肩を震わせて笑っていた。
「もう、からかわないで下さいっ」
「からかってるわけじゃないんだけどな……お、お前の反応が面白くて」
クックッと声をあげて笑ってる。
「それが、からかってるって言うんですっ!」
ちょっとムッとしながらそう言うと、ブンブンと手を振って離そうとした。
でもその行為は逆に、先生にもっと強く手を握られることになってしまって……。
「そう簡単には離してやらないから。手も、お前も」
お、お前もって……。そんな甘い声出されたら、どうしたらいいのか分からなくなる。
先生は本当に分かってるのかなぁ。あたしが恋愛したことないって……。
一つ一つの言動に、どれだけ鼓動が速まって心が動揺するのかを……。
今日のクラス会で告白しようと思っていたあたしが、逆に先生から告白されて。
嬉しくて嬉しくて舞い上がっちゃってるのはあたしだけで……。
先生は大人で慣れているのか、来た時と変わらず涼しげな顔しちゃってる。
やっぱりからかわれてるのかなぁ、あたし……。
そう思うと急に悲しくなってきて、歩みを止めてしまった。
強く握られていた手が引っ張られる形になる。
それに違和感を感じたのか、先生が後ろを振り返った。
「何? どうした。美夜?」
瞳に涙が溜まってきちゃって、顔を上に上げられない。
何が起こったのか分からない先生は、腰をかがめてあたしの顔を覗き込んだ。
慌てて両手で顔を隠す。
「嫌っ。見ないで」
「美夜、泣いてるのか?」
「な、泣いてな……」
と言いかけたら、我慢していた涙がブワッと瞳から溢れ出した。
周りに人はいなかったけれど、声だけは一生懸命押し殺した。
先生はあたしの肩をそっと抱き、急いで駐車場まで連れていき助手席に座らせる。
優しくドアを閉めると、自分も急いで運転席側にまわり車に乗った。
はぁ……っと大きな溜息が聞こえる。
「何で泣いてるか、教えてくれる?」
怒った口調では無いけれど、明らかにイラついてる感じの声だ。
そりゃそうだよね。
ついさっき告白して付き合うことになった女に、何もしてないのにいきなり泣かれたら、
誰だって訳わかんなくてイライラするよね。
「すみません。何でもないです」
「何でもなくて泣くか、普通」
「私が……恋愛もしたこと……ない子供だから……」
ダメだ……。これ以上喋るともっと泣きそう。
口を噤ぐみ、しゃくりあげて泣いていると、先生の大きな両手があたしの頬を包んだ。
そして無理やり顔を自分に方へと向かせてしまう。驚きからか一瞬で涙が止まる。
泣き顔を見られたくなくて手で隠そうとしたけれど、先生のその逞しい腕で阻まれてしまった。
しょうがなく諦めて目だけ瞑る。
「目、開けて」
嫌だと首を横に振る。
「開けろっ!!」
強い口調でそう言われ、身体がびくっと震えた。
抵抗する力が抜けて、ゆっくりと瞼を開く。
怒っているかと思い先生の顔を見てみれば、その表情は優しく包み込むように微笑んでいた。
「なぁ、俺がいつ、お前のことを子供だって言った?」
「言ってないけど……」
「けど、何だよ?」
「からかうし、ドキドキするようなこと言うし……」
一度喋り出したら止まらなくなってきた。
「先生は私より7歳も年上で大人で。こういう事慣れてるだろうし、どうってことないのかもしれないけど。私は初めてなのっ。ずっと好きだった先生に……」
興奮気味に言葉を続けようとしたその瞬間。あたしの唇に何かが触れた。
あまりの驚きに目を大きく見開くと、すぐそこには先生の顔があって……。
「ちょっと黙れ」
いったい何が起こったのか、まだ頭の中が整理されてなくて呆然としてしまう。
すると先生は、照れくさそうに頭をポリポリ掻きながら大きく深呼吸してあたしを見つめた。
「お前なぁ……。俺がどんだけ今日の日を待ったと思ってるんだ。4年だぞ、4年。分かるか?」
何言ってるんだか、さっぱりわかんないよ。
「お前たちが大学卒業したらクラス会やるって、卒業式の日にアイツらが言ってたよな」
あぁ……。七星と結花が言ってたっけ。
「その日にお前に告白して、俺のもんにしようと決めてたんだよ」
はぁっ!? 何、勝手なことを。
「お前のことだから、絶対に彼氏作らないと思ってたしな」
「何でそんなこと、分かるんですか?」
ちょっと頭に来たんだけど。
「だってお前、ずっと俺のこと好きだったもんな」
ボッと顔に火がつき、一瞬で真っ赤になる。
「な、なんで……知ってるの?」
「なんでって。授業中にあんな熱い眼差しで見つめられたら、誰だって気づく」
穴があったら入りたい……。
「でもな、俺はそのお前の顔を見るのが好きだったんだ」
えっ?
「多分、お前が俺のことを好きになった頃、俺もお前を好きになったんだと思う」
そう言うと、少しだけ顔を赤らめて笑った。
「じゃあ先生も……」
「ああ、お前と付き合えることになって、すっげー嬉しいしドキドキしてんだよ。
からかったわけじゃないからな」
あたしと同じ気持ちだったんだっ。嬉しいっ!
「ったく……。恥ずかしいこと言わせんな」って言いながらそっぽを向く先生に、
後ろから抱きついて耳元に唇を寄せた。
「私もずっと先生が、先生だけが好きだった」
自分の気持を伝えると、やっと恋人同士になったという実感が湧いてきた。