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再会 ⑥


 「好きだ」


 「…………」


 「何?俺の言うことが信じられない?」


 「そうじゃなくて……」


 あたしがそう言うと、、会場内がワァーッと盛り上がり、私たちにビンゴ大会が終わったことを教えてくれた。

 慌てて先生から離れる。

 

 「そんなに慌てて離れなくてもいいのに」


 ちょっと笑いを堪えながら、余裕いっぱいにあたしを見つめる先生。

 それに比べてあたしは……。恋愛初心者だもん、こんな状況にまったく慣れてない。

 それも、大好きな先生に「好きだ」なんて言われて……。

 なんて答えたらいいの?素直に喜べばいいの?

 分からない……。

 答えを求めるかのように、先生を見つめ返す。


 「悪い、いきなり過ぎたな。帰り、送ってく」


 そう言葉を残し、クラス会も終りを迎え別れを惜しんでいる元生徒たちのところに戻っていった。

 今頃になって、全身が震えだす。立っているのもやっとだった。

 七星と結花がこちらに向かって来るのに気付くと、何故だか瞳に涙がいっぱい溜まってきた。


 「美夜、先生と何話して……」


 七星の声を聞いたら最後、溢れそうな涙をこらえることが出来なかった。


 「何泣いてるの?美夜、何があったの?」


 結花が心配そうにあたしを抱きしめ、優しい声で落ち着かせてくれる。

 

 「せ、先生が……私のこと……好き……だって……」


 もう気持ちがいっぱいいっぱいで、喉をつまらせながらそう呟くのが精一杯。

 七星の胸を借りて、ひとしきり泣かせてもらった。もちろん、嬉し涙を……。


 しばらくすると気持ちも落ち着き、眼と鼻を真っ赤にしながら七星と結花に笑顔を見せる。


 「ごめん……泣いちゃって」


 「いいんじゃない、そりゃ泣きたくもなるわ」


 七星が少し怒ったようにそう言って、先生がいる方を見た。


 「時と場合を考えて告白してほしいもんだよ、まったく……。でも良かったじゃん、美夜」


 照れくさかったけれど、コクンと頷く。

 まだ信じられない気分でいっぱいだけど、帰りも送ってくれるって言ってくれたし……。

 それでも何だか心配になって、とっても古典的だけど、自分で自分の頬をつねってみた。


 「痛い……。夢じゃない」


 あはははっ……。良かった、ちょっと安心。

 そんなあたしを見て微笑む二人。

 本当は自分から告白しようと思っていた今日、逆に先生から告白されるなんて……。

 七星と結花に感謝しなくちゃ。


 「ありがとね」


 二人に向かってそう言うと、結花があたしの肩に腕を回し、耳元で囁く。


 「どういたしまして。で、この後はどうするの?」


 「帰り、送ってくれるって……」


 「へぇ〜」


 二人が顔を見合わせてからニヤニヤと、おもしろそうに笑った。

 

 「な、なによっ」


 「いやぁ〜。美夜もとうとう大人になっちゃうのかなぁと思って」


 「…………」


 「ごめん、ごめん。でも幸せにしてもらいなよ、美夜」


 あたしは、また目頭に滲んできた涙を指先で拭いながら二人の顔を見る。

 

 「頑張るね」


 そう言ってから先生の方を振り返ると、こっちを見て微笑んでいた。



 クラス会も終焉を迎え、先生が閉めの挨拶を終えると、七星や結花が見送る中、みんな別れを惜しむように帰っていった。

 会場には、あたしと七星と結花、それに先生が残っている。

 この後どうしたらいいか分からず、モジモジしているあたしを見て、七星がツカツカと先生のもとへ近寄っていった。


 「先生。美夜のこと、本気?」


 「七星っ!」


 急にそんな事言うもんだから、大きな声を出してしまった。


 「美夜は黙ってて。先生、からかってるんじゃないよね?」


 「なんだ……。もう話したのか、美夜」


 また美夜って呼んだ。か、顔がにやけちゃうんですけど……。恋愛初心者のあたしは、そんな些細なことでも嬉しくなってしまう。

 でも七星は厳しい顔を崩さなかった。


 「美夜はずっと先生のことが好きで忘れられなかったの。信じていいんだよね?」


 「相葉が心配するのは分かる。でもな、俺も4年間ずっと待ったんだ。信用して欲しいんだけどなぁ」


 頭をガリガリ掻きながら、照れくさそうにそう言った。

 その言葉を聞くと七星も顔を緩め、こっちを振り返る。

 結花があたしの背中を押した。


 「ほら、先生のとこに行っといで」


 その言葉を素直に聞いて、先生の近くにゆっくり歩いていく。

 そんなあたしの姿を見て、優し笑顔を向けてくれる先生。

 もう少しで手が届きそうな距離まで近づくと、あたしの腕をぐっと引き抱き寄せた。

 

 「あっ!」


 急なことで、先生の胸に飛び込む形になってしまう。

 七星たちが「おぉっ」っと喚声を上げると、先生は透かさずピースサイン。

 先生が触れているところが、くすぐったいような、恥ずかしいような、なんとも言えない気分になってきた。

 

 「あの……先生?恥ずかしいんだけど……」


 「うん?そうか?俺は嬉しいんだけど」


 そんな風に涼しげな顔で、また嬉しくて舞い上がっちゃうようなことをさらっと言うなんて……。

 ちょっと涙目で七星たちを見てみれば、満面の笑みでうんうんと頷いてくれた。


 「じゃあ先生、美夜をよろしくね」


 「泣かせたら……分かってるよね?」


 二人にそう頼まれると、先生はあたしを抱き寄せる力を強めた。

 少し不安になって先生の顔を覗き見れば、あたしの目をじっと見つめ宣言するように言ってくれる。


 「任せとけ。何があっても離さない」


 その自信に満ち溢れた顔と言葉に不安も一瞬で吹っ飛び、先生の胸に顔を寄せ、幸せをかみしめた。


 

 


 

 

   

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