再会 ④
七星たちと会場に戻ると、全員が一箇所に集まり、何かに盛り上がっているようだった。
「何してんの?」
あたしが男子の一人に聞くと、彼は興奮気味に話しだした。
「今日来てる男22人のうち、1人でも先生に勝てたら、今度晩めし奢ってくれるって」
「はぁ?何それ……」
何を馬鹿なことしてるんだろう。どう考えたって先生のほうが不利。
どうして男って言うのは、こういうことが好きなんだろう……。
呆れ顔たっぷりで男子に問いかける。
「で、今現在は、何勝何敗?」
「それがよぉ。こっちにいる俺らは全滅。残りはあと一人」
そう言って指をさす。その指した先には……。
「桂司くん?」
そうだ。思い出した。
今日、会場で一番に彼にあった時のこと。その時の彼の、昔との雰囲気の違い……。
今、先生と向かい合っているその姿からも、以前とは違う何かを感じ取ることができた。
すると桂司が冷たく言い放つ。
「なぁ先生。俺が勝ったら“あいつ”遠慮なくもらうから」
あいつ?
「そういう事は、勝ってから言うんだな」
お互い笑みこそ浮かべているが、そこに優しさの欠片もない。
感じ取れるのは、敵対心とでも言うんだろうか……。
それにしても、“あいつ”って誰だろう?
その言葉が気になって、首をかしげていると、最後の一戦が始まってしまった。
「Ready Go!」
誰かがそう叫ぶと、一気に会場中が熱気に包まれる。
「先生頑張れー」とか、「桂司いけーっ」と声援が飛び交っていたが、当の本人たちはそんな声なんて、全く聞こえてないようだった。
この勝負までに21人と戦った先生。もう腕の力も限界に近いのだろう……。桂司のほうがかなり優勢だ。
先生もなんとか踏ん張ってはいるが、それも時間の問題のように見えた。
……あっ負けるっ……
そう思った瞬間あたしの口から勝手に、自分でもびっくりするような声が発せられる。
「夕樹先生、勝ってぇぇぇっ!!!」
会場が一瞬シーンと静まった。
しかし、あたしのその一言で状況は一転する。
戦っている二人が驚いたようにあたしの方を見たかと思うと、先生はニヤリと口角を上げて笑い、桂司はそれを見てチッと舌打ちをした。
今の先生のどこにそんな力が残っていたのと思うくらいの力で、今までとは逆の方向に桂司の腕を押し戻していく。
桂司も桂司で、かなりの力で応戦していたが、先生のそのものすごいパワーと気迫には太刀打ち出来なかったようだ。
形勢逆転で先生が勝つ。
2人がハァハァと息を切らしながら、床に倒れこんだ。
七星と結花がすぐに駆け寄り、様子を伺った。
「2人共、何やってるのっ!」
七星が少し怒ったような声でそう言うと、先生はゆっくり起き上がり、まだ倒れている桂司に手を差し伸べた。
けれど桂司はその手をパシッと払いよけ、顔を背けながら立ち上がった。
先生は嫌がる桂司の肩に腕を回し、耳元で囁く。
「あいつには手を出すな」
そう言って肩をポンっと叩くと、桂司は苦虫を噛み潰したような顔をして会場から出て行ってしまった。
「お前ら全員まだまだだなぁ。いつになったら俺に勝てるんだ」
などと、お道化ながら男子たちと話をしている先生。
今の二人の戦いが、何か普通じゃないことは感じた。が、それが何なのか分からず、また先生に聞くわけにもいかず、あたしは七星と結花のところに戻った。
「美夜。さっきのあの二人、なんか変な感じしなかった?」
「七星もそう思う?私も気になったんだよね」
七星と結花も何かを感じたみたいだった。
「う〜ん……。男にしか分からない世界なんじゃないの?」
あたしも二人の姿が頭から離れなかったけれど、今はこの雰囲気を掻き消したくてそう言うと、二人共納得したように「そうかもね」と言って頷いた。
この時のあたしは、夕樹先生と桂司が自分が原因でああいう事になってしまったとは、全く思っていなかった。