再会 ②
今日のクラス会の会場は、有名なイタリアンレストランを貸し切りで行われる。
何ヶ月も先まで予約が取れないほどの人気店。あたしも一度食べてみたいと思っていたから、食べるの大好きなあたしとしては、一石二鳥というわけだ。
七星と結花は、受付を手伝ってくれる舞子と綾音と打ち合わせをしていた。
何もすることのないあたしは、まだ誰も来ていない会場で、一人イスに腰掛けて外を見ていた。
「……もしかして美夜?久しぶりだな」
ゆっくりと慎重に扉が開き、懐かしい声が聞こえてきた。その声の方を振り返る。
「桂司……くん?ほんと久しぶり。元気にしてた?」
「あ…あぁ。まあな……」
見た目はあの時と変わらないのに、何か雰囲気が以前のものとは違って感じた。
卒業してから4年もたっているわけだし、多少の違いがあっても不思議なことじゃないのに、それがやけに気になる。
話をしてみようと口を開きかけたその時、始まる時間が近くなったのか、次々にクラスメイト達がやってきてしまう。
久しぶりに会う友達にあいさつをしているうちに、あたしは桂司の変化のことを忘れてしまっていた。
七星と結花以外のクラスメイトとは、2年ぶりか4年ぶりに会うわけで、久しぶりの再会に話が弾む。
「どんな仕事するの?」とか「今はどこに住んでるの?ひとり暮らし?」などと、お互いの近況や情報を交換していると、マイクのキーンっという音が会場中に響き渡った。
「あああ……。うん、マイクはオッケー!えーっと、今回幹事を務めさせていただいている相葉七星です。って知ってるよねぇ〜」
おどけて見せる七星に、どっと笑いが起きる。七星らしい、会場の盛り上げ方だ。
「七星、恥ずかしい…。もう一人の幹事、石田結花です。至らない点もあるとは思いますが、どうぞ今日この時間を楽しんでいって下さい」
今度は会場から拍手が沸き起こった。さすがは結花。こういう時の場の作り方を
心得ている。
そんな二人に感心していると、あたしの近くにいた男子が大声を上げた。
「おーいっ。今日は先生来ないのかよ?」
その先生という言葉に、心臓がビクンと跳ね上がる。まだ顔を見たわけじゃないのに、ドキドキが止まらない。
「来る来る。もうすぐ来ると思うんだけど……」
そう言って七星が扉の方に目を向けた。その瞬間……。
「悪い。遅れたか?」
バンッと大きな音を立てて扉を開き、誰かが入ってきた。久しぶりに聞く大好きな声。
あたしはその声だけで、それが誰だか分かってしまう。
「夕樹先生……」
声がする方を向きたいのに、ドキドキと緊張が許容範囲を超えていて見ることが出来ない。
(頑張るって決めたのに、今からこんなんでどうするの、美夜っ!)
そう自分に言い聞かせても、やっぱり見ることが出来ないでいた。
「じゃあ先生から一言お願いします」
七星がそう言って、夕樹先生にマイクを渡す。
「お、おい……。来て早々、一言ってなぁ。あー何だ。お前たち、元気にしてたか?
俺も今日はゆっくりできるし、お前たちの成長ぶりをしっかり見せてくれ。以上!」
またまた拍手が沸き起こり、本格的にクラス会が始まった。
未だ夕樹先生を見ることが出来ていないあたしは、気持ちを一度落ち着かせようと、自分の居場所を会場の隅に移した。
ほんと自分が情けない。さっきまでの勢いはどこに行ってしまったんだろう……。
一人、窓の外を見ながら考えていると、どこからか声が聞こえてきた。
「なあ相葉。今日は海野来てないのか?」
身体が一瞬にして緊張感に包まれる。
「え?来てますよ。その辺にいないですか?」
おぉぉぉっ七星さん……今はまだ会いたくないと言うか……。
心の準備、まだ整ってなかったみたい……。
夕樹先生があたしを探してくれてるのは単純に嬉しいけど、さっきまでの元気がなくなってしまっていた。
どんな態度で夕樹先生に接すればいいのかも分からなくなってしまっている。
でもね……。どうしてだか、こういう時に限って、いらない世話を焼いてくれる人が
いるんだよね。
「なぁ先生。海野、ここにいるぞー」
あぁぁぁぁ……最悪。誰だっ!!今、叫んだのは!!何で教えちゃうかなぁ……。
しかし、そんな事は言ってられない。
この後来るであろう場面の為に、グッと気を引き締めた。