再会 ①
あれから4年……。
夕樹先生に会うことは一度もなかった。そして、忘れることも出来なかった。
この4年間、何人かの男の子に告白もされた。自分から(この人、素敵かも……)と、思ったこともあった。
でもいつも最後には、脳裏に夕樹先生の顔が浮かんできてしまい、その気持ちに答えることは出来なかった。
あまりにも断り続けるあたしを見かねて、七星と結花が聞いてきたことがある。
「ねぇ美夜、あんた好きな人がいるんじゃないの?」
「白状しちゃいなよ」
この二人にはいつまでも隠し通せないな……と思ったあたしは、素直に白状した。
「絶対に誰にも言わないでよ。実は私…夕樹先生が好きなんだ」
唖然とした顔をしたかと思うと、二人は派手に驚きの声を上げた。
「「ええぇぇぇぇーっ!?夕樹先生!!」」
いつから好きだったの…とか、何でもっと早く言わなかったの…とか、わーわー言われたけれど、気持ちを二人に聞いてもらったら、あたしは意外とすっきりした気分になっていた。
少しだけ頬を赤らめて座っているあたしのおでこを、七星が人差し指で軽くコツく。
「協力してあげる」
七星と結花が幹事のクラス会。何が何でも夕樹先生を出席させるんだと意気込んでいたのは言うまでもない。
それもそのはず。二年前のクラス会の時、夕樹先生は出席を頑なに拒み続けていたと言うのだ。
しかし蓋を開けてみれば何てこともなく、すんなりとOKを出したらしい。
電話口で「拍子抜けしたわ」と七星がボヤいていたのを思い出し、クスっと笑ってしまう。
でもこれは、七星と結花が用意してくれた、二度とないチャンス。
あたしもこの春からは社会人だ。
いつまでも夕樹先生を思っているだけでは、いろんな意味で前に進めないような気がする。
それが仕事にも影響を及ぼす可能性だって、ないわけじゃない。
だったら当たって砕けろっ!! だ。
一気にテンション上がって、ヤル気全開、告る気満々……になってしまった。
そして冒頭のシーンにたどり着く。
いくら当たって砕けろと言ったって、やっぱりあたしも女だもん。告白する時くらい一番可愛い自分でいたかった。
何時間も迷ったけれど、結局は一番最初に選んだ薄ピンク色のサラっとしたシフォン生地で作ってある
ミニのワンピースに決めた。それに小さめのボレロを合わせ、春先だからスプリングコートも着ていくことにした。
足首のあたりに可愛い飾りのついたストッキングを履き、ワンピースに袖を通す。それをふわっと着終えると、何だかくすぐったい気分になった。
「ちょ、ちょっと……お姫様みたいじゃない?」
鏡に写った自分を見て、がらにもない言葉を呟いてしまう。しかしその数秒後……顔を見て気付いた。
「わぁっ。まだメイクしてないじゃんっ!」
慌てて時計を見れば、七星たちと約束をしている時間まで1時間をきっていた。
大急ぎでお得意の『お目目ぱっちりメーク』を施し、それが終わるとバックの中身を確認して……。
「うん、これでよしっ!」
準備万端、抜かり無しっ!!
夕樹先生に早く会いたい……逸る気持ちをどうにかこうにか抑えて、鏡の前にもう一度立つ。
「あたし、がんばれ」
自分で自分に応援メッセージ。
今日はいつもより少しだけヒールの高い靴を履き、いつもより少しだけ大人な気分で待ち合わせ場所に向かった。
「美夜、こっちこっち」
七星たちの呼ぶ声が聞こえる。
「ごめん。なかなか服が決まらなくて……」
息も切れ切れにそう答える。
「そんなことだと思った。うん、でも今日の美夜、いつにも増して可愛いよ。これなら夕樹先生も一発で落とせるんじゃない?」
そんな冗談を言って、あたしの緊張を解いてくれた七星。
「いい?美夜は一人じゃないんだからね。いつでも私達がそばにいること忘れないで。ファイトだよ!」
心から応援してくれる結花。
二人はあたしの左右の腕に、それぞれの腕を絡ませて、「さっ行くよっ!」と掛け声一つ。
あたしをグングン引っ張っていってくれた。
二人の気持ちが、すごく嬉しい。
そんな二人の為にも、今日は頑張ろう……そう心に誓った。