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07話 勇者、決闘する。 ●

「おいおい決闘だってよ」

「剣使い同士か……要はどっちが剣の扱い方とかで決まるな」 

「剣使い×剣使い」

「あっちの袴姿の女可愛くね?」

「男の方は冴えないな……低レベル勇者か?」


 何をおっしゃいますか、この方は世界に数人といない最強勇者でございます……確かに見た目は冴えないものの。

 ヤジ馬が集まる中、中継地点のすぐそばの平地で決闘が行われることになった。

 袴女の方が大声で叫んだ為に、クエストを受けに来た勇者や魔法使いが面白がって集まってきてる次第……完全に見世物に。


『決闘者はそれぞれ向き合ってください』


 空中を薬の楕円のカプセルのようなものが浮いて、そこに付いたスピーカーから機械的な女性の声が流れだす。

 決闘は手袋を投げて即成立、とは行かずこうして審判を行う機械が中立的に決闘を見守り勝敗を分けることになっている。


「私は、神主カミヌシ マイ! 剣使いで、使用武器は日本刀です」


 おおっーと日本刀の使い手ということで会場が少し沸いた。

 日本刀は切れ味こそ良いのだが、そもそも日本刀の技術を伝承した鍛冶屋があまりにも少なく、現在作られるのはほんのごくわずか……まだ古い出物を探した方がいいレベル。

 更には最盛期に作られた本物ならば、レトロアイテム中のレトロアイテムとなる。


「えーっと俺は……井上タケル? 剣使いだな、うん」


 何故か自分の名前が疑問形なタケル。

 その時「イノウエタケル……聞いたことあるな」「人違いだろ? または同姓同名とかさ」「まあ、ありえないよな」と観衆は話していた。


「使用武器は何ですか?」

「木刀?」


 どっと会場が沸いた、それもバカにするような笑いで、だ。

 木刀は日本刀の模造品で、それも再現度は低く強度もない、あきらかに練習用である……ただ、タケルの木刀は普通のものとは違った。

 刀身や柄の素材は触れば完全に木製ながら、銀色に塗られ柄にも繊細な模様が描かれている、高級木刀といったところか。。

 そして木製にしてはありえないほどの切れ味をもっている……切れ味はたまに料理包丁としていることから察していただこう。


「馬鹿にしているのですか」

「いや馬鹿にはしてないけど、今俺これしか持ってないし」


 会場爆笑の嵐である。


「……対戦相手がここまで、愚かな男だったとは……!」

「おいおいひどいなー」

『バリューカードを任意で提示してください』


 バリューカードは任意で提示することが出来る、提示を選択すると自分のレベルが表示・公開される仕組み。


「私は提示する」


 そう神主は言うと、空中に透けた画面が映し出され「レベル:23」と出た。

 おおーっと会場が「あの若さなら結構いいんじゃね?」「俺と同じぐらいか」「嘘付け、お前見習い卒業したばっかだろ」


「俺は――」


 タケルがそう言ったところで「お前はいーよ」「どうせ勝負は決まってるんだから時間を無駄にすんな」ひどい言われようだ、しかしタケルは気分を害した様子もなく、


「そう? じゃあ遠慮すっかなー」


 どこまでもテキトーである。


『それでは双方準備は完了しましたか? 口頭でお答え下さい』

「はいっ」

「おう」


 神主はハッキリとした声で、タケルはやる気なさげな声で。


『それでは――決闘開始』

「井上様、覚悟ッ!」

 

 そう、神主が真正面にタケルを見据えて切りかかったその時、その瞬間だった。

 ニヤリと笑いタケルの口がこう言った。



「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせますかね」 



 それは刹那だった、コンマ零秒の世界だった。

 タケルは神主の前から消えていた――周囲の人間はそこにいたタケルを見つけることができない。

 しかし0コンマの世界で、タケルは神主の背後へと周り込んでいたのだ。


「なっ」

「はい、終わりっと」


 まるで木刀を捨てるような雑な手つきで振るうと、その刀身の峰は彼女の首筋に向かっていた。

 雑とは言っても、彼女が振り向く隙も無いほどの速さで。


 バタリと神主は地面へとうつ伏せに倒れた。

 下は砂で、神主が倒れたことで砂煙がばっと舞った音だけが会場を支配する。

  


「ジュース一本な?」



 うつ伏せに倒れた袴姿の女性を見下ろしながら、タケルはやる気なさげに呟いた。

 タケルの経験値ポイントが画面に映し出される頃には、神主以外の全員が逃げ出していた。



* *



「どーっすかな」


 医療室で寝ている神主を眺めて、タケルは呟いた。

 自分が倒したから一応は最後まで付き添うか、と医療室に入った途端に医務官を除いた患者が全員逃げ出した。

 それも先程のタケルのカンスト経験値が映し出されたことが伝播しての結果である。


「あのー、井上様。あなたがいると患者が……」

「あー、悪い」


 しかし放るのもなあ……仕方ない。


「あー、分かりました。知り合いなんで俺がコイツは連れてきます」

「そう? じゃあごめんなさいね」


 しれっとした顔でタケルはそう言うと神主をおぶって医務室を出た。

 医務室を出てから人が避けるように道を開けてくれたおかげで、神主を運ぶのに時間を要しなかった。

 その間の中継地点は恐ろしいまでに静まり返っていた。勇者タケルはこの状況に慣れているので、特に気にしなかった。


「仕方ないよなあ……クエストはやらないといけないし」


 というかあの医務官もテキトーで「はやく連れ帰ってくれない? あなたの知り合いでしょ」オーラを出していたので仕方がなかった。

 神主が倒れても誰もかけよらないところを見るに、一人なんだろうし……。


「まあ、俺は何もしないって」


 すやすやと美麗な顔の持ち主の神主は眠っている。


「こんな時のためーに」


 スクーターまで連れて来てから、スクーターのあるスイッチを押す。赤十字のマークが書いてあるスイッチだ。

 押すと、荷台部分ぐーんと伸びて人一人載せられるほどまでに長くなった。

 そう、このスクーター。担架機能付きだったりするのだった。

 

「失礼しますよっと」


 担架に寝かせて、軽くベルトで固定。

 ついでに砂埃でむせられても困るので、充電式の保護膜を設定して運転室から神主の担架部まで覆う。


「ジュースも御馳走になってないし……仕方ない。約束は守って貰わないとな」


 なんというか、彼は微妙なところで意地っぱりなのかもしれない。


「じゃ、ゴレームさんのとこに行きますか」


 神主の寝る担架の付いたスクーターを発進させた。

 勇者は夕日の沈む中、クエストに向かったのだった。



* *



『あー、俺タケルだけど。悪い、まだ帰れない、じゃな』


 ブツっと留守番録音が切れた。


「どーいうことなの!?」


 お茶の間のコタツで寝ていた(注意:コタツで寝ると風邪を引きます)キリは一人外が暗くなった部屋で叫んだのだった。

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