04話 勇者、レトロコレクター。 ●
「はぁ~~~~~~~~~~」
現在、彼こと勇者イノウエタケルはコタツを堪能中。
タケルがコタツに入って天板に頬ずりするように顔を密着させてくつろいでいると――
「染み渡るわぁ」
「お兄ちゃん……ジジ臭いよぉ~」
向かい側に妹ことキリがいて、コタツの底面に敷かれたカーペットを敷き布団のようにして上半身半分を外に出し、残りはコタツに亀が身を甲羅に隠すように入れていた。
「そう言う妹よ、それじゃ完全にコタツ女だぞー」
「いいもーん、コタツに寄生出来るなら何もいらないもーん」
「へぇ~、魔法使いの称号もいらないのか~」
「…………いや、それはちょっと」
焦るキリを楽しんでいると、卓上に置かれた携帯電話(ドコノのNe905iという市場で見つけた超古典機改造)の着信音が鳴った。
「お兄ちゃんの電話だよ~」
「ああ……はい、もしもしイノウエです」
電話口に出てみると「よお、オレオレ」という声が。
これ系の詐欺が大昔に行われていたそうだげども、この声に聴き覚えがあったようでタケルは名前と顔が一気に頭に浮かんだ。
「あー、マジで! 久しぶりー、なになに? なんか勇者宅見つけたって? おおー寄ってく? 土産、なくても構わないってー で、あと三十分ね。おけおけ、じゃあ待ってるぞー」
「ねー、お兄ちゃん。どしたの? 誰からー?」
「いやー、古い友人が通りかかるらしいからさ。家に入れてもいい?」
「いいって……そんなお兄ちゃんの友人を叩きだすことなんてできないよー」
「よかった……アイルが来るまでコタツ満喫するとしよう」
「いやいやお兄ちゃん、流石に何か用意しなきゃ」
「いや妹よ、アイツは小食だからいいんだよ」
「いいの? じゃあ。ゆっくりしよ~」
「だな~」
それで納得するキリはいいのか、と疑問を抱く人間はここにはいないのだった。
そして三十分後のこと。
「はぁ~」
「へにゃ~……あ、ちょっとトイレいってくるねー」
キリはコタツを這い出て、立ち上がりトイレへとダルそうに向かって行った、ちなみにトイレはウォシュレットな上に乾燥機能完備の当時における高級仕様だ。
するとキリがトイレにインすると同時に、玄関のインターホンが鳴った。
「お、きたかー……はいはい、今出ますよーっと」
そうして俺は玄関戸を開け、友人を招き入れた――。
* *
「お兄ちゃん、ごめんねてー……って、にゃっ!?」
キリはそのこたつで兄とくつろぐ、訪問者の様を見て奇声をあげた。
「あ、お邪魔してまーす」
「どうしたんだよ、妹?」
「い、いいいいいいいやだって! だって、え、え、えええええええええええええええええ!?」
「そういや自己紹介したら?」
勇者のコタツで言う対角線上に足を入れていた訪問者は――
「こんにちは、アール地区の魔王っす」
魔王ですって、聞きました?
「ま、まままままままままままま」
「妹、母が恋しいか? 残念、俺でした!」
「どうでもいいよ! だってだって!」
魔王の容姿といえば、身長は二メートルほどある上に体躯は筋肉で塗り固められたようにゴツく黒ずむというか黒で、背中には今は閉じているコウモリの翼のようなものがにょっきり突き出ている。
顔も彫が深く顔色までも暗く黒く、口元から先端の鋭くとがった歯が下方向に二本突き出ていた。
……だというのにピッチピッチの緑色地に”パッケマソ”ドット絵が描かれた半そでTシャツと着て半ズボンを穿く、それにアクセサリとしては高いであろう縁の四角い眼鏡をかけている。
元の素体は明らかに魔王と言うか人外そのものだというのに、装飾のせいでちぐはぐな印象を受けていた。
「ええ…………でも、よくみればなんか変」
「変とか言わないでくださいよー、このパッケマソ! いいでしょう、高かったんですよ!」
「ああ、すげえイイ! なんかパッケマソが円形というより楕円になってるけど。ということで、友人の魔王アールだ」
「いやいやいや! 友人の魔王ってどういうことなの!? お兄ちゃん勇者だよね!?」
「なんだ、勇者と魔王が仲良くなっちゃいけない法律でもあんのか?」
「ひどいっすよー、これでもタケルさんとは趣味の合う”レトロコレクター”なんすから」
なんというかその体躯で、若者喋りってのは違和感が……声が容姿に似合わず高くて若いのも凄まじいギャップを生み出していた。
「レトロコレクター……? ああ、バカ兄が集めてる”ああいう”の?」
「ああいうのだ!」
勇者タケルの趣味は決して魔王倒しなどの面倒なことではなく、数少ない消費活動なレトロコレクター。
適当に穴を掘ったり、洞窟を探したり、廃墟を探ったりしてレトロな物品を集めることだった。
……てか、なんという勇者の意味がない趣味。
「そうだ、アール」
「それ名前なんだ」
「はい、正確には”アール=魔王=斉藤”です」
「ミドルネーム!?」
魔王がミドルネーム的立ち位置らしい。
「はぁ」
「そそ、そういえばさ! この家さ、動いてるっしょ?」
「それ僕も思ったんですよ!」
僕?
「もしかして、伝説と言われた……移動式住居だったりします!?」
このプレハブが伝説……なんか一気に安っぽく。
「大当たり! ○○の町の市場で掘り出したんだよー」
「すげー、滅多にお目にかかれないヤツじゃなっすかあ! それにコタツ付きなんて粋ですねー」
「だろー、コタツ最高じゃね?」
「くー、体躯がデカくなければ太ももまでいれたいっすよー」
「あー、でもこの部屋圧縮空間だから、出来るだろ?」
「おー、出来そうっす。じゃあお言葉に甘えて――縮小」
そ、そのまんま。
すると魔王は縮み始め、おおよそ一メートルと六十センチほどになった……一気に大昔のゆるキャラみたいになった。
「ふー……たまらないっすね!」
「だろー!」
妹のキリはその二人の息の合いっぷりに、引いていた。
そして今の魔王が縮んだのを見て、もっと引いた。
「(お兄ちゃんの交友関係って一体!?)」
そう衝撃を受けている間「おー、アール。コレコレ、ファミコソのコントローラ」「やべえっす、やべえっす! お宝とかいうレベル超えてますよ!」
とレトログッズの話題で盛り上がっていた。
とりあえず勇者が冒険を続ける主な理由は、こういうお宝回収らしいですよ。
「はぁ……」
そんな良く分からない交友関係に驚き疲れたキリはため息をついたのでした。