表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

03話 勇者、お茶の間を堪能する。 ●

「ということでキリ、お茶の間買った!」

「ええええええええええええええええええええ」


 お茶の間、商品名「非固定式自動移動型居住空間”TYANO-MA”」というもの。

 外装こそそこら辺に打ちたててられそうなプレハブにしか見えないが、居住空間と題すだけあって室内は圧縮空間になっていて外見の数倍は室内面積を有している。

 中には寝室にキッチンにダイニングにバスにトイレも完備しているというまさに居住空間。

 更に”悠久の陽だまり”という魔法がかけられていることで、半永久的な発電機関も装備しているのだ。


「えーと、お兄ちゃん? でも、それお高いんでしょう」

「まあ三億Gぐらいかな」


 キリが面白いように飛び上がった、いつの間にか飛行系の魔法を取得し使ったのではないかと疑う程だった。


「さ、サンオク!?」

「実に良い買い物だった!」

「お兄ちゃん! その三億Gどれだけの大金だと思ってるの!」

「よくわからん。うんまえ棒三百本分ぐらいか?」

「うんまえ棒三百万本ぐらいだよ!」


 昔の通貨換算一円=一〇Gらしい、うんまえ棒はキリ曰く一〇〇Gなので――


「おおう、一生分」

「”アンダー”で暮らしてたら、三年は遊んで暮らせるのに!」

「でも、嫌だから来たんだろ? 地上に」

「まあ……そうだけど」


 アンダーと呼ばれるのは地下世界のこと。地上の文明が消滅する手前に殆どの住民が地下世界に潜んだのだ。

 地下世界ということもあって制限も多く、ギルドに拘束されてでも抜け出したかった場所でもある――まぁ、こんな話どうでも良かったんだった。


「でもこれすげえぞ、とにかく入ってみようずぇ……」

「う、うん……しょうがないよね、もう買っちゃったもんね」


 無駄遣いに思われたのだろうが、それは大きな間違いだ!

 てか金は使わないで溜まる一方だからケチケチせんでもいいのに、未だに”アンダー”時代の癖で――それはどーでもいいよな、すまん。

 ちなみにこういった高額商品は原則返品不可である、売り出していたのが詐欺業者なら泣き寝入りか業者を討ち取って返金してもらうしかないが……まぁ大丈夫だろう。


「わ、わぁ……」

「どーよ」


 と言いつつも初めてその移動式住宅に入るのだった。

 中は本当に外見の数倍以上は広く、俺とキリだけだと空間が大幅に余るほどで目と鼻の先には個室への扉がいくつかある。


「広いし、小奇麗だし……ベ、ベッドは!」

「あー”なになに個室は初期設定ではニ個まで設置されています。ご希望に合わせてニ十個まで追加設置できます”と……おおー、すげえな」


 どういう訳かキリが買った当人の俺よりも興奮気味に個室を開けると――


「す、すっごい良さそうなベッド!」


 と言いだした途端にベッドへとダイブ。

 乗っかていた布団に包み込まれるように小柄なキリは、枕に頬ずり。


「こんな気持ちのいいベッド有ったんだ……」


 光悦の表情を浮かべながら足をぱたおぱたと動かしながらふかふかのベッドを堪能していた。

 どれどれともう一つの個室を開けて、ベッドに兄妹仲良くダイブ。


「おおう」


 これだよ、これ。

 いつもの野宿とかで背中痛かったし、町の宿屋のベッドは埃っぽくてギシギシ言うしで最悪だし”アンダー”に至っては固い布団が敷かれたカプセルホテ…………。


「ぐー」

「お、お兄ちゃん寝るの早すぎだから!」

「お、おおう」


 まだベッドを堪能しただけだった、とキリに起こされて気付く。

 自分の個室を見渡すと、そこには本棚のくっついた机があり過去の技術の中でも古い部類に入るテレビなどなど……魅力的なものばかりだった。

 持っていた取り扱い説明書をもう一度眺める。 


「”このTYANO-MAは西暦二〇〇〇年最初期の茶の間の風景を忠実に再現したものです”」


 これは”過去の技術”を模してつくったものなのか!


「”お買い上げ特典として――”」


 俺はその記述を見るなり、ベッドを飛び出した。

 茶の間の四角いテーブルの脇にあるボタンをカチリと押した。すると――


「どしたのお兄ちゃん」 


 俺の後をついてきたキリが、ぼうっと眺める先では――テーブルの端から途端に毛布のような布が現れ地面に就くほどまでに伸びる。

 そしてそのテーブルの下から少しの範囲を正方形に薄い布団のようなものが敷かれ――


「これが伝説の”こたつ”……っ!」

「こたつ!? 本当に実在したんだ!?」


 すぐさま俺はこたつの中へと足を滑らせた。

 この暖房器具は四角いテーブルに電気を用いたヒーターを天板裏に付けただけの、極めて古典的なものだが、それがとてつもなく――


「ほっ」


 心地が良い、ベッドの数倍早くに眠気が襲ってきそうだ。


「お兄ちゃんいくらなんでもおおげさ……ほっ」


 向かい合うように俺たち兄妹がこたつに入ったのだった。



* *



 見かけはただの兄妹ですが、お二人は最強勇者と見習い魔法使い。

 さてさて移動式お茶の間を手に入れた、怠け者勇者としっかりものの魔法使い見習いはどのようなお話を繰り広げるのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ