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22話 勇者、のお茶の間の底力。/勇者、の妹の決意。 ●

「……相変わらず興味……深いです」


 アイシアがこの移動式お茶の間をちゃぶ台手前の畳に座りながら、見渡して関心するように呟く。

 純粋に、興味を惹かれているらしく落ち着き無くあちらこちらへと視線を向けていた。


「これは本当に……掘り出し物です……よく手に入りましたね」

「まあ運だよな。たまたま市場覗いたら売ってたから、そりゃもう即決」


 この世界では安住の地はないと言ってもいいのだ。

 多くの家を建てて村を作ったとしても、モンスターの集団に対策もせずに襲われてしまえばそれまでだ。

 野宿すれば奇襲はもちろん、同業者こと勇者や魔法使いにも標的にされる可能性がある。

 環境が悪ければ、そこで呼吸一つもできない。


 それだけにこの世界は、地上という場所は危険なところなのだ。

 

 そんな中で一番安住の地に近いのが、このTYANO-MAだろう。

 ほぼ絶対防御の防御機構に、空調制御も容易で、魔法仕様による永久機関で電気に関しては使い放題。

 この世界ではチートアイテムの極みでもある。

 しかしこの素体が生産されたのが既に何百年も前の”レトロ”な代物であり、魔法による永久機関や絶対防御こそ後付けではるが、素体そのもののハイスペックさは例外だ。


「……この取説通りだと……改造前も凄まじいですね」


 重要なのは魔法が、魔力が存在していなかった頃に作られたこと。

 その時点での耐性は核シェルター以上で、深海一万メートルの水圧にも余裕で耐え、紫外線も放射線も完全に遮断する絶対防御、耐用年数は数千年。

 太陽光発電やら水素発電やらの発電機構が備わることで半永久機関装備で、蓄電容量は一年間発電できなくとも過ごせるほど。

 簡易な人工太陽装備も準備構造とされ、カスタムによる装備と、例えば自宅菜園がどんな場所でも可能。

 移動機構が設けられ最高時速は時速三〇〇キロメートル、AI搭載による障害物の判断予測はもちろんのこと自動運転が可能。

 小型浄水設備も設けられてのいたれりつくせり。

 

 攻撃に関する機能が皆無な以外は完全無欠のチートアイテムと言える。

 

「でも三億Gはやりすぎだと思うよ、お兄ちゃん」


 ほかの落札者の価格が雑魚だったというのにタケルは考えなしに桁を何個も飛ばして、提示したのだった。


「……いえ……それに見合う価値がこれには……あります」

「そ、そうなの?」

「……はい……そしてこのカスタムのバランスは……もはや最強です」


 素体からの改造には”悠久の陽だまり”や”絶対防御”なども存在する。

 前者はいわゆる魔法版人工太陽。絶対防御は魔法の中でも最上級の防御魔法がかけられているという。


「あ、そういやカスタムで思い出したんだけども。アイシア、自宅菜園作りたいんだけどできるか?」

「……取説にはオプション装備として……これと、これで……代用が効いて……できそうです」

「マジか! 頼んでいい?」

「……もちろんです……ただその資材は大半揃っている……ですが、土がないですね……ここは湿地帯ですから……そこら辺の土を拾って……ある程度浄化すれば大丈夫です」

「なるほど、了解。じゃちょっくらキリ、マイ行ってくるわ」




 

 タケルが土を掘り起こしに行ってから数分後。

 自宅菜園オプションは屋根上に設置できるらしく、アイシアとマイは早速屋根上に上がった。


「……なるほど……”悠久の陽だまり”はソーラーに向けられていて……これを分配して……」

「思ったより広いんですね」


 そのスペースはニ十坪ほど。ちなみに室内に関しては圧縮空間になっているので屋根上の表面積の何倍もある。


「……神主さんはここで?」

「あ……キャベツやきゅうりにトマト、じゃがいもなども作りたいですね」

「……お料理上手?」

「それはわかりませんが、タケル様やキリ様には喜んで食べていただいてます」

「……期待です」

「何か食べたいものとかはありますか?」

「……じゃあからあげで」

「わかりました。タケル様もお好きですから喜びますね」

「……モチベーション上がりますね……と、できた」


 そう話しながらアイシアは人工太陽の機構を菜園予定地にも分配を終えていた。


「土ってどんぐらい必要? 一〇〇キロぐらい持ってきたけど」

「……タケルさん力持ち……それで十分です……浄化はこちらで行いますので……お二人は戻っていて……いいです」

「そう? じゃ、マイ戻るか?」

「私は見学していていいですか? というか手伝わせてください!」

「……いいの? じゃあ……着替えてほうがいいかも……」

「は、はいっ! 少し着替えてきます」


 どうやらこの茶の間の住人は順応性が高いらしい。

 


* *



 居間に一人タケルは戻ってみると、キリが元気がなさそうに体育座りしていた。


「キリ、どした?」

「あ、お兄ちゃん……」

「アイシアは変なヤツだが良いヤツだぞ? 金には五月蝿いけども……」


 今は財布もないし、インスタント救急治療術式の貸しもあるみたいなものだから無償で仕事をしているらしいけども。


「アイシアさんのことじゃないよ……私って、本当に甘かったんだなって」

「ああ……」


 キリがいうのは、アイシアがあの重傷でここに転送されてきた場面を見て思ったのだろう。


「そういやキリは変に運がよかったから、ああ言うことに出くわさなかったからな」


 タケルはそうして、キリがこの地上に来て俺と行動するようになってから全然にな、と付け足した。


「で、でも……これが本当のことなんだよね?」

「ああ、キリは運がよかっただけなんだ。俺とすぐに遭遇できたのも、それから俺が守り切れたのも、こうして茶の間を手に入れられたのも――全部、運がよかった」


 そのどれかがなければ、下手すれば五体満足でいられなかっただろう……とタケルは続けた。


「そう……なんだ」

「まあ俺はいろいろ見てきたさ。力尽きていくギルドメンバーも、同盟を組んだほかのギルドメンバーが皆死んでいく様もな」


 だから、



「俺はお前はこの世界に来るべきでなかった、それが本音だ」



「っ!」


 言い捨てるようないつもののんびりとした口調とは違った真面目で、真剣に。


「で、でも私は! お兄ちゃんの傍にいたくて……」

「今まで傍にいれなかったのは謝る。だけども今のお前じゃ――いつか死ぬぞ」

「し……!」


 タケルはこれを良い機会だと思ったのだろう。

 厳しい真実を見せて、これだけで動揺し続けるようなら――魔法使いには向いていない。


「でも、魔法使いとなった”かつての人”が休息を除いて、実質的な”魔法使いを辞める”ということは……最悪の人生が待っているのはわかってる」


 地下から偉大なる挑戦者と、尊大なる冒険者と勇者様・魔法使い様と褒め称えられて地上に旅立ったモノの帰る場所は、地下には存在しない。

 脆弱にも舞い戻ってきた「愚か者」のレッテルが生涯貼られ、奴隷以下の生活で、地上で酷使された肉体で短く命を散らす。


「だからこそ俺は……お前には魔法使いにも勇者にもなってほしくなかった」


 地上の恐ろしさは教育上でも十分に知り得ることは出来る。

 だが実際に経験してこそ、その非道さがわかるのだ。


「お前はここで悩んでどうする? いくらこのお茶の間があっても絶対に安全なんて言い切れない世界だ。最悪のレッテルこそ貼られるが少なくともココよりは地下なら長生きできる」

「私は……」


 タケルは兄として、大切に妹を思うからあくまでも厳しくそう問いかける。


「私は戻りたくない……お兄ちゃんと一緒にいたい! どうしたら私はココにいれるのっ」


 キリの気持ちは変わっていなかった。タケルについていくことに関しては揺らいでいなかった

 それを聞いて安堵したのか、タケルはニッと笑を浮かべて。



「ココに残るなら強くなれ」



「!」


 タケルは地下に戻ってからの最悪な生活を知っているから、地下そのものが大嫌いだから自分が出てきたこと。

 それを思って、キリにその選択肢を投げかけた。


「そもそもこの地上に来れている時点で最低限の体力も体術も覚えているものだとは思うからな、そこからは魔法の操り方を覚えるんだ」

「魔法の操り方……」

「キリ、できるか?」


 悩むことはなかった。キリは立ち上がり、



「頑張ってみる……今までの自分にはさよならする!」



 キリはそう宣言したのだった。


「まずは見習い卒業が目標な。手伝えることは手伝うからな」

「う、うん! お願いします、お兄ちゃんっ」


 ようやく見習い卒業を決意したキリだけども……はてさてどうなることやら。

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