19話 勇者、フラグ。/勇者、流掃除法。 ●
新しいパソコン慣れません><
「マイマイ! このアプリ見てっ」
「なんですか――あっ、植物育成ナビですか!」
「そーそー、自宅菜園やるって聞いたからさー」
「参考にいたしますね、ありがとうございますキリ様」
「そーいえばさ、なんで私は様付? なんだっけ、呼び捨てでいいのに」
「それは……」
「理由がないなら呼び捨てにしてくれる? マイとはもっと仲良くなりたいっ」
「……っ! はいっ、それではキリ……と」
「うんうんっ! マイ、よろしくねー」
――以上の会話を見て俺は思う。
「んー」
いや、ホントこの二人は仲良くなったなーと。
キリって俺への態度こそ大きいことはあれど、基本人見知りだからなー
マイって固い性格だと思ったけど、想像以上というか柔らかいのなんのって、しるこも美味いし。
てかキリがあそこまで態度の柔らかくなる相手って言ったら俺と――
「……あ」
ふとある人物のことを思い出す。
そういやどうしてっかなーアイツ。
地下にいる間ではよく話したり遊んだりしたっけ、キリみたく素直で怖がりで泣き虫で照れ屋で……だけども俺の前では笑顔が多かった。
その笑顔を見ているだけでよかったなーと覚えている、俺が会うたびにこの世の幸せ的な表情をしてたのには苦笑してたけども。
結構に懐かれてたように思える、俺が帰ってくる度に真っ先にキリと迎えてくれてたし。
地下に戻らなくなってから五年来、会っていない。
モテそうなぐらいには美人というか可愛いというか、そんなヤツだろうから彼氏の一人や二人できているだろう。
「幼馴染なだけの俺がそんなところ気にすることはないんだろうけども」
携帯の画像フォルダを漁って、日付が六年前の夏ごろだろうか?
友人に俺とアイツとのツーショット写真が画面には映し出される。
「……やっぱこの笑顔はいいな」
見惚れるというより見ていたいって感じだ。
「…………」
キリも同じように、地下にいると思ったのになあ。
追いかけてくるとは思わなんだ……うん。
なんだか当時はすっごい驚いたね、そりゃもう来るわけないって自信があったし。
それで付いてくるんだもんな、困った困った……てか今も困っていないって言ったら嘘になるし。
「……いないよな?」
そう携帯の画像を眺めながら一人つぶやいた。
この地上が厳しいってのはわかってるはずで、それでも理由があって地上に行きたいヤツだけが行けるわけで。
――ここは強い覚悟と、ある程度の力がなきゃ簡単につぶされる世界だから。
いつか地下に戻って顔を見せて安心させてやらないとな、でもなー……戻りたくないんだよな。
「タケル様は何を見ているのですか? ……わ、可愛らしい方」
「お兄ちゃんに女!? って、なんだサクラか。うわ五年前のサクラだー」
「サクラ様……? もしかするとタケル様とお付き合いしている方とかでは……」
「ないない! サクラはね――」
下野桜、俺と同い年で幼馴染。
地下にいる……はず、というかどうかそうであってほしい!
そうしてまたタケルはフラグを立てるのだった。
* *
「タケル様! 一日一戦です!」
コタツに入って寝転がる日々の続くタケルを呼んで軽くコタツを叩いて、そうマイは揚揚と言った。
ちなみにマイが言う一日一戦というのは、マイの日課的なもので。
タケルとの鍛錬以外にお茶の間を抜けて、モンスターの集まっている部分に向かって掃除をすることを指す。
描写してなかっただけで、マイは夜や早朝にお茶の間を抜け出してやっていたらしい。
「えー、かったるい」
タケルとしては鍛錬だけでもダルく思っているとのこと、怠惰勇者ここにあり。
「タケル様……」
タケルを残念なものを見るような目で見るマイ。
「……いや、俺。残念勇者とかでもいいし」
逆効果だったらしい。
「そんなこと言わずに! 今日こそはお願いしますっ」
マイは今日は食い下がらない、というか今までもそう打診していたらしいが、尽く断られてきたとのこと。
「……夕飯はからあげです」
「へ、減らすのか? ……横暴だなあ」
ちなみにタケルは取のからあげが好物で、その発言にはビクリとする。
「いえ……手伝ってくれたらオマケします」
「乗った」
欲望には忠実な勇者タケルなのであった。
「今日粘った理由はこれか」
茶の間を出て、前方の光景を見てそう呟く。
「これなら何も言わずに行ったってのに……」
「ふふ、そうですね。でもちょっと――試してみたかったんです」
マイ、実は黒いんじゃないか?
まあでも説明すると――
前方には大量の緑色のスライムが森林の隙間を通り抜けるように進んでいた茶の間の道程にいたのだった。
低レベルモンスターだがとにかくデカイ、防御壁のついた茶の間には傷一つ付けることは無理だけども、とにかく邪魔。
行く手を塞ぐこと間違い無しだった。
「スライムなら……そうだな、アレ持ってくるか。ちょっと待ってて」
「はい、お待ちしています」
タケルはそう言うとガレージを開けて、スクーターを取出し後部座席のシートを上げた。
そこは格納スペースになっていて、そこには――
「待たせたー」
「いいえ……って、それは?」
「あーコレ? まあ、見た通りだな」
「……ミキサーですよね? それも料理に使うような」
タケルが持つのは至って普通な料理に使うようなミキサー。
ただ不思議な点があるとすれば、電源コードが付いていないところだろうか。
「これはとりあえず置いておいて……ささ、斬りに行きますか」
「は、はい!」
二人、方や木刀、方や日本刀を鞘から抜いて前へと構える。
そうして前方に立ちふさがった、二メートルほどの高さを誇り粘性があるせいでプルプルと震えるスライムに切りかかる――
約二分後。
あっという間に数十体は存在したスライムは細切れにされて動かなくなった。
そのスライムは地面にべっとりと張り付いているものもあれば数十センチの片も残っている。
「ありがとうございます、タケル様」
「いや、これじゃまだ道が滑りやすいしモノによって復活するしであれだから――ここで”圧縮ミキサー”」
「圧縮ミキサー……?」
「まあ簡単に言えば、見た目の何十倍もある物体をシェイク・液体化出来る機械ってところだな」
そう言うとタケルはミキサーのスイッチを入れた。
すると空中に液晶が現れて『対象物の指定』と映し出され、そして前方のスライムに画面を合わせるようにして『スライム』の表示が出る。
その表示を指でタッチ――
「ポチっと」
そうしてミキサーを地面に置くと、ゴォォォォと音を立てながらフタが開き、掃除機のごとくスライム”だけ”を吸い込んでいった。
残っていたスライムは跡形もなく小さな、外見は家庭用ミキサーな中に吸い込まれていった。
『グルガァァァァァァァアアアアァァァアァァァァァァァアアアアァァァァァァアアッ…………』
「!?」
「ちょっとうるさいけどもガマンな」
「は、はい」
スライムはそんな断末魔を残して沈黙。
画面には”液体化完了”の文字、そして”排出”とすると下部に設けられた排出口から緑色の液体が流れ地面に吸い込んでいった。
ちなみにスライム自体は加工次第では美容液に使えるほどに優しい成分で出来ているので、自然に還っても何ら問題なかった。
「これが”圧縮ミキサー”な?」
「そ、そのようなものがあるのですね……私は逐一埋めていましたから、驚きです」
ということでタケル流のモンスター掃除法。
ちなみにスライムだとこの短い断末魔だけだけども、ほかのものはね……うん。