18話 勇者、達とお茶の間。/勇者、日常切り取り”一”。 ●
のんびり路線は変わりませんのでご了承を
「ただいま」
「ただいまーっ!」
「ただいま帰りました」
そう三人声を出してプレハブ小屋への戸を開ける、。
「キリ様お手を洗うのですよ」
「わかってるってー」
「これは冷蔵庫だっけ?」
まるで本当に家族のような、そんな微笑ましい光景。
お茶の間というたった一つの要素がこの三人を優しく包んでいるのだろうか。
「のど渇いたー」
「お茶煎れるよ、冷たい方が良い?」
「ん-、うんっ」
「私は温かい方でお願いします」
「あいよー」
タケルの人柄も影響しているのもあるかねえ。どこまでゆるいというかほどほどなテキトーさが今では丁度のこの空間に溶け込んでるようで。
「タケル様、今日は鶏肉が手に入ったのでチキンステーキなどどうでしょうか?」
「いいねー、楽しみにしてます」
「ご期待くださいっ」
いやー、最初の出会いこそあんなガチガチだったのに今じゃマイがこうだもんね。
「マイー、何か手伝うよー」
「桐様、それではこのキャベツを――」
人見知りなキリでさえもマイを受け入れて、そうしてタケルがいて……面白い空気感を醸し出す人らだこと。
お茶の間勇者と魔法使い、か。
いい意味でその名の通りかな。
かつて存在した、どこにでもあったお茶の間の風景が――永い時を経て、地上の景色こそ変われど、ここにはあるのかもしれない。
* *
まー、このいいよこの空気ってのはここまでにしておいて。
「んー、やっぱ無理か」
タケルは買ってきたブレッドメーカー(注:パンを自宅で焼く為の機械。レトロアイテムの一つ)のスイッチを軽く押しながらそう呟いた。
それを聞いたマイが皿洗いが丁度終わったタイミングだっただけに、手を拭きながらやってきて。
「どうですか?」
「ダメだなー、電源規格はあってるんだけども」
ブレッドメーカーにはご丁寧に説明書まで付いている上に、様々な言葉で説明が施されていた。
勿論タケルの出身国の日本語も書かれていて、意味も理解できるのだが。肝心のまず”起動”が行えない。
そして電源コードも変換アダプタも付いて、お茶の間の日本式電源ケーブル規格も対応しているにはしているのだった。
しかし動かない、というこは――
「やはり壊れているのですか?」
「やはり言うなし……まあ、半ばあきらめてたけどさ」
「タケル様、それでは?」
「いや、うん。アテはあるけど今はとりあえず放置かな、変に期待させてスマン」
「残念です……少しパンに期待していたのですが、ですけれどしょうがないですね。ワガママいってごめんなさいタケル様」
少し、ね。
「まあ大きな町で直して貰うか、それとも――呼ぶか」
「……呼ぶ?」
「知り合いに出前感覚で修理してくれるメカ屋がいるんだよ、ソイツはレトロアイテムも専門でさ」
「そんなお方がいるのですね」
「なんだけども……結構金取るんだよなー」
「……桐様プンプン、ですね」
「ですな」
っとマイが冗談を言って同調したところで二人クスクス笑い始める。
「そういえばタケル様、お聞きしたいことがあるのですけれど」
「ん、なんだ?」
「お茶の間についで、です」
「それまた突然に」
「食材は肉や魚ならどうしようもないのですけれど、野菜や果物なら育てられるのではないかと」
「……ふむ、自給自足出来た方が確かに都合がいい」
「流石タケル様、察しが早くて助かります。それで、もしかして万能なこのお茶の間にはそんな菜園を設けられるようなオプションはあったりするのでしょうか?」
部屋が増やせたり、さりげなくガレージ機構も備えていることを考えると十分有り得る。
「んー、ちょーっと待って」
するとタケルは部屋に戻って、一冊の一センチほどの薄さの本のような説明書を手に取る。
「あー……っとあったあった、なになに”菜園機構は屋上に設けることができます”」
「本当に便利ですね、お茶の間」
「”ただし別売りの菜園オプション追加キットを……”だとさ」
「……レトロアイテムでした、よね」
「……ああ」
オプションがレトロアイテムの一つということだからねえ。こりゃムリだな。
「だがしかーし、ここでさっきのメカ屋だ!」
「先程のメカ屋さん?」
「なんとかはしてくれるはず……値は張るだろうが」
「……私がお頼みしたので、怒られるのは私一人にさせてください」
「いや、俺が――ごめん、二人怒られてくれるか?」
「はい」
キリの説教ってタケルがあまり好んでいないみたいだし、マイも歓迎する要素はないっていう。
普通・高レベル勇者二人を説教する見習い魔法使いの存在……。
ということでレトロアイテム修理と菜園設置の為のフラグが立ったというお話。
え、あの村でのすれ違い様のフラグはって? ……それも回収されるんじゃない? それも近いうちに。