16話 勇者、の妹の話。 ●
「あー……暇」
どうもキリです、妹です、魔法使い見習いです(ドヤッ)
暇です。ええ、とても退屈です……コタツ温かいです、ああ……一生出たくない。
「あぁ……」
お兄ちゃんはマイの鍛錬に外に行ってしまった、だから凄い暇だ。
「衛星放送入るかな……」
お茶の間のモノクロブラウン管テレビ風テレビジョンアプリを起動してっと。
「……ニュースかあ」
チャンネルを映してもニュースだけ、地上でも娯楽は必要だっての。
ぶつぶつ文句をたらそうかと思ったけどもニュースの内容を聞いて、
『Dワールドビーフロ国三百と二十一番「不死の樹海」にてお宝情報! なんと二百年前の低層地下建造物が発券され――』
あ、お兄ちゃんが食いつきそうなネタだ……一応録画しとこう。
お兄ちゃんって本当に昔のもの好きなんだよね、流石に人の手にあるものは遠慮してるみたいだけど……確かマイさんの持っているような日本刀もいくつか持ってたっけ?
でも一番に集めてるのはレトロアイテムの中でも娯楽要素のあるもの達、例えばお兄ちゃんの携帯端末なんて厚いし重いしで今では考えられないもの改造して使ってるし。
ファ三コソとかのコントローラとか見つけた時はすっごい喜んでたっけ……なんだかんだでお兄ちゃんが嬉しいと私も嬉しいしね。
「……でも、やりすぎな時もあるけどね」
いくらなんでもバーチャルなんとかに千万Gは出せないって。
でもこのお茶の間三億Gだっけ……高い買い物だけど、お兄ちゃんにしては実用的で良い買い物だと思う。
このお茶の間に住むまでは野宿上等で、町を見つけたら即宿屋に飛びこんで一番良い寝具を頼む、だったっけ。
「あの頃は何度も死にそうになった」
と、言っても半年ぐらいのことだけど。
それでもお茶の間を買うまでの間ずっと……夜が怖かった。
自分がなんとか魔法使いの素質を見出したけども、素質だけ。
そして私はとても臆病だから……お兄ちゃんに対してあんなにも文句垂れてるけど、ずっと守ってくれてるって分かってるから。
「お兄ちゃんは一人、自由を望んでた」
だから私を置いて地上に行った。私がまだ産まれた直後にお兄ちゃんは、地上に旅立ったのだと聞いた。
それから一年に数回ギルドで帰ってきて、その度に大きくなって凛々しくなってカッコ良くなっていくお兄ちゃんを私は眺めるのが楽しみだった。
でも、途端にお兄ちゃんは来なくなった。
私が十の歳を数える頃にはもうギルドで帰って来ることはなくなった。
ギルドメンバーに聞いてもお兄ちゃんは一人で戦って、一人でいたいから帰らず戦っていると聞かされた。
会いたかったけど、それは無理だった。
だってお兄ちゃんは勇者で、その頃私は何の取り得もない、地上に行くことは許されない一般人だったのだから。
だから決めた、私は地上に行ってお兄ちゃんに会うんだって。私が地上に行くと時を同じくしてお兄ちゃんのギルドのフリーメンバー……いわゆる独立をして。
それから再会して、私はお兄ちゃんの腰ぎんちゃくみたいについていって。
「……そんなお兄ちゃんは今はマイに夢中かあ」
確かにマイは綺麗だけど……まさかお兄ちゃんが女を連れ込むなんて想像もしなかった。
お兄ちゃんはそういうのとは無縁だって思ってたから、まあ今もお兄ちゃんにそんな意識ないんだろうけど。
そして、やっぱりお兄ちゃんと私の間に新しい人が入ってきたのが私にとって大きな違和感だった。
「マイは良い人だし、仲良くもなれたけど……」
そう、ふいに思ってしまうことがあるのだ。
私は悪い子なのだ。
臆病で弱っちいのは確かだけれど、わざと私は魔法使い見習いを卒業するのを拒んでた。
もし卒業したら、甘えられなくなる。自分の力で立てと言われそうだから。
そしたら私は……?
「……いつまでもそんなんじゃダメだとは思うよ」
でも、まだ半年なんだよ。
まだ半年しかお兄ちゃんに甘えられてない、だからもう少しだけだから――
「ただいまーっと」
「……はぁはぁはぁっ。た、ただいま帰りました」
気付けばお兄ちゃんとマイが帰ってきていた。
お兄ちゃんはいつもよりシャッキリしてるけど、マイはボロボロだ。
「あはは」
その対比に思わず笑ってしまう。
「マイ、笑われてんぞ」
「ひ、ひどいです桐様!」
「ごめんごめん」
私はまだお兄ちゃんの妹でいたい。
お兄ちゃんの傍にいれる妹に。
井上桐、15歳女性。
魔法使い見習い、主な使用魔法「アン・ペティット・タイラント」レベル2。
歳の割りには幼い容姿で童顔な栗色のツインテールな現代風美少女で、ブラコン疑惑。