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14話 勇者、たまに真面目。 ●

「タケル様、鍛錬のご指導お願いします」

「ん……?」


 タケル部屋にて、マイが押し掛け正座をして頭を下げる。

 その一方でタケルは涎垂らして寝ぼけているのだから、実にシュール。


「タケル様、起きて下さい。起きて下さいってば」

「んん……あとニ干支……」

「干支!? 二分や二時間に二日でも二年でもなく干支を二周するのですか!?」

「おお、マイどうした……ああ、鍛錬か」

「起きて下さいますか?」

「ごめん……あと三干支」

「単位とは違う気がするのですが!?」


 とまあ、勇者タケルの寝起きは悪い……「寝るところ襲われたらヤバイぐらい。


「明日……いや明後日……」

「この時まで、伸ばすことは止めてください……おしるこ、抜きますよ」

「い、いやあ! 快調快調!」


 ご飯抜くわけでもなくおしるこでこの効果。


「ふふ、よろしくお願いします」

「お、おう」





 ということで鍛錬、丁度お茶の間周りは森林地帯の中の平原。

 よく開けて遠くまで見渡せる草原がひろがってるねー


「じゃあ……ふああ……マイの戦い方をみよっか」


 タケルは眠そうにあくびをしながらそう促す。

 タケルとマイはそれぞれ竹刀を持っている。まあ真剣とかはマズイからね、木刀もうん。


「え、タケル様に切りかかって良いと言う事ですか?」

「まあ切りかかるだけが……いや、そうだな。おし、かかってこい」


 そう言うもタケルの剣先は地面に着いたまま、一方のマイは既に正面に構えている。


「では――参りますっ」


 マイは地面を蹴って間合いを詰める、が。

 マイの地面が蹴られたと同時にタケルは後退。それも距離の差は最初の状態よりも格段に現れていた。


「っ!」

「スタートは大事だぞ? 最初の爆発力だな、かといって土を蹴ればいいもんじゃない。地面スレスレを滑るように――こんな感じ」


 後退したタケルはまるで反動を付けるかのように今度は前進、そして飛ぶ。

 互いに向かい来る構図になる、


「剣先の動き方から手の動き方まで全てを見て、次を知る。そしてマイは面を狙うから――」

「あっ」


 真正面の、それも上部分のみに注力していたマイに、タケルの腰を低く剣先を下げた竹刀が足に入りバランスが僅かに崩れる、しかしこれで微量だとしても動きを止めることとしては大きな意味がある。

 そして以前と同じように、足に竹刀を入れた直後にまた反動で軸足を置いて回るように振り返り首に竹刀を軽くストン。


「っと、終わり」

「っっ!?」


 これまでが五秒にも満たず、傍から見ればそれは刹那の出来事……そしてその一瞬でマイは敗れた。

 マイは草むらに膝をつく、圧倒的な戦力差を見せ付けられて腰が抜けたのかもしれない。


「全部に意識を向けろとは言わないけども、一点集中だけはやめとけ。それは隙を増やすだけだからな」

「……は、はい」

「後は走り方っていうか――」

「そうなのですか……」

「でも一閃する速度は速いと思うぞ? 手首のスナップが――あとは足がついてくれば――」


 それからもタケルのマイの解説は続くけども省略で。


「ありがとうございましたっ!」

「まあ俺教えるの下手だからさ、実戦と各部の練習中心で頼んます」


 ということで鍛錬終了、勇者タケルも目的の為なら真面目なのだった。

 鍛錬終了後、近くに飲めそうな水の流れる川を見つけたのでマイが準備していた簡易浄水器を付けたコップで水を汲み、タオルに水を染み込ませる「さんきゅ」とタケルは両方受け取り、タオルで顔を、水をくびっと飲みほした。

 適当な切株に二人腰掛けて、マイは少しあがる息で水を飲み。


「タケル様は……凄いお方です」

「ん?」

「いえ、きっと私は追いつけないほどに……お強く優しいと思うんです」

「…………」

「そしてタケル様の言うとおり、私は前しか見ていなかったのです。とにかくモンスターとモンスターをと。だからきっと私は――」


 失ったのだと。

 もちろんそれを聞いたタケルは困ったように頭をかいて、そして顔を少しだけ引き締めて。


「……マイはさ、何か目標とかあるか?」

「目標ですか……? それは地上にいる異物を全て失くす……ことです」

「失くしてどうすんの?」

「失くして、地上が安心して住めるようにしたいです」


 荒廃して、モンスターだらけのこの地上をねえ。


「それが目標”地上に何も考えることなく平和に住みたい”ってことだよな?」

「そう、ですね」

「……俺はさ、誤解してたけども。マイが正義、使命感だけであの出会った時に、俺のことを怒ったんだと思ったんだよ」


 怒ったときは自分の経験から、タケルが自分の二の舞にならないようにだったんのかもしれない。

 前向きすぎる自分の姿勢と、あまりにもテキトーすぎる姿勢を一瞬で重ねた? 過ぎた姿勢は全てを固まらせてしまう故に。

   

「…………」

「でも大丈夫だな、そういう自分にとっての理由。自分が望みたい、そうしたい理由があるってならマイが俺を越せないことなんてない」

「そう言っていただけて嬉しいのですけれど……」


 でも、と続けたいようにマイはするが。

 タケルはそれを読みとって――


「俺はってか? 俺もマイと同じようで違う、自由が俺は欲しかった。でも今はそうはいかないからな」

「妹……さんですか?」

「まあ、そだな。桐が安全に暮らしていければ俺は良かった。少なくとも地下は安全だからさ。でも来ちまったからには……兄としては守らなきゃならんしな?」


 守らなきゃいけない、いやそれじゃ、それってさ。


「あの……それは使命感なのでは?」


 しなきゃいけない、義務なのか使命なのか。しかしタケルは違う答え。


「言い間違え。兄としてってのもあるけどさ、なんだかんだアイツといると飽きないんだよ。表情コロコロ変わるし、大きくなった癖に人見知りで俺の背中に隠れたがりだし、だから守ってやりたい、ごくたまーにでも甘やかしてやりたいんだ」

「たしかに、面白い方です。桐様は非常に共にいて楽しい方ですね」


 そういやマイと仲良くなるの早かったねえ、キッチンで一緒に料理したりタケル起こしたり。


「昨日の俺を起こす時は恐ろしいぐらいに息合ってたしな」

「それは……タケル様がお寝坊さんだからですよ」

「それはもう俺だからしょうがない、諦めてくれとしか」

「諦めませんよ。今日おしるこを人質にすれば起きることが分かりましたから」

「おおう、マイのこの順応っぷりは一体――」


 本当にどれだけしるこ好きなんだか、すると最後の締めとばかりにタケルは、


「とにかく何か目指すものを失いさえしなければ、確実に前に進めるさ。この妹を散々厳しくして来た俺が言うんだから間違いない」


 厳しく?


「それ、何の根拠なんですか……ふふ。頑張ってみます、そしていつかあなたを倒します!」

「まあ、気長に期待してるよ」


 とまあ、そんな会話だったとさ。そうしてそろそろ戻るかなんてタケルが言おうとしたところ、


「やっぱり、もう一回お手合わせを!」

「向上心たくましいけども、妹が……」


 目を逸らしながらキリを理由にして帰ろうとするタケル。


「シスコンのタケル様、お覚悟ください!」

「いやまて、俺はシスコンじゃねえ!」


 しかしカウンターで、その要素を否定する為に鍛錬再開。

 それから少し鍛錬。終わる頃にはタケルではなくマイがボロボロだったけども。

 帰ってから桐にマイのボロさ加減を笑われ、そして朝食。


「おしるこうめえ……」

「お粗末さまです」


 その朝のおしるこは格別だったという。

 そしておしるこを作ったマイの表情もどこか嬉しげで、とても晴れやかだった。

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