13話 勇者、就寝中。/勇者、コタツ民を増やす。 ●
ゆるい二本立て
朝、マイが入居してから数日。
結構にこのお茶の間にも馴染み始めたようだ。
「おはようございます、桐様」
「んー、おはよ」
「朝食前に温かいお茶はいかがですか?」
「んー」
キリの入った目の前、そのコタツの上にトンと湯のみが置かれた。
「ありがとー」
「いえいえ、朝食は少し待って下さいね。もう少しでタケル様を起こしにいきましょうか?」
「うんー」
うおう、予想以上にすっげえ馴染んでる。
と思っているとキリが寝ぼけ眼で、携帯端末を取り出した。
「んー……てかここはどこら辺だろー」
とおぼつかない手つきで薄さ数ミリほどの液晶画面に触れる、すると位置情報を調べることが出来るナビアプリを起動。
「あ、砂漠地帯抜けたんだ」
画面に映し出されるのはこのお茶の間周辺の画像、そこにはかつての砂漠の肌色はなく緑地が広がっていた。
ちなみに移動式住居のコレは自動操縦なんで、基本的にはずっと勝手に走ってる。
前回の中継地点の際も少しずつ動いていたけども、スクーターが感知出来るよう設定されてるので大丈夫らしい。
一応補足しておくと、中継地点の周辺は荒野なんだけども一時間ほど走らせると一面砂漠地帯だったとのこと。
「ということは動物狩りも出来そうですね」
「へー、マイは動物狩りとかするんだ」
「……生きるためですから」
「切実だね……」
そう会話していると、そろそろと桐がコタツから這い出た。
「マイ、起こしにいこっか」
「そうですね、行きましょう」
と言って、何故かタケルの分だけは恒常的に女性陣に管理される鍵でタケルの部屋を開ける。
ノックをして。
「タケル様、もう朝ですよ」
「お兄ちゃん、朝だよー」
扉を開くと、
「ぐー」
寝てるね、うん。
「お兄ちゃーん」
「タケル様」
「ぐぅー」
二人はタケルをゆするものの起きる気配は一向になし。
「……お兄ちゃん」
「……タケル様」
「ぐぅうー」
それで女性陣は顔を見合わせて、少し微笑んでから。
「この世に満ちるモノよ我に力を授けたまえ”アン――」
「あら不思議、かつての包丁がこの通りの切れ味に”紙吹――」
二人が各々魔法と技をかけようとしたその時、
「(――――殺気!?)」
勇者タケル、一応特訓でそんな殺気を感じ取れるようになっていたそうな。
「(――――でも寝たい、いいや)」
いやいやいや! 殺気って時点で殺しにかかってきてるのに、その判断は――
「”アン・ペティット・タイラント”っ」
「”紙吹雪”」
マイの繰り出した日本刀による旋風が、キリによる電撃が、その時タケルの部屋を貫いた。
焦げたタケルの臭いも吹き荒れた風のおかげで薄くなったとのこと。
* *
お茶の間にて。
何故か畳の居間の床に座布団一枚を引いて、タケルとキリがコタツに足を入れてのほほんとしているのをマイは眺めていた。
「そういえばタケル様、これはコタツですよね?」
「だよ? てかマイはなんで足を入れないんだ?」
「いえ、知ってはいたのですがこのような形態とは……そういえばタケル様は足を入れていましたね」
「ん? いやそういうもんだろ、コタツって。マイも入ってみろよ」
「ですが……中で足がぶつかったりしませんか?」
そういうもんだよね。
「まあ無いわけじゃないけど」
「ですよね」
「だけど、一旦入ったら病みつきだぞ?」
「本当ですか――」
で、このありさま。
「はぁー」
「ふぅ~」
「はぁ……」
お茶の間にて、三人はコタツに入ってのんびりとした時間を過ごしてるようで。
「タケル様」
「んー?」
「このようなものは卑怯です……出れなくなってしまうではないですか」
効果テキメン?
「はぁぁ、何もやる気でねー」
「ふぅぅ。あ、お兄ちゃんオレンジ取って」
「はぁぁ……緑茶が美味しいです」
あれ、この人たち勇者と魔法使いだよね?
まあ冬場にコタツに入ったら出れないからね、半纏を羽織れば最強だけども勇者や魔法使いとしては失格な気がする。
すると、マイが気付いたかのように顔をあげて。
「あ、そういえばタケル様。そろそろ食材が切れる頃です」
「そっかー……じゃあ手頃な町見つけて買いに行くか」
「私はお留守番するー」
「いや、そろそろ見習い卒業しろよ妹」
「やだー、面倒」
見習い卒業する気のない安定の妹。
「今のままじゃ魔法あれしか使えないじゃん」
「精度低いし、威力も制御できないけどいいじゃん」
「よくないじゃん」
「いいよ、お兄ちゃんいるし」
「…………ったく」
そう言われると怒るどころかタケルはそっぽを向いて照れた、なんだこの実はシスコン。
「地味にお強い妹さんですね」
確かに魔王をも倒すあの最強勇者いいように使ってるんだから大したタマなのかもしれない。
「タケル様、よろしければでいいのですが……私を鍛えてもらえませんか?」
「ん、それは剣の?」
「はい」
「……おしるこ一杯で受けよう」
「ふふ、おしるこは本来なら一日一杯ですけど特別ですよ? それではよろしくお願いします」
あっと言う間に彼女がこのお茶の間に馴染んでいく。
そしてさりげなく、町に出かけるのとマイの鍛錬に付き合うことが決定したタケル。
お茶の間という存在はあらゆるものを受け入れたり、なんとも寛容なのかもしれない
というか、そのタケル絶賛のおしるこはどれだけ美味いのかと。