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12話 勇者、しるこエブリデイ。 ●

「マイさん、本当お料理上手だよねー」

「いえいえ、まだまだですよ」

「いや! この肉じゃがとか最高っ! こんな料理が毎日食べられるなんてっ」

「そう言っていただけて良かったです」


 この移動式住居「TYANO-MA」に備え付けられたキッチンで女子二人がそんな風に立って和気あいあい、俺独りコタツで温まりながらその光景を見ている。


 どうも俺だ、タケルだ。後日談というか、なんというか。

 結果的な事を言えば、マイが同居することになった。

 その経緯はまあ――少し面倒だけども話していこう。



* *



「神主舞です、よろしくお願いします」



 そうしてフローリングに正座をして頭を下げる彼女。


「改めて、俺は井上タケルな」

「え、えと……私は妹の井上キリ……です」


 俺の後ろについて隠れるように桐は自己紹介。


「大丈夫だって、マイは悪いヤツじゃないからさ」

「……うん」


 妹は俺に対しては遠慮がないってのに、結構な人見知りなのだ。

 それも俺の考えるキリが地上に出るのには向かない理由の一つでもあった。


「キリさん、私は井上タケルさんに助けて頂きました」

「そ、そうなんだ」

「お兄様はお優しい方ですね」

「そ、それはない! だって私のこと普通に置いて行くし、起こしてもなかなか起きてくれないし! 経験値もマックスの癖に――」


 色々と俺に対する愚痴を言っていた、俺すぐ傍にいるんすけど。


「ふふ、そうなんですか」

「いやいや! マイもそんな笑うなよ!?」


 俺が生贄になったとはいえ、妹も前に出てきてるし。少しはマイのことを認めたのかもしれない。

 そう思って顔に出しはしないが、心内でほっとした。





「お兄ちゃん、お腹減ったー」

「はいはい」


 まあ俺たちってさ、兄妹仲良く料理ベタだったわけ。

 だからほぼ毎日が栄養チューブ、味は申し分ないけど味気ないというかね。

 そうやった二人チューブを冷蔵庫を取り出そうとしたら、一夜はということで泊ったマイが――


「おはよう、マイよく眠れたか?」

「おはようございます……はい夢心地でした」


 まあ、あのベッドは地味に寝心地が凄まじい。恐らく中継地点とかだと固いアルミで作られた骨格に厚めの布団乗っけただけだろうし、スプリングベッドなこちらとは寝心地は段違いだろう。


「あの……タケルさん」

「ん?」

「それは、なんですか?」


 少し寝ぼけたような目をしながら俺の持つ栄養チューブを指した。


「朝食だけど」

「っ……これが朝食」


 マイは驚いたように目を見開いた、完全に目覚めさせてしまったらしい。



「これでは見た目がよくないですっ!」



「え」


 とりあえず妹とやってきたマイの分の栄養チューブを取り出そうとしていた時に、怒気を含んだかのような強いもの言いで言われたもんだから流石の俺はビクっとする。


「――冷凍庫、失礼してよろしいですか」

「あ、ああ」


 冷蔵庫にはテキトーに取れたり、買っておいた野菜や肉を保管していた。

 実際作るのは俺たち兄弟は滅多になく、お茶の間に住む前は時折遭遇する友人に作って貰っていたりしていた。

 ちなみにこの冷蔵庫は亜空間となっており、放り込んでおいた食材の時間が止まる為に鮮度そのままで腐り知らずという、これまた”過去の技術”の賜物だった、その名も”空間冷凍庫”……一応冷蔵庫だけども。


「……これで、とりあえずは作れますね」

「え、はい?」

「苦手なものはおありですか?」

「いや、俺はないな……妹はホウレンソウ」

「分かりました、それでは誠に勝手ながら料理を作らせて頂きます。少々お待ちください」

「う、うん」


 その行動は早いってレベルじゃなかった、冷蔵庫から食材を取り出して電子レンジを点けながら電子コンロの火を点けて――

 まあ、彼女は料理を始められたのだ。

 俺もその様子に栄養チューブを引っこめるしかなく、その料理風景を観察させてもらうこと十分弱。


「――出来上がりました」


 そうして俺とキリが呆然とする目の前のコタツの上に並べられたのは、まさに料理たち。

 すげえ……肉野菜炒めとか久しぶりだ、ご飯とかも何時以来だろう、味噌汁とか懐かしすぎる。

 そしてそれぞれの出来が素晴らしかった。


「これをマイが?」

「はい、勝手に冷蔵庫の中身を使ってしまいすみません。でも、気になったもので。この食材費はいずれお返します」

「いや、それはいいんだけどさ」

「すごいね……お兄ちゃん」

「おったまげた」


 本当に驚いていた。

 テキトーな食材でここまで出来るとは、と……家事スキルゼロな俺から見たら神業同然。


「あと、タケル様」


 マイがずっと俺の方へと滑らしたのは、茶色の少し湯気たつ粘性の高そうな液体の入ったお椀。 


「これは……おしるこ?」

「はい。実はあれは私が自作したものを缶詰めしただけなんですよ?」


 マジか、あのおしるこ市販モノじゃないどころかマイが作ったものなのか。


「た、食べちゃっていいのかな?」

「はい、キリ様どうぞ」

「お、おう……じゃあ頂くか」


 そうして箸で野菜炒めを口に入れた、その途端に声がでた。


「「うまっ」」


 兄妹シンクロ。


「この一見素朴な見た目だけども、肉のダシが野菜の旨味を引き出してご飯にほどよい味の濃さで(以下略)」


 まあ、要約してうめえ。


「ご飯も食べてみる……っ!」

「最初から気付いていたが、このご飯の艶は一体!? 一粒一粒が宝石のように立ち、噛めば歯が丁度よすぎる固すぎず柔らかすぎずな弾力(以下略)」


 これもうめえ!

 そしてしるこうめえ!


「マイは料理が得意なのか?」

「得意というわけではありませんが、好きなんです」


 おお、なんという家庭的な!

 それで俺はしるこを口に含んで、相変わらずなその味の深さ、そしてそれぞれの料理の達者さに思わず口走るわけで――



「俺に毎日しるこをつくってほしい」


 

 と、いうことで彼女は入居決定。

 家政婦を雇用という感じで住んで貰うことになった、そしてマイはその他の家事も卒なくこなした。

 今までの栄養チューブの日々が嘘のよう。


 ちなみに俺が単純に思ったことを口にしたのだが、どうしてかマイは頬を赤らめた様子だった……どういうことだろうか。

 


* *



「タケル様、夕食が出来ました」

「お、今日は肉じゃがか」


 マイの入居で食生活が大きな充実を見せた。

 しかし、このしるこ美味い。


「お兄ちゃん、私はサラダ作ったよ! このキャベツとキャベツの絶妙な重なり具合、どう? 芸術的でしょ?」

「お、おう」


 そう言う訳で、お茶の間の住人が一人増えたのだった……ちなみにサラダはえらく塩辛かった。


 

 神主 舞、十七歳女性。

 勇者剣使い、使用武器日本刀「ナツメ」レベル23。

 長い黒髪と黒い瞳を持つ和風美人で、料理などの家事に長けた家庭的な女性である。

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